千葉ラブストーリー   作:エコー

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どこの小町の策略か、うっかり比企谷母と遭遇してしまった川崎沙希。
小町、比企谷母によるWゆるゆり攻撃という試練を乗り越えた二人を次に待ち受けるのは。



朝の邂逅 その二

 

「勘弁してよぉ」

 

 俺の実家を出た直後、涙目の川崎沙希の呟きである。

 

「あんたのお母様に会うなんて聞いて無かったよぉ……あー、こんなことならちゃんと化粧しとくんだった。せめて襟付きの服をーー」

 

 思い掛けず展開された川崎沙希と比企谷母、小町の早朝ゆるゆりを肉親に対する二発の脳天チョップで強制終了させた後、俺は再び川崎の車に乗せてもらっている。

 

「いや、本当に悪かった」

「……別にいいけどね。いずれご挨拶しなきゃとは思ってたから。でも不意打ちは無いよぉ」

 

 そうだよな。川崎の云う通りだよな。

 母ちゃんには後できっちり云っておくからな。

 勘弁してくださいって。

 

 車窓に流れる朝の街並みを眺める。

 気のせいだろうか、昨日までの景色とは少しだけ違って見える。

 土曜日の朝だからか道行く人は少ないし、道路も空いているせいなのだろうか。

 いつか聞いた言葉を思い出す。

『人がつまらないのって、案外見る側の問題なのかも』

 一昨年、中学時代のトラウマ発生源である元同級生女子が云った台詞である。

 きっと人だけでなく景色も同様なのだろう。

 

 例えば夕焼け。

 人は、茜色に染まる夕景に様々な感情を当て嵌める。

 或る人は望郷の念を抱き、或る人は失恋の痛みを思い出す。はたまた青春の二文字を想起させたり、寂しさを感じたり。

 或いは過去を懐かしんだり、果ては深い意味も無く感傷に浸ったり。

 夕焼けひとつ取っても、見る側の思いが多種多様に投影されるのだ。

 ならば。

 今、川崎の車に揺られて育った街を眺めている俺は、この朝の見慣れた景色に何を思い、重ねているのだろう。

 余談だった。

 

 ふと気になって尋ねる。

 

「そういえば、川崎の家は大丈夫なのか?」

「あ、うん。京華は夏休みだし。土曜日だから母親がいるし、大丈夫」

 

 さすがシスコ……家族思いの長女だ。しかし、母親さんはご在宅なのか。

 

「いや、そういうことじゃ無くてだな。仮にも嫁入り前の娘が朝帰りって、家じゃ心配してるんじゃないのか」

「あ、それは大丈夫。比企谷と一緒って伝えてあるから」

 

「え」

 

 ちょっと待て。

 それが一番マズいんじゃないのかな俺的に。

 自分の娘が見ず知らずの男と一緒だと聞かされて心から安心する親などいるとは思えない。その相手がこんな目の腐った男だと知ったら尚更だ。

 はあ、しゃーない。

 やっぱ腹を括って先手を打つか。

 攻撃は最大の防御ナリ〜。

 

「川崎、ちょっと買い物に付き合ってくれ」

「いいけど、何買うのさ」

「んーと、お菓子」

「あんた、本当に甘党だよね……」

「いいんだよ。何せ"美味い"の語源は"甘い"だからな」

「はいはいすごいね。でも、こんな朝早くに空いてる店ってある?」

 

 寝起きから色々あり過ぎて失念していたが、まだ朝の八時だった。川崎の云う通り、この時刻に空いてる店なんて限られている。

 

「無ければコンビニでもいいさ」

「ふーん、わかった」

 

 結局通りすがりのコンビニで飲み物と紙の手提げ袋を仕入れた俺は、再び川崎の車の助手席にお邪魔する。

 

「ほれ、飲み物。あと、頼みがある」

 

 ペットボトルのお茶を手渡しながら云うと、川崎は苦笑する。

 

「ありがと、ていうか頼み事ばっかだね」

 

 苦笑する川崎は更に言葉を続ける。

 

「頼みがある、なんて畏まらなくていいから何でも言って。出来ることならするからさ」

 

 出来ること。もしかしたらあんなことやこんなことも……。

 いかん。

 うっかり妄想が理性を殲滅しそうになった。こんな妄想に負けたら、かつて理性の化物と評された俺の面目が立たない。

 ていうか、つい二時間ほど前に危うくモーニングスケベに負けそうになってトイレの個室に篭ったんですけどね。

 

「じゃあ、川崎の家に連れていってくれ」

「わかった。あんたをあたしの家に連れ……どえぇ!?」

 

 おいおいノリツッコミかよっ。らしくないリアクションだな。

 つーか驚き過ぎ。運転中だったら危なかった。

 

「嫁入り前の娘を朝帰りさせちまったんだから、挨拶くらいしとかないとマズいだろ。さっきコンビニで買ったのはその為の菓子折りだし」

「ちょ、ちょっと待って。お母さんに聞いてみるから……」

 

  * * *

 

「う〜」

 

 短い通話のあと、携帯電話を閉じた川崎はハンドルに額をぐりぐりと押し当てて唸っている。

 あっ、これ今朝も見たヤツだ。

 

 え、えーと。

 それで……川崎、さん?

 もしかして丁重にお断りされちゃったのかな。

 まあ、それなら日を改めてーー。

 

「お母さん……ぜひ連れてきなさいって」

 

 顔を起こした川崎沙希は耳まで真っ赤だ。つーかさっきのはOKの反応だったのかよ。

 解りづらいぞサキサキ。

 

「わかった。よろしく頼むよ」

 

 川崎の家に向かう途中、車内の会話は無かった。

 そもそもその余裕が無かった。

 一見平静を装っているものの、内心俺の緊張は最高潮に達している。

 ちらと運転席を見る。

 川崎も緊張しているのだろう。普段よりも前傾姿勢でハンドルを掴む手には、必要以上の力が入っているようだ。

 そのポジションでドアミラーが見えるのかね。

 

 緊張状態のまま五分ほど走ると、帰郷初日に連れ込まれーーもといお邪魔した家が見えた。

 家の前、強めに踏まれたブレーキがシャンパンピンクの車体をつんのめらせる。

 うわっ! 後輪浮いたぞ、軽自動車でジャックナイフかよ。

 激しい。激し過ぎるぜサキサキ。

 

「ーーつ、着いたよ」

 

 何故か息が上がっている川崎を横目に助手席のドアを開けると、見知った女児の笑顔が迎えてくれた。

 

「あ、はーちゃんだ。い、いらっしゃいましー」

 

 けーちゃん、それ誰に教わったのかな。

 玄関先、なぜか老舗旅館的な挨拶で甲斐甲斐しくお辞儀をするのは川崎の妹、京華である。

 うむ、久々に見たがやはり可愛い。

 あれ、ちょっと背が伸びたかな?

 

「あ、お兄さん、お久しぶりです」

 

 次に湧いて出たのは毒虫大志だ。

 うむ、可愛いくねぇ。

 お前は悪、即、斬だ。

 

「おかえり、沙希」

 

 次に現れたのは、川崎に良く似た顔立ちに青みがかった肩まで髪。身長は川崎ほど高くない、エプロンで手を拭う姿が非常に様になる女性。

 この人が今回のラスボス、川崎沙希の母親だろう。

 よし、せんせいこうげきだ!

 

「は、初めまして、比企谷八幡と申します」

 

 かまずにいえた。はちはんは64のダメージをあたえた。

 なんていう愚考と、ついでに猫背がバレないように姿勢を正し、斜め四十五度の礼をする。

 

「あら礼儀正しい。初めまして、沙希の母です」

「かわさきけーかです〜」

 

 笑顔で挨拶してくれる川崎母の横で、京華も再びお辞儀をする。

 うん大丈夫、けーちゃんは知ってるよ。大丈夫今日も可愛い。

 可愛いは正義。妹も正義。

 つまり、可愛い妹は絶対的正義であるのだ!

 

「ーーさ、何のお構いも出来ませんが、どうぞ上がってください」

「お邪魔します……」

 

 混じり気ナシの愛想笑いで案内されたのは通算二度目の川崎家のリビング。もちろん一度目の来訪は母親さんには内緒である。

 促されて座るソファーの隣には川崎沙希が、向かい側には母親さんが腰を下ろす。

 上座には何故か妹の京華が鎮座ましましている。

 ふむ、川崎家のヒエラルキーは京華が頂点か。

 やはり妹のトップの座は譲れないのだろう。どこの家も一緒だな。

 

 テーブルの上にはコーヒーカップが三客並べられている。京華はカルピスのようだ。

 ちなみに、存在自体を忘れていたが大志は部屋に戻ったらしい。

 

「比企谷さん」

 

 持参した菓子折りを渡すタイミングが解らずにおろおろしていると、正面から声がかかる。

 

「沙希は……ご迷惑をおかけしてないかしら?」

 

 当たり前だけど、母親さんからみたら川崎も子供なのだな。俺から見たら川崎ほど可愛くて美人で料理スキルが高くてギャップ萌えする女子はいないのだが。

 母親の隣で川崎沙希が真っ赤になって俯く。

 

「い、いえ。かえって俺の方が迷惑を掛けっぱなしでーー」

 

 へこへことコメツキバッタの如く頭を下げる。

 うむ、今の俺カッコ悪いな。

 いいえ。今に始まった事ではなく、カッコ悪いのはデフォでした。

 

「よかった。この子ったら本当に男っ気が無くて。このまま結婚も出来ないんじゃないかと……常々心配していたんですよ」

「は、はあ」

 

 唐突に結婚という言葉を出されて思わず焦り、渇いた喉に若干冷めたコーヒーを流し込む。

 ……苦っ、砂糖を入れ忘れた。

 横に視線を遣ると、「け、けっ、けっ、け……」と紅い顔でうわ言を呟いている。

 結婚と云ったのは、きっとただの言葉の綾だろう。だから落ち着け、川崎と俺。

 

「でも、安心したわ。ちゃんと沙希にも比企谷さんの様な男の子がいたのね」

 

 母親さんの生温かい、もとい優しい視線に赤面して俯く長女、川崎沙希。

 それに追い討ちをかけるべく爆弾を投下するのは妹、京華。

 

「さーちゃんね、いっつもはーちゃんのお話するんだよー」

 

 さ、さいですか。

 それはファーストイヤー、初耳ですわ。

 

「あのね、さーちゃんのお部屋にはね、はーちゃんのお人形があるの」

 

 へー、それって藁人形ですかね。五寸釘が刺さってたりしたら泣いちゃうからっ。

 

「け、けーちゃん!?」

 

 ニヤリ。

 

 あれれ?

 慌てる川崎の顔を見たけーちゃんが一瞬悪い顔になったよ?

 どしたの?

 悪役令嬢にジョブチェンジなの?

 当の京華は、さっきの悪い笑みは何処へやら、にこぱっと笑ってさらに川崎家の長女を追撃する。

 ほう、笑ってトドメを刺せる幼女。素晴らしい。

 

「でもねー、お人形はぜったいに内緒なんだってー。さーちゃんなんでー?」

 

 うーん、全然内緒になってないけど……可愛いから許す!

 しかし許したのは俺だけのようで、川崎は「こらっ」と京華を睨みつける。

 一瞬肩を震わせた京華は、とたとたと俺の横へ逃げてきた。

 

「はーちゃん、さーちゃんこわい」

 

 小さな手で俺の腕をぎゅっと掴んだ京華は、目を潤ませて俺を見上げる。

 うん、ちょっとあざとくて将来が心配だけど、可愛いからオッケー。

 

「大丈夫。さーちゃんはけーちゃんが大好きなんだぞ」

 

 京華の頭に手を置くと、子供の若干高めの体温が伝わってくる。

 ふと、小町が幼い頃を思い出す。

 なでりなでり。

 

「ほんと? おこってない?」

「ああ、いい子にしてたら大丈夫」

 

 向かいで川崎のお母さんが笑っている。その横で川崎は少し俯いて目を逸らしている。

 自分でも京華に強く言いすぎた自覚があるようだ。

 

「あらあら、京華もこんなに懐いて……」

「うん、けーか、はーちゃん大好きー」

 

 ぎゅーっと腕に抱きついた京華に頭をぐりぐりされていると視線が刺さる。

 

「……比企谷?」

 

 怖っ。シスコン怖っ。

 

 だが今の俺にはけーちゃんという強い味方がいるのだ。

 故事にもある。

 幼女の味方は百人力。

 もちろん嘘である。

 俺は川崎を一瞥し、京華に顔を向ける。

 よしっ、今だ!

 

「ありがとな。俺もけーちゃん好きだぞ。さーちゃんの次にな」

 

 言いながら隣に腰掛けて俺を見上げる京華の頭をもう一度撫でる。

 ちらと川崎に目を遣ると、耳まで真っ赤になっている。

 うむ。狙い通りだ。

 はちまんは、さーちゃんに108のダメージをあたえた。

 

「えー、けーかは二ばんなの? ひかげのおんななの?」

「……!?」

 

 向かいのソファーの二人が固まった。はちまんは、80000のダメージをうけた……じゃなくて。

 こらこら誰だよ、こんな幼女に妙な言葉を教えたのは。

 もしうっかり万が一、妙な気持ちになったらどうするんだよ。

 

「ご、ごめん。京華、夏休み中ずっと昼ドラ観てて……」

 

 なーんだ、よかったー。

 うっかり京華は幼女にして魔性のオンナだと誤解するとこだったー。

 子供はテレビに影響され易いからな。

 しかし、こんないたいけな幼女が人間関係ドロドロの昼ドラを見てるとは……。

 ということは、最初の老舗旅館的な挨拶もテレビドラマの台詞か。

 

「そ、それよりも比企谷、それ」

 

 川崎の目線が俺の横に立て掛けられた紙袋に向けられる。

 そろそろ出しやがれ、という合図だ。

 

「あ、ああ、助かった。初めてで渡すタイミングが見つからなかった」

 

 川崎に水を向けられて、ようやく菓子折りをテーブルに乗せる。

 

「これ、つまらない物ですが」

 

 つい、と川崎のお母さんに向けて菓子折りの箱を滑らせる。

 

「まあ、ご丁寧に」

 

 大人だなー、きっと急遽コンビニで用意した物だとバレバレなのに。

 

「はーちゃん、それなぁに?」

 

 未だ俺の膝に引っ付いている京華が俺を見上げる。

 

「ん、水ようかんだ」

 

 水ようかんを知らないらしく、小首を傾げる京華の仕草が素晴らしく可愛い。きっと小町に見せたら猫可愛がりするな。

 むしろ俺がそうしたい。

 

「みず……ようかん? おみず?」

「違う、甘くて美味しいお菓子だ」

 

 子供をも惑わせる魅惑のワード。

 それは「甘い」「美味しい」である。

 案の定、京華は目を輝かせる。

 

「たべたい、みずたべたい!」

 

 みずは飲み物ですよ、けーちゃん。なでなで。

 

「もう、けーちゃんったら……比企谷、ひとつ先にあげていい?」

「ああ、構わない」

「ありがと。けーちゃん、ちょっと待ってて」

 

 菓子折りを持った川崎がキッチンに消えていく。

 

「比企谷さん、ちょっといいかしら」

 

 川崎の姿が見えなくなったのを見計らって言葉をかけてきた。

 再び居住まいを正す。

 

「あなた……女の子と付き合うの、初めてね?」

 

 え、解るの?

 身体からそういうオーラでも出てるの?

 

「え、ええ。恥ずかしながら」

 

 やばい。うっかり答えてしまったが、これって「ボク童貞ですぅ」と白状してるのと同じだ。

 あ、ちなみに川崎とはまだしてないからね。

 昨晩も抱き合って添い寝しただけだったし。

 ……。

 ……いやそれで充分幸せだったから。

 ホントなんだから。

 つーか俺なんかがそれ以上を求めたら、バチが当たるってもんだ。

 

「ううん、全然恥ずかしくはないわよ。沙希も男の子と付き合うのは初めてですもの」

 

 じゃあ川崎は女の子と付き合ったことはあるんですか、なんて挙げ足取りのような無粋なツッコミが出来る空気じゃないな。

 

「沙希はね、不器用なのよ」

「充分器用だと思いますよ。料理も上手ですし」

 

 うん。カレーは美味かったし、里芋の煮っころがしは絶品だった。

 

「そこら辺は、私がずっと家事の手伝いをさせちゃったせいね。わたしが仕事してるものだから、弟や妹の世話も任せてしまって……」

 

 それは違う。少なくとも川崎は自分の意思で弟妹の面倒を見ていたのだとは思う。

 幼かった小町の面倒を見ていた俺のように。

 

「さ、沙希さんは弟さんや妹さん大好きなんで、その辺はあまり気にしなくて良いんじゃないですか」

 

 決してブラコンシスコンとは言わない。それが大人の気遣いだ。

 それに、家事を手伝ったり弟や妹の面倒を見ていたからこそ、今の川崎沙希があるのだ。

 長女として大変な思いをしただろう川崎には申し訳ないが、俺としては感謝したいくらいである。

 

「優しいのね」

 

 優しいのは川崎だ。俺はそれを代弁したに過ぎない。

 

「そうそう、沙希が不器用って話だけど……あの子、本当は甘えん坊なのよ」

 

 はは、川崎が甘えん坊なのは解る。寝起きのアレを見たら一目瞭然だ。

 

 それから母親さんは幼少期の川崎沙希について聞かせてくれた。

 

 幼少期の川崎沙希。

 彼女はお母さんっ子で、ちょっと転ぶとすぐに泣き、何か上手くいかない事があるとまたすぐ母親にすがって泣く。所謂、甘えん坊な普通の女の子だった。

 

 それが、大志が生まれて二年ほど経った或る日、急に自分のことを「お姉ちゃん」と呼ぶようになったという。

 当時四歳なのに……大したブラコンぷりだ。

 それからは事ある毎に「あたしはお姉ちゃんだから」と云って、率先して母親の手伝いや下の子たちの世話をしていたらしい。

 空手を習い始めたのも、小学生の大志が泣いて帰ってきた後だという。

 そして、成長と共に川崎は何事も家族優先で考えるようになり、自分の願望を口にしなくなった。

 

「本当は、兄妹の誰よりも甘えん坊なのにね」

 

 川崎のお母さんは目を細めて笑う。

 

「そろそろ沙希には、自分の楽しみや幸せを見つけて欲しいのよ。母親としてはね」

 

 彼女の幸せ。

 それは、果たして俺の思う幸せと一致するのだろうか。

 

「でも比企谷さんが居れば安心ね」

 

 そう川崎のお母さんは微笑むのだが、初対面の俺をそんなに簡単に信用していいのかね。

 油断大敵ですぜ、お母さん。

 

「せ、責任重大ですね」

 

 何ならプレッシャーで押し潰されそうですわ。なんせ人ひとりの人生が懸かっているのだから。

 

「大丈夫。あなたはきっと、沙希のことを真剣に考えてくれる。沙希とあなた自身の、二人分の幸せを考えてくれる」

 

 目から鱗……だった。

 

 必ずしも川崎と俺の幸せが一致する必要は無いのだ。

 無理に一致させようとすればストレスになり、それは綻びに繋がる。

 だけど。

 川崎の幸せに俺がいて、俺の幸せに川崎がいてくれれば、それは二人の幸せになる。

 恐るべし、先達の言葉。

 まあ、俺の評価に関しては買い被りもいいとこなんだけとな。

 

 話が一区切りついたタイミングで川崎が戻ってくる。手には小皿に移し替えた水ようかん。

 

「ーーけーちゃん、水ようかんだよ」

 

 水ようかんひとつ用意するのに随分時間が掛かったな、と川崎を見ると、ほんのり目元と鼻の頭が赤い。

 こいつ、母親の言葉を陰で聞いて泣いてたな?

 後で揶揄ってやろうっと。

 

 ……いや、言わぬが花、だな。

 

 ともあれ本当にいい家族だな川崎家。

 

 その後トイレを借りて戻ったら、川崎の頭から湯気が立っていて、そんな娘に微笑む母親の姿があった。

 何があったかは……聞かずにおこう。

 

 これも、言わぬが花。

 

 




今回もお読みいただき、ありがとうございます。

読んで下さった方々のお陰で、この物語もUA10000を超えることが出来ました。
重ねてお礼申し上げます。
ということで、調子に乗って2日連続で投稿しちゃいましたw

ふと気づいたのですが……
スマホで書いていると、一文の長さが短くなる傾向があるように思います。
だからどうした、なのですが。

さてさて今回は、はじめてのあいさつ八幡編でした。
初めて彼女の親御さんに会う時の菓子折りが「水ようかん」って、ちょっと八幡っぽい気がします。
普通なら菓子折りなんか持参しないのでしょうけどね。

それはそうと。
サキサキって、本来は甘えん坊な気がするんです。
両親が共働きだったり弟や妹がいたりで、必要に駆られてしっかり者に成長したんです、きっと。
ぶっきらぼうに振る舞うのも、甘えたいのに甘えられない葛藤が……
あ、語りが長いですかそうですか。

まだまだ語り尽くせませんが、今回はこの辺で。

引き続き感想、批評、批評など、気が向いたらでよいのでお願いします。

ではまた次回、お会いしましょう。

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