甘くほのかに香る栗のケーキ、モンブランとコーヒーを机において、士郎はタケミカヅチファミリアの面々と対峙する形で座っていた。軽く自己紹介をした後、メンバー3人のうち桜花がいたため残り2人の女性メンバーとちょっとした質問と応答を繰り返していた。タケミカヅチファミリア全員は極東の島国、元の世界でいう日本で生まれ、共に生活した中らしい。簡単に言えば幼馴染といった仲である。幼馴染とは違うが、共に学校生活で遊んだりしていた間桐慎二や桐生一成を思い出したりしていた。
1人はヤマト・命という少女で、戦闘用に改装された和服を着た、少し声の高めの情の厚い少女であるらしい。
もう1人は先ほどのコーヒーなどを入れてくれたヒタチ・千草という少女で、こちらはおとなしい性格をしている。基本的には家事をこの子がしている事をこのやりとりで聞いていた。
その中で料理をするのが好きならしく、豊穣の女主人で働いている士郎に対して質問を特に行っていた。士郎もできる限り分かりやすく説明しており、このファミリアで誰よりも深く仲良くなっていた。その姿を静かに優しげな視線で見ていたタケミカヅチはおもむろに声を上げる。
「ではこのくらいで挨拶は終わりにしよう。シロウ君、私の部屋に来てくれ」
少々物足りない顔をする2人を士郎と桜花がなだめつつ、士郎は先を行くタケミカヅチの後をついていく。
タケミカヅチファミリアのホームは一般的な一軒家で、ギルドにローンを組んで借りているらしい。思ったより神にも変わらない対応をするギルドに尊敬を抱きながら士郎は部屋に入っていく。中は書斎のようになっており、剣術や純粋な物語の小説を数多く本棚に並ぶ。
椅子二つと机が壁際に並んでおり、布団も畳んで隅に置いてある。
「そういえば、君は何処で寝泊まりをしているのだ?」
随分今更な質問を投げかけられ、士郎はフッと笑いを零しながら応答する。
「今は豊穣の女主人の二階を借りている。ちょうど前の従業員が住んでいた所が空いたらしいのでな」
因みに士郎の部屋は元々ベッドがあったのだが、元々和式スタイルだった士郎はミアに頼んで敷布団に変えてもらったという小話があったりする。
ホームで住むかどうかは眷属次第なので、士郎は迷わず申し出を断った。後一月は流石にミアの方を優先したいところであるし、何より店を借りて生活しているのにすぐさま出て行くのも気が抜けてのことである。冒険者となってもあの店で働く気でいる士郎であった。
「では椅子に座って上着を脱いでくれ」
その言葉に素直に従い脱いでいく。鍛え抜かれた体つきに無駄のない筋肉は武神からしても誉め讃えても構わないかと思案するほどである。
タケミカヅチは指先に針を刺し、血を士郎の背中に一滴流す。すると背中にはどんどんと血が形付けられ、神の文字と化し、[ステイタス]となる。
Lv.1
力:I…0
耐久:I…0
器用:I…0
敏捷:I…0
魔力:I…1
《魔法》
【
・固有結界
・心象世界の武器を投影可能
・視認した全ての剣類を解析、心象世界に貯蔵する。
【】
【】
《スキル》
【魔力強化】
・自身と触れたものに対して魔力と引き換えに強化可能
・器が耐えられる限界まで強化可能
・自身のイメージ力により効果上昇
「いきなり魔法とスキル発動とは……君には才能があるらしい」
何も知らないタケミカヅチからすれば確かにそうかもしれない。だが士郎にとってこの発現したものは今までの人生そのものであり、積み上げてきた結晶である。だが魔術がスキルや魔法として現れるとは思っていなかった士郎としてこれは意外な結果となった。まぁこれで心置きなく使用可能となったわけだが。
「だが一つ君に伝えなければならないことがある」
「なんだ?特に問題は見受けられなかったと思うが?」
少し苦い顔をしたままタケミカヅチは士郎の目を見て話す。
「シロウ君、君の魂は空っぽだ」
そこで士郎は意味がわからないという表情を見せる。当たり前だ、こんな事を急に言い出されたら誰だって戸惑う。
「まずステイタスについて簡単におさらいだ。私達神は君たちの力を神々の力で明確化し、恩恵を授ける。元々の筋力にプラスして強化などを行うものだ。明確化する中で君の情報を神々に力で自動的にステイタスに反映させる。その中で大雑把だが君の歩んできたものを理解することも可能なのだ」
記憶はさすがに厳しいがね、とタケミカヅチは苦笑しながら話を続ける。
「まず最初に言わなければならないが、精神と魂とは別の物と考えていい。その二つが人々の体、器の中に入っている。脳以外に記憶や戦闘経験、能力などを魂と精神が覚えていくものなのだ。成長していく中でね」
話しながら机の大きめの引き出しからコップと酒を取り出しながら、話を続ける。
「記憶はともかく、戦闘能力に関していえばその二つがないと本来の力を発揮できないような仕組みになっているのだよ」
コップは二つあり、その両方に透明で綺麗な酒を注ぐ。
「だが君の魂は空っぽ……いや生まれたばかりのように情報が少なすぎる。君がこの街に現れた時程しかね」
何か理由を知っているかと、そういう目でタケミカヅチは目で士郎に聞く。
士郎とて自身の能力が下がっていたことには勘付いていた。認めたくはなかったが。この街に来る前の時に、ならず者程度と戦って息がきれる時点でおかしいし、何より桜花と知り合ったときの盗人の時だって異常すぎる。いくら力を抑えたからといって、唯の一般人が英霊の力を持っている士郎に対して回し蹴りを避けられるはずも無し。
「今の君にとっては元々がそれなのか、それとも何らかの原因で魂の記憶が消えてしまったのか。それは定かではない。前者なら特に問題はない。ステイタスによって補正も受けるし、これから先もまた経験を積めば問題はない。一ヶ月前から記憶し始めたのは興味深いがね」
酒が注がれた一つの器を士郎に渡す。
「後者なら自身の実力をもう一度確かめるんだ。今の君には恐らく半分ほどしか本来の実力を発揮できないだろうからね」
何故最初に確かめた時に自身の身体は問題ないと判断してしまったかは、士郎にすら分からない。恐らくアラヤは転生は難しいと言っていた。恐らくその時、転生の時に何らかが起こったのだろう。そう推測するしか方法は無かった。
「だが安心したまえ、シロウ君。このファミリアの団員達は皆人格者だから君を貶めるようなことはしない。寧ろお互いを高めあい、励まし合う仲間たちだ。頼り頼られ、ここから先の苦悩を解決していきなさい」
そこでタケミカヅチは酒を一気に煽り、机に置く。
「ようこそ士郎君、我がファミリアへ」
そこで士郎も今だ考えは纏まらないが、それでもこの先の出来事を見据えながら、一気に酒を煽る。
「ここから先苦労をかけるだろう。よろしく頼む」
その酒は仄かに甘く、優しい香りがした。
その後、士郎はホームを後にし、豊穣の女主人に直行した。
今の時間帯は9時近く。別にもう少し出歩いても問題なのではと思わなくはない時間帯なのだが、地味に店員達に対して心配症なミアは、できる限りこの時間帯に帰ってこいという事をみんなに言い聞かせていた為である。
タケミカヅチファミリアのホームから豊穣の女主人はだいたい20分ぐらいで着く近からず遠からずといった具合である。
戻ったこととファミリアに入った事をざっくりミアたちに伝えた後、士郎は二階の自室へと入っていった。
だいたいタケミカヅチの書斎と似たような物置の仕方をしている士郎。椅子に座り自身の今の状況を反芻していた。
弱体化。簡単に言えばそれだ。英霊としての力をほぼほぼ失ったと言っても過言ではない。と言ってもそこまでショックは受けていない。寧ろこれから先どのようにしていけば良いのかを考えるだけで精一杯な現状だ。まずは今現在の実力を理解するまではダンジョンに入るべきでは無いなと判断し、出来れば次の休日に桜花と模擬戦を行いたいところだ。レベル1とレベル2とでは差が激しいと聞いている士郎。今の実力がステイタスも含めてどのようになるか確かめなければならない。
不意に、トントンというリズムで扉が叩かれた。
「エミヤさん、お風呂空きましたよ」
落ち着いた声で放つ持ち主は緑色の髪をしたあの人物しかこの店にはいない。
士郎は立って扉に向かい、開ける。
「了解した、リュー」
律儀に返す言葉を吐く士郎。そこにリューは真剣な顔と声音を傾ける。
「冒険者に……なったのですね」
「ああ、やっとといったところだな」
「……あなたなら大丈夫だろうが、あまりダンジョンを舐めない方が良い。気をつけてください。ここには貴方に死んでほしくないと思っている人達が沢山いる」
そこで士郎は少し驚いた顔をする。
「別に舐めてなどは居ないさ。ただそうだな……、善処するさ。できる限りな」
ここで絶対と言わない士郎。そんなところに気が食わなかったのか、リューは静かに黙ってそのまま自室に向かってしまう。
「ああそうだ、その沢山の中に、君も入っているのかね?」
これはこのちょっとした気まずい空気を壊すネタとして士郎は言ったのだが、今一度真剣な声音で
「ええ、入ってますよ」
と即答されたことで面食らった士郎。何かしら迷惑がるかと思っていたのであったのだが、リューはそのまま振り返らず自室に戻っていった。
今作品初めてだと思われるオリジナル設定、エミヤ弱体化をさせていただきました。理由がちょっと突拍子もなくてすみません。そこは出来ればスルーしてくれると助かります。また、ならこっちの理由の方が納得出来るのではというような意見がございましたら、そちらに変更します。
それと魔法スキルの件、あれは表示させないとこの先うまくできないかなと勝手にやりました。魔術だからちげえだろ馬鹿野郎という方は申し訳ありませんとしかこちらとして言えない限りです。