紅き外套 オラリオへ行く   作:クグイ

6 / 13
どうもUA数の伸びに驚きとニヤニヤが隠せないクグイです。もうそろそろ戦闘が開始されると思うのでそれを期待の方はもうそろそろお待ちください。と言っても戦闘の描写はきっと酷いものになりそうですけどねwそれではどうぞ✨


豊穣の女主人

トントンという包丁とまな板が重ねるリズミカルな音と、周りが食欲をそそる素敵な香りが立ち込む所に、赤い外套を纏った白髪の好青年が立っていた。士郎が豊穣の女主人という酒場の前に立ちつくす理由は簡単で、現在準備中と書かれた看板がそこに立っていたからである。今更ながらに言葉は日本語。名前や文字などは英語表記というあやふやな世界観に少しばかり疑問を持ってしまった士郎。その場で考えを展開してしまうが、突如開く扉によって意識を取り戻す。扉から現れた女性は緑がかったウエイトレス姿に銀髪のポニーテールに髪を纏めた、控えめに言って美がつくほどの少女だった。少女は少し士郎の見慣れない外套姿に驚いてしまうが、すぐに平静を取り戻し、可愛らしい声を傾ける。

 

「申し訳ありません、只今この店は現在準備中でして……。宜しければ夜にまた来て下さると助かります。」

 

少しばかり早とちりをしてしまった少女に、エミヤは少しばかり笑ってしまう。早とちりの段階があの赤い少女に瓜二つな所にだが。

 

「いや、今回は別件でここに立ち寄らせてもらった身でね。この店は現在従業員を雇っているとギルドから連絡を承ったのだが、間違ってないかな?」

 

それを聞いた少女は少し喜びを顔に表した後、少々お待ちくださいと言葉を残して、颯爽と店の中に戻っていった。

 

3分ほど経った頃に先ほどの少女とは違った、大人しいクールさが滲み出るウエイトレス姿の緑がかった金髪の女性が扉を開け、士郎に話しかける。

 

「お待たせいたしました。どうぞ中にお入り下さい。ミア母さ……店主が中で待機しております。」

 

丁寧な日本語で放たれたそれを合図に士郎は店内に入っていく。丁寧に磨かれたテーブルと椅子が何セットかずつに別れていて、カウンター席が8席ほどある。店の大きさは士郎感覚では一般的な大きさより大きいぐらいと感じていた。その店の奥の方に店主らしき女性が椅子に座って待っていた。

 

「あんたが就職希望者かい?」

 

そう問いかけてきた女性は体格がとてもよく、数々の男性は萎縮してしまうほどのオーラを纏っていた。

 

「ああ、シロウ・エミヤという。シロウと呼んでくれて構わない。東の方出身のものだ。調理師希望でここに参った」

 

ただまあ、そのオーラ自体には全く恐怖の欠片すら湧かない士郎であるが。それ以上のオーラならいくらでも感じてきている猛者である。

 

すると少し怪訝な目で店主が士郎を下から上までじっくり観察し始める。

 

「調理師希望ねぇ……。希望自体はありがたい限りだが、アンタ随分と逞しい身体してるじゃないか。冒険者じゃないのかい?」

 

「いずれ冒険者を希望している者であるのは確かだがね。少しばかり事情が折り重なって資金が無い。幸い調理の腕には自信はある。この店で働かせて貰うと助かるのだが」

 

するとテーブルに先ほどの金髪の女性が珈琲らしき香りがする黒い飲み物を、机の上に置きにきた。

 

「ありがとよ、リュー」

 

リューと呼ばれた彼女は一礼して奥の厨房に入っていく。先ほどからそちらの方から視線が来るなと感じていた士郎は厨房に目を向けて初めて理解する。店主らしきウエイトレス姿の沢山の女性が様子見で此方を覗き込んでいるのだ。

 

珈琲らしき飲み物を一口飲む。問題なく珈琲であるが……いい豆を使っているのだろうか?素晴らしい香りや味に衝撃を覚える士郎。ただまあ先ほど店の前での香りを含めて考えると、ここの店はもしかしたら相当高級店であるのかもしれない。

 

「あんたこの珈琲の旨さが分かるのかい?いい舌を持ってるよ。あながちさっきの言葉は嘘じゃなさそうだね」

 

料理人とは数々の美味なる食事を作り、食べたりしていくごとに、おのずと舌が成長していくものである。

 

「ただまあ、単純に舌が肥えただけの坊ちゃんの可能性も否定できないわけだ。だからまぁ、採用試験ってことで、これを使った料理を作ってもらいたい」

 

どん!と先程の言葉と同時に豪快な音と立てながら、店主はテーブルの上に袋に入れられた沢山の白い粒のようなものを士郎に見せるように置いた。

 

「コメと呼ばれる食材だ。今朝仕入れたものでね。東の国から輸入したものらしいんだが、あんたなら調理できるだろう?」

 

東の国出身ならね、と彼女は豪快に笑う。別に意地悪ではなく、単純に腕を持ったものでなければ店にはおいてはいられないということだろう。恐らくこの世代にチェーン店は無いだろうことは推測できる。自営業ということは慎重に物事を進めなければならない。店員を雇うのであれば尚更だ。

 

「了解した。貴方が満足出来るよう、全身全霊を持って取り掛かろう」

 

「其処まで啖呵を切ったんなら期待させて貰うよ。保存しているものや調味料などは無駄にしなきゃいくらでも使ってくれて構わないからね」

 

少し大胆すぎやしないかと思ったが、もしかしたら彼女は元冒険者なのかもしれないと士郎は考える。先程士郎を観察する目は戦士の目をしていた。ただまあ今は其処は関係ない。彼女は客で、士郎は給仕者だ。数多の視線を受けながらも、何を作るか思案しながら奥の厨房に入っていった士郎である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせいたしました」

 

少し覚束ない口調で士郎は料理が盛り付けられた皿を彼女の目の前のテーブルに静かに置く。

 

多数の野菜や薄くスライスされたベーコンなどで作られた炒飯の上に綺麗に輝く薄く焼かれた卵が乗っかっていた。デミグラスソースがかかっている卵の周りには添え物である甘煮された人参やコーンが置かれている。所為オムライスである。未だ見たことのない料理に店主は最初見たときは驚いたものの、すぐにスプーンですくい、口に運ぶ。

 

卵は完璧と言っていいほどに火の通しにムラがない。フワフワトロトロな食感はいつまでも口に入れても気持ちいいと思える中、スッと溶けて消えてしまう。コメは初めて食べるものだが、ほのかに甘く感じる中で野菜の旨味と肉の香ばしさを殺さず保っている。寧ろ増加させたと言っても過言ではないかもしれない。人参やコーンに関しては以下略。

 

「……美味いよ。」

 

すると士郎は安堵の息を溢す。

 

元々調理を主軸に置いたのはオラリオに着いた際、林檎を販売していたのを見ていたのが大きい。執事スキルex、数多の有名料理人とメル友になった士郎とはいえ、流石に無知な異世界食材を扱えるとは思っていない。そして極め付けは先程の珈琲である。基本的な食材は元の世界と変わらないことを推測して、エイナに料理店を聞いたのである。ただまぁ、念のためにオムライスに使った食材は少しばかり味見したり、米を炊くために飯盒を投影したのは内緒である。まぁ米をまた炊くときは鍋を使えば問題はない。

 

「ここまでとは予想してなかったよ。ご馳走様、シロウ」

 

いつの間にか皿の上には何もない。随分と早い食事だなと士郎は少し苦笑いを隠せないでいた。

 

「なに、大したことはしていない。それよりもどうなのかね?」

 

ニヤリと口を動かし微笑しながら、店主は言い放つ。

 

「文句なしの合格だ。ようこそシロウ、【豊穣の女主人】に。私の名前はミア・グランドだ。店員達は子供達みたいなものでね。皆は私を母さんと呼んでくれてる。あんたは何て呼んでくれるんだろうね」

 

士郎は少し逡巡して、やはりこの呼び名が落ち着くと納得して言葉を放つ。

 

「ならば私はこう呼ばせて貰おう。マスター、

 

これからよろしく頼む」

 

するとミアは少し驚いた顔をした後、大いに笑いだした。

 

「ハッハッハ!そうかい私はマスターかい。こいつは予想してなかったよ。そうだね、まずは子供達を紹介しないとね」

 

ミアが一声かけると店員達は厨房から出てきてくる。総勢10人ぐらいだろうか。一人一人自己紹介をしていく中、猫のような口調や耳をした少女や、リューと呼ばれる女性の耳が尖っていることから、他種族がいるのかもしれないと思った士郎。後で調べてみないとなと考えながら話を聞いていく。最後の1人が終わったところで、ミアが士郎に話しかける。

 

「すまないがシロウには明日から正式に働いてもらう。今日は皿洗いを頼むよ」

 

了解したと返事をしながら士郎は先程の皿を持って、厨房に入っていった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。