紅き外套 オラリオへ行く   作:クグイ

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どーもクグイです。今回エミヤ系列の作品を作ってみたくてやってみました。ストーリー展開が難しかったり、エミヤの喋り方が大変で困りましたが、何とか書き終わりました。基本オリキャラ主催のSAOを書いているので更新は非常に遅くなりそうですが、頑張っていこうと思うので、皆さん、よろしくです⭐️!


本編
始まりの物語


眩しい。ここまで太陽というものは眩しかったかと疑うくらいに……美しかった。

 

目の前の朝焼けに目を奪われながら、赤き服に身を包まれながら彼は、今宵の戦いを反省し、自らが想い、たとえ偽物であったとしても貫いてきたもの。自らが行ってきた様々な所業を反芻しながら、その時……聖杯戦争からの終わりを待っていた。持ってあと五分といったところだろうか。

 

自分でも馬鹿馬鹿しく、甘い男だったなと彼は苦笑するしかない。それもそうだろう。途方もないながき時の中で彼が願い、果たそうとした一つの夢。いや、夢というにはいささか血なまぐさいものではあるのだから、一種の野望というものだったのだろうか。

 

 

 

自身の殺害。聖杯戦争に呼び出され、何年も前の自分を殺し、自身の存在をなかったことにする。それが意味をなさないものであったとしても、彼の精神を崩壊させないための最後の砦ですらあった。

 

それがいざ自分と目の前で戦い、破れたのだ。技術はもちろん魔力、戦闘経験瞬時の判断力。戦いにおけるすべての能力は彼を優に上回っていた。なのに彼は負けた。自分でも笑ってしまうくらいに滑稽だったろう。

 

だが、その戦いですべてが救われた気がしてならならいのだ。後悔はある。ただしその昔の自分をみて、その戦いの中で自身が忘れてしまっていた一つの呪い。今では夢にも、そして昔からの夢でもあった正義の味方に憧れたという願い……その願いの根底を思い出した。

 

それがどんなに辛くとも。それがどんなに哀しくとも、俺は間違えてなどいなかった……。そう俺は、エミヤシロウという人間は思い至った。思い知らされた。なんて笑い話なんだ。そう彼は満足したかのように、薄く独りで笑った。

 

 

 

「アーチャー!」

 

 

 

その瞬間、彼の後ろから、切羽詰まったかのような少女の声が聞こえてきた。

 

彼は知っている。知らないわけがないのだ。今自身の名前を口にした少女を。幾たびも自身を助けてくれた彼女を。この戦いにおいて共に戦った少女を。遠坂凛という、可憐なる少女を。

 

 

 

彼はゆっくりと、彼女の方に目を向ける。ツインテールに髪を止めたその髪に、赤いセーターと黒いミニスカート。そして自身を守るだろう魔力を込められた革のブーツ。彼は今までの知っている全ての彼女を……そして今目の前の彼女のことだけは忘れまいとそう心に誓いながら。

 

彼女はわたしにとってとても嬉しい言葉を言ってくれた。投げかけてくれた。私ともう一度契約してと。この世界にとどまってってくれと。私に……いや、俺にそのような価値があると言ってくれた。

 

……だが無理だと。この申し出を断る。私にその資格はないのだと、彼女にあるがままを伝えた。彼女は最後まで俺の心配をしてくれた。それがどれだけ嬉しいことかは明白だろう。だが、それでもその言葉は参ったと言わざるをえない。心配させないように気丈に、皮肉でもなんでも言っていたというのに。

 

ならばこう言いかえよう。回りくどく言うよりかは、これが彼女にとって救いとなるなら、真正面に頼もう。

 

 

 

「私を頼む。知っての通り、頼りない奴だからな。」

 

 

 

「アーチャー……。」

 

そう伝えると彼女は少し哀しい顔を作った。うつむきながら、それでもその悲しみを背負ってでもと、一つの決意を胸に、遠坂凛という少女は彼に向き合う。

 

 

 

「うん……。わかってる!私頑張るから!きっとあいつが自分を好きになれるよう頑張るから……。だからあんたも……!」

 

 

 

陽は静かに上がりながら彼女の決意はより硬く、強くさせていくにつれ、赤き騎士の身体を透けさせ、消えさせていく。赤き騎士は彼女に、遠坂凛というかけがえのない存在に最後の言葉を投げかける。

 

 

 

「大丈夫だよ遠坂、俺もこれから、頑張っていくから。」

 

 

 

そう、最後に赤き騎士はこの世界に、聖杯戦争というものから姿を消した。なんの未練もない世界から。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やあ、エミヤシロウ……だったかな』

 

暗く、周りは闇一つの封じられた世界の中、ただ一つの椅子に座り続ける赤き外套に身にまとった青年に、声だけを傾ける。

 

(何用だアラヤ。霊長と言われたあなたが、今となってはだだの【力】でしかない私に、一体なんの要件が?)

 

そうニヒルに言葉を並べたシロウは警戒しながら、過去に数多くの人々を救おうとしときに契約した、地球の概念とも呼べるべきものと対峙、会話していた。ある意味感謝すべき存在ではあるのかもしれないが、彼に行われ続けてきた様々なものは、彼にとって今ではいくばくか形容しがたいものであったことは言うまでもないだろう―――守護者としての活動。十を救うに一の犠牲を、百を救うに十の犠牲を、千を救うに百の犠牲を。そうして彼は世界を守る正義と化し、死後の理を歩み続けてきた。正義の味方になる願いの根底すら忘れる地獄であったその無数の時は、エミヤにとってどのようなものかは、想像に難しくはない。

 

『随分なものいいだな…それも契約してやったものとしては、その言葉はある意味傷つくものということを忘れないべきだ。』

 

(何を言うかと思えば、笑わせてくれる。この程度で傷つくものであるならば、私にあのようなことはさせるはずがなかろう。)

 

『それこそふざけた話と思わないかね?あの世代、あのときにおいて私が貴様に命じた指令は正しいものだ。手段は選べない状況のなかな。』

 

そこでふとエミヤは、少し哀れんだような吐息をはいた。そしてその吐息と同じように、哀しげな目で彼は虚空を見据え、一つの答えを彼に投じる。地球の概念と呼ばれてもふさわしい、アラヤに……。

 

(それは違うよアラヤ。それはきっと正しいことなんかじゃないんだ。それは……ただ、間違ってなかっただけなんだよ。)

 

その言葉を境に、アラヤの気配が少しばかり疑念を持ったような、そんな感覚がエミヤを襲った。今の感情、話し方はエミヤではなく衛宮士郎という少年そのものではあったのだが、エミヤはそれに気づかない。その中、そんなことには気にもとめず、かの聖杯戦争で得たソレを、伝えなければならないような焦燥感に、駆られていたのかもしれない。

 

(人を殺すなんてことに、正しさなんてないんだよ。その状況、その感情タイミングによって最善の策になるのかもしれない。ただそれでも、命っていうのはそれほど大事なものなんだよ。)

 

それは、何を思って放たれた言葉なのか。あの、十数年前に起こった大火災、一度心臓を穿たれた記憶、守ろうとした人々、そして。セイバー、遠坂凛、彼の命を救った衛宮切嗣か。

 

 

 

どれだけの時間が経ったのだろうか。エミヤの言葉をきっかけに、沈黙があたりを制した。

 

それでもアラヤの気配は消えない。先のような疑問の気配は消えていたが。いったい何のようだと聞き返すことにして、エミヤは少し考えたあと、アラヤに声をかけようとした時。

 

『成る程……。貴様は答を得たというのだな……。私にはその考えが理解できぬが、そういう考え方もきっとあるのだろうな。エミヤ、貴様はまだ、正義の味方になりたいとは思うのか?』

 

その答えにエミヤは、少し驚きの顔を浮かべた後、愚問だなと、そう切り捨てた。

 

(今はもう呪いなんてものにはあの聖杯戦争の後から解放されている。今も昔も今思えば自分から出た憧れ、願いだったのだからな。ただ、そうだな。)

 

そこでふと、あの聖杯戦争において助けを受けた、凛という少女とともに戦ったもう一人の英霊。今も昔も尊敬し、敬服していた彼女を思い、彼はこう続ける。

 

(俺は、本当の意味で、セイバーのような英雄になってみたかったな。)

 

そう、今では叶わぬ夢を吐露した顔は、優しく、儚げな年相応の顔をしていた。

 

『成る程、最初は別件できたが、少し気が変わった。エミヤ、いや衛宮士郎。貴様と私の契約を、解除しよう。』

 

その言葉に驚愕の顔をしながら、エミヤは何の意図があってそのような虚言を吐くのか模索する。それもそうだろう。何度そのことを願ったかはわからない。だが、そんなにことがうまく運ぶことなどありえないと、彼は今までの人生で嫌という程理解していた。だが、そんなこともお見通しなのか、アラヤはこう続けた。

 

『いや何、解除するといっても、新たな人生を歩むお前を観察させてもらおう。私には理解できないその考えがどうしても怖い。理解できないものがあるということがここまで恐ろしいものなのかは知らなかったが、まさかここまでとはな。守護者に関しては貴様以外にも問題なくいる。ことが起きても問題なく対処できるだろう。』

 

少なからず、アラヤは虚言は吐いてないということは理解できた。だがそこまでする必要があるというのか、未だに得心がいかなかったが。それでも、俺の行動でアラヤという概念すら救えるのだとしたら、それは偉業ではあるものの、どれだけいいことなのか。そのようなことを考えていた。

 

『といっても今の世界では英雄になるには少なからず厳しかろう。そうだな。少し厳しいが、平行世界に転生という形が最も効率がいいか。また、今の能力はそのまま引き継ぎだ。貴様は最初からやり直したいとかふざけたことを抜かすもしれないが、ある程度の条件は飲んでもらおう。』

 

そうしないとすぐに飽きてしまいそうだからな。そんな言外な言葉が聞こえるような話し方だった。

 

『さぁ、これで貴様の正義の味方は終わった。次の世界での生き様を……とくと見せてみろ。』

 

これが最後の言葉であった。そう告げられたエミヤは覚悟を持って応えようと、そう心に固く誓い、闇が光に包まれるのを見届けて、意識が飛ぶのを感じた。

 

 

 

 

 

これは守護者となった青年が英雄を目指す物語。


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