紅き外套 オラリオへ行く   作:クグイ

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久々に期間内に投稿完了!どうも暑さに苦しんでいるクグイです。皆様今更で急ですがご支援その他もろもろありがとうございます。そしてここ最近温度変化が急なので体調は崩さぬよう。それではどうぞ!


少女の勇気

鋭い龍の雄叫びがダンジョン第11階層に響き渡る。ダンジョン内で生まれるレアモンスター、インファントドラゴンと呼ばれる胡桃色の4メートル級ドラゴンである。無駄な動きをしないための均等に作られた筋肉に、無骨とは思える中優美に形作られた尾とツノ。一目見て雄大な生命力を感じさせる生き物であり、今、命や千草にとって最悪の相手となっている。桜花が手負いの今、このモンスターを相手するのは実際問題少女2人しかいない。この直線上の道、横幅はそれなりにあるものの、どう安直に、ポジティブに考えてもこのレアモンスターが見逃してくれるとは思えない。全快の、万全の状態で走り抜けることはきっと可能だったろう。だが、ある程度戦闘を行っていたし、桜花の毒の問題が現在起こっている。引き返そうにも解毒薬が無い現状、あまり時間をかけたくは無い。回復薬に多少の解毒効果があるにしても、それは一時しのぎでしか無い。10分ほど動けるぐらいにはなるだろうが、全力のスピードを出せるほどでは無いだろう。出せるパフォーマンスは、きっと多少なりとも体力を消費している命以下に違い無い。

 

では、ここでどれが正解か?一つ、インファントドラゴンを颯爽と倒してすぐに地上に進む。

 

だが、相手は低階層の中でも最強のモンスター。階層主と呼ばれるものに相応しいRPGでいうボスモンスターだ。恐らく何の負傷もなく勝てるとすればlevel2の冒険者じゃないと厳しいだろう。

 

第2、何とか逃げ続け、他の冒険者を待つかそのまま引き返すか。コレはある程度いい線いくかもしれないが、他の冒険者はつい先ほど逃げて行ってしまった。引き返すにも先の理由があるため決断するには些か渋る。

 

第3、それはーーー

 

「俺が残る。2人はすぐに地上に戻るんだ」

 

その、どこか諦めたかのような、いや、決意を固めた言葉が、桜花の口からこぼれ、2人を驚愕させる。

 

そう、誰かが残り、他の2人は注意を惹きつけないよう、バレずに逃げる。これが皮肉にも最も高く生存率を上げる現在の方法だ。

 

「そんなっ!今は毒を受けてるんですよ!桜花殿も今はlevel2だとしても今のままじゃ確実にやられるんですよ!?」

 

そう、今少なくとも最も戦いができないのは桜花だ。今の全力がlevel1以下なのであれば、確実に殺される。

 

「なら3人でお陀仏か?嫌だぜそんなの。まだタケミカヅチ様に恩返しもしてねえんだ。俺を置いて2人で俺の分も頑張ってくれや」

 

「桜花殿……」

 

「それに!俺がまだ殺られるとは確実に決まったわけじゃ無いんだぜ?ロキファミリアの遠征が今日終わるっていうから、もしかしたら運良く助けてくれるかもしれねえしな。何より俺の隠された力が解放されるかもしれねえし」

 

そう、おどけるように桜花は冗談をペラペラと。普段お喋りではない彼がこういうときに話すことが多くなるのは、きっと悟らせないために。恐怖を。

 

その時、今まで沈黙を保ってきた千草が、切ない声を漏らす。

 

「ダメだよ」

 

その言葉に、2人は千草の顔を覗く。

 

「ダメだよ。確かにその判断は正しいかもしれないけどさ。でも、ダメだよ」

 

それは、1人の少女の感情論。ただそれに、2人は驚きを隠せない。今まで、あまり感情を見せないタイプの千草が、このタイミングで感情論をぶつけたことに。

 

だが、桜花はこのファミリア団長としてのリーダーであり、たとえ自分の命を犠牲にしても2人の命を大切にしなければならないし、そう思っている。そして昔ながらの仲間なのだ。

 

だが、それは2人にも言えること。確実性と感情論。これがどちらが正解なのか、きっと誰にも理解はできない。

 

不意に、千草は勢い良く立ち上がり、ドラゴンの方に向き、半身ほどの長さがある刀を鞘から抜き出し、構えを取る。

 

「千草、お前!」

 

その、桜花の叫びにも似た引き止めの言葉は、もはや千草の耳には届かない。

 

「ギャァァァァァァァ!!!!!」

 

インファントドラゴンの雄叫びが辺りを揺らす中、1人の少女が、勝利のために駆ける。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

インファントドラゴンに斬りかかる。

 

だが、やはりというべきか、胴体の部分は硬い鱗で覆われているため、ほぼほぼダメージは与えられていない。そこから尻尾でのなぎ払いを行ってくるが、それを何とかバックステップで躱し、瞬時に他の部位に斬りかかる。そこでまた鱗で弾かれ、次にその屈強な足についた爪で切り裂かんと千草を襲う。受けきれないと判断し千草はその爪の応酬を避け続ける。だが、ここで一つ疑問が浮かび上がる。level1でも上位ではあるものの、インファントドラゴンの攻撃を未だ一度も受けていないのは、一体どういうことだろうか?

 

「アレは一体……?」

 

そう、思わずにはいられない。その秘密を知っているのは、タケミカヅチと命、そして本人だけである。なぜ桜花に教えていないのかというと、それにはある理由がある。

 

「あれは、スキルですよ」

 

そう、千草に変わって命が桜花に説明する。

 

「疾風迅雷、それが彼女の速さの秘密です」

 

これもまた、方向は全く違えど士郎と同じレアスキルの一つである。

 

「疾風迅雷?効果はどのような感じだ?」

 

「ステイタスの俊敏に、他の4種のステイタス値を一時的に移行することができるという、半分反則級のスキルですよ」

 

そう、一時的に移行ということは、例えば全ステイタス500ずつだとした場合、速さに全振りした場合、他がゼロの速さ2500。恐らくlevel3手前のスピードとなる。

 

ただ、どんなに基本的にスピードを上げたところで攻撃が通らなければやむなし。なので攻撃だけは移行せず他の三つを移行することで手を打っている。それにこのスキルは上昇ではなく移行ということだから、器用や魔力はともかく、耐久を消し去ってしまうため、一度でもまともに食らえば危険なことになるのは間違いない。

 

スキルというのは、その人の心の有り様で出現する。疾風迅雷ができ上がった理由としては、彼女にとって戦闘とは速さが1番、いや、速さしか残っていなかったという理由。

 

この3人、千草、桜花、命の3人にはそれぞれ得意の分野がある。

 

桜花は力、即ち単純な筋力などを指す。命は技術、剣に関する戦闘技術を指す。そして千草、それは足以外の剣の振りの速さなど。この3人はある種バランスのとれたパーティなのだが、それはただ、彼ら彼女らをちゃんと知りもしないで言える言葉だ。

 

この中で最も努力した人間。それは2人、いや3人は断言している。本人は否定するかもしれないが、それは千草だ。実際のところ、彼女に特出した才能はなかった。

 

元は速さもあまり運動しない少女と同じくらいだったはずの少女は、ならば速さだけは2人に追いつこうと、毎朝誰よりも早く起きては走り込み、夜遅くまで素振りをしていたのだ。

 

1人は隠れてやっていたつもりだったろうが、昔からやっていれば誰だって気づく。

 

そこで桜花は気づかない振りをし、命は時には素知らぬ振りして手伝っていた。

 

その時命は千草からスキルのことを相談されたのだ。そして、誰にも言わないでねっと約束されて。だが目の前でやられては誤魔化しも何もないから話した、それだけだ。

 

 

 

千草はただ走り、ひたすら走り、ドラゴンの攻撃を避け続け、胴体に切りつけ、尻尾にも切りつけるが意味はない。さすがに焦ってきた彼女は少し判断力が鈍り、ドラゴンの首によるなぎ払いに反応できず、もろに食らってしまう。

 

「っガハっ!」

 

一気に壁に投げつけられて肺の息が全部出されるが、咄嗟にガードしたおかげでなんとか意識は遠のかなかった。スキルの耐久を速さに持っていった今、骨折しなかったのは運が良かった。

 

一度、刃こぼれしてないか確認しようとチラッと刀を見てみたら、一筋の赤い雫が落ちてきた。

 

?おかしい、確かにまともにくらいはしなかったが、吐血はしていなかった筈だ。そう千草はチラリとドラゴンの方を見ると、微かに、ほんの微かに、ドラゴンの首に刀のと同じような赤い血が付いている。

 

モンスターには魔石以外に弱点が存在する。再生能力を持たない限り、基本的には人間のような動物たちと同じ急所、首などが切れ落ちれば死ぬ。

 

だが、いくらガードとはいえ、鱗であまり覆われていない首に刃が当たってほんの少ししか切れないとなると、いちいち攻撃を仕掛けるにしてもリスクが高すぎる。

 

自分の非力さを恨みながら、せめて大きな時間、隙を作られることは出来ないかと思案を巡らせようとするが、ドラゴンはそんなに悠長に待ってはくれないらしい。

 

「グルァァァァァァァァ!!!!!!」

 

またも咆哮し、彼女に右の脚の爪で切りつける。同じヘマはしないと、咄嗟に左に大きく跳躍し難を逃れる。思考を再開しようにも、こっちに集中しなければこちらがやられる。どうする?瞬間、嫌な予感が体全身に駆け巡る。すぐに膝を折り低い体勢になったその時……、先ほど千草の頭があった場所に、ウサギ型ツノモンスター、アルミラージが突っ込んで来た。

 

「なっ!?」

 

瞬時に振り向くと多数のモンスターの群れが現れるのを確認できる。

 

「このタイミングでわかなくてもいいのに!」

 

そう、小さな声で愚痴りながら、今1番危ないドラゴンに気を配りながらアルミラージに刀を一振りして絶命させる。

 

「千草殿はドラゴンに集中してください。モンスターから桜花殿を守るのは私がやります!」

 

命からのメッセージ。それを聞いてありがとうと胸中つぶやきながら対峙する。

 

倒す方法はある。首を跳ねる方向でなら。だがそれには30秒、いや20秒でいいから隙が、私が集中できる時間が欲しい。そう千草は思うが、その方法はあまり使いたくはない。なぜなら、毒で苦しむ想い人に無理させてしまうからだ。でも、このままジリ貧では意味は同じ。ドラゴンの猛襲を避けながら桜花に問う。

 

「桜花!まだ闘える!?」

 

「少し痺れるが問題ない!一度命と交代したほうがいいか!?」

 

回復薬を飲み干した後みたいで、先ほどより全然顔色がマシな桜花は返事をする。

 

「うん、お願い!命ちゃん!魔法お願いできる!?」

 

「問題ない千草殿!だが倒せるのか?」

 

たぶん!とまたもや返事をして、千草は避け続ける。

 

 

 

 

 

 

 

此処からは、今まで助けてもらってきた少女の、初めての冒険。




途中でぶった切りましたがこれは仕様です。また、千草ちゃん強化してしまう形になりましたが許してね。後々細かいところは次回の話でやる予定です

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