紅き外套 オラリオへ行く   作:クグイ

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すみませんまた遅れましたクグイです。いいわけですが体育祭あったりイマイチいい展開が思いつかなかったりと色々すみませんでした。それではどうぞ


剣姫とドラゴン

な、なんでこんなところに……!?

ベルの思考はそんな緊急事態に対する疑問と恐怖が頭の中を渦巻いている。今隣にいるレベル1とは思えない人ーーーシロウさんと共に第3階層まで降りてきた矢先にこのハプニング。

 

ミノタウルス。現在Level2級モンスターの中でも上位に相当する牛人型のモンスターであり、対応するLevelも2でなければまともに戦うことも許されない化物だ。率直に言えば現在この2人はLevel1の聞けば両者共に新人である。Level1でもベテランの方であればなんとか勝てるとまではいかないが、それなりに隙を作って逃走なんてことも可能だろう。だがステイタスが未熟な今、挑むのも隙を作るのも自殺行為となり得る。

ならばどうするか、偶然訪れるLevel2の冒険者達が来るのを願って走り続けるか?だがそんなことは確率が酷いぐらいに低いため実践するにはいささか抵抗がある。戦うか?否、それは先にも言った通り自殺行為。諦めるか?それが1番ありえない。この街で大切な人が……神様が出来たのだ。そう簡単に諦めるのを自分自身以上に神様が許さない。ならば、運に任せて、闇雲に走り続けよう。ある程度ダンジョン3階層のマップは頭の中に入っている。余程のことがない限り行き止まりに遭遇なんてことは無いだろう。無いと信じたい。

 

ならばここは一つ提案をしようとして、シロウに話そうと思った途端。急にシロウから話があがった。因みに、まだミノタウルス二体には気づかれてはいないが、それも時間の問題だろう。

 

「ベル、君は今来た道をまっすぐ駆け抜けるんだ。私が時間を稼ぐ」

 

「⁉︎そんな!一緒に逃げましょう!流石にまだ勝てませんよ!」

 

そう、いつかまたLevel2になった時に戦えば良いのだ。確かにどちらかが注意を引けば残ったものの生存率は飛躍的に上昇するだろう。だがそこで、1人で帰って、知り合った人を見捨てて帰るなんてことは今のまだ幼気な少年には不可能な選択だ。だがそんなこともシロウは見通している。

 

「なに、安心しろ。少なくとも今の君の数十倍は強い。たとえLevel2級のモンスターであろうと、瞬く間に蹂躙しよう」

 

これは、彼なりの強がりなのだろうか?とベルは思う。確かに戦闘慣れしている節は今までの道中で見てとれた。今の言い方にはちょっと癪に障ったことは無いとは言えないが、やはり強さの差は事実だろう。ただ、Level2と1では差があると今までエイナさんや神様に散々言われてきたんだ。そう簡単に信じられない。

 

「早く行け。どうやらまだ大所帯が続くらしい」

 

そう、呟くように発した言葉は、ベルにとっては地獄のような光景が見えた。

二体のミノタウルスは2人にようやく気づいたようで、獰猛な笑みを浮かべていた。口元には涎が垂れていて今すぐにも此方に向かってきそうな雰囲気を醸し出している。そして問題はその奥だ。ーーーいやまぁこんな低階層にミノタウルスがいるだけで問題ではあるのだがーーー更にミノタウルスが三体、悠々と歩いていた。

 

その瞬間、ベルの恐怖がピークに陥ったのと、二体のミノタウルスが地面を揺らして獣らしくも二足歩行で走ってきた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁああ!?!?!?」

 

咄嗟に後ろに走り出そうとするベルとは反対に、前に走り出す影が一つ。言わずもがなシロウだ。

 

前方から走ってくる二体のミノタウルスのスピードを利用し、まずは左のミノタウルスの急所、魔石のある胸部に陰陽剣のうち白い剣を突き刺す。互いのスピードが合わさったが故、またミノタウルスの強者としての油断が仇となったが故にできた芸当。シロウのスキルによる補正がだいたいな理由であるが。

 

今回士郎はスキルを使わず、ただ己自身の力、魔術ではなく実力で今回のダンジョンを過ごそうと考えていた。確かに最初の底階層のゴブリンなどは大した障害ではなかった。が、情報で知っていたとはいえミノタウルスと出会った今、先の悠長なことは言っていられなくなった。現在の士郎の実力はレベル3成り立てとやり合えるくらいだろう。

それでも十分凄いといえば凄いのではあるのだが。ただそれは人間相手であるからだ。士郎も今までいくらの人間相手、人外レベルの人間もいたわけではあるが戦って勝てた理由。それは読み合いの強さ。かの蒼き槍使いの英雄と何十の剣撃を相手にさばき切ったのがいい証拠になるだろう。

 

ただ、やはり今まで守護者としてもモンスターに似た怪物たちと戦ったことがあるが、確実にそっちの方が手厳しい戦いになっていた。ある程度の知性を持つモンスターたちもいるが、人間より知性が低いモンスターが多くマトモな読みあいが通じない。

 

士郎より弱いモンスターであればさしたる問題はない。が、純粋なスピード、力などが上回った文字どおりの化け物が相手となった場合、それは非常に厳しい戦いになる。

 

1人であるならば何ら問題はない。士郎の場合、1人でなら強くなれるならば、方法は選ぶが一体多数でも修行として身を投げ出すだろう。だが今回はまだ戦闘不慣れなベルがいる。

 

一刻も早く危険因子を排除することが今回のイレギュラーに対する1番の正解。そう士郎は判断を下す。

 

白い剣によって急所を刺されたミノタウルスは四散し霧と化す。しばし唖然とした右側のミノタウルスはすぐに平静を取り戻し、まるで敵討ちなのかシロウに全力の右腕による薙ぎ倒しを行う。瞬間士郎は跳躍し右腕を足場代わりにしてミノタウルスより高い位置に移動する。二刀を投げつけミノタウルスの腕を切り落とし、痛みに動けなくなるミノタウルスの頭にかかと落としを浴びせる。

 

「グウォォ……」

 

そう苦しむ声を口から漏らすミノタウルスの胸に、拾い上げた二刀のうち黒い剣を刺す。またも四散するミノタウルスを見てベルは愕然とするしかない。当たり前だろう。なんせ自身が知っている常識とは異なり、圧倒的に弱者であったはずのほうが、強者であったはずのものに圧勝したのだから。

 

先の一部始終を見ていただろう三頭のミノタウルスは怒りに身を寄せながらも、ただ冷静に、士郎の方を見ていた。

対峙し、両者は真っ向勝負をしようとした時、また奥の方から、新たなモンスターが現れてしまう。

 

「ふむ、流石にこれでは埒があかない。やはり君はすぐにここから離れるべきだ」

 

そう、静かにベルに話しかける士郎は驚愕を露にする。なにせ、ベルは小石を手に持ち今にミノタウルスに向けて投げていたのだから。

 

「流石にあの量はキツそうですし、一体ぐらい僕が引き受けますよ……でもやっぱり怖いので早く来てくださいね!」

 

そう、震える声で必死に逃げだすベルを見て、驚きと呆れと感心が織り混ざった複雑な気分を持ち、呆然としてしまう。石を当てられたミノタウルスはよほど逆鱗に触れたのか、士郎に目もくれずにベルに向かって走っていってしまう。

 

「ふむ、やはり彼は少しズレているのかもしれないな」

 

そう溜息と愚痴をこぼしながら、これから起こりうる戦いに身を投じようとした瞬間、モンスターが現れた場所から人影が、士郎は一度見たことのある、金髪の女性が現れた。

 

「あの子は……任せて」

 

そう、簡潔に要件を伝えた彼女はそのままベルの走って行った方向に消えていった。

 

アイズ・ヴァレンシュタイン、オラリオ最強の人間。一度だけ、豊穣の女主人で話をしただけであるが、それなりに信用における人物であることは理解できた。が、やはり他人にすぐさま物事を頼むのは安心できないものである。

 

すぐさま、残り二体のミノタウルスと、新たに現れたゴブリンたちを相手に、時間も惜しいためその数にあった低レベルの武器を投影、急所に当てすぐさま四散するモンスターを尻目に、士郎は2人のあとを追うのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

追いついた後はそれはちょっとしたカオスな状況であった。血塗れのベルにそれを呆然と見るヴァレンシュタイン。逃げ出そうとするベルを士郎は猫を持つかのように首筋を掴み、礼をちゃんと言わせる。

 

「助かった、ヴァレンシュタイン。礼は今度店に来てくれた時にさせてくれ。ほれ、貴様も早く礼を言わんか」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

血で分かりにくいが真っ赤になった顔を下に隠しながら、ベルはしっかりと礼を言う。

 

「ううん、大丈夫だよ。元は、私たちが原因だし……」

 

その言葉の言い方に士郎は疑問を覚え、アイズに質問しようとした瞬間。不意に背筋が凍るような錯覚に陥る。この症状はまさしく、嫌なことが起きる現象そのものだ。

 

「ヴァレンシュタイン。先に言った通り礼は店でさせてもらう。ベル、すまないが先に戻っていてくれ。それと低階層にミノタウルスが出たことをギルドに伝えといてほしい」

 

「分かりましたけど、シロウさんは……?」

 

私にはできることができたと言って、学んだ記憶を頼りに新たな階層に向かうのだった。

 

 

 

「なんでこんなことになるのですか!?」

 

そう叫ばずにはいられない状況に女2人と男性1人は追い込まれていた。現在第11階層。今まで考えたこともないイレギュラーに困惑しながら2人の女は走っていた。新たなモンスターの出現。ただモンスターが出てくるならそれで良かったのだが、そのうちの一体が毒持ちに気づかず、桜花が深手を負ってしまう。低階層にそんな毒持ち型のモンスターがいるわけがないと断定が今までされていたため、解毒薬を持っていなかった3人は桜花を担いで13階層から戻ってきていたのだった。

 

「すまねぇ……」

 

「もういいですよ!そんなことより早く回復薬飲んでください!」

 

そう、回復薬には多少の解毒効果がある。が、それは根本的な回復に至らないため、やはり一度地上に戻らなければ話にならない。

だからこそ、早く戻らなければ大変なことになるが故に、走っていたのに。

 

「ウワァァァ!?」

 

そう、叫んで向こうからこっち側に走ってくる人たちは何なのだろうか。

 

何人か通り過ぎた後に、ズウン、ズウンと地鳴りがし始める。千草が少し青ざめた顔をし始めたよく目を凝らして見ると、桜花と命は笑うことしか出来ないぐらいパニックに陥っていた。10階層まで行くためには今いる直線の道しか無いというのに、その先には体長4メートルほどある子竜が。インファントドラゴンがいた。

 


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