黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)と共に異世界へ 作:ヴィヴィオ
さて、全員で一旦外に出た俺達はログハウスを仕舞ってから森の方へと向かう。海に向かって道を作るのだ。ちなみにキャロル達は元の姿のままだが、アリエッタはあまり服を着たがらないのでワンピース一つと逃げ出さないように首輪とリードを取り付けている。リードはこちらで握って随時、アリエッタが四つん這いで歩こうとするのを矯正していく。
「ペスト、頼む」
「ええ、任せて」
ペストの一撃で木々が切り倒される。しかし、これだと海まで行くのに時間が掛かりそうだ。ましてや木々を切り倒したからか、森から何かが出て来る。
「これは大人しく道から作った方が良さそうだな」
「そうね」
「……こわ……い……」
アリエッタが森を見ながら俺の服の裾を掴んでくる。その森からは嗅ぎたく無い程臭い腐敗臭が漂って来て、森の中から朝方だというのにゾンビが出て来た。更に骨だけになって動くスケルトンまで現れた。
「こいつらは……」
「見覚えがあるの?」
「ええ。三年前に国から開発を名目として近くの領地の人や国の騎士と共同で魔の領域である森の開拓事業を頼まれたの。結果は見ての通り」
ゾンビやスケルトンはこの国の鎧を着ている。
「なるほど」
「お蔭で人手が無くなって大変だったわ」
「だろうな」
「愚か者の犠牲者ですか」
「ふん。どうでもいい。どちらにせよ、オレ達の邪魔をするなら排除するだけだ」
「ええ、そうですね」
ジャンヌが手から煉獄の炎を呼び出してゾンビを焼き払う。キャロルは錬金術で地面を隆起させて切り株ごと串刺しにしていく。どう見ても過剰戦力だ。
「おい、武器や鎧まで燃やすな。骨は砕いて肥料にするから消し炭にするなよ」
「面倒くさい注文ね。まあ、いいでしょう」
ジャンヌは魔術ではなく、槍を振るって敵を粉砕していく。スケルトン達はジャンヌの動きに付いてこれておらず、簡単に倒されていく。
「この程度のモンスターでは肩慣らしにもなりませんわね」
「さっさと片付けてくれ」
「わかった、パパ」
キャロルが広範囲に渡って風の錬金術で台風を発生させて、周りを殲滅してしまった。周りの森も被害が出て大きな広場が出来た。
「かなり派手にやってるじゃない」
「パパに言われたのだから、仕方あるまい」
「これ、もっと襲ってこない?」
ペストがキャロルの攻撃の惨状を見て非難の言葉を口にする。確かに更に奥の方からモンスターを呼び寄せる事になるかも知れない。
「働いていないペストに言われる筋合いはないですわね」
それをジャンヌがキャロルを庇う。
「五月蠅い! ゾンビとか相性が悪いのよ!」
「まあ、生きていないからな」
ペストの弱点は生命体じゃないゴーレムやアンデットだろう。命があれば殺して見せるのだろうが、命が無いなら殴って物理で壊すしかないのだ。
「そんな事より、道を整えるから邪魔な物を退かしてくれ」
「そうだな。頼む」
アリエッタにも協力させて皆で武器や防具、遺品を拾い集めて無限収納鞄へと入れていく。
回収が終わればキャロルが土の錬金術で切り開かれた地面を均した上で、綺麗な石畳の道へと作り変えてくれた。
「これで馬車が行き来しやすくなる。ありがとう、キャロル」
「ふん。この程度なんでもない」
頭を撫でてやるとそっぽを向くキャロル。止めてみると、こちらをじーと見て来る。撫でるのを再開すると気持ち良さそうに目を細めるが、直にそっぽを向いてしまう。
「ん、アリエッタも……」
「ああ、良い子だ」
二人の頭を撫でてやると嬉しそうにする。周りを見るとジャンヌがニヤニヤしていて、ペストはさっさと先へと行ってしまった。
「なんだ、魔女」
「べっつに~」
「何か言いたい事があるのか?」
「随分と気持ち良さそうね、とか、甘えん坊、とか別に思ってないわよ、お嬢ちゃん」
そう言ってさっさと奥へと向かうジャンヌにキャロルが走って追いかける。
「行こうか」
「ん」
俺は二人の後を二足歩行に慣れていないアリエッタと一緒にゆっくりと歩いていく。
その後、20キロにも及ぶ道を作成してその日は終了した。夜は勉強会を開き、アリエッタはもちろんの事、キャロルやジャンヌ、ペストにも色々と教える。夜の勉強会は始まったばかりだ。
次の日、港の予定地に居るのだが、そこは切り立った崖の上だった。そこで大規模な工事を行う事にした。主にやるのはキャロルだが。そう、キャロルの錬金術で崖の手前を掘り下げて崖を防壁の代わりにしつつ港町を作るのだ。いくらキャロルといえど、生半可な事ではないのでベッドを設置して魔力供給をしながらの作業となる。当然、丁度いいので皆の身体の開発も行っている。
一週間後、上下水道と湾岸施設が完成したので入手していた陸上装甲艦タルタロスを海に浮かべて生活拠点とする事にした。動かす事は出来なくても住むくらいは出来るのだ。それにキャロルが解析してくれたので使用方法もわかる。人手が無くて動かせないだけだ。本当にキャロルは便利な子だ。キャロルに港を任せているので、俺達は森を探索したり、アリエッタの勉強を見たり、畑を作ったりしていた。