黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)と共に異世界へ   作:ヴィヴィオ

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第37話

 

 

 

 港からゆっくりと内陸部に対して侵攻し、確実に支配地域を増やしていった俺達にまさかの報告が届いた。その為、タルタロスの内部で緊急会議を行っている。

 

「よもや、ルサルカが殺られるとはな……」

「殺されてないから!」

「シカシ、奴ハ我等ノ中デ最弱……」

「ざけんな! その喧嘩、買ってやりましょうか! 地上でね!」

「そこは海でも買えよ」

「いやよ! 負けるじゃない! 深海棲艦相手に海とかやってられる訳ないでしょ! 引きずり込まれて終わりよ!」

「オレは勝てるぞ」

「アンタは例外よ!」

 

 キャロルと深海棲艦のレーに色々と突っ込まれるルサルカ。実際、海戦ならルサルカが負けるだろう。陸上戦なら火力の穴を抜けてナハツェーラを接敵させれば勝てるだろう。というか、その気になれば深海棲艦すらもナハツェーラとして取り込める時点で時間が経てば海でもルサルカが勝つ可能性も有る。

 キャロルは問答無用で分解してくるからどこでも勝てるだろうな。流石はラスボスだ。

 

「というか、馬鹿妹よ。殺されたのは事実であろう」

「うっ……でも、逃げられただけで負けてないし?」

「愚か者。殺された上に逃げられた時点で負けよ。再教育が必要かしら?」

「うっ、うわぁぁぁん! ご主人様っ、みんなが虐めるの~!」

 

 そう言って俺に抱き着いて身体を擦りつけて来るルサルカをこちらからも抱きしめて撫でてやる。

 

「卿等もその辺にせよ」

「まってパパ。そいつ、パパに甘えてるだけ」

「はぁはぁ」

「良い。殺されたのは事実であるからな」

「勝った」

「ちっ、後で覚えてろよ」

「知らないも~ん」

 

 甘えて来るルサルカを可愛がりつつ、寄って来て裾を引っ張るアリエッタも抱き上げて二人を膝に乗せる。

 

「さて、改めて報告を聞こうか」

「了解! 相手はザ・ニンジャって感じの奴だったわね。後は白いワイバーンに乗った獣耳の子が居たわ」

「へぇ、白いワイバーンとは面白いですね」

「ジャンヌ、何か知っているか?」

「いえ、知りません。ですが、竜という事なら任せてください」

「頼む」

「しかし、それだけではわからんな」

「ん、データある」

「アリエッタ、ツカエル」

「私が使えないみたいに言わないでよ!」

「……事実……?」

「ほっぽちゃん、何か言ったかな? かな?」

「ほっぽ、チガウ。今ノ、レー」

「ケタケタ」

「貴様かぁー!」

「止めよ。御前であるぞ」

 

 声を出して止める前に発砲音が聞こえてレーとルサルカが仰け反る。それぞれの額には弾丸が命中しており、ぽろりと落ちる。

 

「エレオノーレ、発砲はやりすぎだ」

「はっ、失礼致しました。続きをどうぞ」

「ん。デモンズハート」

『yes』

 

 虚空にスクリーンが展開されてアリエッタとルサルカの二人。それに敵であろう二人と一匹。それに鬼神の姿が見えた。

 

「おい、待て。なんだこれは」

「何って鬼でしょ?」

「良く勝てたな」

 

 思わずルサルカを褒める。何故なら、こいつは鬼神将ガイエン。鬼妖界・シルターンより呼ばれる、人の側に立って悪鬼と戦った古の鬼神武将。そも、鬼神とは神々でも荒々しい神格を持った存在のことで、言ってしまえば神なのだ。

 

「え? 弱かったわよ」

「おい待て。弱かったってなんだ。どう考えても強いだろ!」

「私でも対抗できるかどうか……」

「いやいや、そんなはずないでしょ。だって、動き止めてぼこぼこにしてやっただけだし」

 

 キャロルとエレオノーレの言葉にあっさりと答えるルサルカ。

 

「コイツ、嵌メ殺シシヤガッタ」

「……コワイ……」

「ええ、まあ一撃受けた時点で終わりに近いわよね。まあ、抵抗できるでしょうけど、こんだけ群がられたらレジストしきれないでしょう」

 

 そんな話をしていると扉が開いてセニアがトレイを押して入って来た。隣にはセシルも居る。

 

「お茶が入りました」

「とりあえず、休憩にしない?」

「そうだな」

 

 セニアが皆にお茶を配ってくれる。

 

「……ノンジャ、ダメ……」

「チッ」

「ウゴクナ」

 

 ほっぽが止めてレーとク―が俺に向けて艦装の主砲や副砲を構える。

 

「おい、貴様等どういうつもり……」

「良い。ヤレ」

 

 即座に発砲される銃撃は俺の頬を掠り、後方へと抜けて金属音が響いた。そして、即座に動く風の動き。それに対して三人から容赦の無い銃撃の雨が放たれるが、相手は捕まらないようだ。

 

「キャロル」

「やってる! ちっ、気配も何もしやがらない。サーモグラフィーでなら……ヒット! そこか!」

 

 キャロルが成長して鎧を纏った姿となる。まるでブラックマジシャンガールみたいな恰好だが、ケルト神話に於けるダーナ神族の最高神、ダグザの振るいし金の竪琴を使うその力は桁が違う。鋼糸魔弦を使った糸によって敵を捕らえる為に放つが、あっさりと切断される。

 

「ちっ、どこに……パパっ!!」

 

 キャロルの焦る声に振り返りたいのを我慢してそのままで居る。すると背後から降り降ろされる圧倒的な力を持つ剣は差し出された槍によって防がれる。

 

吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)

 

 炎が敵を包み込み、そこに銃弾の雨とエレオノーレからの砲撃が叩き込まれる。

 

「殺ったか?」

「それ、フラグだから」

 

 そうルサルカが呟いた瞬間。碧と深紅の剣に斬られた深海棲艦の三人が吹き飛ばされて壁を貫いて外へと飛んで行く。

 

「いい加減姿を見せたらどうだ、侵入者よ。それとも、無理矢理にでも出させてほしいのか?」

 

 アリエッタ達を降ろし、玉座に肘を置いたままそう発する。

 

「なあ、碧の賢帝(シャルトス)紅の暴君(キルスレス)の使い手よ」

 

 一瞬だが、空気が変わった。そこにセシルが矢を放つ。相手は剣で矢を叩き切るか、接近したセニアが斬りかかる。それに対してもう片方の魔剣で対抗する相手。だが、その背後にはアリエッタが放ったシューターが大量に配置されている。

 

「よくやった。殲琴・ダウルダブラ」

 

 キャロルが放つ絶唱はダインスレイフの呪われた旋律を用いる事で世界を壊す歌を口ずさむ事が可能であり、その出力はフロンティア事変終盤に於いて紡がれた70億の絶唱すらも凌駕するというとんでもないもの。では、そんな攻撃を受けた相手はもちろん……タルタロスがどうなるかなんて言わなくてもわかるだろう。ああ、半分が消し飛んだ。

 

「逃げたか……」

「手ごたえは有ったんだけどな……」

「魔剣の数だけ倒さねば意味がない。奴は我等と同じような存在だからな」

「限定的な不死か」

 

 エリクサーを飲んで記憶を回復させるキャロル。タルタロスが壊れた時点でこちらだけの痛手となる。いや、そもそもサモンナイトの連中なのだ。それがサモナイトソードを目的として作られた魔剣を所持している奴が近接戦闘だけだと? ありえぬ。

 

「警戒せよ。まだ終わっておらぬ。ルサルカ、エレオノーレ、創造を使う」

「御意」

「ええ、任せて!」

 

 直に詠唱を開始する。開いたタルタロスの先に見える空にはワイバーンに乗った奴等の姿が見え、同時に空に展開される巨大な魔法陣の姿が見えてきた。それぞれ色が違い、赤い色に青い色、碧の色に鉄色の魔法陣だ。使用されている魔力と魔法陣の大きさから現れるのは推定Sランク召喚獣だと想定される。

 

In der Nacht, wo alles schläft(ものみな眠るさ夜中に)Wie schön, den Meeresboden zu verlassen.(水底を離るることぞうれしけれ)Ich hebe den Kopf über das Wasser,(水のおもてを頭もて、)Welch Freude, das Spiel der Wasserwellen(波立て遊ぶぞたのしけれ)|Durch die nun zerbrochene Stille, Rufen wir unsere Namen《澄める大気をふるわせて、互に高く呼びかわし》Pechschwarzes Haar wirbelt im Wind(緑なす濡れ髪うちふるい)Welch Freude, sie trocknen zu sehen.(乾かし遊ぶぞたのしけれ!)Briah―(創造)Csejte Ungarn Nachatzehrer(拷問城の食人影)

 

 世界が塗り替えられ、城から無数の人影が出て来る。

 

Was gleicht wohl auf Erden dem Jägervergnügen(この世で狩に勝る楽しみなどない)Wenn Wälder und Felsen uns hallend umfangen,(狩人にこそ、生命の杯はあわだちあふれん)|Diana ist kundig, die Nacht zu erhellen,《角笛の響きを聞いて緑に身を横たえ、藪を抜け、池をこえ、鹿を追う》Wie labend am Tage ihr Dunkel uns kühlt.(王者の喜び )Die Bewunderung der Jugend(若人のあこがれ! )

 

 更に塗り替えられ、幅7m・高さ11m・奥行き47mという巨大さ故に形成されるドーラ列車砲を素体とする超巨大な聖遺物。極大火砲・狩猟の魔王(デア・フライシュッツェ・ザミエル)。彼女はまだもう一段階上の切り札を残しているが、問題無いだろう。

 

「|Dieser Mann wohnte in den Gruften, und niemand konnte ihm keine mehr,《その男は墓に住み あらゆる者も あらゆる鎖も》|nicht sogar mit einer Kette,binden《あらゆる総てを持ってしても繋ぎ止めることが出来ない》|Er ris die Katten auseinander und brach die Eisen auf seinen Fusen.《彼は縛鎖を千切り 枷を壊し 狂い泣き叫ぶ墓の主》|Niemand war stark genug, um ihn zu unterwerfen. 《この世のありとあらゆるモノ総て 彼を抑える力を持たない》Dann fragte ihn Jesus. Was ist Ihr Name?(ゆえ 神は問われた 貴様は何者か)Es ist eine dumme Frage. Ich antworte.(愚問なり 無知蒙昧 知らぬならば答えよう)Mein Name ist Legion―(我が名はレギオン)Briah―(創造)Gladsheimr―Gullinkambi fünfte Weltall(至高天・黄金冠す第五宇宙)

 

 |至高天・黄金冠す第五宇宙《グラズヘイム・グランカムビ・フュンフト・ヴェルトール》は“全力を出す機会が欲しい” という渇望を具現化し、ラインハルトが全力を出すための場である“城”を創造する。武装親衛隊を中心とした兵員を召喚する事が可能となり、城の中で死んだ者を戦奴に加える事ができる。故に拷問城が姿を変え巨大な別の城へと変貌する。

 

「さあ、楽しい戦争を始めよう。相手も準備が出来たようだ」

 

 新たな城作られた城の中には空に居る連中だけでなく、ローブ姿の沢山の人影が遠くに存在する。連中は次々と召喚獣を呼び出して来る。

 空には機神ゼルガノン、龍神オボロ、牙王アイギス、レヴァティーン。ロレイラル、シルターン、メイトルパ、サプレスが誇る巨大な力を持つ王達。しかし、相手が悪かった。

 

「はっ、私に竜で挑もうなんていい度胸じゃない! アンタ達は私の物よ!」

 

 ジャンヌがそういうと、二匹は制御を外れて暴れ出す。おそらく、相手の支配とジャンヌの支配でのせめぎ合いで暴走しているのだろう。敵陣で暴走してくれるのはありがたい。

 

「エレオノーレ、機械は私が相手をする。雑魚は任せる」

「はっ」

「じゃあ、私はワンコちゃんでも相手にしてようかな」

「ご主人様……アリエッタが、相手をする……」

「そうか。キャロル、サポートしてやってくれ」

「パパはどうする?」

「うむ。奴と殴り合いだ。と、言いたいが……飛ばねばならぬな」

「まあ、放っておいても向こうから来るだろうけどな」

「そうだな。では、各自で健闘を祈る。散会」

 

 皆がそれぞれの敵へと進んでいく中、待つ。戦場では世紀末のような、世界の終わりのような光景が繰り広げられている。何故なら、戻って来た深海棲艦の子達も合わせて砲撃の雨を召喚士達に叩き込んだりしているからだ。

 アイギスはルサルカによって嵌め殺しにされているし、アリエッタがゼルガノンに対してキャロルと一緒に砲撃を放っている。余波だけで大地は隆起し、地割れが出来ていく。

 

「来たか」

 

 そんな中、俺の前には一人の女性が現れた。その姿はサモンナイト3に出て来るヘイゼル。そう、2のパッフェルさんでは無く暗殺者赤き手袋のヘイゼルだ。しかし、その手にはシャルトスとキルスレスが握られている。その為、姿が少し変わっている。髪の毛が白くなっていて、瞳も赤と碧のオッドアイみたいになっている。トレードマークのマフラーはしっかりと有る。

 

「私の名はコルネリウス・リーゼンフェルト。この軍の指揮官だ。卿の名は?」

「ヘイゼル・グランフェルト。赤き手袋の指揮官」

「私と似た同輩よ、降伏してくれぬか? 我等が戦えばどうなるかわかるまい。悪いようにはしない事を約束しよう」

「……命令は殲滅。それに妹を助けられるとは思わない。だから、戦う」

「こちらの戦力を見てもか」

「驚いた。予想以上の戦力だから……でも、貴方を倒せば終わり」

「果たしてそれはどうかな? 少なくとも私よりも強い奴が後に控えているぞ」

 

 エセルドレーダとかがな。

 

「問題ない。全て斬り伏せる」

 

 虚空に消えて、一瞬で背後に現れて斬りかかって来る。それを回転する事で薙ぎ払う。既に相手はその場におらず、槍を振るった衝撃波で数キロにわたって大地が粉砕された。

 

「当たれば終わりだが……」

「あたらなければどうという事はない」

「シャアか」

「赤いから」

 

 通常の三倍どころか、数十倍の速さで動き、斬りかかってくるヘイゼルに槍でなんとかさばく。ジャンヌとの特訓が無ければ早々に死んでいただろう。

 

「親衛隊よ、一斉砲撃せよ」

 

 武装親衛隊。召喚したナチスのSSが銃弾の雨を放つがそれすらも避けて召喚を行って来る。

 

「焼き払いなさい、ゲルニカ」

 

 ドラゴンが召喚され、ブレスが吐かれる。

 

「それも貰いね!」

「ちっ、邪魔」

 

 ブレスは逆にヘイゼルへと放たれる。だが、一瞬で切断されて消えていく。

 

「ジャンヌ、そっちはどうだ?」

「手古摺ったけれど、支配下に置いたわよ」

「ならばよし。二人でゆくぞ」

「そうね。まさか卑怯だなんて言わないわよね、暗殺者さん」

「好きにすればいい。勝つのは私だから」

 

 高速の剣劇を二人で弾く。その為に突きを出したのだが……相手は無防備に受けて肉片となり弾き飛ばされた。だが、次の瞬間には再生して俺の片腕を赤い炎の剣で切り落とし、ジャンヌの胸に青い剣が突き刺さっていた。

 

「ちぃっ、こんなところで……」

「戻れ」

「ええ、また後で。生き残りなさいよ」

「当然だ」

 

 ジャンヌが消えてカードとなって俺の下へと戻ってくる。再召喚にはそれなりの準備が必要だ。だが、問題はこれでレーヴァティーンとオボロが相手の支配下に戻った事だろう。

 

「しかし、何本の魔剣を持っているのだ」

「いっぱい?」

 

 小首を可愛らしく傾げているが、持っているものが物騒すぎる。不滅の炎(フォイアルディア)果てしなき蒼(ウィスタリアス)。まだ持っていそうだ。ひょっとして全てか? だとしたらサモナイトソードに覇王の剣はやばい。

 

「私はまだまだ死なない。何度だって蘇る」

「ちっ」

 

 こっちの不死性は相手が神器クラスの武器なので意味が無い。

 

「仕方あるまい」

「降参するの?」

「まさか。やれるだけはやるさ。妻達に見せる顔がないのでな!」

「そう、どうでもいい。さっさと死んで」

「貴女がね」

「っ⁉」

 

 ヘイゼルの胸に小さな掌が突き抜けてきて、そこには心臓が握られていた。貫いた小さな手は普段は服の袖の中に隠れてしまっているものだ。

 

「あら、本当に再生するのね」

 

 心臓を砕いて引き抜いた血塗れの手を振るって血を飛ばす少女。綺麗な紫色の髪の毛をし、深紅の瞳の可愛らしい無表情な斑模様の服を着た少女。ヘイゼルは少し離れた場所で再生されている。その手にはフォイアルディアの代わりに曲刀の紫紺の蛇刀(バルバーリア)が握られていた。

 

「何者だ」

「この人の妻よ。それにしても、よくも夫の腕を斬り落としてくれたわね。この落とし前、高くつくわよ」

「問題無い。殺すだけ!」

 

 瞬時に掻き消えてペストに斬りかかるヘイゼル。

 

「ふぅ~ん。で?」

「なっ!?」

 

 しかし、無防備に曝された肩に剣が命中したが、その柔肌に一切傷をつける事もなく、剣が止まっている。その剣をペストが片手でそれぞれ掴んで圧し折った。

 

「ほら、どうしたの? 次を出しなさい。ひょっとした星を砕く程度の力を持っている物があるかも知れないわよ? まあ、全部砕くのだけれど」

 

 普段のペストからは想像が出来ない程怒っているようだ。そう思いたいが、どうなのだろうか?

 

「さあさあ、早くしないとお仲間たちが全滅するわよ?」

「何?」

 

 戦場をみると黒い風が縦横無尽に戦場で大暴れしている。触れた者は容赦なくその命を落としていっている。流石は生きとし生ける者の天敵だ。

 

「この国の人間は皆殺しよ。今、そう決めたわ」

「させるかっ! 来い、覇王の剣っ! サモナイトソードっ!」

 

 剣を呼び出し、握ろうとするヘイゼル。しかし、握る前に蹴り飛ばされ、剣はペストの手の中へと入った。

 

「馬鹿ね。わざわざ待ってやる訳ないでしょ」

 

 蹴り飛ばした先に先回りして、頭を掴んで地面へと叩き付ける。大地が粉砕されてクレーターが作成される。

 

「貴女が何度復活できるか、楽しみね。先ずは一回目ね。じゃあ、二回目と行きましょうか」

 

 それから行われたのは戦いというには一方的な悲惨な状態だった。途中で止めなければ完全に殺していただろう。いや、完全に死んでいた。聖痕を通してその魂を収集し、キャロルによってクローンを作らせて魂を叩き込んで生き返らせたに過ぎない。お蔭でクローンの急速成長の限界である幼女と少女の中間のような状態になってしまった。まあ、キャロルの状態になるように調整されているのだから仕方のない事だろう。

 

「で、なんでそんなニヤニヤしているのよ? 腕を切り落とされたのに」

「いやぁ、ペストに愛されているなっと思ってな」

「ちっ、違うわよ! 助けに来たのはキャロルとジャンヌに頼まれたからよ! 仕方なくよ! わかった?」

「ああ、わかった」

「そう、それならいいわ。それよりもさっさと腕を治しなさい。目ざわりよ」

「いやいや、口移しで頼む」

「ふざけないで」

「いや、真面目に」

「しっ、仕方ないわね……今回だけよ」

 

 そう言って、エリクサーを口に入れて口移しで飲ませてくれるペストの顔は真っ赤だった。これで腕は再生した。

 その後は膝の上に乗せて一日中ずっと一緒に居た。口では嫌がるペストも自分からは離れようとしなかった。

 

「パパ、それでどうする?」

「なにがだ?」

「タルタロスが大破した訳だけど、足は?」

「あー速攻で修理は……」

「無理」

「諦めて歩きかドラゴンね」

「この辺りで進軍を止めるのも手ではあるな」

「待ってくれ……」

 

 その声に床を見ると、首輪をつけられ下着姿で手枷と足枷をされた幼いヘイゼルが居る。

 

「何よ?」

「妹が居るんだ……」

「そういえば私では無理みたいな事を言っていたな」

「この国の女王だからだ」

「なるほど」

 

 それは確かに普通なら無理だろう。

 

「頼む、なんでもするから妹を助けてくれ」

「どうするの?」

「ペストはどうしたい?」

「私は別にもういいわよ。コイツの力は役に立つでしょうし」

「そうか。妹共々、私のモノとなるならば助けてやろう」

「っ!? それは……」

「仕方ないんじゃない? そうじゃないとアンタはともかく、妹は危険すぎるわよ」

「……わかった。だが、酷い事は私が引き受ける。だから、妹は優しくしてやってくれ」

「いいぞ。ゆっくり休んでいろ。セニア」

「わかった」

 

 セニアがヘイゼルを連れていく。これで諜報部隊を手に入れた事になる。

 

「で、本当に妹を助けるの?」

「相手次第だ。だが、このまま王都まで進軍する。どの道、ジャンヌを復活させるには大量の生贄が必要だからな」

「そうね。たっぷりと略奪させて貰いましょう」

「ああ、それで思い出した。いっそ、ペストとアリエッタで空を飛んで王都に突撃し、女王を誘拐してくるか?」

「いいわね、それ。キャロルを抱いて交代で飛べば王都から転移で逃げたらいいし……って、キャロルも飛べるわね」

「本当に便利だな、キャロル」

「そうね。でも、そんなことよりも可愛い娘よ」

「それはそうだな。後で可愛がってやるとするか」

「ええ」

 

 一日、まったりと過ごしてからジャンヌ復活の準備を整える。それからまだまだ修行が必要だ。ラインハルトの力を使いこなすにはまだまだだからな。そもそもあたればここまでヘイゼルに苦戦する事もないのだからな。

 

 

 

 

 

 


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