黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)と共に異世界へ 作:ヴィヴィオ
リビングに出ると既に昼時だからか、ペストの家族が揃っていた。父親の名前はベルノルト・リーゼンフェルト。母親の名前はヘレナ・リーゼンフェルト。兄の名前はドミニク・リーゼンフェルト。姉のユリアーネ・リーゼンフェルト。その四人が食事をしていた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
俺の挨拶に驚く父親。まあ、前の俺はかなり傲慢な嫌な奴で挨拶を自分からする事などなかっただろうし、数日間も部屋に引きこもって娘とやっていたような奴だしな。
ペストは両親を無視してそのままスープとパンを取って来る。席が四つしかないので、さっさと座る。
「こっちに来い」
「わかったわ」
取って来てくれたペストを呼び寄せて膝の上に乗せる。ペストは相変わらずの無表情だが、硬いパンを千切ってスープにつけて食べ始める。俺も一緒になって食べていく。
「仲良くできているようで、なによりだ」
ベルノルトが感情の無いような声でそういってくる。兄のドミニクはこちらを睨むように見て来ている。彼からしたらさっさと出ていってほしいのだろう。後継者として安泰だったのが、妹が婿養子を取って来たのだから。姉であるユリアーネは妹が結婚相手を取ったと思っているのだろう。
「それで、これからどうするのだね? こちらとしてもいつまでも養っておく余裕はないのだが……」
居たければお金を支払えという事だろう。シュタインフェルト伯爵家から貰って来た持参金はまだ一銭も渡していないからな。持参金は八千万もあるが、シュタインフェルトの資金力からしたら、これくらいで勢力を広げられるなら痛手でもない。逆にリーゼンフェルトからすれば喉から手が出る程の大金だ。それと持参金以外にもライ麦の売買契約をシュタインフェルトと結んでいる。伯爵領は広くてその分人も多いので安い食料はそこそこ売れるのだ。この時代、領同市の販売はその地の領主の許可が有り、税金も領主が自由に掛ける事が出来るので売買契約で税金を少なくして貰えれば結構儲かる。シュタインフェルトからしても戦争になった場合、一番必要なのは食料なので大量生産されていて、安く手に入るライ麦は使い道がある。それを役立たずの俺で手に入れられるなら八千万くらい構わないのだろう。
「そうですね。先ずは領地を別けて頂きましょう」
「ふざけるなっ!」
「落ち着きなさい、ドミニク。別けるのは構わないが、場所による」
『五月蠅いわね。殺してしまいましょうか?』
『止めておけ』
『残念ね』
ジャンヌを止めつつ、ペストを抱きしめる事で兄達を睨み付ける彼女を抑える。
「ええ、もちろんです。こちらが欲しいのは魔の領域である森と山です」
「あそこか」
「出て来るモンスターの防衛から処理までこちらで引き受けましょう。ですから、その代価として二つが欲しいのです」
リーゼンフェルト家にとってモンスターから畑や街を守る為の常備軍は痛い出費だろう。それをこちらで引き受けると言っているのだ。もっとも、これはジャンヌとペストが居なければ出来ない案だ。弱体化していても反英雄であるジャンヌ・オルタと魔王であるペストが居るのだから。しかし、よく考えたらどちらも悪役だな!
「それは大丈夫なのか?」
「持ってきた資金で人を雇いますし、モンスターから出た素材を使って品物も作ります。それを売れば資金が出来るでしょう。もっとも、監視くらいはしばらくこのままでお願いしますが」
「いいだろう。有ってないような場所だ。しかし、本当に大丈夫なのか?」
「ええ、問題ありません。もちろん、準備期間と人は多少頂きますが」
「わかった。それでは契約書を書こう」
「はい」
契約書を書いて土地を別けて貰った。これで色々と出来るので、午後から二人と一人で外に出て食料を買った後で魔の領域を目指す。
町から出て少しすると、隣を歩いているペストがこちらを振り返ってくる。
「それで、どういうつもりなの?」
「ペストの望む通り、あのまま領地ごと全てを貰ったら面倒じゃないか。それならペストの大事な人達だけ貰っていけばいいだろ」
「戦力が整ってから丸ごと頂くのですね」
「そうだ」
隣に現れたジャンヌの言葉に答える。
「その時、あの塵共の顔が楽しみね」
「わかったわ。それで、これからどうするの?」
「先ずは住処の確保だ。森を切り開いて家を建てる」
「森を切り開くとなると、モンスターが襲い掛かって来るわね」
「望むところじゃないか。そいつらを駆逐して魔石や魔晶石を手に入れてガチャを回す」
「わかったわ。それじゃあ、さっさと行きましょう」
「ですが、その前にお客さんですね」
「みたいね」
「客か?」
「そう、招かれざる客よ」
そう二人が言うと、俺達を追い越した馬車が前方で止まって、そこからごろつきのような連中が出てきた。手には手入れされていないような剣や短剣を持って居る。背後からは走ってこちらにやって来た奴等も居る。
「賊か」
「金と女を置いていきな」
「大量の金を持っているのはわかってんだ」
確かに八千万もの金がマジックアイテムの鞄に入っている。しかし、それを知っているのは極限られた者達だけだ。それはつまり、リーゼンフェルト家の誰かの仕業という事になる。
「殺さずに押さえろ。情報を聞き出したい」
「そうね。まあ、どうせ兄か姉でしょうけれど」
「ふふふ、拷問ね。とても楽しいわ」
「ごちゃごちゃ喋ってんじゃ……え?」
男達の身体を地面から生えた幻影の黒槍が貫いて串刺しにしていた。即死するような致命傷は無く、両手両足が貫かれているだけだ。
「ばっ、化け物めっ!」
「そうよ、私は化け物よ。それがどうしたのですか?」
背後からジャンヌに斬りかかろうとした男達は、ジャンヌが振り返って片手を振るうだけで煉獄の業火が呼び出され、その身体と遠くに至るまで地面を焼き尽くしていた。
「あら、弱すぎよ」
「ていうか、やりすぎよ。情報が貰えないじゃない」
「まあ、よいではないですか。少しは残りましたし」
「ひっ!?」
「ジャンヌ、好きに一人を拷問しろ」
「いいの!?」
「ああ、たっぷりと苦しめてから殺せ。俺の女を奪おうとしたんだ。それ相応の報いは受けて貰おう。残りにはそれから聞けば素直に答えるだろう」
「見せしめね。わかったーーわかりました」
爪を剥がされ、足先からゆっくりと焼かれていく男は悲鳴を上げ続けた。それを楽しそうに眺めるジャンヌと無表情で眺めるペスト。俺はペストを抱きしめて柔らかい頬っぺたをぷにぷにして遊ぶ。
「鬱陶しい」
「仕方ない。撫でるだけにしておこう」
「同じよ、変態」
拷問の途中であっさりと吐いた男達が言うには男に依頼されたそうだ。その特徴を聞く限り、ドミニクだった。
「我が兄ながら、馬鹿すぎるでしょ」
「アホでもありますね。人を挟まずに自分で依頼とか……ないわぁ~」
「全くだな。まあ、こいつらをどうするか考えるか」
「全部貰うわ」
「モンスター共を誘き寄せる餌にしましょう」
「ひっ!?」
「喋ったら助けてくれるんじゃ!」
「「「そんな約束はしていない」」」
俺達の言葉ははもった。実際、そんな約束はしていない。だが、殺すだけでは勿体ないし、働いて貰おう。
「目的地まではどれくらいある?」
「走れば後三時間くらいね」
だとすれば歩けば五時間か。
「ジャンヌって単独行動って出来るか?」
「距離が余程離れていない限りは出来るわ」
「何かあれば困るし、馬車に繋いで走らせるか。ペスト、悪いが先に空を飛んでいって偵察して来てくれ」
「私って飛べるの?」
「飛べるはずだ」
「ふむ……」
可愛らしく、その場で何度かジャンプしては地面に降りるペスト。ニヤニヤ見ていると怒られそうだ。いや、こちらを顔を赤くしながら睨んできた。ジャンヌはニヤニヤしてからかう為に口を開くが、その次の瞬間には宙に浮きだした。
「行って来るわ」
「逃げたわね」
「逃げたな」
ペストが高速で飛翔していく。俺とジャンヌは男達を縛ってから馬車を動かしていく。俺は運転できないので賊の一人に動かさせ、後ろでジャンヌを配置し、脅しながら運転させた。残りの賊は馬車に繋いで走らせる。
「さて、今の間にスキルを覚えるか」
手に入れている残りのスキルは眷属強化だけだ。これはジャンヌとペストを指定出来るようなので覚えておく。これで能力が1.5倍になる。後は使えそうなのは移動速度が上がる疾風の腕輪と凄い鋼の剣。後は初級魔術教本、折り畳みベッドか。それ以外は食料だったり、回復アイテムだったりするので後回しだ。凄い鋼の剣を装備する。これは俺が使う。
「ジャンヌ」
「なによ……なんですか?」
「これ、やるよ」
「マジックアイテムですね。高価な物だけれど、いいの?」
「ああ。移動速度が上がるから、それを使って俺をしっかりと守ってくれ」
「ええ、任せなさい。それと、その、ね……」
顔を赤らめて言いずらそうにしているジャンヌに何がしたいのか、理解した俺は彼女に口づけを行って唾液を交換して飲ませていく。粘膜摂取による魔力の補充を行うのだ。回りからの視線が痛いが、気にしない。そのままジャンヌの身体を弄って楽しみながら進んでいく。