黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)と共に異世界へ   作:ヴィヴィオ

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第26話

 

 

 

 ブリュンヒルデと共にルーカスに襲い掛かる。ブリュンヒルデなら、こいつの火属性耐性も無視できるはず。

 

「くっ、これは……」

 

 流石に左右からの攻撃には対応できないでしょう。

 

「そこまでだ! 勝者、ルーカス!」

「え? ちょっと、なんでよ!」

 

 勝者の宣言に抗議する。私は何の問題も起こしていないわよ?

 

「これは一対一だ。一対二になった時点でルーカスの勝利だ」

「召喚したんだからなんの問題もないじゃない!」

「そうです! お姉様の言う通りです!」

「しかし、そこの精霊を認めたのだから召喚は認められぬな」

「マスターっ!?」

「良い。下がれ」

「くっ……召喚して損だらけじゃない!」

「そんなっ!? あ、あんまりです……うぅ……」

 

 泣き崩れるブリュンヒルデを無視してマスターの元に戻る。

 

「マスター……」

「気にするな。相性が悪かっただけだ」

 

 マスターは私を抱きしめて頭を撫でてくれる。

 

「ふんっ」

 

 私はそっぽを向いてされるがままになる。

 

「きぃーっ!? お姉様にそのような事を……羨ましいです! 妬ましいです!」

「負け犬が……」

「なんですってっ!? 誰が負け犬よ!」

「喧嘩は寄せ。それよりもブリュンヒルデをどうするかだ」

「当然、送還します」

「お姉様っ!? 何故ですか!」

「だって、鬱陶しいし」

「そんなっ!?」

「戦力にはなるのだ。このまま維持しておく」

「正気ですか!? 私は嫌よ!」

「マスター、流石に危険すぎます」

「問題無い。ブリュンヒルデ」

「なんですか? さっさとお姉様から離れてください。そこは私の席です」

「俺はジャンヌのマスターだ。故にお前のマスターでもある。だから、ブリュンヒルデも俺のモノになって貰おう」

「嫌です」

「対価として偶にジャンヌと一緒に抱いてやろう」

「ちょっと!?」

 

 絶対にろくなことにならないわよ! 特に私が酷い目にあわされるわ!

 

「わかりました。マスターのものになりましょう」

「アンタもあっさり納得してんじゃないわよ!」

「だって、お姉様との一夜ですよ! それ以上に素晴らしものなどこの世にはありません! ええ、ありませんとも!」

「もう嫌っ!」

 

 私に抱き着こうとしてくるブリュンヒルデから逃れる為にマスターに抱き着いて後ろに隠れる。

 

「やれやれ……ブリュンヒルデも少しは抑えろ。嫌われるぞ」

「仕方ありませんね」

「もうよいか? 続きを始めるぞ」

「ああ、待たせたな。エセルドレーダ」

「イエス、マスター」

 

 エセルドレーダがマスターの命令を受けて中央に進み出ると、相手側からも青い長髪の少女が出て来たわ。

 

「セニア、頼むぞ」

「任せてくれ」

 

 両者は私達の中央で少し距離を開いて対峙する。本来なら前衛と魔術師の戦いでは距離が近いから前衛が有利なんだけど、アイツはムカつくけど桁違いに強いのよね。

 

「マスターの敵は殲滅します」

 

 膨大な魔力を迸らせ、胸の辺りまで上げた掌の上にエセルドレーダの本体である魔導書が現れる。

 

「これは……不味いかな」

 

 彼女の額に汗が流れる。でも、戦うつもりはあるのか、剣を抜き構える。すると、彼女の周りから禍々しいオーラが出現する。アレは私と同じような存在ね。怨霊や怨念から生まれた存在。

 

「来なさい。格の違いというものを教えてあげる」

「行くぞ。ツーハンドクイッケン、ブレイクシールド、テレポート」

 

 一瞬で剣士の少女が掻き消え、エセルドレーダの背後に転移して回転させた突きを放つ。

 

「スパイラルピアース、バッシュ!」

 

 スキルの重ね掛けを行い、火力を増加させてからの一撃は無防備なエセルドレーダの背中へと命中するはずだった。しかし、いつの間にか出現した闇の壁が剣を()()()。そう、喰らう。突き出された剣はえぐり取られて壁が触れた部分が消失した。

 

「消えたのは驚いたけれど、それだけね」

「くっ!?」

 

 闇の壁から無数の弾幕が放たれ、相手の少女は瞬時にテレポートで逃げる。

 

「無駄よ。私からは逃げられない」

 

 エセルドレーダが放つ闇が広範囲に広がって、その上に有る物全てを飲み込んでいく。ルサルカが使う食人影(ナハツェーラー)の上位互換と言った感じの魔術……いえ、もう彼女のは魔法の領域ね。

 

「くそっ!」

 

 転移した先の地面は闇で覆われていて、連続で逃げるしかない。アレはもの凄く高い重力の塊みたいだし、危険ね。ひょっとしたら、ブラックホールかも知れないわね? しかし、その闇から触手みたいなのが出てきていて、空中すら安全じゃなくなってきているわ。

 

「エセルドレーダ、殺すな」

「イエス、マスター」

 

 闇が変化して触手のような物が実体を持つようになり、数が一気に増えた。

 

「お姉様、アイツやばいんですけど……」

「でしょうね」

「いえ、神格というか、邪神というか、そんな類の存在なんですけど……」

「私達にお似合いじゃない」

「流石はお姉様です!」

 

 マスターが信じているようですし、大丈夫でしょう。なにも心配する事はないわ。きっと、多分。

 

「ABRAHADABRA 死に雷の洗礼を」

 

 魔導書を持ったエセルドレーダがそう言うと、辺り一帯に強力な落雷が降り注ぐ。

 

「ふむ」

 

 マスターが槍でこちらに落ちて来る雷を薙ぎ払ってくれる。

 

「ちょっと、こっちまで来てるんだけど!」

 

 マスターの後ろから抗議してやる。

 

「ちっ」

 

 そしたら舌打ちしてきやがった。

 

「エセルドレーダ」

「申し訳ございません。わざとです」

「わざとですって!」

「当然です。コントロール出来ないほど愚かではありません」

「ぐぎぎぎぎ」

「お姉様になんて事を……」

「エセルドレーダ。仲良くしろ。それとさっさと片付けろ」

「イエス、マスター。ハイパーボリア・ゼロドライブ」

 

 瞬時に周りの温度を下げ、敵の行動を阻害する。いえ、それ以前にあんなの喰らったら即死よね。

 

「終わりです」

 

 片手に水色の光を纏わせて、転移して来る空中に先回りしたエセルドレーダが殴りに掛かる。その瞬間、どこからともなく矢が撃ち込まれた。それはエセルドレーダの自動防御能力か何かは知らないけれど、闇が勝ってに防いだ。

 

「そこですね」

 

 無数に撃ち込まれて来る矢に向かって片手を振るうエセルドレーダ。それによって発生した闇が矢を飲み込んで放った者が居るであろう場所まで纏めて地面を削り取っていく。

 

「逃げて、セニア」

「姉さんっ!?」

 

 現れたのは金髪の十代後半ぐらいの少女。お腹を出した衣装の上にミニスカートという露出の多い恰好ね。

 

「しかし、姉妹ね」

「私達と同じですね!」

「ち・が・う!」

 

 エセルドレーダは一旦、距離を取ったわね。

 

「何をしている! お前には待機を命じたはずだぞ!」

 

 ルーカスが声を荒げて怒っている。

 

「何って殺されそうだった妹を助けただけよ」

「これで、試合は……」

「よいではないか。まだ……」

 

 あちらが何かを言う前にマスターが念話を使ってか、指示を出したみたい。

 

「エセルドレーダ」

「イエス、マスター。ン・カイの闇よ」

「っ!? 逃げなさいセニア!!」

「姉さんっ!!」

 

 膨大な量に膨れ上がった闇はまるで津波のように彼女達を飲み込もうとする。少女はどうにかセニアだけを吹き飛ばした。そして、自身は闇に飲まれてそのまま地面に溶け込むように消えていく。

 

「此度はそちらの反則負けだな」

「そ、そうだが……セシルは何処に……」

「飲み込んだわ。生きているかどうかはわからないわね」

「さて、その事はもうよかろう。彼女の方から襲い掛かってきたのだから。そちらが何かを言うなら、こちらはドラゴンの事を追及せねばならぬのでな」

「よかろう」

「父上!」

「ルーカス、仕方あるまい。次は儂が出る」

「ふ、ご老体に相手が務まるか?」

「無論よ! 全力で来るがいい!」

「では、遠慮なくそうするとしよう。エセルドレーダ、来い」

「イエス、マスター!」

 

 歓喜に震え、マスターに抱き着いたエセルドレーダがマスターの中に溶けるように消えていく。そしてマスターの肩の上に小さな犬耳と尻尾をつけたエセルドレーダが現れた。

 

「マギウススタイル。未熟な我がエセルドレーダの力を使うに丁度良い形態よ」

「素敵です、マイマスター」

 

 そう言って楽しそうにしているエセルドレーダ。それにしても、マスターは勝つ気満々ね。

 

「いざ、勝負!」

「うむ。行くぞ」

 

 そして、始まった戦いは光り輝く聖約・運命の神槍(ロンギヌスランゼ・テスタメント)の一撃により、勝負が決まったわ。何故なら、大地が斬撃によって裂け、そこから闇を噴出させた。その闇は振れただけで全てを飲み込むのだから。

 

「まだやるか? 卿等に勝ち目は無いのだが……殺し合いを望むというのならば、相手になってやろう」

「ぐっ……わかった」

 

 この言葉でこちらの勝利が決まった。でも、実は力が使いこなせなくてこのまま戦闘したら酷い事になるから、負けを認めろって言っているだけなのよね。たぶん、最初の一撃だって当てる気だったんでしょうし。

 

「では、此度の戦は……む、通信か」

 

 マスターが何やら通信機器を取り出して通話をする。

 

「了解した。バルテン子爵よ」

「なんだ?」

「此度の戦は条件次第で手打ちで構わん」

「何?」

「穀倉地帯の3割を頂く。その内の2割は私の名義で譲渡して貰おう」

「たったの3割で良いのか? 勝者なのだから、もっと持ってゆくのが普通だが」

「うむ。構わん。だが、もう一つ貰っていくモノが有る」

「なんだ?」

「彼女だ」

「はっ、離してっ!」

 

 マスターはこちらを睨み付けていた剣士の少女の腕を掴んで、引き寄せて無理矢理抱きしめた。

 

「戦利品として彼女を頂こう。それで構わぬぞ」

「良かろう」

「父上!」

「人質でもあるのだろう」

「好きに取るがいい」

「ならば、そうさせて貰おう。どちらにしろ、主らと関係を持つのは得策であるからな」

「それは重畳だ。そうだな、妾としよう」

「くっ……誰が姉さんを殺した貴方の妾なんかに……」

「黙りなさい。マスターの妾になるという名誉を頂けるのです。拒否などさせません。それとも、他の連中を皆殺しにした後で家畜として飼ってあげましょうか?」

「わ、わかった……妾でもなんでもなる……だから……あまり酷い事をしないでくれ……」

 

 この子はどうか知らないけれど、他の連中はかなり酷い事をしてきたのだし、自業自得よね。いえ、ひょっとしたら知っているからこそ止めろと言ってきているのかしら?

 

「無論だ。では、詳しい話をしようではないか」

「ああ」

 

 これで今回の戦は終わりね。しかし、私の課題が見えたわ。それと、問題も。

 

「お姉様、お姉様!」

「いいから、離れなさい! 暑苦しいのよ!」

「ああ~お姉様の匂い。くんかくんか!」

「嗅ぐなこのド変態! アンタは豚なの!?」

「はいっ、私はお姉様の雌豚ですっ! だからっ、だからっ、お姉様、もっと!」

「ざっけんな! お断りよっ!」

 

 引きはがして転がし、踏みつけて押さえつける。嬉しそうな声が聞こえてくるけれど、無視よ、無視!

 

「マスター、本当に送還しちゃ駄目?」

「……悩むな……だが、もう少しだけ様子を見よう。躾ければいいだけかも知れんしな」

「マスターがそういうなら仕方ないわね」

 

 どうやら、このド変態としばらく付き合う事になりそうね。

 


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