黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)と共に異世界へ   作:ヴィヴィオ

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第21話

 

 

 

 ルサルカ(アンナ)

 

 

 

 

 ペストとアリエッタを連れてリーゼンフェルトの領都へと馬車三台で移動する。10人ほど軍人を連れての移動だ。今回はドラゴンもワイバーンも無し。

 その間、暇なので旦那様の事について色々と話している。体位とか、どんな感じが好きとか、色々と女子同士じゃないと出来ない赤裸々な事をたっぷりと話して貰う。

 

「アリエッタはどんな体位が好き~?」

「……後ろから、覆いかぶされてするの……好き……」

「ふむふむ。ペストは~?」

「五月蠅いわよ」

「ほらほら、答えなさいよ~ちなみに私は正常位ね」

「……あ、アタシは……座りながらが……って、何言わせるのよ!」

「ほうほう。玩具みたいに動かされるのが好きなのね」

「ちがっ」

「……喘ぎ声……違う……」

「だって」

「……もうこの話は終わり! それよりも戦争の事よ。そっちの方が大事でしょ!」

 

 顔を赤らめながらそっぽを向くペストの頬っぺたをぷにぷにと押して揶揄う。本来ならこんな事は指揮系統的に出来ないけれど、私は閣下であるご主人様の愛人、妾でもあるから出来るのよね。ちなみに、この馬車は私達三人だけしか居ない。御者もおらず、引いているのはアリエッタの配下である白狼達なので聞かれる心配もない。

 

「……駄目、仕事大事、です……」

「二対一ね。さて、領都だけれど、防衛施設はそれなりね。魔の領域が近い事も有って、防壁は高さ10メートルはあるわ」

「……それなり? 最低限だと思うのは気のせい?」

「仕方ないじゃない。お金が無い上に労働力も足りてないのよ。ちなみにうちの防衛施設は異常なくらい堅牢なのよ?」

「まあ、防壁すら私達やドラゴン達が居るから本来なら要らないくらいだしね~」

「ん、邪魔、です」

「まあね」

 

 我が港街(正式名称未定)は湾岸城塞と言った感じで港と一緒に海側も含めて巨大な五角形の高さ20メートルの防壁に包まれているのよね。厚さは500メートルで、内部に入って防衛する為の攻撃手段などが設置されているわ。それに何の材質かは不明なのよね。見た目だけは鉄っぽく見えるんだけれど、明らかに強度がおかしいのよ。それに多数の防御魔術がエンチャントされていて、魔術ではなく法則の書き換えを行っている魔法が使われているわ。その防御力はアハト・アハトの一撃で少しへこむくらい。でも、キャロルがその実験結果を見て怒り狂ってたから更に強化されてそうね。ジャンヌが試そうとした時はキャロルが必死に止めてたのだけれど。でも、アリエッタの言う通りぶっちゃけ邪魔なのよね。ここに集まってる戦力をどうこうできる存在が居るとは思えないのよね。それに防壁が有ると出入り口も限られていて、非常に面倒な場面があるの。まあ、管理上仕方ないのだけれど。ちなみに防壁の上にはドラゴン達の寝床が用意されているので、いざという時には飛び立てるわ。本当、えげつないわね。

 

「足止めは難しいと思うけれど……頼むわ」

「ルサルカちゃんに任せなさ~い。あっ、でも、適度に攻めさせた方がいいのよね?」

「ええ。それにアリエッタの武装のチェックもあるからね」

「頑張る、です」

「なら、やっぱり適度に攻めさせるか。ついでに捕らえたのは餌にして……」

「……性的な意味で?」

「……駄目、です……」

「違うわよ! 私はマレウスじゃないし、一途なんだから。ご主人様以外の相手はお断りよ。だから、食人影(ナハツェーラー)で単純に魂を取り込むだけよ」

「……なら、いい、です……」

「そうね。ああ、でも生きたままがいいわ。リスキーダイスを使ってガチャをさせたいから。それが終わって死んだ所を食べさせたらいいわ」

「面倒ね~。でも、仕方ないか。資源は有効活用しないとね」

「資源、ね」

「?」

「あちゃー、やっぱ感覚が引っ張られてるか~。まあ、おいおい修正していくわ」

「お願いよ」

 

 どうにか性的な事だけは防げているけれど、その分殺人とかの忌避なんて一切ないのよね。むしろ……止めておきましょう。考えたらもっと悪くなりそうだし。幸い、敵以外には適応されないしね。

 

「具体的な内容はお父様と話し合って決めるけれど、打って出る事はないわ」

「常識的に考えて防衛の方が有利だからね~」

「そうよ。それとアタシ達は夜に動くのを基本方針とするわ。こっちの戦力を見られるのは面倒にしかならないのだから」

「それはいいのだけれど、ルサルカちゃんは影がないと戦力半減どころか、十分の一だけど」

「火を焚いて無理矢理影を作りなさい。もしくは拷問器具だけで対処なさい。それぐらいがいいハンデになるでしょう」

「仕方ないか~」

「ああ、それと旦那様からルサルカにプレゼントがあるわよ」

「ふえ? ほっ、本当に本当?」

「ええ」

「やった! なになに?」

「これよ」

「? ルービックキューブ?」

 

 渡されたのはルービックキューブが描かれたスキルカードだった。

 

「ええ、呪いのスキルアイテムみたいよ。ルサルカにぴったりな」

「呪いのアイテムか~。もっと指輪とか期待したのにな~。はぁ、まだ貰えないか~」

「そのうち貰えるでしょ」

「ん、そうよね。よし、ルサルカちゃん、頑張っていくわー! とりあえず、これね」

 

 解析するとこのスキルで現れるルービックキューブは組み替える事で32個の機構に変形し、拷問器具となって相手に襲い掛かるようになっているみたい。私の創造と合わせればかなり使えそうね。

 

「とりあえず、習得しましょ」

「……いいの……?」

「今更呪いがなんだー!ってね。それにご主人様から貰った物を使わないとかありえないって」

「まあ、大丈夫でしょう。呪いくらいどうとでもなるでしょうし」

「そういう事」

 

 実際に習得してみたけれど、この程度の呪いなど大した事がない。たかが数百人程度拷問したくらいで何よ。こっちとら千は軽く超えてるっての。格が違うのよ、格が。

 

「でも、これは良い暇つぶしになりそうね」

 

 ルービックキューブを取り出してガチャガチャと変形させて遊ぶ。

 

「面白そうね」

「……ん……」

「やってみる?」

 

 それから三人で弄り回して遊びながら到着するまで時間を潰すことにする。この馬車も錬金術で作られた振動を無効化してくれるもので見た目は普通だけれど、その実態は超高級馬車というものなので非常に快適だから伸び伸びとやれるわ。

 

 

 

 しばらくしてリーゼンフェルトの街へと到着した私達は早速、領主の館へと進む。領民は恐怖に怯えている。その中には逃げようとしている者達も居るわね。回りの道に座り込んでいる人達も居る。

 

「どうしたの?」

「腹が減って動けねえんだよ……って、これはアーデルハイト様、失礼いたしました」

「気にしないで。それより食事を取ってないというのはどういう事?」

「それが、食料を徴収されて食う物にも困る有様で。食料が欲しければ志願しろって事でさ……」

「酷いわね」

 

 志願兵と徴兵の違いは結構酷い。徴兵は領主の命令なので最低限の給金は与えられる。でも、志願兵にはそんなの無く全部が戦争の終わった後の功績次第という事になるし、武器とかの配布もほぼ無くて自ら持ち込まないといけない。今回の場合は食事だけは用意してくれるみたいだけれど、それは囮の肉壁になれと言っているような物ね。

 

「ルサルカ」

「ペスト、それは駄目よ。軍人として私達の食料に手を付けるのは駄目よ」

 

 ()()()に駄目な事よ。

 

「でも……」

「ん、可愛そう……」

「うっ……」

 

 二人でこっちを見詰めて来るけれど、駄目な物は駄目なのよね。軍事物資の横領とか、かなりやばい事になるし。

 

「駄目ったら、駄目」

「なら、こっちで徴兵するのは……徴兵権が無いわね」

「それに問題になるわ」

「志願でも問題になるはずね。面倒な事に」

「……どうしようも……できない、です……?」

「そうね」

 

 他の住民も含めて暗い顔をするけれど、こればかりは仕方ない。本家の領地なのだから、特に問題がある。

 

「まあ、本家に話を通しての炊き出しなら……」

「無理よ。おそらく、お兄様達がそれすらも徴収するでしょうね……」

 

 ペストが親指の爪を噛みながら考えている。

 

「いいわ。炊き出しをなさい。食料を出すわ」

「ペストっ」

「これは命令よ」

「正気なのかしら?」

「ええ。ここの領民も今は出て行ったとはいえ、私を育ててくれた人達だもの」

「……お姉ちゃん……大丈夫、です?」

「まあ、なるようになるでしょ」

「はぁ~仕方ないわね。炊き出しを行いなさい」

 

 部下である10人に命令を出す。問題行動ではあるのだけれど、ある意味では美味しい展開になるでしょうし。

 

「よろしいので?」

「構わないわ。責任は私とペストで取るから、気にしないでやりなさい」

「「「イエス、マイロード」」」

 

 10人が早速、動き始める。ペストは既に人を集めているようだ。料理は彼らにさせて、配らせるのも彼らにすればいい。こっちの人員は食料の護衛と監視にあてればいい。

 

「ルサルカ」

「ん?」

「感謝するわ」

「本当、貧乏くじよ。この貸しは大きいから……ん?」

 

 帽子を深く被ってそんな事を言っていると、軍服の裾が引っ張られた。そっちを見ると、アリエッタが引っ張っていた。

 

「どうしたの?」

「……責任、アリエッタも……一緒、です……」

「だってさ」

「二人共、ありがとう」

「ペストに後で何をして貰おっか?」

「……お菓子、欲しい、です……」

「だって。よろしくね」

「仕方ないわね。じゃあ、ガチャ産のお菓子を後で食べましょうか」

「ん」

 

 さて、こっちはこれでいいとして……命令違反どころか、横領ね。一応、連絡は入れておきましょうか。

 

「こちら、ルサルカ・シュヴェーゲリン。本部、応答願います。どうぞ」

『こちら、本部。本人確認を完了。内容をどうぞ』

「ご主人様、閣下にお伝えしたい事があるから、繋いで。どうぞ」

『了解しました。少々お待ちください』

「はいはい」

 

 少し待つと、あちらから不機嫌そうな声が聞こえてきた。

 

『今、マスターと楽しい散歩中なのだけれど?』

「エセルドレーダちゃん、ちょーとご主人様に変わってくれる? 直終わるからね」

『……』

「重要な事だから」

『ちっ』

 

 舌打ちされた後、ご主人様が出てくれた。それから炊き出しの事などを報告する。

 

『卿等の心意気は理解した。やってしまった物は仕方あるまい。追加物資も送ろう。だが、罰は与えねばならん。後で三人共お仕置きだ』

「性的な?」

『うむ。ジャンヌと同じようにしっかりと痛めつけてやろう』

「ご褒美ね!」

『何を聞いておる。これは罰だ』

「了解しました! では、任務に戻ります!」

『うむ。というか、事前に連絡を寄越せばそれで……』

 

 通信を切り、ニヤニヤと笑う。計画通り。これで堂々と可愛がってもらえるわ。

 

「何か悪どい顔をしているわね」

「失礼よ。ただ、ご主人様にお仕置きされる時の事を想像しただけよ」

「変態ね。ドМなのかしら?」

「私、ルサルカはご主人様の望む通りにどっちにでもなるだけよ。女の子ってそういうものじゃない? 愛する人の為に変わるんだから」

「あっそ。どうでもいい事よ」

「アリエッタも楽しみでしょ?」

「ん、楽しみ、です」

 

 この子の場合、遊んでもらえると思っているだけでしょうけどね。でも、ご主人様から与えられる物ならなんだって喜びそうね。

 

「そういえば、アリエッタは魔力供給は大丈夫なの?」

「……大丈夫、です……いっぱい、持ってきたから……」

 

 何やら密閉されたドリンクケースを取り出すアリエッタ。中身が何か気になるけれど、もしかしてアレ?

 

 

 

 

 

 さて、炊き出しを行わせている間に私達は領主の館へと向かって来た事を兵士に告げて中に入れて貰う。直に応接室に通され、しばらく待たされる。一時間半ほど待たされて、ようやく扉が開いた。

 

「すまん、待たせたな。報告が途中で止まっていたようで気付くのが遅れた」

「別にいいわ。それよりも、街の事なのだけれど……お父様、アレはどういう事かしら?」

「アレ? すまん、わからん。最初から説明してくれ」

 

 あれ、これは領主自身が知らないのかしら? それとも、別なの?

 

「どういう事だ! そんな事、儂は命令しておらん!」

 

 顔を真っ赤にして怒鳴るペストのお父さんに私はアリエッタの耳を塞いでおく。

 

「だと思った。どうせお兄様達でしょ」

「あの馬鹿共が……いっそ……いや、それどころではないな。すまないな。炊き出しの件は正式に許可しておく。それで戦力の件だが……」

「ええ、先に知らせた()()()()なら、こちらは問題ないわ」

「ああ、()()()()だな。それで構わないが、本当にいいのか?」

 

 何かおかしいわね。何か食い違っている?

 

「ええ、いいわよ」

「待って。契約内容を確認させて」

「君は?」

「私はルサルカ・シュヴェーゲリン。今回の指揮官よ。以後お見知りおきを、おじ様」

 

 スカートをつまんで挨拶をしておく。

 

「アリエッタも」

「……アリエッタ……よろしく、です……」

「小さい娘達ばかりだが、大丈夫なのか?」

「平気よ。かなり強いわよ。それにルサルカは魔術の使い手だし、アリエッタはモンスターテイマーでありながら、魔術師でもあるわ」

「魔術師ならば年齢は関係無いな。どうかよろしく頼む」

 

 どうやら、この人は比較的まともみたいね。ペストが嫌ってるわりには切れないのも納得ね。むしろ、売られた事以外は根に持ってないんでしょうね。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「……お願いする、です……」

「うむ。それで契約の件だったな。こちらに届いた内容はこちらがひきつけているうちにそちらが相手側の領地を攻めてくれるという内容だった。間違いないか?」

「ええ」

「報酬は全て我が家に寄付すると書かれていた」

「待って。こちらが送った内容と違うわ。こちらが送ったのは、こちらが手に入れた領地はアタシ達が貰うという内容だもの」

 

 すり替えられていたようね。どうりで、あちら側がこちらを心配しているような感じだった訳ね。

 

「やはりか。こちらもおかしいとは思っていたのだ。そちらばかりが損をしている」

「恐らく、お父様に届く前にすり替えたのでしょうね」

 

 新しい契約書を書いて改めて契約する。

 

「度々すまんな」

「早く処分した方がいいですよ。幸い、継ぐのはペス……アーデルハイト様が居ますし」

「うむ……しかし、だな。あんなのでも血を分けた子供なのだ……それに妻が可愛がっていてな……」

「お父様、民達にとっては良い迷惑よ。早く廃嫡した方がいいわ。ここはアタシと旦那様が継ぐから」

「わかった。妻とも相談して決める」

「そう。まあ、今回の件でしっかりと見ているといいわ。私達がそちらの言い分に従うのは今回までよ。それ以降は義理を果たしたとして、こちらの好きにさせて貰うわ」

 

 話は終わりだとばかりに席を立って部屋を出て行こうとドアノブに手を付けるペストに続いて私達も移動する。

 

「アリス……」

「アタシはお兄様やお姉様のお守は御免だから」

「お前達は血を別けた兄弟姉妹なのだぞ」

「関係ないわ。もう、アタシは……前のアタシとは違うの。民と旦那様だけの為に動くわ。そこに肉親なんて関係ない」

「そうか……あの結婚は間違いだったのだろうか……」

「さあ、知らないわ。でも、力を得られた事は感謝しているわ」

「あれ、ご主人様にはどうなのかな~?」

「っ!? す、少しくらいよ! ほら、行くわよ!」

「はーい。行こうか、アリエッタ」

「ん」

 

 部屋から出て廊下を歩いていると、偉そうに真ん中を歩いて来る男性と女性が居た。こちらを見るなり、ニヤニヤといらつく顔をしている。男の方は私達をいやらしい目でも見て来るし……いっそ、私が殺しちゃおうかな? この程度の警備なら楽勝だし、ばれないようにやれば相手の暗殺者だと思われるし……いえ、それだと危険ね。やはり、外に誘い出して討ち死にを演出させる方がいいわね。それで、妹の方は兄を追って自殺。いいかも知れないわね。

 

「よう、アーデルハイト。元気みたいだな」

「ええ、ここに来るまではいい気分だったわ」

「そう? でも、せいぜい私達の為に頑張ってね」

「貴女達の為にじゃないけれど、頑張るわよ。領地が増えるんだから」

「そうだな」

「ええ。それと、貴女達のどちらかは知らないけれど、貴女達のいたずらにお父様はたいそうお冠よ」

「「っ!?」」

「それじゃあ、ね」

 

 さっさと出て行って街へと戻る。領主の館で泊まらないかと使用人に聞かれたのだけれど、ペストが断って逃げ出した住人の家を徴収して使う事にした。

 

 

 

 

 

 


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