黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)と共に異世界へ 作:ヴィヴィオ
マスターに報告する為にタルタロスへと帰還し、会議室で円卓を囲んで置かれた席に座りながら成果を発表します。参加者はマスターを始め、ペスト、キャロル、アリエッタ、エセルドレーダね。エセルドレーダはマスターの後ろに控えてお茶くみや書類を渡したりしている。
「では、報告を聞こう。アリエッタ」
「……治安維持、良好……悪い人、捕まえた……」
配られた書類には商店から盗みを働いた者が居たようで、追跡に白狼達の鼻を使って犯人を特定し、ハーピィ達と空と地上から連携して捕らえたようね。
「ふむ。軽犯罪であれば処刑する訳にもいかんな。罰を与えねばならん」
「鞭打ちかしら?」
「それでは軽いだろう。いっそ、罰として軍隊に放り込んで矯正しようぜ」
ペストの意見は確かに軽いわね。逆にキャロルの意見はいいわね。
「任せなさい。しっかりと矯正してあげるわ」
「では、そうしよう。3年の強制超用とする」
玉座に座るマスターの決定で軽犯罪者達の末路が決まりました。良い事ですね、ええ。
「次はキャロルだ」
「港町と行政機関が入る城は完成した。残りは内装の一部だけだから、配下の者に任せた。次にオレは軍港の作製に取り掛かっている。場所は5キロ離れた地点だ。ジャンヌに要請されて仮組みだけした施設を本格的に作製する」
「港はいいけれど肝心の船はどうなのよ?」
「え、船?」
「ねえ、まさか船を作れないとか言うんじゃないでしょうね。稀代の錬金術師様がねえ?」
「っ、作れるに決まってるだろ! 誰に物を言っている!」
「本当?」
「ふん、見ていろ。度肝を抜く船を作ってやる!」
キャロルはそう言って出て行きました。
「おい……まあ、良いか」
マスターは肘を付き、身体を腕で支えている。その膝の前に跪いたエセルドレーダが膝に頭を乗せている。開いているマスターの手が適当にエセルドレーダの頭を撫でていて、幸せそうに眼を細めている。
「ペスト、そちらはどうだ?」
「こちらは問題ないわね。住民の割り振りも終わり、本格的に働いて貰っているから。塩の生産も問題ないし、問題があるとすればキャラバンを組織したいそうよ。でも、護衛が居るからそっちは軍部が整い次第ね」
「それならば出せますよ。小隊を護衛にすれば問題ないでしょう。全員が竜騎士(ドラグーン)ですから」
「それって過剰戦力じゃ……いえ、構わないのだけれど」
「ふむ。では、ジャンヌよ。報告を頼む」
「ええ。預かった全員がデミサーヴァントクラスの戦闘能力を所持し、ワイバーン、またはドラゴンを従えました」
「ほう、それは素晴らしい成果だ」
「この私が関わったのですから、当然よ」
胸を張って答えます。私が鍛え上げたのだから、生半可な戦力じゃありませんよ。ええ、フランスを実際に落とせる程度の戦力はあります。この世界ではどうかわかりませんが。
「どんな訓練をしたのだ?」
「そうですね。例えば……」
私は詳しく話していきました。
「……」
「……」
「どうしましたか?」
「ギルティ」
「ギルティね」
「……だめ、です……」
「なんでよっ!?」
「いや、やりすぎでしょ」
「うむ。何人壊れた」
「壊れたのはインストールにすればいいじゃない」
「駄目だ。仕方あるまい。ガチャでエリクサーを出すぞ。精神を回復させる」
「そうね。こればかりは仕方ないわ。犯罪者なら構わないのだけれど」
「うむ。して、ジャンヌにもお仕置きをせねばな」
「ちょっと、待ってよ! 本気なのっ!?」
「ええ、もちろん。とりあえず、縛って吊るしましょうか。鞭撃ちからかしら」
私は急いで逃げる。窓を突き破って外に……
「令呪を持って命ずる」
「ちょっ、それ反則っ!!」
マスターに捕まった私はお仕置きという名の調教を受けました。鞭打ちから始まり、木馬や焼き印まで色々な事をされたわ。まあ、ちゃんと回復してくれたのだけれどね。
三日三晩、マスターとの爛れた勤めを終えて外の空気を堪能していると、キャロルがやって来た。
「どうだジャンヌ! ちゃんと船が出来たぞ!」
「船、ねえ。いいでしょう、見てあげます」
「ふん、度肝を抜かれるといい!」
キャロルに連れられて港へと移動すると、そこには確かに船と呼べるかも知れない物が有りました。外見は確かに船ね。
「ねえ、船は空を飛ばないと思うのだけれど?」
「何を言っているんだ。あのタルタロスは飛んでるじゃないか」
「そうね。あれは陸上でも運用する為でしょう? でも、これは海だけじゃないかしら? なのに海面についてないのだけれど」
「うっ、うるさいっ、うるさいっ! 船には変わらないし、用途は問題ないだろ!」
「まあ、そうね。でも、普通の船を作ればもっと簡単に……」
「知らん。オレはシャトーを初めとした空中に浮かぶ物しか作った事がない」
「まあ、あれはあれで使えそうだからいいわね」
「じゃあ、20隻ほど作ったから好きに使ってくれ」
「作り過ぎでしょ」
「ドラゴンを地上に置くのは問題だからな。基本的に山脈と海上に配置だ。艦載機の扱いにするからな」
「しかたないわね。軍港が出来るまでの我慢ね」
「じゃあ、よろしく。暇だったら漁でもしてくれ」
「それ以前に運用出来るかが問題なのだけれどね」
「錬金術で作ったクローンを操作端末として各艦に配置しているから問題ない。後はそっちで色々としてくれ」
「わかったわ。ありがとう」
「ふん」
これで本格的に働いても大丈夫かしら? まあ、やる事は地図の作製からでしょうね。それが終われば商売を始める港かしら。どちらにしろ、手に入れた資金で奴隷を買って戦力を増やしましょう。訓練内容を変えるつもりはないのだけれど、五月蠅いから少しは手加減してあげましょう。五ヶ月コースを半年コースにするぐらいね。一年コースなんてちんたらやってらんないわ。そうだ、キャロルに精神を記録して元に戻す装置を開発して貰いましょう。それなら問題ないわね。基礎訓練中の記憶なんて別にいらないのだし。そうしましょう。ああ、なんて素晴らしい事かしら。