黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)と共に異世界へ   作:ヴィヴィオ

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第14話

 

 

 1.始末する。

 2.とりあえず、撫でる。

 3.見なかった事にする。

 4.抱きしめる。

 5.キャロルに助けを求める。

 

 目の前に居る女の子に対して、アタシが選んだのはとりあえず、撫でて見る事にした。耳を。

 

「ひうっ!?」

「本物みたいね……」

 

 肌触りもよく、もふもふしているわ。彼女自身はかなり震えているのだけれど。

 

「貴女、名前は?」

「……ナコト写本……」

「それが魔導書の名前なのね」

「そう」

「それで、一体どうなったの?」

「揺れて魔導書が依代に触れた。そこから、繋がって壊れた精神同士でお互いを取り込んで融合した。ナコト写本の魔導書とその精霊になった」

 

 これは放置したアタシの責任ね。揺れた事も原因みたいだし。

 

「そうなのね。それで、これからどうするのかしら?」

「私はマスターの道具。マスターに従うだけ」

「マスターは誰なの?」

「貴女」

「アタシ?」

「イエス、マスター。だから、契約を……」

「契約したら破棄も出来るのかしら?」

「それは……出来る」

「そう。なら、仮契約しましょう。契約方法は?」

「口付け」

「それは嫌よ。そのままでもしばらく戦闘したりは大丈夫なの?」

 

 女同士でキスとかあり得ない。

 

「問題ない」

「なら、このままでいいわ。ちょっとこれを持って付いて来なさい」

「イエス、マスター」

 

 彼女に鞄から無限収納鞄を取りだして、そこに大量の塩を入れて持たせる。それから部屋を出て一階へと戻る。

 

「アニタ、解決したから貴女達はこの子を連れて当初の予定通りに行動して。護衛はこの子がしてくれるから」

「畏まりました。よろしくお願いします」

「マスター?」

「この三人を守るのとそこからアイテムを取り出すのが初仕事よ。いいわね?」

「イエス、マスター」

「さて、行きましょうか」

「あっ、あぁ……」

 

 騎士達に案内され、表に停められた馬車に乗って領主の館を目指す。すこしして到着した領主の館は宝石や金をあしらった成金趣味だった。

 

「それではこちらでお着換えください」

「ええ」

 

 用意された部屋でメイドに手伝って貰いながらドレスに着替える。貧乏な家ではこんな事はなかったので少し緊張するわね。逆ならあったのだけれど。しかし、我が家もメイドを雇わないといけないわね。

 

「終わりました」

「ありがとう」

「いえ……」

 

 着替えが終われば、そのまま晩餐へと参加する。幸い、嫁に出される為にテーブルマナーはしっかりと教え込まれているのでなんとでもなる。

 

「本日はお招きありがとうございます」

「うむ。そちらもよくぞ来てくれた。ささ、先ずは座るがよい」

「はい。失礼します」

 

 席につくとコース料理が運ばれて来る。それを食べながら相手を観察する。ハンターギルドの豚のように太っているのではなく、鍛え抜かれた身体を持つ初老の男性。髪の毛は後ろで纏めてオールバックにしている。その背後には銀色の髪をした短髪の青年騎士が立っている。二人共武人といった感じで、どちらも強そうではあるわね。特に青年騎士は身に着ている装備からも相当な使い手だと思われるわ。

 

「聞くところによればリーゼンフェルト男爵家のお嬢さんとか?」

「ええ、そうです。シュタインフェルト伯爵家の方と結婚しております」

「いやはや、残念ですな。結婚なされておらねば我が息子の嫁にいただいたものを……」

「回りくどい事は無しでいきましょう。時間の無駄でしょ?」

「そうですな。単刀直入に言うと、捕らえた賊を引き渡して頂きたい。我が領地で暴れていた者達が他領に引き渡されるのは面子に関わりますので」

「それだけじゃないでしょう? 随分とあくどく儲けてるみたいじゃない。噂だけれど例えば……」

 

 両手を机の上に乗せながら、調べた内容の一部を話していく。

 

「盗賊団と組んで商隊を襲い、積み荷や奴隷を入手してその上前を頂いているとか」

「なんの事か存じ上げませんな」

「ええ、ですから噂といっています」

「なるほど。それはますます調べねばならないですな」

「こちらとしては買ってくれるならそれで構いませんよ」

「値段は8億とか」

「ええ。それがここのハンターギルドのギルドマスターに言われた金額ですもの」

「いささか高すぎますな。3千万でどうですかな?」

「安くしても7億ね」

「おやおや」

「ふふふふ」

 

 お互いに見つめ合いながら笑う。

 

「馬車二台分の食料もつけましょう」

「馬車込みで6億5千万ね。そうね、人手不足だから、スラムに居る人達をくだされば2億、下げましょう」

「スラムの住人ですか」

「別に要らないでしょう?」

「まあ、そうですな。税金も払わず、犯罪に手を染める奴も多いですから。ですが、まだ下げて貰いませんと」

「なら、奴隷と移動を希望する住民でいいわ」

「それは駄目ですな」

「一般市民でいいですから」

「では、10組までなら認めましょう」

「なら、3億ね」

「高いですな」

「現金1億で残りは奴隷で構わないわ。もちろん、食料もつけて貰うけれど」

「いいでしょう。交渉成立です」

 

 バルテンが立ち上がってこちらに来る。アタシも立ち上がって相手が片手を差し出してくるので、こちらも同じように()()する。

 

「では、引き渡しは明後日でいいかしら? こちらも準備があるので」

「いえ、本日でお願いしたい」

「そちらも今日中に用意できるのかしら?」

「ええ」

「ならそれで構いません」

「では、よろしくお願いします。ところで、体調は大丈夫ですかな? 顔が赤いですが」

「ええ、全然大丈夫です」

「そうですか。何かあればぜひ我が家にお泊りください」

「ええ、そうさせていただきます」

 

 食事を終えてさっさと帰る。相手はしきりに体調を心配してきたのだけれど、何の問題も無いのでそのまま帰る。毒なんてアタシには効かないわ。どうせ、捕まえてアタシをいう事の聞く人形にでもしたかったんでしょうけれどね。

 

 

 

 

 宿に帰った後、引き渡す為に男達を倉庫から取り出しておく。それから少しして、騎士達がやって来て約束の物を置いていった。奴隷に関しては手形で購入していけとの事なのでさっさと購入していく。人間以外の亜人は人間至上主義であるこの国では安く売られているのでその子達を買っていく事にするわ。

 

「いらっしゃいませ」

「奴隷を買いに来たわ。安くしなさい」

 

 恐怖で倒れた商人を優しく()()()()あげる。

 

「かっ、畏まりましたっ!」

 

 威圧を与えて安く買わせて貰う。魔王の威光に逆らえる商人なんていないわ。

 

 アタシが奴隷を買っている間にアニタも女の子とナコト写本を連れて大量の塩を色んな店で売りさばいて現金を確保して来てくれた。

 

「じゃあ、スラムに行きましょう。ナコト写本は奴隷の護衛をしていなさい。アニタは奴隷達に食事を与えて」

「畏まりました」

「イエス、マスター」

 

 女の子を連れて行き、スラムへと入る。

 

「あの、どうするの?」

「孤児を全部引き取るわ。それと貴女達に優しくしてくれた人達もアタシの領地に招待してあげる。そこで住みなさい。ちゃんと住む場所も用意してあるから。それと、この街はもう直ぐ……」

 

 女の子の耳元で囁いてあげると、恐怖にガタガタと震えながらこくこくと頷いてくれた。それから、必死にスラムの子達を説得して回る。邪魔しに来る人達は捕らえて連れて行くことにする。リスキーダイスの生贄になって貰う為に。

 

 

 

 

 翌日、昼頃にスラムの住民と少数の街の人とその家族。それに大量の奴隷達を連れてアタシ達はリーゼンフェルトを目指して出発した。見送りに来た領主と握手してから

 

「あの、こんな大所帯で大丈夫ですか?」

「どうせ途中で呼んだ迎えと合流するわ」

「そうですか」

 

 数時間進むと、前方に三角帽子を被ったどこか疲れた少女、キャロルが現れた。

 

「また随分と連れて来たな」

「いいでしょ、別に」

「まあ、問題ないな。さっさとこの円の中に入ってくれ」

「じゃあ、皆、順番に入って」

 

 巨大な魔法陣みたいなものが描かれており、そこに乗ると人が消えていく。最初こそ警戒していたが、さっさと入って貰う為に威圧して命令すれば楽に入ってくれたわ。

 

 

 ほぼ全ての人を転移させ、残ったのはアタシとキャロルだけだ。キャロルは後始末の為に残らないといけない。

 

「アレは?」

 

 視線の先ではバルテンの街の方から騎兵が駆けて来ている。

 

「招かれざる客ね」

「なら、潰すか」

「任せるわ」

「ああ、さっさといけ」

「ええ」

 

 キャロルが懐に手を入れて赤い水晶の便みたいな物を取り出して、放るとそこから不気味な変な生き物が出て来た。

 

「アルカノイズ共、アレを始末した後は適当に暴れて自壊しろ。いけ」

 

 その生物はキャロルの命令に従って駆けていく。それを見送って転移する。転移先は港町の前で、先に転移した人達が旦那様の指示で動いていた。

 

「ここで住民登録を行う。氏名や年齢、職業、ギフト、スキルを教えて貰う」

 

 住民登録とか、面倒そうね。

 

「ペストも手伝え」

「はいはい」

 

 アタシも一緒になって作業をしていると、キャロルが転移して来た。それから、キャロルにも手伝って貰う。もちろん、アニタや文字が書ける者達もだ。

 

「ちょっとっ、寄ってくんじゃないわよっ!」

「遊んでよー」

「抱っこー」

「ああ、もうっ、鬱陶しい! ほら、これで遊ぶのよ」

 

 ジャンヌが子供達に囲まれてあたふたとしている姿は面白かった。

 

 

 

 

 

 

 


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