黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)と共に異世界へ   作:ヴィヴィオ

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第12話

 

 

 さて、賊共のアジトの制圧が終わったわね。隅々まで黒の風で調べ尽したので取りこぼしも無く、残ったのは数人の捕虜と捕まっていた女性だけね。男達は縛り上げてから端に転がして、上半身の服を奪ってから牢屋に移動する。

 

「ひっ!?」

「たっ、助けて……」

「安心なさい、助けてあげるから。先ずはこれで身体を拭きなさい」

「あ、ありがとう……」

 

 女達に男から奪った服を渡す。それから、直にアジトの内部を探索して犯されていた女達を調べていく。

 

「……ぁぁ……」

「……ころ、して……」

「……たすけ……て……」

 

 死を望む者達には安らかな苦しむ間もない死を与え、助けを求めた女達は運んで牢屋に居る人達に渡して介抱して貰う。

 

「この人達もよろしく」

「は、はい……」

「あの、何か他に手伝う事はありますか?」

「そうね……なら、服や連中の持ち物、取られた物を回収するのを手伝って貰いましょう」

「はい!」

 

 手伝って貰いながら奴等が溜め込んだ財宝を全て貰う。ついでにリーダーであろう連中の首も回収して運んでおく。賞金首ならお金になるからだ。回収した物はある程度、表に有った馬車に詰め込む。収納鞄には本来じゃ入らない量が入るのだけれど、出すのは非常に面倒だから。

 

「いやぁ、その鞄はとても便利ですね」

「ええ、便利よ」

 

 手伝ってくれる助けた女の一人がそう言ってくる。

 

「そうね。とても便利よ」(上と合わせて二回言ってる?)

「商人にとってはとても欲しい代物ですが、何処で手に入れたのですか?」

「知り合いに貰ったのよ」

「それは売って貰う事は可能ですか?」

「さあ? アタシにはわからないわ」

「そうですか……」

 

 馬車の準備が出来たので、アジトである洞窟の中に入って女の人達を呼びに行く。すると、首輪を着けた一人の女の子が泣いて死んでいた女の人に縋り付いていた。

 

「死んだ人は燃やして埋めるわよ」

「…………」

 

 死んだ人を運び、燃やしてから埋める。これはアンデット化しない為に必要な行為で仕方のない事だ。

 

 

 彼女達を連れて馬車に乗って街を目指す。業者は手伝ってくれた人だ。彼女に馬車の操作を任せて、アタシ自身は連中が持っていた依頼書を読んでいく。すると、彼らが本来攫おうと思っていたのは別の人で、カモフラージュと資金稼ぎも兼ねて攫っていたみたい。それでその攫おうとした少女は既に捕まえられて助けた中に居るようだ。捕まった女の中で既に隷属の首輪を嵌められて奴隷にされた娘も居るのでその子がそのようだ。書いてあった特徴は縋り付いていた子と同じ。連中はアタシが通った道以外にも罠を張っていたようね。アタシの方が時間がかかった為に入れ違いにはなっていなくて助かったわ。

 

「ねえ、奴隷にされた娘はどうなるの?」

「解放する為にお金を支払うか、拾った人が貰うか、売り払う事になりますね」

「無理矢理されてても?」

「はい。それが証明できませんし、契約の魔法は絶対ですから。まあ、証明出来たら解放されるでしょうが」

「そう。でも、それには領主の協力が必要なのよね?」

「そうですね」

「そう、ありがとう」

「いえいえ」

 

 なら、あの娘は解放される事が無いわね。依頼主は領主のようだし。しかし、むかつくわね。このままだとあの娘は売り払われてその領主の物になるのよね。どういう娘かはわからないけれど、無理矢理奴隷にして自分のモノにしているんだから待ってる未来は暗いわね。

 

「ねえ、貰うにはどうすればいいの?」

「教えても構いませんが、私は商人です」

「お金?」

「商売の種が欲しいです。商品も奪われて飲み干されてしまいましたし」

「行商人なのかしら?」

「そうです」

「そう。なら、アタシの領地に来なさい。儲けさせてあげるわ」

「ありがとうございます。それじゃあ、契約の方法ですが……」

 

 教えて貰った契約の方法を使う為に中に入ると、隅っこの方で虚ろな瞳をしながらぼーとしている。彼女に近付くと、壊れているようね。

 

「埋める時はまだ大丈夫だったのだけれど、それがトドメになったのかしら?」

 

 触ってみてもこちらに反応しない。まさに人形といった感じね。まあ、目の前で母親を犯されて殺されたのだから仕方ないわね。本人も暴行を受けていた訳だし、アタシと同じくらいの子の娘じゃ耐えられなくても仕方ないか。アタシはこの子よりましだけれど、かなりきつかったし。

 まあ、どっちにしろお人形なら気兼ねなく旦那様にあげられるわ。これでアタシの負担が減ればそれはそれで助かるし、ここの領主への嫌がらせにもなる。それに一度壊れたのなら、アタシみたいに出来るかも知れないしね。

 契約だけしてさっさと御者台に戻る。

 

「出来ましたか?」

「ええ。それと売りたい物があるのだけれど」

「なんですか?」

「塩よ。これを試験にしてあげるから、高値で売り払ってちょうだい」

「畏まりました」

「じゃあ、名前を教えて。アタシはアーデルハイト・リーゼンフェルト。愛称はペストね。ペストでいいから」

「これは失礼致しました。私はアニタです。よろしくお願いします」

「ええ、それじゃあよろしくね」

「こちらこそ」

 

 ゆっくりと進み三時間後、無事にバルテンの街へと到着した。バルテンの街はバルテン子爵が収める街で、それなりの大きさで主な産業は農業ね。この国、ラングハイム皇国が収める穀倉地帯の一つで、領地もかなり広い。我が男爵家とは全然規模が違い、資金力もかなりの差がある。だからこそ、食い荒らすのには丁度いいのだけれど。

 

「止まれ。バルテンの街に何の用だ」

「盗賊の引き渡しと買い物よ」

「盗賊だと……?」

「ええ、こいつらね」

 

 捕らえた男達は縛り付けて馬車と一緒に歩かせていたので、彼らに見せる。

 

「こいつらは……わかった。引き渡してくれ」

 

 兵士の顔が一瞬だけ苦々しいものに変わったわね。まあ、領主と繋がっているのだからそうでしょうね。男達の方もどこか太々しい態度を取っているわね。まるで自分達は解放されると思っているみたい。

 

「断るわ」

「なんだと!?」

「こいつらは貴族であるアタシを襲ったのよ。それ相応の処罰をこちらでするわ」

「きっ、貴族だと?」

「そうよ」

「騙りは重罪だぞ」

「事実よ」

 

 懐からリーゼンフェルト家の家紋が刻まれた自害用の短剣とシュタインフェルトの家紋が刻まれた指輪を見せる。どちらもアタシの身分を保証するもので、短剣は生まれた家で貰うもので、指輪は夫の家から結婚する時に婚約指輪として貰う。この場合、リーゼンフェルト家の娘として生まれて、シュタインフェルト伯爵家の嫁になった事を意味する。どちらの家系とか関係無く、これは両家の親族を示す意味合いがあるので効果がある。つまり、この場合は爵位の高いシュタインフェルト伯爵家の方を優先する。何故なら、アタシは自らどちらかとも言っていないし、相手が勝手に判断するしかないのだ。そうなればもしもの時を考えて高い方の爵位を選んで対応するしかない。

 

「しっ、失礼しました! ですが、どうかお引渡しを……」

「くどい。こっちは忙しいの。さっさと通しなさい。さもないと……」

 

 力を解放して威圧すると、兵士はへたり込んで水音を立ててしまった。どうやら、強すぎたようで、少し解放してやる。すると、ガタガタと震える兵士を放置して、離れた位置に居て多少は威圧から助かった別の兵士が慌てて対応してくれた。

 

「かっ、畏まりました! どうぞお通りくださいっ!」

「ええ、ありがとう」

 

 そのまま街の中に入り、先ずは中立であるハンターギルドへと向かう。ハンターギルドは国を跨いで活動する組織でどの国に対しても中立を宣言している。これはハンターが人類の敵であるモンスターを狩る為の組織だからで、為政者としては援助金を少し出すだけで害虫を駆除してくれる上に素材という富を運んでくれる掃除屋だからそれ相応に地位が高い。それに基本的にその国のメンバーで構成される為に愛国心もあり、自国の発展を優先してくれるので国としてはありがたい組織ね。そして、この組織には治安維持とはまた少し違うのだけれど、国や民からの依頼で犯罪者の討伐依頼も出される。それは全ての国で共有されるため、国から逃げ出しても指名手配は討伐される事が多い。

 

「賞金あるといいですね」

「そうね。どちらにしろ、売ればお金になるでしょう。とくに大金で購入してくれるでしょうね」

「そうなんですか?」

「ええ」

 

 連中にとっては自分達の悪事の証拠なのだから、是非とも処分したいでしょう。既に全ての情報が抜かれているとは思わないでしょうし、どれくらいで売れるか楽しみね。力尽くで襲い掛かって来るなら、それはそれで楽しみね。

 

 

 

 

 

 

 

 


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