黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)と共に異世界へ   作:ヴィヴィオ

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第10話

 

 

 

 

 ペスト(アーデルハイト・リーゼンフェルト)

 

 

 

 

 港が驚きの速度である程度完成した。それと同時に売り物になる塩の生産装置をキャロルが作ってくれた。驚いた事にその生産装置で作られる塩は真っ白な塩と海藻の旨味成分を凝縮したらしい藻塩。それと岩塩の三つを用意してくれた。今日は皆と別行動を行い、塩を持って私は空を飛んで本家があるフェルトの町へとやって来た。

 家の庭に直接降りて玄関の扉を開いて中に入る。流石に二週間程度では全然変わっていない。なので、リビングへと入って誰か居ないかを確認する。しかし、誰も居ないのでお父様の執務室へと移動する。今回やって来た目的は塩を渡す事と魔の領域であるリーゼンフェルトの森の一部を支配下に置くことに成功した事を伝える為だ。

 

「お父様、居る?」

 

 扉を開けて顔だけで中を覗いてみる。

 

「アリス、ノックをしなさい」

 

 部屋の中で執務机に向かいながら仕事をして居たお父様に叱られてしまった。だけれど、私は気にせずに入る。すると、部屋の中にお兄様も居て、私を驚愕の表情で見詰めて来る。

 

「どうしたの、お兄様? まるで()()に会ったみたいな表情をして」

 

 クスクスと笑いながらお兄様に声をかけると、苦虫を噛み潰したような表情をした。

 

「げっ、元気そうだな?」

「ええ、お蔭さまで」

「どういう事だ……?」

「お兄様が送ってくれた人達のお蔭で随分と楽が出来たわ」

 

 愚か者のお兄様が送ってくれた者達にリスキーダイスを振らせたら、キャロルが当たったのだから、お兄様に感謝の言葉を伝えるのは当然よね。

 

「私はそんな連中を送っていない!」

「そう、それなら別にいいわ。それでお父様、こちらを見て欲しいの」

「なんだね?」

 

 机の上にそれぞれの塩を入れた小瓶を肩に下げたバックから取り出して置く。

 

「これはガラスか? 一体何処でこれを手に入れたんだ……」

「それは秘密よ。それよりも中身の相談よ」

 

 蓋を開けてお父様の手に塩を振りかける。

 

「舐めてみて」

「ふむ……っ!? これは塩か!」

「そうよ。とっても美味しいでしょ?」

「あ、ああ……」

「俺にも食わしてくれ!」

 

 二人は競って塩を舐めだす。今まで食べた塩よりも遥かに美味しいのだから、仕方ないでしょう。

 

「この塩をどうしたんだ!」

「作ったのよ」

「製法は!?」

「当然、秘密よ」

「ふざけるなっ!? 今すぐ教えろ!!」

「嫌よ。これは私達の資金稼ぎに使うんだから」

「お前……っ!?」

「さて、お父様。約束通り人を貰いに来たわ。この塩はお土産よ」

 

 約束通りとはいえ、ごねられたら面倒だからお土産を持ってきたのよね。

 

「この塩は売って貰えるのか?」

「もちろんよ」

「父上! 何を言っているのですか! 買わずに貰えばいいではないですか!」

「そんな事は出来ん。しかし、安くはしてくれんか?」

「両親のお願いだから、少しは安くするわ。でも、旦那様が言うにはここを通る販路が出来るから、このフェルトの町にも十分に利益が出るそうよ」

「商隊が来てくれるのか」

「それ相応のメリットがあるでしょうね」

 

 現状では内陸部に売る為には陸路を使うしかない。そうなるとフェルトの町を経由する連中が多いでしょう。まあ、もう少ししたら船による海路でも販売するそうだけれど。

 

「わかった。同意する者達を連れていけ。塩の値段はいくらだ?」

「1キロ1万の所を5千でいいわ」

「無茶苦茶高いじゃないか!」

「これだけの質なのだから、当然よ。そうそう、購入した塩を転売するのは駄目だから。それを発見した場合、もう割引で売らないからね」

「っ!?」

「まあ、当然だな」

 

 悔しそうな顔をするお兄様。だけど、お父様はちゃんとわかっている。

 

「では、普通の塩を30キロほど買おう」

「ええ、わかったわ」

 

 直に鞄から10キロ分の塩が入った壺を三つ取り出す。この鞄もキャロルが作ってくれた物で、中身はタルタロスにある倉庫に繋がっていて思った物を取り出せる仕様だ。

 

「お金は後程届けさせよう。今はどの辺りに住んでいるんだ?」

「森を切り開いて作った道の先よ。結構大きな場所だから分かりやすいわ」

「わかった」

「じゃあ、またねお父様」

「ああ」

 

 さっさと部屋から出て町へと向かう。街に出て畑の方へと歩いていくと直に知り合いが声を掛けてくれた。

 

「お嬢さま」

「アリス様だ~」

「みんな、久しぶりね」

 

 幼い子供は私に抱き着いて来るので、受け止めて頭を撫でてあげる。幼い頃から外で平民の子達と一緒に遊んで育ってきた私に幼い子達も懐いてくれている。

 

「あそぼ、あそぼ」

「それはまた今度ね。皆にちょっと話があるんだけど集めて貰える?」

「もちろんです」

 

 家にあった本から知識を得て、畑の改良なんかもしていたから大人の覚えもいいので簡単に集まってくれた。

 

「皆、私が結婚したのは知っているわよね?」

「もちろんです」

「俺が嫁にしたかったのに」

「お前だと無理だって」

「ごめんね」

「気にせんでくだせえ、こいつもわかってた事ですし」

「うるせぇよ!」

「ふふふ、それで話なんだけど。私と夫の領地に皆に一緒に来て欲しいの」

「それは……」

「俺達はいいぜ!」

「餓鬼は黙っとれ。これはそう簡単な問題じゃないんじゃ」

「ああ、そうだな」

 

 子供達や同い年の幼馴染達はあっさりと頷いてくれたけれど、大人はやっぱり簡単にはいかない。これはわかり切っていた事だから大丈夫。

 

「もちろん、土地や家を手放して知らない場所に行くのだから不安なのはわかるわ。だから、家と畑はこちらで用意してあるし、しばらく食べ物も無料で支給するわ」

「おぉ、それなら……」

「だが、領主様の許可は……」

「それなら取ってきているわ」

 

 皆がそれぞれ家族と相談し始める。これなら後一押しくらいね。

 

「税も最初は免除するし、今なら塩を使い放題よ」

「塩をですか?」

「ええ。この塩を毎月各家庭に人数分渡すわ」

 

 鞄から塩と焼いた鶏肉を取り出して彼らに渡していく。

 

「何これ、無茶苦茶美味いんだけど!」

「ほんとだ!」

「おかわり!」

「これは何の肉じゃ?」

「おかわりは向こうに来てくれたらね。それとその鳥はイーグルファイターよ」

 

 凶暴なモンスターで空を自由に飛び、上空から一気に急降下して来て上から襲い掛かる為に普通のハンターではかなりの危険が伴う。全長も二メートルも有り、その爪は皮はもちろんの事、木を簡単に切断したりしてしまう。そんなのがあのリーゼンフェルトの森には大量に居た。同じく空を飛び、死の風をばら撒く私には楽勝だったのだけれど。

 

「そんな高価なモンスターをわしらは食したのか……」

「大量に狩ったから今ならその肉もつけるわ。一家に一匹はあるから、干し肉にしたり、保存しておいてもいいわよ。信じられない事に長期保存する場所もちゃんとあるから」

「それは素晴らしいですな」

「俺は行くぞ!」

「私はやっぱり……」

「まあ、しっかりと考えてね。将来の事も考えるのよ」

 

 普通なら住んでいる町から別の所に移るなんて結婚して嫁いでいくくらいしか許されない。そもそも与えられている土地だって領地からの貸し出しなのだし。

 

「二日か三日後にまた来るからしっかりと決めておいて。じゃあ、私は別の所にも行きたいからこれで」

「もういっちゃうの?」

「ごめんね。また今度遊びましょ」

「うん!」

「またね、お姉ちゃん!」

 

 子供達に惜しまれながらも、別れて町の外へと出る。そして、街から少し離れたところまで歩き、自分以外誰も居なくなった所で空を飛んで別の街へと移動する。

 しばらく高速で空を飛んでいると目的地の近くに着いた為、そこからは近くの森に降りて徒歩で移動する。しばらく歩いていると街道を挟んだ左右の森から人が出て来て私の前に立ちはだかる人が居た。

 

「はぁ……こりないのかしら? いや、違うか」

 

 流石にこんな所まで手の者が居るはずない。なんせ、馬車だと5日は掛かる場所だし。私の場合は空を飛んで直通ルートで速度を出して来ただけだし。

 

「金目の物を寄越しな!」

「いや、よく見たら上玉じゃねえか」

「おい、どう見ても子供だろ」

「それがいいんじゃねえか」

「まあ、そうだな」

「ちっ、このロリコン共め」

 

 吐き捨てながら、掌を向けようとして止めた。だって、普通に考えて街の近くに賊が出るなんておかしくない?

 

「あ? 観念したか?」

「そうね」

 

 ゆっくりと近付いて距離を縮めた後、一気に接近して殴りつける。

 

「ぐはっ!?」

 

 男は吹き飛んで街道をしばらく転がった先で止まった。

 

「なななななっ!?」

「相変わらず、人外ね」

 

 残りの男に裏拳を叩き込む。身長の差でお腹に命中して吹き飛んだ。もう一人は飛び上がって頭を掴んで地面に叩き付ける。

 

「ぎゃっ!?」

「うぎぃっ!?」

 

 幸い、握りつぶす事は無かったけれど力の加減が難しいわね。まあ、殺しても問題ないから実験台になって貰いましょうか。

 

「ば、化け物っ!?」

「化け物だっ、逃げろっ!!」

「失礼ね。私は化け物じゃなく、人間よ。……きっと、多分」

 

 自分でも自信が無いわ。だって、神霊でもあるし、魔王でもあるのだから。

 

「でも、逃がさない」

 

 少しして、山賊達の血で街道が赤く染まった。生きているのは多数居るけれど、死んでいるのも結構居る。でも、こいつらの魂は私が吸収して、聖痕を通して旦那様の軍団に入る。まあ、こんな雑魚は要らないかも知れないけれど有効活用出来るみたいだし。キャロルが魂は良い素材になるって言ってたし。

 

「さて、情報を吐いて貰いましょうか」

「たっ、助けてくれっ、俺達は雇われただけで……」

「そうだ。ここを一人で通る餓鬼を攫ってくれって言われただけで……」

「誰に?」

「それは……ドリーム商会だ!」

「なるほど。まあ、いいわ」

 

 とりあえず、生きている連中を縛り上げて残りの死体はどうしようかしら?

 

 

 

 

 

 

 


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