「俺を舐めるなぁ!」
ザンスパインの渾身の一撃を繊細なスラスター操作で避けると、伸びきった腕を脇で抑えシールドで殴り飛ばす。
「まだよ!」
殴られた直後にベアトリーチェは、サーベルをシールドの内側から貫き破壊する。
「くそが!」
しっかりと受け止められればツインバスターですら弾けるように施されたシールドを失ったユイトだが、手が空いた左手にサーベルを握らせ彼女の胴体に振るう。
「はぁ!」
ザンスパインの全周囲に展開したビームシールドがそれを防ぎ逸らさせる。
「全リミッター解除!」
《承認》
ツインバスターライフルの一撃はザンスパインの至近距離で発射、ビームシールドと光の翼で防御する彼女を包み込む。
リミッターを解除したツインバスターのビームは彼女の後方に居た部下たちを焼き払い、後方部隊も巻き込み艦隊にすら至った。
「なんだぁ!!」
艦隊中央に着弾したビームは海水と触れた瞬間、巨大な水蒸気爆発を起こし、近くに居た護衛艦を破壊する。
爆発の余波で艦は大きく揺れ、乗員たちからは悲鳴があがる。
「くっ…」
「流石は光の翼を持つ機体。持ちこたえたようだが」
装甲は少し焼け焦げて居るも機体自体は無事だが、先の攻撃を防ぐために機体を無理させたせいで、機体がオーバーヒートを起こしていた。
「部下も消えた、これで終わりだ…」
「……」
ツインバスターライフルからは蒸気が上がり、急速に冷却しているのが分かる。ライフルの起こす陽炎越しに見えるウイングゼロは悪魔そのものだった。
「っ!」
その瞬間、ユイトの元に無数の弾丸、ミサイル、砲弾が降り注いだ。サーベルを一薙ぎすることで全て落としたが、攻撃は続く。
「どこから」
発射元は国連艦隊と周囲にいたMS達だった。ツインバスターの威力を見せ付けられ、最優先目標を変更したのだろう。
「ちっ!」
「くぅ…」
ユイトは舌打ちをするとサーベルを投げ、ザンスパインの光の翼の発生機を破壊するとその場から退く。
「あのライフルだけでも破壊しろ!」
「MSが扱える火力じゃないぞ!」
ライフルを構えるウィンダムだったが、ユイトはそれを撃つ前に両断しライフルを奪う。
「なっ、いつの間に」
奪ったライフルで迫ってきていた5機のMSの頭部、胴体を撃ち抜き一瞬で撃墜すると、機体を加速させ撤退していくのだった。
「化け物が…」
「あんなのがまだ居るのかよ」
5秒の間に6機が撃墜された。見ている側からしてみれば瞬きしている間に前に居た味方機が根こそぎ墜とされたのだ。追いかけるどころか逃げだしたい気分だ。
「くそっ…」
先程の死角からの攻撃、それによってユイトは脇腹から血を流していた。内臓も少し持って行かれたかもしれない。サーベルの熱で傷口はほとんど塞がっているが、手痛い傷を負った。
「3番隊は俺と共に撤退開始。弾薬とエネルギー補給を急げ」
「「了解!」」
ユイトの言葉にドムやザクたちが撤退を始める。それを見たクリアたちだったが、撤退せずに交戦を続ける。
「クリア、フィーリア…」
「ユイトさん、ここでケジメをつけさせてください。お願いします」
「私もだ、コイツらとは決着を着けねばならんらしい」
「無茶はするなよ…」
「はい!」
「分かっている!」
2人との通信を終えたユイトは声を上げて指示を出し続ける。クリアとフィーリア、この2人の下した決断。それは隠れ潜んでいた大きな分岐点とは知らずに進んでいく。それがどのような結果をもたらすかはまだ分からない。
「ドロスを前に出せ、各隊はドロスと交代するように退け」
「「了解!」」
戦闘再開から2時間半、革命軍全隊が後退を開始。国連軍も前線のMS隊と後方のMS隊を交換して追撃を開始するが、そこに待ち受けていたのは分厚い対空砲の嵐だった。
「くそっ、分厚すぎる!」
「ぐぁ!」
本部の海岸線には停泊した空母と旧式の戦艦が並べられ、その対空砲が唸りを上げていた。当然、本部からの対空砲も凄まじく、近づけない状況だ。
しかし敵が退いてくれた今が敵基地に潜り込める好機、これを逃すことは出来なかった。海岸線には生き残った無人機や一部の有人機が防衛線を構築していたが、数の差ですり抜けた部隊が降下していた。
「これで当たんなかったら御の字だ!」
「怖ぇ…」
革命軍のMS隊の迎撃も加えた弾幕が、やっとの思いで辿り着いた国連軍をお出迎えする。
ジム・コマンドがビームに撃ち抜かれ爆散。バズーカ砲を持っていたジムが武器を撃ち抜かれ、誘爆を防ぐために投げる。
「お、降りられるのかよっ!」
緑豊かな大地から襲いかかる弾丸に肝を冷やしながら、部隊が次々と降下していく。
ーー
「状況は?」
氷嚢を頭に乗せたユイトが基地に帰還したカゲトの元に足を運ぶ。ナイトロやゼロシステムを使うと頭がオーバーヒート気味になるために、それを抑えるための処置である。
「ユイト、その傷…。対空砲とMS隊で足止めはしてるっすけど、時間の問題じゃないっすかね」
「そうか…」
カゲトは彼の怪我を見るが彼の顔を見てすぐに口を閉ざす。するとユイトは無線を開き、革命軍全隊に向けて声を発する。
「これより最終フェーズに移行する。本部のエネルギーを暴走させるためには多大な時間がかかる。諸君にはそれまでこの基地を防衛して欲しい」
研究所もそうだったが、本部の中にある技術力はオーバーテクノロジーばかり。MSでもあたふたしている世界には早すぎる代物ばかりだ。それを抹消させるための自爆を行うのだ。
「亡霊と成り果てた我々の姿を世界の奴らに刮目させろ!我らの怒りと悲しみに目を逸らさせてはならない。だが、旧世界の亡霊は我等が作り上げた新世界には必要ない。思う存分、怒れ、泣け、恨め、そして高笑いしろ!」
無線から流れる音声を聞きながら、戦闘を行う部隊たち、戦闘に向かう者達は自身の胸に渦巻く感情を見つめ直しながら彼の言葉に耳を傾ける。
「諸君ら最愛の家族、恋人、友人、同胞どもに話して聞かせる程度にはちょうど良いだろう。胸を張って聞かせてやれ、自分はその物語の主人公だと。自分はこの世界を造りあげたのだと!」
「我等の英雄譚を無能なる者共に見せ付けろ!そして歴史に刻み込め!我等亡霊はここにありと咆哮せよ!」
「「「うぉぉぉぉぉぉ!!」」」
大気が震えんばかりの雄叫びが戦場に木霊する。革命軍の兵たちは歓喜の涙で頬を濡らしながら喉が潰れんばかりの咆哮をあげたのだった。
ーー
「すまんがゼロの傷を塞いどいてくれ」
「クリアたちには…」
「アイツらは自分の意思でケジメをつけようとしている。余計な情報は要らない」
「あの二人はお前のことが何より大事だって知ってるくせに、それを言うんすか?」
カゲトが珍しく見せる恐い顔に対して、止血と痛み止めを打っていたユイトは怯むことなく答える。
「アイツらは俺の指示ではなく自分で決めて行動した。俺の言葉に反対したんだ。こんな成長を見せられて黙っていられるか。これをきっかけに俺無しで生きられるようになって欲しいんだが…」
ユイトにどっぷり依存している2人の見せた意思、それを尊重した彼。それを見て敵わないとみたカゲトは肩をすくめる。
「分かったすよ!本当にユイトは優しすぎるっすよ!」
怒ったようにゼロが置いてある奥の部屋に姿を隠すカゲト、彼の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
ーー
「しゃあ!取り付いたぞ!!」
その頃、国連軍が本部に取り付き始める。
「うわぁ!」
無事に地上に降りたったダガーだが、木の陰に隠れていたドムトローペンにヒートサーベルで両断される。
「我等の凱歌を見せ付けろ!」
「誇りある我等が総帥のために!」
「「「総帥のために!!」」」
壊滅しつつある革命軍の意思は強固で、誰も退こうとはしない。それぞれの想いの者達が集まった革命軍は、ユイトに魅せられ彼の望む世界を見たい。その一心で戦っているのだ。
ーー
島の周囲に立っていた塔が炎を上げながら倒れる。地上で伏せていたMSを巻き添えにして爆炎をあげる。自然豊かな島から炎が巻き上がり周りの木々を燃やしていく。
「来るなら来やがれ!」
ドムのジャイアントバズが降下してきたサーペントに直撃、バランスを崩して対空砲のビームに貫かれ墜落する。畑に落ちたサーペントは全身に満載した弾薬を引火させ派手に爆発する。押し潰され燃え盛る畑はもう使い物にならないだろう。
「1箇所に固まれ!着地を狙われてるぞ!」
シールドで身を隠しながら集結する国連軍。着地を狙わせないためにビームを撃ちまくる。
「敵が…」
次々と革命軍本部に上陸する国連軍を見て、クリアは思わず視線を動かす。
「はぁ!」
その隙を狙う刀奈だが、彼女はそれを難なく避けると剣を振るうがユイカによって防がれる。クリアの懸念は彼女だった、彼女は間違いなくユイトの妹。顔もそっくりだ。
「くそっ!」
傷つけるわけにも、ここを通すわけにもいかない。状況は差し迫っている。だからこそ今、彼女の姿を見せては駄目なのだ。
彼女自身を無力化させようにも他の2機が邪魔で上手く行かない。
「まったく、やりにくい…」
ーー
フィーリアのいた空域には、他の地点で展開していた親衛隊機が参戦し、援護にまわっていた。駆けつけたのはメリクリウスとヴァイエイト、城崎シュリ、シュン双子だったが…。
「フィーリアさん!」
「このぉ!」
「貰ったぁ!」
シャルの放ったビームマグナムをプラネイト・ディフェンサーで防ぐシュリだったが背後から接近してきたラウラに対応できずサーベルが直撃し真っ二つにされる。
「そんな、総帥。シュン!!」
「姉さん!」
「喰らいなさい!」
セシリアの一撃がヴァイエイトのビーム砲を破壊し一瞬で丸腰になる。その瞬間、サイレント・ゼフィルスのビットがビームを帯びた状態で突進、彼を貫いた。
「姉さん!!」
「シュン、シュリ!」
両親を奪われ2人で仲良く生きていた双子が爆炎に包まれた。フィーリアはそのことに歯嚙みしながらも周囲を見渡す。
「ラウラ!」
「一夏、私達は殺し合いをしているのだぞ。しっかりしろ!」
「でも」
普通、先程の2人の断末魔を聞かされたら動揺するだろうが、先程から最前線にいたラウラ、シャル、セシリア、鈴たち代表候補生組は動揺しない。これが戦争だからだ。
「主義も名誉も尊厳もない、こんなことは周りでも起きている!」
フィーリアの件とて、もしもの時の覚悟は出来ている。彼女が自らの意思で止めない以上、そうなってしまうだろう。
「はぁ!」
「くっ、ビット!」
フィーリアはセシリアのライフルを切り裂くと蹴り飛ばす。さらに接近してくるフィーリアを見てセシリアはシールドビットを展開させるが、彼女は超機動で背後に回ると背部ウイングに内蔵された電磁砲を撃ち放つ。
「きゃぁ!!」
サイレント・ゼフィルスに追加装備された外部エネルギーユニットに直撃し、派手に爆発する。
「このぉ!」
これ以上の追撃を行えないよう衝撃砲で牽制する鈴、その隙にラウラはアームド・アーマーVNを展開し振るう。それをとっさに剣で防ぐフィーリアだが、アームド・アーマーの超振動攻撃により剣に亀裂が入り砕ける。
「くそっ!」
「はぁ!」
剣を砕かれ少し後退した先には鈴が待っていた。彼女の大剣がバエルのウイングを切り裂き電磁砲を破壊する。徐々に武装がもがれ無力化されていく。
「私は負けられない、あの人の前では負けられないんだぁ!」
予備の剣を出し、再び双剣になったフィーリアは突っ込むのだった。