「定刻です、全艦発進」
「機動部隊を発進させろ!」
戦闘が一時的に終息してから二時間ほどが経過した後、国連軍は進撃を開始。再び戦端が開かれようとしていた。
その様子を世界中の人々は固唾を呑んで見守っている。先の戦闘で見せ付けられた生々しい戦闘映像は人々を引きつけその視線を逸らさせなかった。
人類は忘れかけていた戦争を再び思い出そうとしている。そんなことを知らずに画面の中では戦闘が始まろうとしていた。
「来たか…基地の退避状況は?」
「8割方、完了しています。あと少しですユイトさん」
「そうか、非戦闘員の脱出まで前線を押し上げる。各隊、我に続け!!」
「総帥に続けぇ!!」
「「「うおぉぉぉぉぉ!」」」
ユイトの言葉と共にフィーリアが声を上げると展開していた戦闘部隊全員から雄叫びが上がる。こういった盛り上げ所はフィーリアの領分だ。
ユイトのウイングゼロを先頭に親衛隊、攻撃部隊が続き国連軍の大軍勢と対峙する。
ーー
「革命軍の進撃を確認しました…これは」
「どうした?」
「敵部隊の先頭に例の総帥機が!!」
「なに!?」
流石の司令官もオペレーターの言葉に驚きを隠せない。ウイングゼロの他にもワンオフ機が多数見受けられる。これは敵も全力だ。
「あれはウイングゼロ!」
「態々、敵の大将が出てきたよ!」
それを確認していたのは艦隊だけではない。出撃したMS隊たちもだ。ウイングゼロの隣にはバエルの姿も見受けられる。
「フィーリア…」
「全機、乱数回避!!」
一夏の呟きは怒号を放った光一の声に塗り潰される。ユイトがツインバスターライフルを抜いたからだ。
彼の言葉に球を弾いたように動き始める部隊、だが少しだけ遅かった。
「行くぞ…」
ユイトはツインバスターライフルの引き金を引きビームを発射する。膨れあがったビームが攻撃部隊を呑み込み一瞬で破壊していく。
「なんだありゃぁ!?」
「一発で2個中隊が消えた…」
「他にも一杯いるよ!」
唖然とする部隊を守るようにヘンリーはグマシスライフルを敵中に向けて撃つがビームを曲げられ逸らされる。
「本気を出すか!」
「悲しいですわね」
フォビドゥン、レイダー、カラミティがそれぞれの武装を構えながらヘンリーのAGE-3と対峙する。
「物事がかなりシンプルになった。敵の大将機さえ倒せば後はどうにでもなる、最優先目標だ!」
「そう簡単には行かせないよ!」
攻撃を開始しようとしたサーペントを一刀のもとに斬り捨てたフィーリアは次のMSを手にかけようとする。
「フィーリア!」
「箒!?」
それを妨げたのは箒だった。箒は体当たりするとそのままフィーリアを他の場所に押し出していく。それを見たシャルや一夏たちがその後を追いかける。
「フィーリア!この反応は…キマリス・ヴィタール」
連れて行かれたフィーリアに気を取られたユイトら正面から高速で接近してくる機体に気づく。国連軍所属のエイハブ反応はあの1機しかない。
「ユイト…」
「刀奈か…」
ユイトはムラマサを取り出すとドリルランスを構えながら突っ込んでくるキマリスをいなす。
「貴方がどれほどの覚悟でここに立っているのかは計り知れない。でもユミエさんの為にもこの世界のためにも私は貴方を殺させない!」
「刀奈、お前ならその行為がどれほど無駄で無謀な事かは分かっているだろう」
「ごめんなさい、また建前を使ってしまったわ。家も立場も関係ない!私は私として貴方を愛している更識刀奈のわがままよ!」
「よく言った。お前はもう少し自分を出した方が美しい」
「な!///」
なにかサラッと凄いことを言ってしまったような気がする。ほとんど無意識に放った言葉だった、混ざった方のユイトがまた顔を出したのだろう。
(この世界の俺はたらしだったのか…)
ものすごくどうでも良い事に気づいたユイトだったがレーダーに例のザンスパインの部隊が映った。
「相手をしてやりたいが先約がある」
「ここは私に任せろ!」
「任せた!」
実体剣を持ちながら駆けつけたクリアは楯無を蹴り飛ばすとバルカンを撃つ。ウイングゼロはその場から離脱し目標としている部隊に向かう。
「分かっているでしょう、このままじゃ皆死んでしまう!貴方もユイトも!」
「私の願いはただ一つ、ユイトが作り出す世界の道となること。それで死ねるならそれは本望というもの!!」
クリアと刀奈、同じ男を愛している者同士が激しくぶつかり合う。
「人の生き死にはそんなに簡単なものじゃない!」
刀奈は強い、それは自他ともに認められる事だろう、だがクリアはものが違う。生と死の混沌を歩み続けた彼女はそれすら凌駕する実力を持っている。
「ユイトの何かは知らないが容赦はしない」
クリアはシールドに装備してあった炸裂ボルトを展開、刀奈に喰らわせんとするが背後のシールドがそれを防ぐ。ゼロ距離による複合的な爆発に吹き飛ばされると目の前には剣を振りかぶったクリアの姿があった。
「こんなに差があるなんて…」
「刀奈さん!」
「お姉ちゃん!」
ユイカの蜻蛉切りがクリアに一撃を逸らせると簪のミサイル群が彼女に追撃を咥える。
「時間稼ぎにもならん!」
クリアはマシンキャノンとバルカンで全てを撃ち落とし駆けつけた2人を睨みつける。
ーー
「例の部隊だ。総帥に報告しろ、時間を稼ぐ!」
「了解!」
ザンスパインを中心にゾロアットなどで構成されている部隊を発見したのは革命軍の精鋭部隊。
「隊長、敵部隊が…」
「そうね…私を楽しませてくれるのかしら」
ゆったりと色気のある声とは裏腹にザンスパインは加速し先頭にいるザクⅢ2機に接近する。
「来るぞ!」
「ぐっ!」
ベアトリーチェはザクⅢのライフルを狙撃すると光の翼で一瞬にして葬る。だがその1機はシールドを構えなんとか耐えていた。
「あら、流石は精鋭といったところかしら。これを耐えるなんて」
「理念無き者に分かるまい。それに任務は済んだ」
「なに?」
「さあ、潮時だ。泥棒」
「はっ!!」
太陽を背にして斬り掛かったのはユイト、太陽を背にしかも死角からの一撃を難なく耐える彼女だが次の瞬間には蹴り飛ばされていた。
「あの時は本気じゃなかったって訳ね!」
「たい…」
押されているベアトリーチェを見てゾロアットが攻撃をしようとするがその瞬間、ユイトが飛ばしたサーベルが頭に突き刺さっていた。
彼は早速潰したゾロアットを足場にするとサーベルを抜きながら踏み台にする。ザンスパインのサーベルが横薙ぎにはらわれやられた機体をさらに細切れにする。
「死んだとは言え部下だろう。大事にしたらどうだ?」
「貴方が盾にしたんでしょう?」
「確かにそれはそうだ!」
互いにサーベルだけを使い何合も何合も打ち合う。それは他人が入れる領域ではなかった。
「隊長は分かっていたけど、相手も化け物ね」
「何を今更、こんな状況を作り出した首魁だぞ。化け物じゃない訳がない」
周囲が2人の戦いに圧倒されているを知らずに2人は打ち合いを続ける。ユイトもベアトリーチェも幾度の修羅場を潜ってきたがこれほどの戦いは初めてだったかもしれない。
「滾るわねぇ…」
「あぁ、なら俺も1人の兵として戦わせて貰おうか!」
互いの顔こそ見えないが獰猛な笑みを浮かべているだろうというのは想像がつく。ウイングゼロは各間接部から蒼い炎をザンスパインは光の翼を展開し加速し再びぶつかり合うのだった。