「ビルゴには強力な電磁バリアがついています。正面から火力で突破できるほど柔じゃない。倒すには接近戦しかありません」
「そもそも近づけるのか!」
「近づけなければ全滅します」
「くそったれ!」
日本のパイロットのほとんどは楠木のおかけでISからMSに転向している者達ばかりだ。日本の正式採用機は打鉄、自然と日本勢は接近戦が強いのだ。
「ビルゴ自体の装甲もかなり頑丈です。生半可な攻撃だと弾かれますよ」
「なんて化け物を作ってるんだ革命軍は!?」
エアマスターを駆る小原の説明を聞きながら思わず悪態をつく部隊員。
圧倒的な火力、なんでも弾くバリアに堅牢な装甲。しかもそれがワラワラと目の前に広がっている。愚痴でも言わねば気が滅入りそうだ。
対ビルゴとして編成された部隊。光一を指揮官として打鉄が4機、ジェガン7機、ジェスタ3機、エアマスターに千冬の明桜もそこに編成されていた。
「とにかくここを突破しなければ革命軍には届かない。無人機相手に止まっている時間などない」
「そうですね」
千冬の言葉に全員が息を飲み覚悟を決める。どっちにしろ戦場に身を投じてしまったのだ、なら生きるか死ぬかの選択しかない。
「相手の戦線に穴を開ければ後は数で押し込めます」
「敵機接近!」
戦闘域に入った部隊は味方の戦線から突破してきたジンハイマニューバ2型を含むMS隊がこちらに向かっていた。
「私が…」
「貴方は行ってくださいブリュンヒルデ。ここは私たちが!」
千冬はこの作戦の要、彼女にビルゴ隊以外でのエネルギー消耗はして欲しくない。
打鉄2機とジェガン1機が隊列から離れ迎撃に向かう、イギリス、フランス軍を突破してきたMSたちは3機と戦闘を開始する。
「くっ…」
「いた、ビルゴだ!」
「…酷い」
黒いビルゴたちの周りからは爆発炎が絶え間なく起き続けている。戦闘というより蹂躙という表現の方がしっくりくるだろう。
「千冬さん、援護します。全力で突破してください!」
「分かった!」
接近してきたガザDを撃ち落とした光一はひたすら前進する千冬を全力で援護する。
「はぁぁ!」
ビルゴのビームを零落白夜で相殺すると機体を全力でブースト。ビルゴのプラネット・ディフェンサーと干渉し激しく火花が散る。
一瞬の拮抗の後、千冬の銀花がビルゴのカメラを貫く。
「やった!」
「……」
周囲が喚起を上げる中、千冬は銀花の刃を返し真っ二つに切り裂いた。
「千冬さん、右!」
「くっ!」
喜びも束の間、ビルゴが彼女を討たんと砲口を向けている。千冬は大型太刀《白雷》を展開、重い重心の白雷を遠心力の力と合わせて振るい、ビルゴをバリアごと切り裂いた。
「開いたぁ!」
「うおぉぉぉ!」
光一も負けじとエアマスターで特攻、体当たりでバリアを突破しカメラにライフルを突っ込んで撃ちまくる。内部から爆散するビルゴを横目に叫び、他の隊も咆哮を上げて空いた穴に突っ込む。
主戦場であるNフィールド、そこの防壁がついに破れ、国連軍が流れ込んでいく。流れが来ている、行けると兵たちは息巻きながら進んでいく。
「よし、このまま勢いに乗せさせて貰おう。織斑君」
「は、はい!」
空母の甲板に乗せられたやけにデカいMS、そのパイロットである一夏は橘少将の声に驚きながらも返事をする。
「本当に大丈夫なのか?」
「たぶん」
「たぶんとはなんだ!」
カタパルトに乗っかっている機体はフルアーマーユニコーン。転生者である光一の案の元、オーストラリアで改修された姿である。
その背中には箒の赤椿が乗っており本人は不安な表情を浮かべている。
「敵の防衛線が崩れました。貴方はその機体の突進力で穴から突入、敵の第二防衛線を攪乱して千冬さんの部隊と合流してください。私も随伴しますが推力は貴方の方が上です、私が居なくなっても気にしないでください」
「わかりました」
ガンダムXディバイダーを纏っているアリエスは作戦の説明を再度行うとブリッジに合図を出す。
「いいですね、2人とも千冬さんと合流してくださいね!」
「「はい!」」
2人の返事と共に機体が射出されフルアーマーユニコーンはとんでもないスピードで加速し一瞬でディバイダーを突き放し戦闘域に入っていくのだった。
ーー
「よし、このまま敵の防衛…」
先行していた千冬の部隊、その打鉄が横合いからのビームにさらされ消し炭となってしまう。
「新手か!」
銀花を構えビームの発射地点を見た千冬は表情を一変させる。そこにいたのは赤と白の2色に彩られたキャノンタイプ、その機体の両腕からは赤い粒子が放出されている。
「はっはは!ここは通さねぇ!」
「あの時のパイロットか…遠距離仕様に変えたようだがそれで私に勝つつもりか?」
「今回は俺じゃねぇ」
接近戦は不利だと悟り、遠距離型に転換したのは誤った選択だ。接近さえしてしまえばこちらに分がある。
「千冬さん、その機体は!…っ!」
リボーンズキャノンの事を知らせようと叫ぶ光一だが急速に接近してきたアッシマーに殴り飛ばされその叫びを消されてしまう。
「今回の相手はこの私だぁ。織斑千冬!」
「なに!?」
ドラグーンを展開しオールレンジ攻撃を行う。プロヴィデンスを纏ったマドカは千冬に接近するとサーベルを振るうのだった。
「革命軍の有人機部隊だ!」
「各機、ビルゴはまだ健在だ。第三防衛線まで押し返し敵を殲滅するぞ!」
「「了解!」」
「手強い!」
MSの扱いに関しては革命軍の方が手慣れている上に性能も向こうの方が上だ。まだ第三防衛線を突破した国連軍が少ない状況では圧倒的に不利だった。
「雑魚め、この程度の数で防衛線を突破できると思うなよ!」
マラサイのフェンダーライフルがウィンダムを貫き爆散させる。他の国連軍も反撃に出るが相手に当たらない。
「国連軍といっても数を抑えれば…」
「小隊長、敵の1機が急速に接近中!」
「なに!?」
急速に接近するフルアーマーユニコーンは目の前にいたビルゴを体当たりで跳ね飛ばし、そのまま第二防衛線まで到達する。
「一夏、今だ!」
「いけぇ!」
加速を止めない一夏は全身に備えられたミサイルポッドからミサイルを吐き出すと、両腕のシールドに内蔵されたビームガトリングを乱射する。
「なんだあのハリネズミは!?」
ミサイルを撃ち落とし、エネルギー弾を避けながらも突如出現したユニコーンに戸惑いを隠せない革命軍機。
「このまま千冬姉と合流する!」
相手は手練れ、速度を緩めたら囲まれて蜂の巣にされてしまう。なら選択肢は一つしかない。この速度を維持したまま、千冬姉のいる部隊と合流するしかない。
「織斑一夏か…」
「箒、離れろ!」
「くっ!」
突如、全方位からビームが襲い、一夏を狙う。
「これは!」
一夏はミサイルを再度斉射するも、そのミサイルはドラグーンの張ったビームによって全て叩き落とされた。
「織斑一夏、俺が相手してやるぜ」
「くっ!」
そこに現れたリボーンズキャノン、それに掴まれ取っ組み合いになる一夏だが、キャノンのパワーに気圧され、徐々に押され始める。
「織斑君!」
「一夏さん!」
「一夏!」
駆けつけたセシリアはスターブレイカーを最大出力で発射するもシールドに防がれる。
「あれはリボーンズガンダムか!?」
「相手はキャノンタイプ、接近さえすれば!」
「駄目だ、シャルロットさん!」
「え…」
フェネクスの急加速によって接近したシャルだがそれはリョウの思惑通り。サーベルを抜き、背後に回ったのは懸命な判断だといえるが、このリボーンズガンダムに関してはそれは悪手だった。
「こうなってるんだな!」
「なっ!」
敵のキャノンタイプが変形し背後が正面に変わり、立派な人型へと姿を変える。すぐさま、サーベルを抜き放ち振るうリョウ。
「やられる…」
その瞬間、シャルの視界はやけにスローになり最愛の父と親友の顔が頭に浮かぶ。
(僕はまだお父さんを…フィーリアにも聞きたいことがあるんだ。死ぬわけにはいかない!)
彼女の覚悟に答えるかのようにデストロイモードを発動するフェネクス。それによって得た超人的反応速度でシールドを展開しなんとか防ぐ。
「はっ、やるじゃねぇか!」
「ここで奴を抑えるぞ!」
「「はい!」」
イルフリーデ、セシリア、シャルは圧倒的な存在感を誇るリョウに対峙し息を飲み覚悟を決めるのだった。
ーー
「こんな事をして…これが望みなのか!」
「私だけではない、これは人の夢、人の望み、人の業!」
各国軍基地を崩壊させ、篠ノ之束の暗殺、IS学園の破壊、サイクロプスによる大量殺戮。こんな事が本当に革命軍のやりたかったことなのか。
「他者より強く、他者より先へ、他者より上へ!」
プロヴィデンスのサーベルと千冬の銀花がぶつかり合い、激しく鍔迫り合う。彼女のサーベルのみ対零落白夜用の特殊なビームサーベルで刃が消えることはない。
「競い、妬み、憎んで、滅ぼしあう!」
「お前は…」
ISによって生み出された女尊男卑、その世界のことを吐き捨てるようにマドカは言葉を重ねる。だがそれは元々の世界のありようなのだ、それが女尊男卑によって見やすくなっただけだ。
「違う、人間は…」
「私はその結果だ、だから知る!強さを求めた者達の負の遺産。織斑千冬、お前のクローンである私がなぁ!」
革命軍のほとんどは女尊男卑に対し恨みを持っている連中ばかりだ、だがマドカを含む者達は男も女も関係なく、この世界そのものに恨みを持っている。
クリアもフィーリアもカリナも恨みを持つ者達の一人だ。
「腐りきった奴らには分かるはずがい。私達の憤りがぁ!」
革命軍は同じ境遇の人たちが多く居た、それ故に怨もう、怒ろう、悲嘆しよう。この世界に自分たちの居場所はない、だが戦場では私達が主役だ。
一夏の方へと向かっていたドラグーンが帰投し計43門のビームが彼女に襲いかかる。
「くそっ!」
「あぁ!」
流石の弾幕に避けの一手の千冬だが、周囲にいた国連軍がその弾幕に呑み込まれ撃墜されていく。
(私のクローンだと…)
優秀な遺伝子だからといっても、本人のあずかり知らぬ所で勝手にクローンを作っていたとは。革命軍はこんな奴らを相手にばかりやり合っていたのかと思うと複雑な気分になる。
「本当にやり切れない。こんなことばかり聞かせられたら本当に分からなくなってしまうな!」
千冬は白雷を展開させ、出力を上げると大上段に構えて振るう。白雷から発生した斬撃波がビームの弾幕を切り裂き道を開かせる。
すると素早く銀花を展開し一気に加速させ接近する。
「はあぁぁぁ!」
「でやぁぁぁ!」
プロヴィデンスの大型ビームサーベルと明桜の銀花が再び激しくぶつかり合うのだった。