IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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第七十三革 決戦前

 

 

 太平洋のど真ん中。そこに国連艦隊が集結し遥か先に存在する革命軍本部を見据える。

 

「我が艦隊は敵本部を包囲しつつMS隊による攻撃を行う。各隊は作戦命令書に従い行動せよ。我らの本命は革命軍本部、南側。以後Sフィールド北側。以後Nフィールドと呼称する」

 

ーー

 

 革命軍本部からは既に空母が出撃しており本部の四方を守るように展開している。北には束の研究所《以後ドロスと呼称》、南にはレウルーラ、西にはグワダン、東にはサラダーンが臨戦態勢で待ち構えている。

 

「ハルトの予想通りだな、敵は南と北側から来るぞ」

 

「流石は世界最高の頭脳ってわけか」

 

「当たり前だ、革命軍の参謀なんだからな」

 

「確かに、頼りになるね」

 

「そうっすね」

 

 本部の司令部にはユイト、リョウ、ハルト、ケイ、カゲトの5人が全員揃っており目の前にある巨大モニター越しに敵艦隊を見つめていた。

 現在は現地時間深夜の2時ほどで辺りは暗闇に包まれている。恐らく向こうは日の出と共に攻撃するつもりだろう。

 

ーー

 

「作戦開始時刻は夜明けの5時31分とするそれまで各員は十分に休息を取るように」

 

 各国指揮官たちは総司令官の話を聞き終えるとそれぞれの指揮する艦に戻っていくのだった。

 

「少佐」

 

「准尉か…今回は私の直衛だそうだな」

 

「はい、少佐よりMSの扱いは慣れてますから」

 

 ドイツ軍においてラウラとクロイは珍しく同い年、IS学園崩壊後、国に帰還したラウラが最も親しくしていた人物といえる。

 

「このバンシィ、何度も訓練を重ねたが機体に振り回されているのが自分でもよく分かる。果たしてこんなので大丈夫なのか…」

 

「バンシィは普通のMSとは違います。信じて上げれば自然と馴染んでくれますよ少佐」

 

 黒と金で彩られた機体は確かに他とは違いブラックボックスが多い、特に全身に使われているサイコフレームと呼ばれる装甲は特にだ。

 

「ラウラで良いぞ。クロイ」

 

「え…。はい、ラウラ」

 

「まぁいい…」

 

「えらく仲良くなったなぁ。クロイ、ラウラ」

 

「大佐!」

 

 そんな2人の背中を見ていたフォルガーはタバコに火をつけながら歩み寄ってきた。

 

「夜明けには作戦開始だ。1時間でも寝ておけ」

 

「「はっ!」」

 

 2人は敬礼をしながらその場を去り、フォルガーは1人でタバコをふかすのだった。

 

ーー

 

「寝られないのかセシリア?」

 

「はい、あの赤い粒子を放つ機体。私はあの機体を倒したい」

 

 他の艦の照明に照らされかろうじて見える海面を見つめていたセシリアは握っていた手を強く握りしめる。

 

「親の仇か」

 

「はい、それに下関さんの仇も」

 

《自分の両親を誇りに思いなさい》

 

 自身の記憶の中では両親が仲良かった時はない。だから最期の時、両親が2人一緒に居たのが不思議でならなかった。もし生きていたなら3人で笑いあいながら生きられていたかもしれないというのに…。

 

「あぁ、絶対に倒そう。私も手伝う」

 

「イルフリーデさん…はい!」

 

 堅く手を握り締める2人、それをゴルドウィンは静かに、優しく聞き届けその場を黙って去るのだった。

 

ーー

 

「ちょっと良いか?」

 

「千冬姉…」

 

 空母の食道でボーッとしていた一夏を見つけた千冬は飲み物を渡し隣に静かに座る。

 

「もう寝ていろ。大変だぞ」

 

「眠れないよ」

 

《わがままは自分じゃない。周りの人たちを殺すんだよ。一夏はそれが分かってない》

 

 思い出されるのはフィーリアの言葉、恐らく彼女が敵に回った事は2度と忘れないだろう。

 

「なぜ戦いに参加したんだ。お前には安全なところにいて欲しかった」

 

「ありがとう千冬姉。でも行かなきゃいけないと思ったんだ。」

 

《織斑一夏、お前の物差しでは世界は測れない。お前の思う幸せが全ての人間の幸せではない。戦いでも存在価値を見いだす者も、命を賭す事で生を実感する人もいる。価値観は人それぞれなんだよ。お前はそれが分かっていない。自分の考えが正しいと勘違いしている。可哀想に…》

 

 捕らえられていた時、世界の裏側の一端を見せ付けられた。自分の常識が通用しない世界があの時には広がっていたのだ。

 あの時はなにも考えられなかったが時間が空いた今なら分かる気がする、でも…。

 

「でもたくさんの人を巻き込んで、殺して、陥れる。そんな事が正義じゃいけないんだよ」

 

「そうだな。正直、私にも分からない。教師としてはその正義を迷いなく肯定する。だが、私自身としてはよく分からない」

 

「千冬姉…」

 

「人道としては許されない行為だがそれでも奴らは揺るぎない信念の元世界を変えようとしてる。それを無下にすることは出来ないさ」

 

 何度も剣を交えて分かる。奴らの剣筋には迷いがなかった。革命軍のトップ連中だけでは無い革命軍の一兵、一兵まで迷いなく戦っているのがよく分かる。

 

「正義って一体何なのだろうね」

 

「全員が納得できる答を言える奴なんて居ないだろうさ」

 

ーー

 

「ユイト…」

 

「刀奈さん」

 

「お姉ちゃん」

 

 今にも泣きそうな刀奈は心配になって来てくれた二人に対して振り向かずにそのまま話す。

 

「結局、ろくに話も出来ないままになっちゃったわね」

 

「まだ話せますよ。これが最期のチャンスになるかもしれませんが」

 

「そうだよ、私たち3人は昔から支え合って来たんだから」

 

「ありがと、簪ちゃん…」

 

 姉妹の垣根ももはや関係ない。今回のことで知れた、自身の姉も人間であると、今はそれだけでいい。

 3人は強く抱きしめ合いながら覚悟を決めるのだった。

 

ーー

 

「全く、死んで生き残ったのに前世より人生ハードモードなんだけど」

 

「仕方ないさ、世界のバランスとやらを取らされた結果だからな」

 

「俺たちが一番、強力なMSを持ってるんだ仕事はしないとね」

 

 日本艦のブリッジにはヘンリー、ティルミナ、光一の3人、転生組が仲良く話していた。

 

「結局、向こうの思惑は分からなかったなぁ」

 

「これはカンなんだけど、この状況も向こうの思惑通りじゃないのかって思うんだ」

 

「この状況もか…」

 

 光一の考えに他の2人は興味深く耳を傾ける。

 

「MSのデータが簡単に流出しすぎなんだよ。ラサ基地もなんで研究所みたいに吹き飛ばさなかったんだろう」

 

「確かに…」

 

「向こうの最終目的が分からない以上、こっちはずっと向こうの掌の上なのかも…」

 

「……」

 

 光一の推測に2人は思わず言葉を無くすのだった。

 

ーー

 

―軍人として、人として戦い抜くと決めた者。

 

―親の仇を討たんとする者。

 

―今だに迷い続ける者。

 

―最愛の人を、その気持ちを知りたい者。

 

「お父さん…」

 

―最愛の親を救わんと覚悟を決める者。

 

 様々な思いが交錯する中、戦いが始まるのだった。

 

ーー

 

「時間合わせ、どうぞ…3、2、1…。作戦開始です」

 

「総員、第一次戦闘態勢!」

 

 革命軍と国連軍との戦いがついに幕開くのだった。

 

 


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