IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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第七十二革 ひたすら前へ

 兵器とは端的に言えば戦いの際に使う道具である。だが兵器の全てが人を殺す、傷つけるために作られたものではない。未知なる宇宙における活動領域を拡大させるためにISが開発された。だがISの手には銃や剣が握られた。

 レアメタル採掘用の器材、レアメタルの混ざった氷を融解させるための装置のはずだったサイクロプス。それが大量破壊兵器として使われたのは必然だったのかもしれない。

 

「あぁ、うわぁぁ!」

 

「かぁかがぁぁぁ!」

 

 研究所の地下に仕掛けてあったサイクロプスは強力なマイクロ波を発生させ、巻き込まれた人間の体内にあった水分を蒸発させ破裂させる。MSに搭載されていた弾薬、エネルギーパックすら加熱、破壊し逃げ遅れた部隊を容赦なく巻き込んでいく。

 

「こ、これは!」

 

「なんだこれは…」

 

 味方の識別反応が一瞬にしてSIGNALLOSTと言う文字の波に呑み込まれていく。

 

「逃げろぉ!」

 

「これが准尉の言っていたサイクロプスか!」

 

 後ろから迫る死の波に、生き残った者達は必死に逃げる。思考を停止させ、ただ前に進むことだけを考える。

 

「ぐわぁ!」

 

「掴まれ!」

 

 マイクロ波の余波でウィンダムのジェットストライカーが爆発、機動能力を極端に低下したウィンダムの手を一夏は掴み、機体をさらに加速させる。

 

「た、助けてくれぇ!」

 

「う、おぇぇ…」

 

 助けを求め、絶叫するジムⅢ。その声に反応し振り向いた箒は壮絶な光景を見てしまった。先程のジムⅢの緑色のバイザーが内側から真っ赤に染まり装甲の各所から血と肉が溢れ出す。

 ホラー映画すら逃げだしてしまうような光景、それが視界の隅から隅まで広がり視界が真っ赤になっている。そんな光景を見せられて平気なはずがなく、箒は思わず胃の内容物を吐き出す。

 

 この瞬間、国連軍の被害は一割にも満たない40ほどから攻撃隊の約八割、1700機ほどにまで跳ね上がったのだった。

 

 その後、研究所から直径10キロが溶鉱炉と成り果て研究所にあった革命軍の情報と共に燃え尽きたのだった。

 

ーーーー

 

「被害情報の詳細をすぐに調べ上げろ!」

 

「おい、死ぬんじゃないぞ!」

 

「バイタル低下、衛生兵はまだか!」

 

「駄目だ、手が足りない!かじった奴でも良いから手伝え!」

 

 生存者の半分以上も傷だらけで帰還し阿鼻叫喚の光景を生み出していた。

 

「一夏、もう駄目だ…」

 

「くそっ!」

 

 一夏が助けたウィンダムのパイロットは既に息絶えてしまった。それを見届けた千冬はそのパイロットの目を閉じる。

 箒は先程から吐き気が収まらず空母の端で突っ伏している。人が一瞬でミンチになったのを見てしまったのだ。当たり前の反応だろう。

 

「こんな事して、本当にどうしようって言うんだ」

 

 革命軍に捕まった時に目にし耳にした出来事や言葉は頭では理解できる。でも、やはり心では理解できない。

 フィーリアはまっとうな価値観を持った人物だった、そんな彼女がいる革命軍。いくらなんでもこれはやり過ぎだ。

 

「フィーリア…」

 

 これが君の正義なのか…。

 

ーー

 

 この惨劇はその様子を見守っていた報道陣によって写されたが、ほとんどが規制されて画面に映ることはなかった。しかしネットに拡散され、多くの人々がそれを目にした。

 そして、それを目にしたものは改めて感じさせられた。自分たちの世界でこれほどのおぞましい戦争が起きていることを…。

 

ーー

 

「第一次、第二次攻撃隊の八割がやられたか…」

 

「敵は研究所に進行したのを知っていた。敵に通じてる奴が居るのではないのか?」

 

「まさか、現にこうして被害が」

 

「なぁ、フォルガー大佐」

 

 どこの国かは知らないがフォルガーに食いついてくる指揮官を横目に、彼女はやれやれと言った風に肩をすくめる。

 

「俺を疑うのはいいが、俺はなんもやってねぇよ」

 

「だがな…」

 

「俺は忠告したはずだぜ。それに素直に従ってりゃ、こんな被害を被る必要はなかった。現にイギリスとか日本は無事だっただろうが」

 

「しかし…」

 

「もういい…。肝心なのは、次の攻撃に向けて我々は多くの損害を被ってしまったことだ」

 

 フォルガーの言に何か言いたげの指揮官だったが、総司令官はそれを遮り言葉を続ける。

 

「ここで数を減らしにかかったということは、奴らは本部で待ち受けている。文字通り、我々は世界を分ける戦いに赴く事となったのだ」

 

「編成はどうするのですか?」

 

「編成はそのまま、残存の部隊は第三次攻撃隊に編入。攻撃隊番号は消滅した分だけ繰り上げとする」

 

 ここでの大損害で浮き足立っては向こうの思うつぼだ。このまま予定通り進行して一気に叩く。

 

「作戦に変わりは無い。補給と整備を終えたらすぐに出発だ」

 

 甘く見ていないつもりだった。だが奴らはその予測のさらに上に行って来たのだ。本部における戦闘は何が起きるか分からない。その事実を改めて感じさせられたのだった。

 

ーー

 

「国連はすぐに行動を開始するわ。この本部も数日以内には包囲されて戦闘が起きるでしょうね」

 

「何が言いたいんだ女神。さっさと死ねって言いたいのか?」

 

「違うわよ…」

 

 革命軍本部、最下層。そこには百式、キュベレイ、ジ・Oが戦闘を繰り広げたグリプスⅡ内部のような光景が広がっていた。

 光り輝く塔が何十も乱立している光景は、一種の不気味さを感じさせる。

 

「たぶん、次会うときは生きてないでしょうから。一言、礼を言おうと思ってね」

 

「確かに、死んだらあの世でお前と会うだろうし、奇跡的に生き残っても使命を果たした俺に会う必要がないからな」

 

 ユイトは女神と話しながらコンソールを操作する。コロニーレーザー内部に似せてあるが、この施設はそう言った目的で作られていない。これは革命軍本部の電力を生成、蓄積、供給する施設なのだ。

 

「目的は成就された。貴方たちは私の与えた試練を乗り越えてここまで辿り着いたわ。おめでとう」

 

「最初にぶっ込んできた女神が礼を言うとはな」

 

《面倒くさいから単刀直入に言うわね。貴方たちに世界を救って貰いたいの…》

 

 あの言葉をユイトは一度も忘れることはない。

 

「まさか、ISが世界を支配した先に人類が滅びの危機に瀕するとはな。国、宗教などで起きる戦争ではなく。ISが原因による男と女の戦争によって世界が危機に陥る」

 

 実際に各国軍隊では大規模な軍事クーデターが企画されていた。

 MSが世に広まってから軍事クーデターが勃発、その後、迅速に終息したのはその計画にMSという戦力が加わったからである。

 男と女、その差によって発生する戦争など起こしてはならない。こればかりはどちらかが全てを滅ぼしてというバカなことをしてしまえば人類は滅亡する。

 

「世界には見えない傷が付き膿がたまっていく。今回のISにより発生した極端な男尊女卑がそれよ。膿は定期的に排出していかねばならないからね」

 

「そのために俺らか、神がそんなに世界に介入して良いのか。その言い回しだと篠ノ之束が膿ということになるが」

 

「いえ、彼女はあくまで原因に過ぎないわ。正直、私にとってはこの世界が男尊女卑だろうが女尊男卑だろうがどうでもいい。その他の差別もいざこざも人類が結果的に存続していれば良いのよ。私は人類の管理者だからね」

 

 酷いことを言っているのか合理的な事を言っているのかよく分からないが、それが人類の管理者たる女神の考えなのだろう。

 

「まぁいい。契約は既に果たしたも同然だ。女神、一つ頼みがあるんだが」

 

「いいわよ、相当変な内容じゃなかったらね」

 

ーーーー

 

「やはりここでしたか、クリアさん」

 

「む、フィーリアか」

 

 革命軍本部、野菜畑。そこで実った野菜を収穫していたクリアを見つけたフィーリアは歩み寄り話しかけた。

 

「手伝いますよ」

 

 隣で野菜の収穫を手伝い始めるフィーリア。革命軍発足以来、情報長のケイが趣味で使っていた畑。その畑も敵が来れば焼き払われてしまうだろう。

 

「懐かしいですね。私達が畑の世話をしていた時」

 

「そうだな、ユイトも一緒にクワを持って土いじりをしていたな」

 

 心の保養のために畑作業をしていた時が懐かしい。

 

「あの織斑といった阿呆だが良かったのか?友達だったのだろう?」

 

「えぇ、やはり気になりますか?」

 

「あぁ、織斑千冬、篠ノ之束という後ろ盾があったことでこの世で最も甘やかされた男。そんな男をなぜユイトは気にかけるのか…」

 

「彼って頭を使えないほど追いつめられたりすると、とんでもない力を発揮するんですよ。」

 

「火事場の馬鹿力じゃないのか?」

 

「そうですね、でもそんな人が揺るぎない信念を持ったら凄く強くなると思うんですよ」

 

 フィーリアの突然の裏切りから連続的に衝撃的な真実を見せ付けられても頭が追いつかないだけだ。だがそれをどう思い腹を決めるのかは本人次第だが…。

 

「まぁ、相手が誰であろうとやることは変わりません。親衛隊として全力でユイトさんを護るだけです」

 

「そうだな…」

 

 次回、ついに最終決戦が幕を開く。

 

 


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