IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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第六十七革 幸福の定義

 

 

 

「…刀奈」

 

 ほんの少しだけ実感のない感傷に浸っていたユイトは1人、そう呟くと鋭くした視線を後ろに向ける。

 

「またアンタと会うとはな」

 

「久しぶりね…ユイト。我慢できなくて会いに来てしまったわ」

 

 ユイトの背後から姿を現したのはスコール・ミューゼル。男女問わず目を止めてしまうような美貌を持った彼女は色気を含んだ声色で彼の名を呼んだ。

 

「俺は二度と会いたくなかったよ」

 

「そう…随分と男前になったじゃない。似合ってるわよ、その火傷」

 

「……」

 

 彼女につけられた火傷の痕を指摘されユイトは思わず眉を僅かに動かすが何も言わない。それを見た彼女は銃口を静かに向ける。それに対してユイトは袖口からナイフを取り出す。

 

「相変わらず生身で銃は握れないのね」

 

「……」

 

「やはり脳天を撃ち抜かれたって話は嘘ではないのかしらね?」

 

「よく調べたな」

 

あきらかに不機嫌になった彼を見て彼女は満足したのか自身のISを展開する。

 

「随分と不格好になったな。良い趣味だ」

 

「貴方のおかげでね」

 

 彼女が展開したのは愛機である《ゴールデン・ドーン》だがその姿は大きく変わっている。かつてオータムが使っていたアラクネの部品やどこからか盗んできたMSのパーツが所々につけられている。

 大破したゴールデン・ドーンを自前で修復したのだろう。美しい金の塗装は剥がれ金属が剥き出しになっている。

 

「貴方たちが亡国機業を完全に消したせいで私は野良犬に逆戻り、バックが一人でも生きていれば良かったんだけど皆殺しなんてね。私たちより恐いのね」

 

 3年ほど前に勃発した裏の戦争においてスコールとユイト(当時ウイングガンダム)は一騎討ちを行いスコールが敗れた。

 ゴールデン・ドーンは大破し下半身をぶった切られた彼女は亡国機業の歩兵部隊に助けられ生き延びたのだ。

 対してユイトは顔の火傷と左腕を吹き飛ばされている、細胞活性化装置のおかげで完治しているが互いに死力を尽くした戦いだった。

 

「俺たちがやったのは戦争だ。敵将と兵の首を殺して何が悪い?」

 

「なにも悪くないわね」

 

 ウイングゼロとゴールデン・ドーンが睨み合い一触即発の状態に陥る。

 

「ユイト!」

 

「手を出すな、これは俺の戦いだ!」

 

 状況の異変を察知し慌てて兵を伴って駆けつけたクリアが背後から現れるがユイトの怒号が彼女を止める。

 

「そうよね!」

 

 ゴールデン・ドーンの尻尾のような大型クローがユイトに襲いかかるがそれを正面から受け止める。

 

「そんな寄せ集めで俺に勝てると…ッ!」

 

「でも動きは止まったわ」

 

 ゴールデン・ドーンの両肩と膝のギミックが稼働し装甲が開くと高熱の炎がウイングゼロに襲いかかる。

 どんな装甲も溶解させる超高温の炎が襲いかかるが当然、ゼロの装甲には対策が施されている。

 

「また体を真っ二つにされたいか?」

 

「なんのためにここに潜入したと思ってるの」

 

 炎の中に別の熱源、その存在をゼロのセンサーが察知しユイトに知らせる。彼のすさまじい反応速度を駆使してその熱源を避ける。

 

「ぐあっ!」

 

 炎を目眩ましとして放たれた強力なビームがゼロを掠め、クリアと駆けつけたギラ・ドーガに直撃。

 

「きゃ!」

 

 その爆発に生身のクリアは耐えられずに吹き飛ばされる。

 

「クリア!」

 

 ユイトはクリアを抱き止めると飛んできたドーガのビームマシンガンを掴み撃ち放つ。

 

「その程度の出力じゃプロミネンスコートは破れないわよ!」

 

 基地内ではバスターライフルは使えない、それも考慮して基地内で仕掛けてきたという事だろう。

 

「ユイト、後ろだ!」

 

「ちぃ!」

 

 ユイトに抱きかかえられたクリアは背後から新たな機影が現れた事を知らせる。強烈な炎がゼロに襲いかかるがなんとか防ぐ。

 

「クリア、無事か!?」

 

「なんとかな」

 

「流石は総帥、上手く行かない」

 

 燃え盛る炎の中から姿を現した機体はヘル・ハウンドver2.5、元IS学園3年のダリル・ケイシー。第一次IS学園防衛戦より姿が確認できなかったが彼女と合流しているとは予測が甘かった。

 

「コイツは私が相手をする。お前は」

 

「分かってる、ばあさんの相手でもしてるさ」

 

 新たに現れたダリルの前に立ち塞がったのはデルタカイを展開したクリア。2vs2の期せずして悪vs悪のタイマン勝負が勃発したのだった。

 

ーーーー

 

「この先は特殊区画だ!」

 

 その頃、脱出した一夏たちは潜伏していたヘンリーとティルミナと合流を果たし警告音が鳴り響く廊下を走っていた。

 革命軍基地の特殊区画、革命軍が篠ノ之束から奪った島に偽装した巨大な船の事である。簡易的だが通路が作られ基地内から移動できるようになっている。

 

 束の研究所には彼女が脱出の際に使ったミサイル型の脱出ポッドがある。それなら革命軍の追撃を振り切り逃げ切る可能性が高いのだ。

 

「急いでね一夏くん。敵は待ってくれないよ!」

 

「はい…」

 

 皆が必死に廊下を駆ける仲、一夏だけはほんの少し後ろ髪を引かれる思いをしていた。基地内には幼い子供たちもいた、その子たちも逃がしてやりたかったと思っているのだ。

 

「普通の生活を知れていないから求められないんだ。戦いが幸せなんて絶対にあり得ない」

 

「そんな薄い善意なんて誰も求めてないんすよ。ここでは」

 

「なっ!」

 

 研究所に行くためには地上に一度上がり、橋を使わなければならない。全員が地上に上がった瞬間、目の前で待ち伏せていたのはAGE-1。他はドーベン・ウルフやケイニの姿もあった。

 

「ユイトと話してまだそんな事が言えるとは流石は主人公様っすね。同情と侮蔑は同じだと習わなかったすかね?」

 

「なんだと!?」

 

「一夏くん!」

 

「一夏!」

 

 カゲトの言葉に一夏は怒りを露わにする。それを見た楯無とシャルが言葉を発するが本人には届いていなかった。

 

「戦いで幸せを見いだすなんて間違っている!他人を傷つけて得る幸せなんてあってはならないんだ!」

 

「人は皆そうすっよ。他人を傷つけて幸せを得ているんすよ」

 

「そんな事はない!」

 

「世界は自分の視界の中では完結しないことを理解するべきっすよね」

 

 そんな事は理解している。そう言葉を発しようとした一夏の声はカゲトの声に上塗りされる。

 

「純日本製IS、打鉄。防御に重点を置いた機体で主武装は堅牢で切れ味のある近接武装《葵》それには鋭い切れ味を実現するためにとある鉱石が使われている」

 

「なにを…」

 

「ガルド鉱石、加工しやすいがその硬度は高く万能鉱石と名高い鉱石ね。ラファールのシールドにも使われている」

 

 カゲトの言葉にいち早く反応したのは渚子。彼女は突如現れた鉱石に興味を持ち、調べていたことがあったのだ。

 

「私も聞いたことがあります。その鉱石のおかげで打鉄が正式にロールアウト、日本の危機的経済を救った立役者」

 

「ISを主力産業の一つにしていた国を幸せにした鉱石っすよ」

 

「それがどうしたんだ。鉱石は誰も不幸にしないだろ」

 

 理解できないといった感じの一夏を見たケイニはいつもの明るい雰囲気と打って変わり新たな機体であるティエルヴァを展開させる。

 

「ガルド王国はガルド鉱石が原因で国を滅ぼされた」

 

「なっ…」

 

「国を滅ぼした血まみれの鉱石。それで得ていた幸福は他人を傷つけて得たものじゃないんすかね?」

 

 驚愕の事実に一夏だけでなく楯無たちも言葉を失い、目の前が真っ黒になってしまう感覚に陥ってしまう。

 

「所詮は目に見えたことでしか物事を判断できない連中ばかり、人は戦いの中で幸福を得て進化と繁栄を続ける。それを誰が否定できるんすか!誰も否定できないっす。そんな世界の中であぐらをかき続ける奴らしかこの世界にいないのだから!」

 

 実感と憎悪を感じさせる荒々しい彼の言葉と向き合える奴は誰もいないのだった。

 

ーー

 

「っあぁ!」

 

「くっ!」

 

 その頃、基地内部。ゴールデン・ドーンの大型クローがゼロのサーベルに寄って切り裂かれスコールは大きく後退する。追撃といわんばかりに放たれたバルカン砲が彼女のプロミネンスコートの発生装置を破壊する。

 

「やっぱり厳しかったわね」

 

 満面の笑みを浮かべながら崩れ落ちる彼女の顔面にシールドを突き付け尖端に仕込んであったビームサーベルを起動。ゴールデン・ドーンの絶対防御を破壊し彼女の顔を半分吹き飛ばした。

 それと同時に彼女の背後からアラクネのクローが伸びそれに仕込んであった刃がユイトの左眼を抉った。

 

「今度こそ逝かせてやる」

 

 頭を半分吹き飛ばしたというのにユイトは追撃を止めない。右の貫手で彼女の体を貫きゴールデン・ドーンのコアを破壊する。

 彼女のボロボロの体から噴き出した液体がゼロにかかりユイトは思わず驚く。

 

「それが、そのザマがお前だったのか…」

 

「そうよ、美しいでしょう」

 

 ゆっくりと顔を上げる彼女の体からはぎこちない機械駆動音が鳴り響く。

 ユイトが貫いた体も頭部も全て機械が埋め込まれ本当に生き物なのか疑いたくなる光景が広がっていたのだ。

 

「貴方は化け物だと言わないのね」

 

「なぜだ?お前は人間だよ。自らの意思と信念を持ち、自らの心で様々なものを感じていたのならそれは人間だ。例え体が機械であろうとな」

 

 ナノマシンを含んだオイルをかぶりながら当然のように言葉を放つその姿にスコールは満足げに笑う。

 

「やっぱり、貴方は見込み通りの人だったわね」

 

「人が人らしく生きられる世界を創るために俺はこの組織を立ち上げたんだ。自らの信念を持ち心のままに動くのが人間の正しい在り方だと思ってる」

 

「ほんの少し、マドカが羨ましいわ。立場が少しでも違えば貴方と肩を並べられたかもしれなかった」

 

 スコールの言葉が少しずつ細くなっていく。体に埋め込まれた機械が次々と機能を停止して行っているのだ。

 

「お前もクリアたちと一緒だ、戦いの中でしか生きられなかったんだな。満ち足りた生活があったというのに心は戦場から離れられない」

 

「それが私の幸せだからよ」

 

 状況はスコールが優位だったとはいえ、あんなボロボロの機体を使ってまで戦いを挑んだ彼女は自分に相応しい死に場所を捜し、ここに辿り着いた。本望と言えば本望、良い締めくくりだ。

 

「スコール…」

 

「初めて名で呼んだわね」

 

 本名などもう忘れてしまった。スコール、全てを流す豪雨こそが彼女の名である。

 

「スコール・ミューゼル。貴方は最高の敵だったよ」

 

 顔を半分吹き飛ばされ体には大穴を開け焼け焦げた皮膚からは機械が顔を覗かせている。亡国機業実行部隊の頂点に立ち裏の世界を支配していた女傑は壁に軽く持たれながらも立ったまま息を引き取った。

 

 戦いの中で生き続けた彼女は好敵手に看取られてその生涯を終えた瞬間、彼女は実に満足そうな顔であった。

 

 

 





ゴールデン・ドーン現地改修型

スコールが個人で改修したゴールデン・ドーン。死亡したオータムのアラクネやMSの部品を使い修復している。火炎生成機能を流用した高出力ビームを放てるようになったが性能は本来のゴールデン・ドーンより低い。


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