「よし、時間だ」
公式にて発せられた攻撃開始日の前日、ガルド王国を包囲していた女性主義団体を中心とする部隊は攻撃を開始した。
「容赦ないですね」
「他に悟られる前に決着をつけるぞ。1時間で焼け野原にしろ」
包囲部隊から放たれるミサイルの雨は王国前で防衛線を気づいていた部隊に容赦なく降り注いだ。
「敵襲!」
「王に報告を!」
予想外の攻撃に面を喰らう防衛隊だがなんとか通信を行い非常事態を知らせる。
「ウジ虫どもが…」
ミサイルを耐え凌ぐ防衛隊に迫ったのはISを纏った女性主義団体員。彼女は手持ちのマシンガンを撃ち放つと岩間に隠れていた奴らを蜂の巣にする。
ガルド王国は岩山に囲まれてはいるが国の人々はミサイルの着弾による振動を肌で感じていた。
「おのれ女性主義団体。礼儀すら知らないのか!」
「お父様!」
「民の避難を最優先にしろ。話は既につけてある、逃げるんだ!」
「はっ!」
逃走ルートは既に確保してある。ガルド王国の地下水脈を伝い数㎞離れたオアシスに向かう。そこからはモロッコに逃げ込めばいい。
「ケイニ、味方を引き入れた後に入り口の洞窟を爆破しろ。タイミングはお前に任せる」
「分かったわ。お父様」
ケイニは急いで宮殿を出ると出入り口となっている洞窟へと向かう。
「姫様!」
「外の防衛隊は?」
「分かりません。通信が繋がらなくて」
外に居た防衛隊からの通信はなく、今だに誰一人帰還していない。状況は最悪だ、このままで敵の部隊がなだれ込んできてしまう。
「こち…第…防衛線…」
「こっちはケイニよ。はやく戻ってきて洞窟を爆破する!」
ノイズが入りほとんど聞き取れないが外に生存者たちがいるというのは確認できた。彼らが退避するまでこの出入り口は閉められない。
「爆破…して……さい」
「なにを言ってるの!」
「退避は不可能です…く爆破を!」
「敵のISを視認、来ます!」
外にはまだ戦い続けている戦士が多く居るはずだ。それを見捨てる判断を彼女は迫られていた。
「ケイニ様!」
「爆破して!」
彼女の合図と共に洞窟に仕掛けられた爆薬が点火されガルド王国の出入り口である洞窟が落石した岩によって塞がれた。
「くそったれ!」
「出入り口を埋めやがった!」
「構わん、岩山ごと吹き飛ばせ!」
まさか唯一の道を埋めるほどの覚悟を見せ付けられた奴らは一瞬、怯んだが落ちてきた岩を吹き飛ばそうと作業を開始する。
ーー
その頃、地下水脈を利用した脱出ルートの先陣を務めていた兵が地下からオアシスに姿を現す。
「ここが出口だ!」
「出たぞ!」
「撃て!」
なんとかこれで国民は助けられる。そう思った兵たちが歓喜の声を上げる。するとそこに伏せていた女性主義団体の兵が兵を撃ち殺す。
「くそっ、伏せてたのか」
「どうする、避難民はもうすぐ来ちまうぞ」
「くっ…」
敵を迎撃しようにも外に出たら一瞬で蜂の巣にされる。身動きが取れなくなってしまったガルド王国の兵だったが外が急に騒がしくなった。
「なんだ?」
こっそりと外を覗く兵の目に映ったのは昨日、国を訪れてくれた奴らが持っていたMSが大暴れしていた。
ドムが手にしていたショットガンで兵をミンチにするとガルド兵を見つけモノアイを向ける。
「よかったっす。ケイニは?」
「姫様ならまだ国の中だ。頼む、ガルド様たちを助けてくれ」
「分かってるっすよ!」
ガルド王国の人々を見捨てきれなかったカゲトはオアシスに展開していた部隊を殲滅した後に数人引き連れて地下水脈のルートに潜る。
他のカゲトの部下は避難誘導を行いモロッコの軍が待つエリアまで護衛するのだった。
ーー
ドウゥン…ドウゥン…。
「来ますね」
「そうね…」
洞窟を爆破してから10分、強引な開戦から30分が経とうとした時。封鎖した洞窟から響く地響きをケイニは肌で感じていた。
死が近づいてくる感覚は実に恐ろしいものだ。ここが突破されたら後はこちらが蹂躙されるのを待つばかりだろう。
(カゲト、貴方の思い描いた未来を見たかった…)
昨日、初めて会った少年。木更津カゲト、昨日会ったばかりだというのに強烈な印象を植え付けられた不思議な存在。
「来る…」
爆発の振動はもう目と鼻の先だ。ライフルを構え塞がった洞窟を注視する。
ドッガーン!!
爆発と共に岩の破片が周囲に飛び散りISが姿を現す。
「うわぁぁぁ!!」
叫びながらライフルを乱射する彼女、その近くにグレネードが投げ込まれた。
「グレネード!」
「きゃあ!」
強烈な閃光と熱風に吹き飛ばされたケイニは家の壁に頭を打ち付け頭から血を流す。
(生きてる…)
意識が朦朧とする中、周囲を見渡す彼女は先程まで話していた兵の死体を目にする。
「あ…」
ケイニが漏らした小さな声をISのハイパーセンサー越しに聞いたパイロットは乱雑に銃をケイニに構える。
「ウザいなぁ…」
「なにをしてるんすかぁ!」
突如現れた白亜の機体に吹き飛ばされるラファール。戦場に響き渡ったその声はカゲトのものだった。
ーー
「出た!」
「開発長!」
地下水脈のルートから出て国に入ったカゲトたちは宮殿を爆撃していたラファールが目に入る。背後にいたディザート・ザクのマゼラントップ砲が火を噴きそれを叩き落とした。
「お前たちは国王と兵の救出をやるっすよ!」
「「了解!」」
(どこに?)
カゲトのAGE-1のセンサーは出入り口付近で止まっているISを見つけ出す。嫌な予感がした彼は機体を加速させ現場に急行する。
「ウザいなぁ…」
「なにをしてるんすかぁ!」
生身のケイニがいる以上、ドッツライフルは使えない。かといってサーベルを展開している時間はない、大声を出し相手の注意を逸らせたカゲトはシールドバッシュでラファールを吹き飛ばした。
「一体、だれ」
「……」
理解が追いつかず叫ぶパイロットを身もせずにドッツライフルをゼロ距離でぶち込む。ドッツライフルは他の武装とは異なりビームによる貫通力を主軸に置いた機体だ。その貫通力はISの絶対防御も簡単に貫ける。
絶命したパイロットに気にも止めずカゲトは血を流しているケイニの元に駆け寄る。
「大丈夫っすか?」
「カゲ…ト」
気を失うケイニ、それからのことは彼女は覚えていなかった。
ーーーー
彼女が目を覚ましたのは真夜中の砂漠。そこのオアシスの縁だった。そこには火を燃やし暖をとる多くの人々の姿があった。
「気が付いたっすか?」
「あ…。お父様は!」
意識がハッキリしてくると父親の身が心配になってきた彼女は大きな声で聞くがカゲトは黙って首を横に振るのだった。
「俺たちが来た頃には宮殿は激しい攻撃に遭ってたっす。おそらくは生きていないっすね」
「そんな…お父様」
「暖かいスープっすよ。取り敢えず飲むっす」
カゲトが渡してくれたマグカップからは湯気が出ていた。彼の言うとおりスープを飲んでいると自然と、目から涙が溢れてきた。
「ひっぐ…お父様……」
「めいいっぱい泣くっすよ…」
カゲトも両親を殺された経験を持っているからこそ彼女の気持ちはよく分かる。彼は泣きじゃくるケイニの頭を撫で続けるのだった。
(ハルトにこっぴどく怒られるっすね)
あくまで隠密に動けと命令されていたのにほんの一瞬とはいえ派手に暴れまわってしまった。
綺麗に映る星空を見上げながら彼はもうすぐ訪れるであろう未来を見てため息をつきたくなるのだった。