「クラス代表おめでとう!」
一斉に弾けるクラッカーと女子達の声、明らかにクラス以外の者達も集まっているがそれはご愛敬というものだろう。
食堂を貸し切って行われたパーティー会場には所狭しと多種多様なお菓子が並べられており随分華やかな光景となっていた。
「んーまい!」
そんな中、フィーリアはオレンジジュース片手にチョコケーキを頬張り幸せそうにしていた。彼女の座っている机には箒とセシリアが座っておりそれぞれケーキを頬張る。
「なかなかの一品だな…」
「ん~まぁまぁですわね」
モンブランに渋いお茶の箒とチーズケーキと紅茶のセシリア、一夏の周りに女子達が群がっている間は三人でケーキを楽しもうとシャワー室で決めていた。
一夏に対する色恋沙汰だけではなくこうして女子同士で親睦を深めるのも大切だと判断した二人はフィーリアの案に乗りこうしている。
「セシリアは食べてるものの質が違うからねぇ」
「今度のお休みにでも私お気に入りのケーキ屋さんに参りませんか?一夏さんも誘って」
「いいな、近々ゴールデンウィークがあるからそこにでも行くか」
女子三人のガールズトーク、三人がそれぞれ複雑な境遇を持っているがやはり年相応の少女、身近な話題で盛り上がりほんの少しの間だが一夏の存在を忘れ話しに夢中になる。
「見つかったぁ…」
ある程度話が落ち着いた頃、一夏はヘトヘトになりながら三人の座っているテーブルまでやってくる。
「三人とも楽しそうだな…」
「あらあら、ガールズトークに入るのはマナー違反でしてよ」
人差し指を口の前に立てて諭すセシリアの姿は優雅さと可愛らしさが合わさり何とも言えない雰囲気を醸し出す。
「ごめんごめん」
そんな彼女の姿にドキッとしたのか一夏は顔をほんの少しの赤く染めながら謝る。
「はぁい!新聞部の者です!!話題の新入生、織斑一夏くんに特別インタビューしに来ました!」
「私は二年の黛薫子、新聞部の副部長をしています…よろしく」
「よろしくお願いします」
登場早々、一夏を発見した薫子は挨拶をすませて早速ボイスレコーダー片手に取材を始める。
「まずはクラス代表になった感想をどうぞ」
「えっと…頑張ります……」
至って普通の返答、そんなんで満足しないのが新聞部ことジャーナリストと言うものだ。
「普通だね、何かないの?俺に触ると火傷するぜっとか」
「自分、不器用ですから」
薫子の前時代的なセリフに一夏も有名なセリフで答える。日本を代表する名優の言葉だ知らない人は居ない。
「うわぁ、前時代的…」
アンタもねっと突っ込んでやりたい気分になったフィーリアは言葉を呑み込むためにオレンジジュースを口に流し込む。
「じゃあ、代表候補生のお二人も良いかな?どうして辞退したか?」
「あはは、機体のトラブルですよ…試験性が高い機体なので不調が多くて」
「なるほど、なるほど…」
薫子は興味深いと言わんばかりにメモに書き込む、ボイスレコーダーの存在意義はどうなったのだろうか。
「では私ですわね、クラス代表を辞退したのは…」
「あぁ、長そうだからいいや…写真だけ頂戴」
「最後まで聞きなさい!」
「適当に惚れたからって事にしとくから」
適当に答える薫子は知って知らずか妙に的を得た事をぶち込んで来るものだからセシリアは顔を真っ赤にする。
「とりあえず、三人で並んでね…写真を撮るから」
「へぇ」
「え?」
「男性操縦者と皆の憧れ代表候補生だよ、撮らないわけにはいかないじゃん」
薫子の言葉に面白そうに呟くフィーリアと驚くセシリア…一夏は近づく二人を両脇に寄せて中央に立つ。
「おぉ、両手に花束だね…」
「ほら、一夏!笑いなよ!」
少しだけ緊張する一夏に対してフィーリアは腕を肩に乗せて満面の笑みを見せる。
「フィーリアさん!ずるいですわ!」
フィーリアの行動を見てセシリアも負けじと一夏の腕を抱き寄せる。二人とも一夏より若干身長が小さいために一夏は少し前屈みになる。
「35×51÷24は?」
「えっと…2?」
「ぶー、74.375でしたー」
薫子の突然の問いに一夏は答えるが大外れ…答えれたらすごい者である。
切られたシャッター、パシャッと音が鳴り響き瞬時に加工された写真が床にヒラリと落ちた。
「なんで全員入ってるんだ?」
その写真に映っていたのは所狭しと写っているクラスメイト達、中央にはセシリア、一夏、フィーリア…。
すぐ横にフィーリアに引っ張られ彼女に抱きつく形で写真に写る箒の姿があった。
全員が満面の笑みを浮かべた写真、まさに青春の1ページと呼ぶのに相応しい1枚となった。
「まぁ、これも良いですわね」
それを見たセシリアは文句の一つでも言ってやろうと思ったが良い思い出写真になったので良しとしたのだった。
ーーーー
「ウゥゥゥゥ……」
「だ、大丈夫か?フィーリア?」
「ぎもちわるいぃ…あだまぃだい……」
次の日の朝、フィーリアは自身の席でうなされていた。彼女が美味しいと頬張っていたケーキには酒が入っていたらしく二日酔いの様な状態に陥っていた。
「1ホールも食べたからな…はい水」
「ありがどう…ぅ…」
どうやら彼女はお酒にめっぽう弱いらしい、日本人では珍しくないが外人でこうなっているのは初めて見た一夏は水を差し出す。
しかし状況は好転せずに彼女の顔はみるみる青くなっていく。
「ねぇ、ねぇ…今日、二組に転入生が来るんだって」
そんな中、教室で持ちきりな話題は早々に来た転入生の事だった。
「まだ四月なのにな…」
「わたくしやフィーリアさんを危ぶんでの事でしょうか!」
朝からハイテンションなセシリア、本当に尊敬します。声高に宣言する彼女だがすぐにフィーリアのもとへ駆け寄りゲロストッパを渡してくれる。
水がいらない優れものだが一夏に渡された水と共に流し込む。
「専用機持ちは一組と四組だけなのだろう、一夏男たるもの勝ってもらわねば困るぞ」
「そうそう!デザート食べ放題の為にもね!!」
優勝賞品は学食デザート半年フリーパスが貰えるらしい。女子としては嬉しい限りだろう。
「しばらぐゲーギハみだぐなぃ…」
一人を除いては…
「あら、それではゴールデンウィークは……」
「ぞればいぐぅ」
案外そうでもなさそうだ。
「その情報、古いよ…二組のクラス代表は専用機持ちがなったの…そう簡単に優勝できないから」
「お前、鈴か?」
突然の登場にクラス全員がザワッとする中、一夏はその正体を知っているようだ。中国代表候補生、
フィーリアはガンガンする頭で冷静に解釈する。なんか一夏と凰鈴音が何か言ってるが頭に入ってこない。
すると鈴は突然後ろから現れた千冬の出席簿を受けて縮こまる。
「ち、千冬さん……」
「織斑先生と呼べ……そして入り口を塞ぐな、邪魔だ」
「すいません…一夏!逃げないでよ!」
子悪党の様なセリフを吐いて逃げる鈴を見届けた千冬は死んでいるフィーリアを見つけ出す。授業は無理であろう彼女のもとに行くと猫のように首根っこを掴み持ち上げる。
「授業を受けようとした姿勢は褒めてやる…だが駄目だ…保健室に行くぞ…」
「はぃぃぃ…」
片手で持ち上げられたフィーリアはそのまま千冬に連れられて行くのを皆は唖然として見送るのだった。
ーーーー
「やぁ、一夏…セシリアに箒」
「おう、大丈夫か?」
「なんとかね…」
お昼、なんとか復帰したフィーリアと合流した後に食堂へと向かう。顔色は悪いが朝に比べたらだいぶマシだろう。
「待ってたわよ!一夏!」
食券売り場の前に立つツインテール少女、凰鈴音。手に持つトレイにラーメンを持ったその少女は一夏の前に立ち塞がった。
「とりあえず、食券買う人の邪魔だぞ…」
「わ、分かってるわよ…」
一夏の指摘に慌てて場所を退く鈴は彼の横に添い、仲良く談笑を始めた。どうやらそうとう仲が良いようだ。
そんな光景に箒とセシリアは気が気でないらしく一夏の後ろで悔しそうな顔をしている。
「大変だなぁ、二人も…」
フィーリアは今日は軽め?に天ぷらうどん大盛りを頼む。
食券を渡ししばらくして出てきた天ぷらうどんを受け取ると先に行った一夏男達を追い掛けて座る。
すると箒とセシリアの尋問を受ける一夏、最近急に柔らかくなってきた二人だがこう言うのにはまだまだ厳しいらしい。
「で、あんたも代表候補生なの?」
「ん、まぁね…」
勝ち気の強そうな瞳がフィーリアを試すように見る。何か警戒しているようだがそれは彼女のあずかり知らぬ所であった。
「ま、誰が相手だろうが負けないけどね」
「へぇ、楽しみだね」
「ふふん、覚悟しなさいよね」
お互い好戦的な笑いを浮かべる。お互い誇りがある、自信もある…二人の視線が合わさり激しくスパークする。
まさに龍虎、一夏を含む三人は思わず息を飲むのだった。
ーーーー
「お忙しいところすいません、織斑先生…」
「かまわない…なんだ?」
IS学園、生徒会室…そこには学園最強と世界最強の二強が揃っていた。
IS学園生徒会長、更識楯無は扇を広げる。そこには達筆の字で『恐悦至極』と書かれていた。
「これを…」
楯無が取り出したのは1枚の写真、遠望から撮ったものらしく画像が粗いがそれがしっかりと写っていた。
「これは…」
「恐らくかなり前から学園を監視していると思われます、学園から都市部に向けて10㎞地点に存在を確認しました」
そこに写っているのは黒色の機体、肩にはレーダードームらしきものも付けている。
「ISのコア反応がなかったので発見が遅れましたが間違いありません」
「お前はどう思う?」
「昨今、騒がせている者達ではないかと…」
「分かった…対処は任せるが…出来るだけ生きたまま捕らえてくれ」
「分かりました…」
写真を返し了承の旨を伝えた千冬に対し『任務了解』の扇子を広げて楯無は笑う。だがその眼光は鋭いものだった。
相変わらずのグタリ具合。
セシリアと箒は柔らかくしてますがどうでしょうね。