「まさか、あんなものがISの影に隠れているなんて」
「ISを超えるパワードスーツ、行方不明者を考えると男も扱える代物」
無事にイギリスに帰国した調査チームは列車に乗り込み諜報機関の本部に向かっていた。
調査チームは個室式の車両に乗り込み本部への道のりを静かに送る。オルコット夫妻とその他調査チームで部屋が別れ隣同士になっている。
「完成度も高いでしょうね、キャノン型なんて派生機があるぐらいですもの」
ちなみに新たに発見したパワードスーツの話は本部にしていない。通信による傍受を防ぐためには直接話をした方が確実だからだ。
「ISとあの機体で戦争でもさせるつもりなのか」
「確実に世界を巻き込んだ戦争になる。セシリアの為にもそんな世界にはさせないわ」
「あぁ…」
パソコンで報告書を書き上げていたネメシスはあの時の出来事が頭から離れなかった。
(やはり目が合っていたのか…)
あの時の事を思い出すと身震いがする。そう思ってならないのだ。
コンコン…。
ちょうど考えていたこともあって扉のノック音に体を揺らすネメシス、それを見てルシアンナは疑問に思う。
「失礼しますっす。お飲み物をお持ちしました、どれに致しましょう」
「ほら、飲み物でも飲んで落ち着いて。ジュースを貰えるかしら」
食べ物や飲み物を積んだカゴを持ってきた車掌らしき人物はルシアンナに話しかける。
「はいっす。リンゴとオレンジがありますけど」
「一つずつ頂くわ」
「了解っす」
ルシアンナの要望通りリンゴとオレンジを注いだ車掌は礼をすると隣の部屋に向かう。仲間の居る隣の部屋からは微かだが飛びの開く音がした。
コンコン…。
再びのノック音に思わず疑問に思ったルシアンナだが先程の車掌かと思い扉を開けた。
「誰かしら?」
「……」
そこで姿を現したのは1人の少年、花柳ユイトの姿だった。
「っ!ルシアンナ、その青年から離れろ!」
彼の寒気を憶えるような目にネメシスは反応し叫ぶがすでに手遅れだった。彼女の首筋にはコンバットナイフが当てられていたのだ。
「お隣の仲間みたいになりたくなければ叫ばないことだな」
「なっ!」
「処理できたっすよ」
「ご苦労…」
彼の言葉を説明するように先程の車掌がサプレッサー付きのライフルを片手に現れる。それから察するに既に隣は血の海だろう。
「座れ…」
2人はユイトの指示に従うしかなく大人しく席に座った。
「君たちは一体何者だ?あのパワードスーツの関係者なのか?」
「まぁ、大正解だよなぁ」
「一応、
「モビルスーツ、それがあの機体の名前か…」
目の前に居る2人と更に姿を現したリョウを含めて3人が夫妻を見つめていた。
「まさかあの時、キャノン型に乗っていたのは君か」
「まぁな…」
目を見るだけで分かる。この3人は普通の子供じゃない。だがそれ以上にユイトは群を抜いていた、本能が逃げろと叫ぶほどの濃厚な殺気を纏っていたからだ。
「そのモビルスーツを使って何をするつもりなんだ」
「教える義理はねぇな、それに知った所で…」
ヤレヤレと言わんばかりに大きなため息をつくリョウを見て夫婦は冷や汗をかく。このままでは殺されてしまう。どうにか状況を打破しなければ。
「ルシアンナ、逃げろ!」
「っ!」
伊達に2人は国の諜報員をやっていない。袖に隠していたデリンジャーでユイトの眉間に構えると叫ぶ。その声と同時にルシアンナも窓を割り外へと飛び出していた。
「ちぃ!」
2人を確実に抹殺するためには機体を使うしかない。そう直感したリョウはスローネツヴァイを展開、空中に躍り出ていたルシアンナを掴むと車内に引きずり込む。
「おい、バカぁ!」
ガスマスクを着けながら列車から脱出するカゲトは光学迷彩マントで身を包み姿を消した。
「っ!」
列車の破片が飛び散る中、ユイトはガスマスクを着けながらネメシスの二の腕をナイフで切り飛ばす。
「がぁ!」
「てめぇ!」
腕を飛ばされ悲鳴を上げるネメシスは怒号を散らすリョウのツヴァイの足に踏み潰された。
「ネメシス!」
「愚か者め!」
涙を流しながら叫ぶルシアンナを見てユイトは悲愴な顔でそう叫ぶ。壁に叩きつけられた彼女は振りかざされるバスターソードを見つめ、叫ぶ。
「セシリア!」
そう叫んだ瞬間、彼女は物言わぬ死体へと化してしまった。車両が破壊され緊急停止する列車、目撃者を増やさぬ為にすぐに退かねばならない。
「先に行け…。合流地点で会おう」
「おう…」
大量の返り血を浴びた顔を拭いながらユイトもその場を後にするのだった。
ーー
「セシリア・オルコットの両親か…。まさか私たちが殺すことになるとはな」
原作でも列車事故で両親とも事故死しているが今回は明らかに殺しだ。意図せず、原作キャラと因縁を持ってしまったことにユイトは後悔していた。
「夫妻、私達にはやらねばならない事があるのです。優秀な人物だ、是非とも引き込みたかった」
緊急停止した列車を一望できるところでユイトは静かに目を閉じる。あの二人ならこちらの理想に共鳴してくれると思っていたが結局の所、殺してしまった。
まだあの時点では殺す気など無かったというのに…。
「因果か……」
実に忌々しいが諦めるしかない。そう思ってユイトはその場から立ち去るのだった。