IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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第六十革 一つ目の怪物

 

「どうだった?」

 

「駄目だ、行方が掴めない。日本風に言えば神隠しみたいだよ」

 

 不審と思われる行方不明者の足取りを掴むために捜査を開始していたオルコット夫妻だがその足取りは一向に掴めなかった。

 

「下関さんから連絡が来たわよ」

 

「あぁ、あの人は行動が早いなぁ」

 

 当時、国連の調査官だった下関とは知り合いだった夫妻はより広域的に捜査するために調査を依頼したのだ。

 

「久しぶりだな、二人とも」

 

「お久しぶりです」

 

「こんにちは」

 

 映像通信越しに再会した下関とオルコット夫妻は互いに挨拶を交わし笑う。

 

「ルシアンナ君に頼まれた件をこちらで大まかだが調べてみた。確かに各国でも少数だが退役した元軍人やらISよって現在、被害を被っている奴らが行方不明になっている」

 

「やっぱり…」

 

「その中でもヨーロッパは顕著だ。かなりの人数が居なくなっているな」

 

「やはりヨーロッパが多いのですね」

 

 ネメシスが気づけたのもヨーロッパでの失踪があまりにも顕著だったと言うのが最大の理由だろう。

 

「テロの可能性も高いですね…」

 

「否定は出来んな、だが何者かが何かしらの目的で人員を集めているというのは確実だろう」

 

 今、世界は大きく混乱している。そんな時に大きなテロでも起きてしまえば収拾がつかなくなるかもしれない。火種は燃える前に処理しなければ。

 

「長丁場になりそうね…」

 

「そうだね」

 

 何者かが意図して事を起こしていると言う事は自身の中で確実となってきている。だがこれ以上はじっくりと時間をかけてやっていかなければならないだろう。

 

「ところでお前らの娘は元気か?」

 

「あら、元気ですよ。ちょっと頑固なところがありますけど」

 

「私は娘に嫌われてるんでね」

 

 ネメシスが涙目で答えると下関の大きな笑い声が響く。

 

「名家の辛いところだな。当主であるルシアンナをたてるためにひ弱な男を演じてるのだろう」

 

「まぁ…」

 

「娘の前ではもっと甘えたいのですけど…セシリアには旦那の凜々しいところを見て欲しいわ」

 

 ネメシスとルシアンナは所謂オシドリ夫婦というものだ。しかし仕事場であるここ以外、二人は強い女とひ弱な男を演じなければならないのだ。

 

 よく分からないが強い女であることがオルコット家の家訓らしい。そんな家の当主が実は男らしいネメシスに惚れて結婚したなど言えないのだ。

 

「セシリアが成長するまでの辛抱だよ」

 

「あの子は素直だから外で暴露されたら困りますものね」

 

 あと3年、10歳になれば彼女に本当の夫婦というものを教えよう。そうやって二人は誓っていた。

 

「仲良しで何よりだ。こちらは裏で何か起きてないか調べてみる。気をつけろよ、嫌な予感がする」

 

「はい」

 

 下関の言葉に二人は静かに返事をする。二人とてある程度の修羅場は潜っている。それなりの覚悟はある、娘のセシリアの為にも死ねないのだ。

 

ーー

 

 行方不明者の捜索を開始してから1年、白騎士事件から2年半とあう月日が経った頃。

 

「なに、ドイツで不審な動きが」

 

 緩やかに確実に行方不明者が増えていた事をオルコット夫妻経由で知ったイギリスの諜報機関は小規模ながら調査チームを編成し情報収集に当たっていた。

 

「すぐに行きましょう」

 

「あぁ…」

 

 そんな中、ドイツで不審な動きありと報告を受けたチームはすぐさまドイツに向かうこととなった。

 

「ドイツの行方不明者も確実に増えてきているわ。当たりかも知れないわね」

 

「あぁ…」

 

 首にかけているペンダント、その中にあるセシリアの写真を見ながら2人は現地に向かうのだった。

 

ーー

 

 そんな事も知らずにユイト達はシュバルツバルトに身を潜んでいた。

 

「ユイト、ISがこっちに進行してきてるっすよ」

 

「バレたか、流石に油断しすぎた」

 

 ドイツの同士たちをユイトの話術で獲得していた彼らはついにドイツ軍に察知されたのだ。

 

「おい、どうする?」

 

「どうするって、迎撃するしかねぇだろ」

 

「リョウ…」

 

 思わず舌打ちをするユイト。今、ここには多くの同士たちが集まっている。速やかに逃げだすことは不可能だろう。

 

「クソ女神が用意してくれた基地までつけられるのもしゃくだ」

 

 太平洋に浮かぶ革命軍の本部は女神が用意してくれたものだ。確かに、今すぐ手早く処理しておいた方が得策かもしれない。

 

「私とリョウで迎撃する。ケイとハルト、カゲトは次の拠点に皆を移動させてくれ」

 

「了解」

 

 5人の中ではリョウとユイトが戦闘技術が高い。手早く処理するには最適な人選だろう。

 

「ガンダムを使うか?」

 

「初手から奥の手を出す奴が居るか、ザクで充分だ」

 

「へいへい」

 

 リョウはザクⅡS型、ユイトはザクキャノンに乗り込み機体を起動させる。そのほかにもザク系統の機体がこの陣地には多く居る、人数の上昇によりカゲトが製造したのだ。

 

「行くぞ…」

 

ーー

 

「まったく、反ISのテロリストか。こんな夜中に出動させるなんて」

 

「良いじゃないの、気晴らしにはなるだろうさ」

 

「ISのおかげで随分と住みやすくなったからねぇ」

 

「本当にIS様々だわ」

 

 無線を使わずに直接、話ながら歩いていたのはドイツ軍の試作ISに騎乗した女性2人。女性に対して羽振りの良い今の世界は2人は天国のようなものだろう。

 

「敵を探知、予想より少ない。楽勝ですね」

 

「ありがとう、こっからは無線封鎖するわよ」

 

「了解」

 

 一応、決まりだ。相手に探知気付かれないように無線封鎖を行った2人はゆっくりと歩を進める。

 

「本当に男って力だけのバカよねぇ」

 

「じゃあ、てめぇは。力も頭もねぇクズだな」

 

「なっ!」

 

 木の陰から出現したのはザクⅡS型、リョウはヒートホークを後ろに居たISに喰らわせる。初期型の貧弱なシールドエネルギーが一気に削られ丸裸になってしまう。

 

「まっt…」

 

 急な出来事で何が何だか分からぬまま、絶命するパイロット。

 

「キサマァ!」

 

 その光景を目撃したもう1人は、激昂し銃口を向けるが横からの突然の衝撃に吹き飛ばされる。ザクキャノンの小型榴弾が直撃したのだ。

 

「がはっ!?」

 

 野太い木にぶつかり息を吐き出すパイロット、彼女は急いで体勢を立て直そうとするが腹を踏まれ身動きが取れない。

 

「ひっ!」

 

 目の前にはビックガンを構えるユイト。その光るモノアイを見た瞬間、ビックガンが火を噴き彼女の体を消し炭にするのだった。

 

「へ、ざまぁみろ」

 

「他に見つかると面倒だ。撤退するぞ」

 

「了解」

 

 コアを除き丹念に機体を破壊した2人は素早く、その場から離れるのだった。

 

ーーーー

 

「なんて事だ、試作品とは言えISを一瞬で…」

 

「班長…」

 

 出撃していたISの偵察もかねて事の動向を窺おうとしていた調査チームは思わぬ物を見てしまった。

 

「上に報告しなければ、とんでもないテロリストがいるぞ」

 

 ISが一瞬で撃破された地点から数㎞離れた地点で唖然とする彼ら、高性能な遠望カメラには一つ目の機体が悠然と歩いていた。

 

「班長、もう行きましょう」

 

「駄目だ、もう少し特徴を記録しないと…」

 

 最大遠望にして機体の情報を些細に記録するネメシス。キャノン型の観察を行っていた際、特徴的なモノアイが動きこちらを見つめる。

 

「っ!」

 

 思わずカメラから目を離すネメシス。一瞬だけ目が合った気がするがこれ程の距離だあり得ないだろう。

 

「よし、充分だ。行くぞ」

 

「はい…」

 

ーー

 

 ネメシスが観察を終え、引きはじめた時。

 

「ケイ、昨日と二日前にドイツに入国した国の諜報員を探れ」

 

「了解」

 

「どうした?」

 

「見られたな、視線を感じた」

 

 ザクキャノンのモノアイを動かさず自身の目で視線を感じた方角を見る。人間の視力では無理だが確かに人の視線を感じた。

 

「マジかよ…」

 

 まだ革命軍は幼く力は無い。しかも計画が始まったばかりで存在がバレるのはなんとしても阻止したい。

 

「確認取れたよ。イギリスの諜報機関がドイツに突然、入国してる。明日の昼の便でイギリスに帰国して高級列車で田舎まで行く予定」

 

「ハルトとケイは先に基地に行ってて説明を頼む。カゲトとリョウは俺と一緒に口を塞ぐぞ」

 

「「了解」」

 

「念のためにアイツらの端末は全部、こっちで送信先管理しとくから」

 

「あぁ、列車で仕掛けるぞ」

 

 


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