IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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第五十六革 愚か者

「良く来たな…」

 

「……」

 

「フィーリア…」

 

 総帥用の執務室、広い空間には必要最低限度のものしか置かれていない。その椅子に悠然とユイトが座りその脇をフィーリアとクリアで固めている。

 

「なぜ、私たちをお呼びになられたのですか?」

 

「簡単なことだ。この世界の真実、いや裏の顔を君たちに見せてあげようと思ってな。実のところ、政府の連中が無能で暇をもてあましていた所だ」

 

 シャルの問いかけに素直に答えるユイト、自分たちと同じような年齢に見えるが彼の目を見れば寒気が止まらない。そう言った類いの人間なのだろう。

 

「着いてこい…」

 

 ゆっくりと立ち上がったユイトは着いてくるように促し歩き始める、それに対しシャルたちも静かに従うのだった。

 

ーー

 

「そうすい!」

 

「元気にしてるか?」

 

「うん!」

 

「ここは…」

 

 しばらく歩いた後、着いたのは託児所を連想させる空間だった。幼い子たちが遊び笑いあっている。

 

「俺達みたいに連れ去った子供か?」

 

「一夏!」

 

「あながち間違っていない」

 

 やけに挑発的な一夏の言葉にシャルが声を鋭くする。2人の後ろで着いてきていたクリアも明らかに機嫌を損ね一夏を睨みつける。

 

「この子たちは各国の研究機関によって造られた戦うための人間。その幼子たちだ」

 

「各国の研究機関?」

 

「戦うために造られた人間…」

 

 ユイトの言葉に更に機嫌を悪くする一夏、人道を重んじる彼にとっては許しがたいことだろう。

 

「まぁ、次だ…」

 

 そんな一夏のことを気にせずユイトはその場を後にし歩を進める。

 

「あの子たちは貴方たち革命軍が救出したとうことですか?」

 

「まぁ、言い方によるがその言い方でも間違っていな」

 

「各国ってことはもっと居るんじゃないですか?」

 

「あぁ、あの場で居ない者でこの基地にいる者は革命軍の兵士として戦っている」

 

 戦うために造られた人間が世界の裏の一端と言う事は推測できるがそれを考えるだけでも恐ろしく感じる。

 

「兵士として…それはあんたがその子たちを利用してるだけじゃないのか?」

 

「ほう…」

 

「助けるとか言っておいて、本当は戦力として使うためにしたんだろ。あんたは人殺しだ、何百人って人を殺しても何も感じない人殺しだ。あんな子たちは戦う必要なんてない、」

 

「黙れ…」

 

 一夏の言葉を遮ったのはクリアだった。彼女は一夏の肩を掴むと腹に膝を打ち込んだ。

 

「ぐっ!」

 

「なにも知らない奴が知ったような口を叩くな」

 

 悶える一夏の顔を蹴り飛ばしたクリアは汚物を見るような目で彼を見つめる。

 

「クリアさん、やり過ぎです!」

 

 あと2、3発ほど追撃で蹴りを入れそうなクリアを必死に止めるフィーリア。

 

「どけ、フィーリア!コイツはユイトをバカにしただけじゃ飽き足らず強化人間(私たち)の誇りを踏みにじった!」

 

「一夏、大丈夫?」

 

「あぁ……」

 

 何が起こったのか理解できずに上体を起こす一夏、それを見ていたユイトは哀れな目で彼を見ていた。

 戦うために産まれ、育てられ、過ごしてきた彼女達は戦いから抜け出すことは出来ない。ユイトはそれに理由を与えてくれたのだ。空っぽの自分を色鮮やかなもので満たしてくれた。

 

「織斑一夏、お前の物差しでは世界は測れない。お前の思う幸せが全ての人間の幸せではない」

 

「くっ……」

 

「戦いでも存在価値を見いだす者も、命を賭す事で生を実感する人もいる。価値観は人それぞれなんだよ」

 

 なにも知らない子供に現実を突き付けるように丁寧に、憐れみを持ってユイトは言葉を放つ。

 

「お前はそれが分かっていない。自分の考えが正しいと勘違いしている。可愛そうに…」

 

「なんだと」

 

 アンドロイド兵に無理矢理立たされた一夏はユイトの事を睨みつける。

 

「そう言った不屈の精神は嫌いじゃないが時と場合による。連れて行け」

 

「フィーリア、彼女の案内を頼む。私は少し予定が出来た」

 

「は、はい…」

 

 アンドロイド兵につれて行かれる一夏に対しシャルはフィーリアの後を着いていくのだった。

 

「すまない、不快な思いをさせてしまったな」

 

「いや、私もすまない。不様な姿を見せた」

 

 叱られた子犬のようにシュンとするクリアを見て微笑むユイトは落ち着かせるように頭を撫でる。

 

「気にするな」

 

「しかし、なぜこの基地を案内する。フィーリアにも彼女を任せるのは少々危険な気がするが」

 

 フィーリアには多少なりともIS学園メンバーに引け目を感じている。裏切るとも思えないが気がかりになるのは当然だろう。

 

「私は彼女の意思を尊重する。裏切るならそれで良い…」

 

「私が裏切ってもお前はそれで良しとしてくれるのか?」

 

「悪いな、それは困る」

 

「あぁ…裏切るはずがないだろう」

 

「それも分かってる」

 

 自分から言って置いて赤面するクリアを見て安心したユイトは歩を進めるのだった。

 

ーー

 

《世界連合加盟国全てに通達する。革命軍の情報の全てを国連に提示するようにMSの設計データも例外ではない》

 

「特に日本はとびっきりの情報を持ってくるのではないかと期待されているようです」

 

 IS学園攻防戦から一夜明けた現在、国連から加盟国全193ヶ国に発せられた命令であり、正式に国連総会が開かれる事も明言されている。

 

 MSを持っていない加盟国はMSの生産体制を整え始め、設計図がいつ来ても良いようにしている。

 

「そんな事、言われてもなぁ」

 

 そんな事を言われため息をつくのは橘少将、オーストラリアを除けば日本が1番、革命軍に近いと思われても仕方がないだろう。

 

「非公式は知りませんが公式的には我が国が1番被害に会っています。何かしらのつてはないのですか?」

 

 粛々と内密に一掃されてしまった自衛隊の上層部、そのせいで暫定的だが橘が実質的な指揮を執っているのだ。

 

「そんなに期待されてもなぁ」

 

「何だかんだ言って持ってるんじゃないですか?」

 

 やる気のない声で悩む橘を見かねて光一も言葉をかける。本当に何だかんだ言ってこの人物は最良の手を持っているのだから食えない。

 

「アイツに頼むかぁ」

 

「アイツ?」

 

「元だけど国連の調査員が知り合いに居てね。アイツは執念深いから何か握ってるかも知れない」

 

 心底、面倒くさそうにため息をつきながらポケットに放り込んでいた携帯を取り出す橘。

 

「私も連れて行ってくれないか」

 

「織斑さん…」

 

 IS学園の防衛メンバーは現在、一時的に自衛隊の基地にて保護されている特に千冬はその実績と実力もあってある程度、自由に動けるのだ。

 

「良いですよ、他の子たちも良ければどうぞ」

 

「良いんですか?」

 

「隠すつもりじゃ行かないよ」

 

 思わず疑問を口にしたアリエスの言葉に橘は淡々と答えるのだった。

 

 

 




次回より革命軍の過去が明らかに…。

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