「フィーリア…」
今度こそ意識を失い沈黙する一夏、そしてその周りには無残な姿になったセシリアたち、その姿をフィーリアは悲しげに見つめる。
「ユイト、予定通りに」
「あぁ、頼む…」
ハルトは通信越しに許可を取ると意識を失った一夏を持ち上げる。
「貴様ら、なにをするつもりだ!」
「コイツの身柄はいただいていく」
「ふざけるな、そんな事は…」
「させないと?お互いが様子見の状況で随分とデカい口を叩くな、織斑千冬」
千冬もそうだがユイトもまだ本気は出していない。そんな状況でなにが出来るかなどなにも分からない。
「これは戦いじゃない、戦争だ。戦争は戦争のやり方があると知っておけ」
「テロリストが知ったような口を…」
「現時点でお前を殺せるだけの用意をしてあることを頭に入れておけ、巻き添えもかなり出るだろうな」
「なっ!」
ユイトの口ぶりから察するに先程の言葉は脅しではない、警告だ。変な真似をしたらこの場に居る者全てを殺してやると。
「ユイト、ガルダがこちらに接近するMS群を捉えた。恐らく中国の軍だろう」
「ちょうど良い。撤収する…」
動けない千冬を横目にユイトは静かに機体を飛び立たせる。悠然と撤退する革命軍たちを残された人々は黙って見送ることしか出来なかった。
ー
ISの創設者、篠ノ之束の死。IS学園の壊滅。ISに変わる強大なパワードスーツ、MSの出現。
事実上、10年近くと言う短いIS時代は終わりを告げた、それからしばらくして各国は女性優遇法の見直しを宣言、IS委員会と女性主義団体の権力は地に落ちることになる。
ーーーー
「こ、ここは…」
真っ暗で静かな空間、そこでシャルは目を覚ました。床と壁が振動で震えている、飛行機のようなものに乗せられているのか…
「目を覚ました?」
「貴方は?」
「私は黛渚子、革命軍に捕まって閉じこめられてるんだ」
革命軍、その言葉を聞いてシャルは思い出した。フィーリアが裏切った事を、それからの記憶は全くない。
それほど広くない同じ独房には渚子の他に2つの影があった。
「一夏、大丈夫!?」
「寝かしといてあげなよ。気絶してるんだから」
「ここはどこなんですか?」
「さぁ、でも連中はここの事を
「
「かなり巨大な飛行機だと思うよ。あれだけの人数が行き来してたからね」
暗い独房だが耳を澄ませば幾らかのことは見えてくる。今分かるのはガルダという名前とその飛行機がかなり巨大であると言う事ぐらいだ。
「いったいどこに…」
シャルの呟きが暗い独房に響き渡る。その時、ガルダは目的地である革命軍本部へと辿り着いていた。
ーー
「エルワンの様子は?」
「楽しそうにフェネクスを弄ってますよ」
本部に辿り着いたユイトを迎えたのは大歓声、革命軍の者達が束の死に感激し歓声を上げる。ユイトが気にしていたのはこの前、オーストラリアで引き抜いたエルワン・デュノアのことだ。
「総帥…」
「おかえり、フィーリア。大変だっただろう」
様々な報告を聞きながらタラップを降りていたユイトは後ろから駆け寄ってくるフィーリアを見て笑いかける。
「はい、でも変な気分です…」
「短い間に多くのことがあった、仕方ない。ゆっくり休養を取るといい」
「はい…」
久しぶりに乗ったバエルとの連動性やバイタルデータの更新など、移動中は忙しかったフィーリアはユイトと直に顔を合わせるのは久しぶりだった。
「夕食の時間は開けておけよ」
「はい!」
ユイトは満面の笑顔で喜ぶ彼女を見て再び歩き始めるのだった。
ーー
「いやぁ、どうもっす」
「なに?」
ガルダの独房、そこに姿を現したのはアンドロイド兵を引き連れたカゲトだった。
「まだ2人が目覚めてないようっすけど基地の独房に移動して貰うっすよ」
「くっ…」
独房に入ってくるアンドロイド兵に拘束されながら睨みつけるシャルを見てカゲトはほんの少し笑う。
「睨んだって駄目っすよ。せっかく本部に招待したんすから楽しんで貰わないと」
拘束された4人は首に首輪のような物を取り付けられる。
「これは…まさか…」
「変なことしたらドカンって爆発して頭と体が仲良くお別れする代物っす」
渚子とシャルはその説明に顔を青くし息を飲む。
「さぁ、革命軍にようこそ。歓迎するっすよ」
ーー
「くそっ!」
元IS学園、今はほとんど荒れ地と化した場所で千冬は悔しそうに壁を殴りつけた。
「まさか刀奈さんも捕まるとは」
「お姉ちゃん…」
今回の攻撃による死者は0、それだけは褒められるべき数字だが一夏、シャルロット、楯無の3人が革命軍に連れ去られてしまった。
「織斑先生、落ち着いてください。こんな事しても何もなりません」
「山田先生…」
心底悔しそうに歯嚙みする千冬は摩耶の言葉により少し落ち着き、再び振るおうとした拳を引っ込める。
「フィーリアさんが…まさか革命軍の方だったなんて…」
「安心しなさいよ、セシリア。だれもこうなるなんて思ってなかったわ」
ガレキにもたれながらため息をつく鈴は静かに周りを見渡す。中国軍のウィンダムはIS学園を護るように展開している、その数は実に40機を超える。
「バンシィか…」
「准尉、知っているのか?」
「はい、ユニコーンガンダム2号機《バンシィ》。強化人間用に調整されたアンチニュータイプマシン。黒獅子の異名を持つガンダムです」
「そうか…」
事後処理で動き回る隊員たちを視界の隅に追いやりラウラは元気なさげに答える。それを見たクロイは同情の気持ちを禁じ得なかった。
「少佐」
「なんだ…」
「話せる機会がなくなった訳ではありません。我々に正義があるように彼女には彼女の正義がある。それが違えているだけです、革命軍は自身の私利私欲のために戦っているような組織じゃない。なにか理由があるはずなんです」
「准尉…」
「友と仲違いしたままで居るのは駄目ですよ。一生、後悔することになる」
やけに感情が入ったクロイの言葉にラウラは言葉を失う。彼も何かしらの過去があっての言葉なのだろうと言うことは分かった。
「分かった…。後悔しないようにしてみる」
「それが良いです…」
ーー
「もう議論の余地はないですね…」
「あぁ、我が国としては認めたくないんだがなぁ…」
「だがこの手しかあるまい」
各経済大国の首脳たちが通信越しではあるが顔を合わせていた。ほとんどの者は苦虫をかみつぶしたような顔ではあるが各国の意見が纏められた。
その内容とは革命軍を一介のテロリストグループではなく強大な軍事力を持つ敵性国家として扱い、天下の宝刀を抜き放つと言うものだった。
「大きくはないが酷い戦争になるな」
「戦争はいつも酷いものですよ」
「これじゃ、まるで第三次世界大戦だな」
各国が連携し危険因子である革命軍を殲滅する。それしかもう手はない、利用するにもこちらに引き入れるのももはや不可能だ。なら潰してしまう方が良い。
「オーストラリア政府のがさ入れも慎重にな」
「MSのデータはもう少し欲しいものだな」
各国が革命軍殲滅のために動き始める。その為の最初の一歩が踏み締められた瞬間であった。