数年前…
セシリア・オルコットは両親を失った。当主として家を守り繁栄させるために奔走した。その時に彼女はある噂を耳にしたのだ…軍の上層部が秘密裏に列車事故を調べていると。
彼女はすぐ行動に出た当時の資料を可能な限り集め、チェルシー達にはその時近辺に居た者達に話を聞かせに行った。
「お嬢様、これを…」
その時、チェルシーが手に入れてきたのは1枚の写真だった。これは軍にも渡した物だ…と持ち主は言ったらしい。
そこに写っていたのは赤い粒子を放ち、巨大な大剣を持つ機体だった。この機体が車両から突然出現し破壊したという。
この機体、ガンダムスローネツヴァイと呼ばれるこの機体は間違いなく両親の敵だった。
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「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践して貰う…織斑、オルコット、スタンシー飛んで見せろ」
一夏の善戦により大波乱となった代表決定戦は時間の関係上、セシリア対フィーリアとの試合は中止となった。
その後に再試合をすれば良いのだがフィーリアの機体、ブロッサムのシステムが不具合を起こした関係上、彼女は代表を辞退。セシリアも辞退したことで必然的に代表は一夏となった。
その次の日の授業…千冬の言葉を得て3人は素早く展開する。一夏が0.7秒に対して二人は0.2秒…流石代表候補生である。
「よし、飛べ」
号令と共にセシリアとフィーリアは飛び上がる。一夏も慌てて浮かび上がるがそのスピードは遅いものだった。
「どうした織斑、総合的に見ればスピードは白式の方が上なんだぞ」
千冬の言い分は正しい、スペック上では機動力が一番上なのはブロッサムだが大型のレーダードームとビームライフルを積んだ機体は重く、総合的に鑑みれば白式の方が半歩早い。
「一夏さん、イメージは所詮イメージ…自分がやりやすい方法を模索する方が建設的でしてよ」
イマイチ要領を得ない一夏にセシリアは助言を与える。本当に試合でなにがあったんだ?フィーリア最大の疑問である。
「そう言われてもなぁ…」
「セシリアの言う通りだよ、空を飛ぶ…じゃなくて浮かぶってイメージで私はやってるけど」
「なるほど、人それぞれなんだな」
「そう言えば例の約束…今日の放課後で良いかい?」
「おぉ!助かるぜ」
例の約束…それは訓練を手伝ってくれると言うものだ。常に優しく接してくれるフィーリアは一夏にとって箒以上に話しやすい相手となっていた。
それに箒の感覚を表現した擬音の教えはイマイチと言うか全然分からない。そんな状態に陥った一夏にとって新しい訓練相手は喉から手が出るほど欲しいものだった。
「例の約束とは?」
「フィーリアが訓練に付き合ってくれるんだよ、もし良かったらセシリアも教えてくれないか?」
「まぁ!良いですの!」
一夏の誘いに喜ぶセシリアはチラリと横を見る。もしフィーリアが自身と同じ感情を抱いているかほんの少しだけ気になったからだ。
しかし当の本人は嬉しそうに頷いてるのを見て安堵する。彼女は大丈夫だ…それだけでどれだけありがたいことか…。
「一夏、何をしている!早く降りてこい!」
すると三人の耳に箒の怒鳴り声が聞こえてくる。山田先生のインカムを奪いこちらに言っているようだ。それは一生徒としていかがなものであろうか。
「やっぱり…」
フィーリアの懸念は当たり箒は織斑先生の出席簿アタックを受け沈む。
「織斑、セシリア、スタンシー…急降下と完全停止をやって見せろ目標は地表から10センチだ」
「ではお二人とも、お先に」
千冬の言葉に従い先陣を切ったのはセシリア、急加速によるダイブ…ブルーティアーズを上手く制御し地表10センチピッタリに停止する。
「「「「おぉ…」」」」
それを見ていた生徒は感嘆の声を漏らす。それは一夏もフィーリアも同じだった。
「やるねぇ…一夏、よく観察してね出来るだけイメージを掴むんだよ」
「分かった…」
次に行ったのはフィーリア、その姿を彼はジッと見る。
総重量の影響かブルーティアーズより降下速度が早い。脚部と腰部のスラスターが調整するように少しずつ吹かされている。
「ヤバっ!」
フィーリアのそんな声が聞こえると同時に各部のスラスターが一斉に火を噴く…着地直前だったために土煙が上がり視界を遮る。
「フィーリア!?」
「すいません、織斑先生…失敗しました」
「構わん…それにお前はしっかりと目標を達した」
土煙が晴れていくと地表10センチで浮かぶフィーリアの姿が…よく見ると腰部のスラスターの一部がスパークしている。
「ブロッサムはまだトライアル段階の機体の筈だ…無理はするな…」
「はい…」
その会話を聞いていた他の生徒はフィーリアの事を高く評価する。突然のスラスター不調…本来なら地表に激突してもおかしくない、それどころかちゃんと目標通りに降りているのだ。
皆の代表候補生への尊敬はうなぎ登りだ。
「ふむ…」
千冬は内心安心する、どうやらこのブロッサムは完成とはほど遠い代物らしい。高機動力、高火力、広域索敵能力…完成すれば第3世代のトップを走れる機体だ。
だがオーストラリア政府はその完成に焦りすぎているように見える。
「次は織斑だ!」
「はい!」
フィーリアやセシリアのを見てイメージし降下する。猛スピードで…明らかに出し過ぎな速度に皆が戸惑う。
「全員退避!」
フィーリアの叫びと共に集まっていた生徒は一斉に散らばる。一夏の白式は猛スピードのままフィーリアのブロッサムと激突した。
「一夏!フィーリア!」
「フィーリアさん!一夏さん!?」
巻き上がる土煙…箒とセシリアは二人を心配し叫ぶが土煙が晴れていくと二人の表情は怖いものへと変わる。
「痛たた…」
「うぅ…」
下敷きになるフィーリアと上に乗っている一夏…それだけならまだ良かった…一夏は数少ないブロッサムの露出部分、お腹に顔を埋めているのだから。
「ごめん、フィーリア」
「しゃ、しゃべらないで…くすぐったい…」
「「一夏!(さん!)」」
そんな光景を見た二人は一夏を追いかけ回す。自業自得である。
「全く…壊れたらどうするのさ…」
そんな中、割と冷静に機体のチェックを進めるフィーリアであった。
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放課後…
その後は特に大きな事件は無く無事に放課後を迎えた。
「じゃあ始めようか…」
約束通り第三アリーナで一夏の訓練を行うこととなった。メンバーは一夏、セシリア、箒、フィーリアの四人だ。
最初の30分ほどはフィーリアは特に干渉せず二人の教えを聞いていたが酷いものだ。箒は擬音のパラダイス、セシリアは理論整然としすぎて分かりづらい。
(両極端すぎる…)
これは駄目だ…そう思ったフィーリア、そう思っていたのは一夏もと同じようで目で助けを求めていた。
「はいはい!二人ともストッブ!」
干渉してこなかったフィーリアの声に二人は振り向く。
「二人とも極端すぎるよ、意味ないじゃん…私に任せて」
「むう、」
「あら…」
普通ならフィーリアの行動に噛みつくような二人だが彼女は一夏に好意を抱いていない。それに一夏が納得しきれない現状を見て黙ることしか出来なかった。
「全く…いい一夏?…考えすぎると分からなくなるから感覚で覚えようか」
「感覚?」
まさか箒のように擬音が出てくるのではないかと心配する一夏だが差し出された手を見て首をかしげる。
「掴んで…」
「お、おう…」
言われた通りにフィーリアの手を掴む。それを確認した彼女は突然浮かび上がり一夏も引っ張られる。高く浮かび上がった二人は笑い会うと一夏はフィーリアに連れられるままに遊覧飛行を行った。
「すげぇ」
「もっと行くよ!」
緩やかな飛行から急加速、急停止に急旋回…まるでジェットコースターの様に飛び回ること10分、二人は降り立った。
「まずはISに慣れること…それが一番だよ…」
「あぁ!楽しかったぜ!空を飛ぶってこう言う事なんだな!?」
「分かって貰って嬉しいよ」
心底楽しそうに話す二人に完全に蚊帳の外にされた箒とセシリアは面白くなかった。
そんな二人のフォローもフィーリアは忘れない。
「次はセシリアね」
「え、私ですか?」
「一夏、セシリアの手を握って」
「おう」
突然握られた手にセシリアは顔を真っ赤にして驚きフィーリアを見やる彼女はニコニコしながら話す。
「人によって急加速、急停止、急旋回はタイミングや軌道が違うんだ…今度はセシリアがやってみせる…そして私とセシリアの違いが分かるようになれば一夏は存分に動かせるようになるさ」
「なるほどな…」
「じ、じゃあ行きますわよ…」
「あぁ、頼む…」
セシリアに連れられて一夏は再び空に旅立つ。そんな様子を箒は面白くなさそうに見る。
「箒は訓練機を持ってきたときにやって貰うね」
「そ、そうだな」
完全に考えを見切られて恥ずかしくなった箒は思わずフィーリアに対して顔を逸らすのだった。
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遊覧飛行をそこそこに訓練を終えて一夏を除く3人はシャワー室で楽しく談笑する。
「それにしてもフィーリアはよくあんな方法を思いついたな」
「そうやって教わったからね」
「その人は優秀な方なのですね…」
先程の遊覧飛行、箒は訓練機が無かったために出来なかったが有効なのは目に見えて明らかだ。二人は素直にフィーリアを賞賛する。
「とっても凄い人だよ、優しいし命の恩人なんだ…」
「命の…」
「うん、あの人が居なかったらここに来られなかったよ」
「分かります、私も心から尊敬して居るお方がありますから」
セシリアはイルフリーデの事を想い同意する。似たような境遇を持っているセシリアはものすごい親近感を感じていたのだろう。
「そう言えばこの後ってパーティーだったけ?」
「そんな事を言ってましたわね」
「そういうのは私は苦手だ」
箒の言葉に二人は納得する。なんとなくそんなタイプの人間だろうとは思っていた。箒はクールof武士道だ、悪く言えば無愛想で近寄りがたい。
「大丈夫だよ、箒がいい人なのは私が知ってるから…」
「フィーリア…すまない…」
「そこは、ありがとうだよ」
「そうか、すまない……あ」
そんなやり取りを見てセシリアは笑う、嘲笑などではない純粋に楽しいと思える感情からの笑いだ。
セシリアの笑いを皮切りに二人も笑う…三人きりのシャワー室には笑い声だけが響くのだった。