IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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第五十一革 第2次IS学園攻防戦 ―世界の幕開け―

 

 

 

「あ、あぁ…」

 

 硝煙の匂いが強く残る銃口、床に銃弾がめり込む。すんでのところで逸らされた銃弾、それはフィーリアの意思によるものだった。

 

「シャル、これは友としての最後の恩返し…。その時までおやすみ」

 

「うっ!」

 

 無針注射が首元に添えられシャルに撃ち込まれる。強力な眠気と共に意識を失った彼女は倒れるのだった。

 

「さぁ、作戦開始と行きますか…」

 

 手袋をはめ量子変換したライフルを持ったフィーリアはIS学園の最重要ブロックを悠々と歩いていくのだった。

 

ーー

 

「くそっ!一夏!」

 

 白式が強制解除され意識を失った一夏を見て流石の千冬も気が逸れる。常人なら反応できない一瞬の隙をリョウは見逃さない。

 

「よそ見か!」

 

「くっ!」

 

 リョウの振るったGNバスターソードが横腹に直撃、千冬も腕で受けるも勢いに押され大きなダメージを負った。ビキビキッと言う不吉な音と共に口から溢れてくる血溜まりに耐えきれず吐き出す。

 

(折れた肋骨が肺に刺さったか…)

 

「まだだ…グボォ!」

 

 大きく息を吸う度に血が口から溢れてくる。両方の肺に肋骨が深々と突き刺さっているようだ。

 

「IS界最強と呼ばれたブリュンヒルデが不様な姿だな」

 

「……」

 

 片膝をつき立ち上がろうとする千冬の口からは言葉ではなく血が溢れ話せない。

 

「教官!」

 

「しねぇ!」

 

 千冬の劣勢にラウラも気を逸らされドーベン・ウルフのサーベルでリボルバーカノンを切り飛ばされた。

 

「どうせ弾切れだ!」

 

「貰ったぞ!」

 

 ドーベンを殴り飛ばしたラウラだったが背後から接近するザクⅢに気づけなかった。ザクⅢの銃剣がシュバルツェア・レーゲンのバックパックに突き刺さる。

 

「まだだ!」

 

《コアに重大な損傷を確認、シュバルツェア・レーゲンを強制停止させます》

 

「なんだと!?待って、止まるなレーゲン!」

 

 ISに搭載されていたコア保護システムは運悪くコアボックス付近を損傷したせいで強制的に機能を停止させられる。

 

「そんな…」

 

 動けなくなったラウラはザクⅢが振るうビームサーベルの軌道を見つめることしか出来なかった。

 

ーー

 

「少佐の反応が…っう!」

 

 シュバルツェア・レーゲンのシグナルロストに気付くクロイだがガラッゾ、ガッデス、ガデッサの猛攻に身動きが取れなくなっていた。

 

「なんだこの反応は?」

 

「光一さん、上からコンテナが!」

 

 ドライセンを行動不能にさせたアリエスは敵陣のど真ん中に投下されたコンテナを見つけ指を指す。その中から出て来たのは同じ顔をした人間のような者達。

 

「敵の制圧班か!」

 

「地下の守備隊に連絡します!」

 

「こちらアリエス、セキュリティールーム。敵の制圧隊を確認した。各隊に至急伝えられたし…セキュリティールーム?」

 

「こ……セ…」

 

 慌てセキュリティールームに通信を送るアリエス、だが帰ってきたのは激しいノイズだった。

 

「なんだろう?有線通信なのに」

 

 地下の守備隊を統括するべきセキュリティールームは既に血の海と化していた。最後の生き残りが必死に声を絞り出しているが既に有線回路は切断されており意味を成していない。

 

「駄目だよ、だめだめ。私がアイツを殺すまでネタバレは無しね」

 

「あぁ…」

 

 脳天に風穴を開けさせられた兵は倒れる。

 

「全て計画通りですよ。ユイト総帥」

 

 手に着いた血を舐めとるフィーリアはいつもの元気な様子と変わらないものだった。

 

ーー

 

「敵だぁ!」

 

「迎撃しろ!」

 

 そんな事をしている間にアンドロイド兵は隔壁を突破し地下に侵入、守備隊との激しい戦闘に入るのだった。

 

ーー

 

「ここまでか…」

 

 ウイングゼロに身を包んだユイトは目を静かに閉じながら静かに言葉を口にした。

 各国から集まった兵たちはやられることなく必死にやっているが劣勢なのは目に見えている。

 地下の守備隊はアンドロイド兵の対応に必死でフィーリアの事なんて気付いても居ない。

 

「新たな世界の幕が開く…」

 

「ユイト…」

 

 心底嬉しそうなユイトの声にクリアもつられて笑顔になる。するとユイトは女神の言葉を思い出した。

 

《私の意志とは関係なく、世界は織斑一夏の味方をするのよ》

 

「なに、この光り?」

 

 そんな言葉を思い出した瞬間。突然、一夏のガントレットが光り始めた。

 

「っ!シュン、シュリその場を離れろ!」

 

「「え?」」

 

《白式、第二形態移行完了。雪花を起動します》

 

「セカンドシフト、このタイミングで」

 

「なんて奴っすか…」

 

光の正体は白式のセカンドシフト、あまりの運の良さに驚きを隠せないハルトとカゲト。

 

「お前たちは絶対に倒す!」

 

「一夏!」

 

 目を覚ます一夏と涙目で喜ぶ箒、女神の予想通り運命というものは常に一夏に対し味方をするようだ。

 

ーー

 

 数分前、意識を失った一夏は白式の作り出した深層空間にいた。風の心地よい草原、1本の木のしたには二つの影があった。

 

「君は?」

 

「……」

 

 木の下で涼んでいた白髪の幼い少女は一夏の方に顔を向けると静かに笑いかける。その横では純白の一角獣が小さな寝息をたてている。

 

「力が欲しい?」

 

「え?」

 

「誰にも負けないような力が欲しい?」

 

 幼い少女は一夏に問いかける。

 

「俺が欲しいのは負けない強さじゃない。護る強さなんだ…俺が未熟なのは分かってるけど、それでも皆を守りたいんだ」

 

「傲慢だね。いつも護られてるのに護ろうとするなんて」

 

「あぁ、でもそれが俺の願いなんだ」

 

 幼い少女との会話だというのにマジメに話してしまう一夏、この場では真剣でないと行けない気がしたからだ。

 

「まぁ、人間はそれくらい傲慢じゃないとおもしろくないよね」

 

「その顔…」

 

 少女は立ち上がると一夏に対して再び笑いかける。その顔はよく見るとヒビが入っていた。

 

「さっきの攻撃でコア()たちに大きなダメージが入ったの…時間は少ない。その時はこの子を頼って……」

 

 少女は微笑みながら一角獣を指さす。その獣は静かに眠るだけで動かない。

 

「じゃあ、頑張ってね…」

 

「ちょっと!」

 

 いきなり吹き荒れる突風に咲いていたゼフィランサスの花が散り視界を塞ぐ。一夏は必死に呼びかけるがそれは無駄なことだった。

 

ーー

 

「装備が違うっすね…」

 

「厄介な…」

 

 忌々しげに呟くハルトはライフルを構え応戦する意思を示す。

 原作では白式の第二形態は《白式・雪羅》、だが先程の聞き取りが正しければ《白式・雪花》とシステムが名乗っていた。

 

「これが、あの子の言っていた力…」

 

 一見すると雪羅と変わらないが全身に備え付けられたスラスターを見る限り更に高機動化しているのは容易に想像がつく。

 

「まるでフルバーニアンだ…」

 

「あれはコアごと断ち切った。あり得ないはずだ…」

 

 所々に青がアクセントとして入っており高機動化されたのも加わってフルバーニアンを連想させる。

 

「ありがとう…行くぞ!」

 

「早い!」

 

 爆発的な瞬時加速、近くに居た城崎双子は反応できずに突破されてしまう。

 

「うおぉ!」

 

 狙いはユイトのウイングゼロ、真っ直ぐに突っ込んでくる。

 

「行かせないよぉ!」

 

「喰らいなさい!」

 

 レイダー、フォビドゥン、カラミティの一斉砲火、無数のビームが一夏に迫るがそのビームは直前になってかき消される。

 

「そんな!」

 

「落ち着くっす!アレは零落白夜のシールド、実体攻撃には無力っす!」

 

 カゲトはAGE-1の装備を換装、ガンダムAGE-1レイザーとなる。全身に装備されたシグルブレイドは強力かつ高い硬度を持つ特殊な刃だ。

 

「邪魔だ、どけぇ!」

 

「目障りなんすよ!」

 

 雪片弐型とシグルブレイドがぶつかり合い火花が盛大に散る。

 

「カゲト!」

 

「一夏の元には行かせない!」

 

「くぅ…」

 

 駆けつけようとするケイニだが意気消沈していた箒が息を吹き返し反撃に出てきたため身動きが取れなくなった。

 

「各隊、何をしているの!?総帥の援護にまわりなさい!」

 

 周囲に展開する機体たちに檄を飛ばすケイニだがその言葉は殴り飛ばされてきたザクⅢを見て驚愕の表情に変わる。

 

「バンシィ…」

 

 ラウラを庇うように立ち塞がっていたのはユニコーンモードのバンシィ。バンシィは基地を脱走後、足取りを掴めていなかったがまさかIS学園に居るとは。

 

「お前は…」

 

《私に乗れ、ラウラ・ボーデヴィッヒ》

 

「頭に響く…あの夢の主か」

 

《早くしろ、レーゲンが瀕死だ。このままでは私も機能停止してしまう》

 

「レーゲンが…」

 

 機能停止に陥った相棒を見つめラウラは大きく開いたバンシィの胸に飛び込んだ。考えている暇はない、コイツは信用できると言う直感に身を任せるしかなかった。

 

「行くぞ、バンシィ!」

 

 乗り込んだ瞬間、ラウラはこの機体の全てを理解した。名を叫びラウラの全身がバンシィに包まれた瞬間、バンシィはデストロイモードへと移行する。

 

「これは…」

 

 ナノマシンを埋め込まれた左眼が激しく活性化されるのをラウラは体感していた。体中に力が漲ってくる。

 

「ええい!次から次へと!バンシィの相手は俺がする。カゲトはそのまま織斑を抑えていろ!」

 

「分かってるっすよ!」

 

「そろいもそろって、本当に忌まわしい!」

 

「やらせはせん!」

 

 バンシィと百万式のサーベルがぶつかり合い顔をつきあわせる。

 

「我々の道を阻むな!何も知らない小娘が!」

 

「人の道理から外れた者の言う事か!」

 

ーー

 

 小さな反撃が始まり始めた時、ユイトはあくまでも冷静だった。MSとISの戦いなど本命ではない、全ては予定通りなのだ。

 

「フィーリア、そっちはどうだ?」

 

「予定通りです。篠ノ之束の目の前に居ます…」

 

「やれ……」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 通信用のインカムを片耳に着けたフィーリアは生命補助装置を外した束の前に立つ。

 

「……」

 

 束は瀕死の身でありながら目を開きフィーリアの事を静かに見つめていた。

 

「お父様とお母様の…仇……」

 

 フィーリアはユイトから与えられた機体を展開する、白と青に彩られた機体はツインアイを紅く輝かせ二振りの剣を掲げる。

 

「いっくんに寄りつく羽虫が…私の死神とはね」

 

「残念だよ。もっと人間らしい人だったら殺しがいがあったのに…」 

 

 機体の主は親友を、愛してくれた者を裏切り自身の夢を追いかけた男が最期に使った機体。その機体に友人達を裏切る彼女が乗り込むのは皮肉以外の何ものでもなかった。

 

「……」

 

「…」

 

 表情には喜怒哀楽全ての感情がかき消えたフィーリアはただ無言で剣を振り下ろし束の体を切り潰すのだった。

 

 


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