IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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第四十六革 主人公補正

 

 

 IS学園のヘリポート、そこに着陸したヘリからラウラとセシリアが降りたった。

 ヘリは1機だけで無く複数のヘリからドイツ、イギリスから派遣されたへいたちが降りたっていく。

 

 フォルガーとイルフリーデたちから派遣された兵たちで慣熟は万全とは言えないがMSを保有する特務騎兵、両国合わせて二十名が派遣された。

 

「ここがIS学園ねえ。初めて来た」

 

「元々男がこの敷地に入ること事態があり得ないんだぞ」

 

「光栄ですね」

 

 ラウラの副官としてIS学園に降りたったクロイは巨大な学園島を見渡し感心の声を出す。

 

「しっかし、改めて見ると長崎の軍艦島みたいだなぁ」

 

「日本の炭鉱街か、あれは1度見てみたいな。特に名前が良い」

 

「そっちですか…」

 

 ドイツの持ち込んだMSはクロイのウーンドウォードEXを1機、ジムクゥエル2機、ジムカスタム2機、ジムⅢ4機、そしてクロイの持ち込んだ設計図に沿って製造されたTR-1ヘイズルが1機。

 全てフォルガー大隊とシュバルツェア・ハーゼの精鋭で編成された特殊部隊だ。

 

「イルフリーデ様も来られれば良かったでのに…」

 

 イギリスから帰国したセシリアは首元で揺れている翼を模したペンダントを触りながらIS学園の地に降り立つ。

 

「革命軍、なんとしても聞き出さなければ」

 

ーー

 

「結局は3カ国合同の作戦ですか。IS学園がどこの国にも属さないという制約があってもこれは危険ではないですか?轡木 十蔵学園長?」

 

「随分他人行儀だね。歩、君らしくない」

 

 IS学園の実質的な運営者である十蔵は昔からのよしみである橘に明るく話しかける。

 

「君によってIS学園はここまでの体裁を手に入れてきた。誇り高きIS学園としてね。それがもうすぐ焼け野原になるんだ、こらは親友としての心配さ」

 

「ありがとう、だがこれも仕方のないことさ。時代は移ろいゆく、それは緩やかにかそれとも急激にかの違いだ」

 

 学生達の学舎であるIS学園が戦場になるのは心苦しいがそれを護ろうと世界から人が集まってくれている。それを見ただけで自分の今までの苦労は報われる気がしていた。

 

「生徒たちは?」

 

「1週間後にはみんなここから去って行く。親御さんや各国の代表には既に通知済みさ」

 

「負けないさ、これまでとは違う。必ず守ってみせるよ」

 

「あぁ、ありがとう」

 

ーー

 

「なに、それは本当か?」

 

「はい、諜報部から流れてきた情報ですが間違いないかと」

 

 革命軍対策委員会と達筆の字で書かれた部屋の中では先程、キャッチした情報が政府関係者の耳に届けられていた

 

「狙いは篠ノ之束か…」

 

 IS学園に彼女が保護されているのは政府の者達も承知済みだ。以前なら彼女の身柄はなんとしても国が預かると言う強硬な姿勢を取っただろうがMSの出現により残念ながら彼女の価値は無いに等しい。

 

「MSの件は富士の教導隊が運用しているそうじゃないか」

 

「自衛隊のIS派の掃討も急がせなければ出遅れるぞ」

 

「よせ、世論の調整と議会の制圧が終わるまで待て。急いでも何にもならん」

 

 タイを含むアジアの主要な国々はMS派とIS派の抗争で内政が混乱しきっている。こう言った時こそ日本は確実に水面下で事を始め、治めなければならない。

 

「中国の新政府がMSの運用試験の為にIS学園の防衛に参加させろと要請が来ている」

 

「混乱している中国にも情報が漏れているのか?本当に革命軍の動向なのだろうな」

 

「わざとリークさせている可能性が高い。なんのためかは知らないがな」

 

 日本の国民も革命軍に対しての反応は様々だ。革命軍を英雄視するもの、敵視するもの、日本だけでなく世界の全ての者達が革命軍に注目を寄せている。

 

「歴史上、最大戦力を誇るテロリストグループ。革命軍、奴らはどうあろうが世界の敵であることには変わりない」

 

 世界の敵、各国政府の総体的な結論がそれだった。

 

ーーーー

 

「そう、やっぱり…」

 

 花柳家本邸。花柳家家元代行、花柳ユミエは意気消沈した状態で家を訪れてきた楯無を見て悟った。

 

「革命軍の首領はユイトでしたか…」

 

「…はい」

 

 情けない姿を曝しているのは分かっているが普段通りに振る舞える気力すら彼女にはなかった。

 

「あの子は…」

 

「……」

 

(あきらめろ、お前の知っている花柳ユイトは死んでいる)

 

 思い出されるのは彼の鋭い眼光、彼の目には明確な殺意があった。知っている彼はもういない、彼の言うとおり死んでしまったのだろう。

 

「私の知っているユイトはもう居ませんでした…」

 

 唇を噛み締め、手を強く握りしめる。目からは大粒の涙が溢れ出し頭がグチャグチャになってしまう。

 

 意識を奪われ目が覚めると自身の体には彼の上着が掛けられていた。いっそのこと殺してくれれば楽だった、だが彼女はまだ諦めきれない。

 優しい彼が戻ってきそうでならないのだ。人を殺すには彼は優しすぎる。

 

「もう良いわ。辛い思いをさせしまったわね、刀奈」

 

 泣きじゃくる刀奈を優しく出し決めるユミエ、彼女の腕の中で刀奈は静かに鳴き続けるのだった。

 

「あなた、どうかユイトを…」

 

 亡き夫への切なる願いを込めユミエは静かに言葉を漏らすのだった。

 

ーー

 

「IS学園にまた攻め込むの。私的にはオススメしないわ」

 

「何か問題が?」

 

 革命軍の航空要塞ガルダの一室、そこにはユイトと全ての元凶である女神の姿があった。

 

「貴方、織斑一夏という存在がどう言う存在か知ってるでしょう」

 

「IS世界の主人公、それ以外はただの一般人だ」

 

「それが危険なのよ」

 

 広くもなく、狭くもない部屋の空気は重く常人なら耐えられないだろう。これは女神の権能がほんの少し漏れていると言うのが原因であるがユイトにとっては関係ない。

 

「私の意志とは関係なく、世界は織斑一夏の味方をするのよ」

 

「主人公補正ってやつか」

 

「そうよ」

 

 思い当たる節はある。ラサ基地の攻防戦で頭に血が上っていたハルキが一夏を殺そうとした時、"たまたま"気づいた千冬に助けられている。

 

「対の転生者の件も含めこの世界の管理者と言う割りにはお粗末だな」

 

「なんとでも言いなさい。管理者と言っても私は監視するだけ、介入するには力を使わなければならない」

 

 挑発的なユイトの言動に対し女神は落ち着いた態度で返す。彼女もなかなか底が見えない恐ろしい人物だがそれを平然と相手取るユイトも化け物だ。

 

「貴方は主人公に立ち塞がる悪者でしかない。関わりすぎると痛い目にあうわよ」

 

「ご忠告に感謝する、それならそれでやりようがある。それにしてもそのために来たのか?」

 

「当然、貴方の計画は私が依頼したもの。崩されてはかなわないわ」

 

「ふん、大丈夫だ。世界は確実に変わっている。篠ノ之束を始末すれば後は楽に進める」

 

「そうね…。気休め程度にだけど貴方にも主人公補正を付与しておいた。それでも気をつけなさい、織斑一夏と対峙すれば最終的に貴方は必ず敗れる」

 

 世界が定めた主人公補正、味方になればこれほど心強いものはないが敵になれば目障り極まりない。

 

「心に止めておくよ」

 

「そう…」

 

 瞬きをすれば彼女の姿はもうない、女神の力を持ってしても織斑一夏には勝てない。だがそれがどうした、例えそうだとしてもこちらの勝ちには変わりないのだ。

 

「せいぜい楽しませてもらうさ」

 

ーー

 

 一方、主人公たちは。

 

「うおぉ!」

 

「はやっ!」

 

 IS学園のアリーナでは自衛隊のMS部隊とIS学園の代表たちが模擬戦を繰り広げていた。

 瞬時加速し急接近する一夏に対しリゼルの不知火はビームサーベルで対応するが零落白夜で掻き消され撃破される。

 

「やっぱり1対1じゃ、お前の弟は強いな」

 

「問題は集団戦だ」

 

 千冬の特訓のおかげでかなり力をつけた一夏だがやはり根本的な問題は解決していない。

 

「すぐ前に出たがるのを何とかしなければ、アイツはすぐ調子にのる」

 

「調子に乗って動きも良くなるんだ。良いじゃないか」

 

 橘の気楽な意見に千冬は非難の視線を送るが彼女は意見を変える様子は無い。

 千冬と一夏の零落白夜はMSに対して優位に立てる最大の材料だ。革命軍の確認されている機体のほとんどがエネルギー兵器が主体。

それに奴らはまだ負けたことがない、つけいる隙はあるはずだ。

 

「束の護衛は?」

 

「セキュリティルームと彼女が保護されている場所に通じる全ての通路に陸自が張ってある。学内の配電制御室にも何人か常駐させてる」

 

 束が保護されている場所は地下だ。地下の通路は必要以上に広くないためMSも入って来れない、通路の各所には重機関銃が配備されておりもしもの場合も大丈夫だ。

 

「MSの実戦運用が目的とは言え他国からの援助もありがたい」

 

 IS学園の保有戦力はIS、MSだけで75機も存在する。前回の防衛線に比べて2倍以上の戦力があるのだ。

 

「かかってこい革命軍」

 

ーー

 

「よし、行ってくれ艦長」

 

「了解。レウルーラ、発進する」

 

 その頃、革命軍旗艦《レウルーラ》は情報長のケイとその親衛隊や他の部隊を乗せ出航する。

 

「続いてサダラーン、出航する」

 

 それに続くように出航するサダラーン、そのブリッジでは不敵に笑うリョウと窓の外を睨みつけるマドカの姿があった。

 

 


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