IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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第四十五革 変わりゆく世界

 

 中国、首都北京。

 

「バカな、この我々がぁ!」

 

 中国軍の正式採用IS《龍星》、設計思想はラファールに似た機体でデザインが中国らしく龍をモチーフにした剣と盾を持っている。

 

「……」

 

それを相手どっていたのはSEEDDESTINYの地球連合の量産型《ウィンダム》。これはラサ基地の戦いにてデータのみ残された機体データで作り上げられた機体だ。

 龍星、1機に対して4機のウィンダムが袋叩きにして次々と撃墜していく。

 

「くそっ、野蛮な男共め!」

 

「支部長、速く逃げてください…きゃ!」

 

 女性主義団体中国本部、その支部長室の壁が崩れウィンダムがゴーグル状のカメラを光らせる。

 

「見つけたぞ、拘束しろ!」

 

「離しなさい!男の分際でぇ!」

 

 ウィンダムに掴まれ暴れる支部長は何も出来ずに暗い夜空に連れ去られるのだった。

 

ーー

 

「軍事クーデター!?」

 

 IS学園の通信室では本国からの緊急通信を受けた鈴が叫び声を上げていた。

 

「革命軍が使っていた機体、確かMSと言いましたか…。その機体を使った軍の一部隊が女性主義団体の施設を襲撃したらしいです」

 

「そんな」

 

「IS学園から連絡は受けています。貴方はそっちに集中しなさい」

 

 中国のIS管理局の局長《王 凛平(ワン・リンペ

)》は通信状況の悪い中、鈴にそう告げると通信を切る。

 

「次に会えるかは分からないけどね」

 

 王は部屋にある窓を見やりそう呟く。外には睨み合いを続けるウィンダム十数機と4機の龍星の姿があった。

 

「局長!」

 

「どうでしたか?」

 

「駄目です、台湾も韓国も同じタイミングで軍部クーデターが発生したようで」

 

 台湾ではストライクダガー、韓国では105ダガーがクーデターを起こし議会も女性主義団体反対派が攻勢に出たらしい。

 最後のつてであった隣国からの軍事要請も期待できず絶望的な状況に王は静かに笑うことしか出来なかった。

 

ーーーー

 

 日本、富士演習場。

 そこでMSの極秘訓練を行っていたエアマスターのパイロット、光一が各国の揺れ動く情勢を耳にしていた。

 

「各国でほぼ同時に軍事クーデターや粛正が行われているのか…」

 

 ISの権力を影に不正を行っていた者達の一斉検挙、または武力的な検挙、それに軍事クーデターまで発生している。

 MSを手に入れたと言うのがトリガーだとしても早すぎる。

 

「早すぎると私も思います」

 

「確かに…その前にその惨状は?」

 

 IS学園から帰ってきたアリエスは文字通りボロボロであり整った顔は絆創膏や包帯で覆われていた。

 

「楠木さんと織斑さんにしごいて貰いました」

 

「想像通りのマジメさだね」

 

「話は戻りますが一斉検挙を終えたラウラ・ボーデヴィヒはIS学園に近々に帰還するそうです。そしてセシリア・オルコットも新機体に換装し帰還するそうです」

 

「問題の子は?」

 

 IS学園への戦力を強化する中、今だに機体が完成出来ていない子が居たと光一は記憶していた。

 

「軍の協力は頑なに拒否しています。生徒同士による話し合いでやって貰うしかないですね」

 

「家族の遺恨に関しては我々が介入しても事態が悪化するだけだ。任せよう」

 

「小原先輩、リゼル隊の訓練を終えました」

 

「不知火、ご苦労さま」

 

 光一とアリエスが話していた時、姿を現したのは不知火と呼ばれる青年だった。二十代の中頃で端正な顔と優しげな顔をした彼は日本人らしい黒髪、黒目だ。

 

「凄いですね、あのリゼルはあれが量産型とはとうてい思えません。ヘタすればそこらのワンオフ機と対等に渡り合えるかもしれません」

 

 高い機動力を誇るウェイブライダー形態と柔軟に戦闘を行える人型の2つを持ち合わせた本格的な量産型であるリゼルは光一が選抜した元空自のパイロットたちで構成されその能力をしっかりと発揮しつつあった。

 

「これでこっちも前よりマシな対応が取れるというものだ」

 

 素直に喜びを露わにする不知火を見て笑う光一は富士教導隊に配備されたジェスタを遠巻きながら見つめる。

 

「ジェスタってのは凄いわね。打鉄より扱いやすい」

 

「全身装甲なのに動きやすいわよね」

 

 MSと言う力を手にした人々は改めてその高い性能を思い知る。この機体たちが世界の国々に渡っただけで世界は変わろうとしている。

 ISの絶対性が薄れていくのが目に見えて分かってしまう。

 

「革命軍が唱えたのは男女の平等な世界…。わざわざ人を殺してまでやることじゃない。MSを世界に広めるだけで済んだはずなのに」

 

「革命軍には別の意図があると?」

 

「分からないけどね。そう思えてならない」

 

 アリエスの言葉に要領の得ない返事をする光一は静かに目を細めるのだった。

 

ーーーー

 

「流石にそこまで意固地になるなよ簪」

 

「でもこれは私がやるべき事」

 

 IS学園の整備室には9割ほど完成した打鉄弐式の姿とそれを弄る簪の姿があった。

 その様子を見ながら花柳ユイカは大きくため息をつくのだが彼女にとっては気にもとめるものではなかった。

 

「大変そうだねぇ」

 

「あぁ、フィーリアか」

 

 整備室の端っこ、そこには試作1号機を整備していたフィーリアの姿があった。オープンな性格をしている彼女だが機体だけは他の人に触らせない主義なのだ。

 

「どこが上手くいってないの?」

 

「スラスター制御とマルチロックオンシステムがお互いに干渉して機能しないらしい」

 

「分かるよぉ、私のブロッサムも同じ不調を抱えてたからね。スラスター制御火器管制が入り乱れててね、正直良く動いてたなと」

 

「そうなのか」

 

 オーストラリア政府の技術班が必死になって再現したブロッサムも結局の所不調の改善が行われずに凍結、とある機関から送られた試作1号機がフィーリアに与えられたのだ。

 

「その話し…もっと詳しく話せる?」

 

「ん?」

 

 その話しに興味を持った簪は頭をこちらに出してフィーリアを見つめる。

 

「モチのロンだよ!」

 

 親指を立て明るく笑うフィーリアに簪とユイカはホッと息をつきながら話しを聞き始めるのだった。

 

「まず話しの始まりは……」

 

ーーーー

 

「まさかカゲトの写真だけでここまで辿りつくなんてな。少々、油断していたかも知れないな」

 

「まさか私もここまで上手くいくなんて思わなかったわ」

 

「おい、ガキ。親玉を出しやがれ、お前みたいな子供に用はないんだ」

 

 革命軍に捕まったのは渚子だけでは無い、彼女に協力した情報屋たちもユイトを迎えに来たガルダに乗せられていた。

 

「……」

 

 その情報屋たちの態度に明らかに機嫌を害したクリアが虫を潰すように黙って手を上げる。

 

「な、なんだよ!」

 

「総帥に無礼だぞ…」

 

「総帥…貴方が革命軍の首領なの?」

 

 こんな子供が…その言葉を渚子は飲み込む。それを口にした仲間が銀髪の少女に殴り殺されかかっているのだから。

 

「クリア、もう良い…」

 

「っ!…すまない」

 

 先ほどの声とはかけ離れたような重い言葉が渚子たちにのしかかる。言葉が質量を持って襲いかかったのを感じたのは生まれて初めてだ。

 

「黛渚子か…確か妹がIS学園に居たな」

 

「はい、そうです」

 

 この声には従っておくべきだ、そんな本能に従い渚子は素直に敬語で話す。

 

「この女以外は殺せ、コイツは独房だ」

 

「分かった」

 

 クリアと呼ばれた少女は自身を無理矢理立たせるとどこかに連れて行く。

 

「おい!…待ってくれよ。情報ならいくらでも持ってくる!頼むから」

 

「バカにしたのは謝る!だから」

 

 殺される、その未来を必死に変えようと叫ぶ仲間たち。そんな彼らの後ろから1つ目の機体たちがビームサーベルを持って出てくる。

 

「頼む!頼む!」

 

「助けてぇ!」

 

 振りかざされるビームサーベルによって塵一つ残さず消え去った仲間たち、そんな光景に渚子は悲鳴すら上げることが出来なかった。

 

ーー

 

「MS隊のアップグレードはどうなってる」

 

「レギンレイズの配備は順調っすよ。ジュリアの方はまだっすけど」

 

 渚子を牢に閉じこめた後、自身の専用の部屋で本部のカゲトと通信を行っていた。

 

「零落白夜持ちの織斑姉弟は実刃持ちのグレイズ隊が相手をしなければならない。問題は織斑千冬だ、リョウの隊に当たらせるが一般機にも実刃系の接近武装はを持たせておけ」

 

 ガンダムの世界の機体はエネルギー兵器が主流であり対エネルギー兵器の零落白夜とは相性が悪すぎるのだ。当初の予測通りそこがネックになってくる。

 

「攻撃の主体であるリョウのアルケーが実刃だったのが幸いしたな」

 

「まったくっす」

 

「束のアンドロイド兵は?」

 

「現在、順調に量産してるっす。そのアンドロイド兵用の装備も製造してるっす。うちの対人部隊にも使えるっすから楽っす」

 

「プログラミングはケイに任せろ。しっかりとな」

 

「分かってるっす」

 

 IS学園の進行作戦の準備は順調だが決して手を抜かない。

 何事も準備は大切だ、その準備の善し悪しで行う物事の全てが決まって来る。それをユイトたちは身をもって知っているのだ。

 

「IS学園の様子は?」

 

「自衛隊が常駐してるっすよ。富士演習場ではジェガン、ジェスタ、リゼルを確認してるっす」

 

「厄介な機体だな」

 

「そうっすね。やったのは誰だか」

 

「そう言うなよ」

 

 少々、意地悪に声を上げるカゲトに対しユイトも苦笑いしながら答える。

 

「準備が出来次第、レウルーラとサダラーンは出発させろ。ガルダは作戦開始の2日前に飛んで貰う。そして日本政府にその情報をリークさせろ」

 

「分かってるっす」

 

 作業に戻るため通信を切るカゲト、やることは山ほどあるのだ急がねばならない。

 机に置いてあったココアを飲んで仕事の前の一息を着こうとした時、彼の部屋に慌ててやって来たのはケルラだった。

 

「カゲト大変!バンシィが!」

 

「はっ?」

 

ーー

 

「早く止めろ!」

 

「MS隊を呼べ!取り押さえろ!」

 

「何が起きてるんすか!?」

 

 慌てて駆けつけたカゲトが見たのは拘束フレームの中で暴れるバンシィの姿だった。

 

「分かりません、中には人が居ないんですが」

 

「自ら動き出したって事っすか。非戦闘員は退避!」

 

 その言葉を聞いた開発班が一斉に逃げ出す。急いで駆けつけたギラ・ドーガ2機がウミヘビを装備して構える。

 拘束フレームで暴れるバンシィは暴れることをやめアームド・アーマーVNを起動。拘束フレームを破壊する。

 

「来るぞ!」

 

 ギラ・ドーガがウミヘビを放とうとした瞬間、バンシィのアームド・アーマーBSが放たれる。

 

「きゃゃゃ!」

 

「ケイニ!」

 

 曲がりくねるビームが施設の一部を破壊しギラ・ドーガを吹き飛ばす。そのビームは駆けつけたケイニに襲いかかった。

 

「大丈夫っすか!?」

 

「カゲト…」

 

 咄嗟にAGE-1を展開したカゲトに護られなんとか無傷の彼女だったがそうしている間にもバンシィは隔壁を突き破り基地を脱出する。

 

「なんだったんすか…」

 

「無事かぁ!」

 

 リョウたち戦闘組が駆けつけた頃には既に遅く破壊された研究施設のみが残されたのだった。

 

 

 


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