「オーライ、オーライ。慎重に」
革命軍本部の地下格納庫、そこには放棄したカナダ支部にて封印されていた3機の機体が運び込まれていた。
RX-00 ユニコーンガンダム1号機 ユニコーンガンダム
RX-00 ユニコーンガンダム2号機 バンシィ
RX-00 ユニコーンガンダム3号機 フェネクス
「ユニコーンシリーズじゃない、どうしたの?」
「カナダ支部に殆ど封印状態だったのを持ってきたんすよ…」
運び込まれた3機を見やりケイニは疑問の声を上げたのに対してチョコ棒を囓っていたカゲトは作業を行いながら答える。
「何で封印なんか…」
「この3機はちょっと特殊なんすよ」
そう、3機にはある特殊な試みが行われていた。
機械に自我が芽生えるのか、と言う技術者なら誰もが考えるであろう試みを試したのがこの3機だった。
「この3機のプロトタイプにあたるのがこの前、IS学園に投入したB4シリーズのブレインっすよ」
「あの子も最後は生きたいって言ってたもんね…」
「そうっすね…」
ブレインに与えられたのは知識欲、そこから生きたいと心から願ったのは取り入れた知識に生への渇望があったのか、それとも別の何かがあったのかはカゲトも分からない。
「この3機にはとある人物を参考にしてAIを組み込んであるっす」
ユニコーンにはバナージ・リンクス
バンシィにはマリーダ・クルス
フェネクスにはブレインの残骸から回収した疑似人格
だが問題が発生してしまった。
「でもAIを起動させた瞬間、自分自身を封印したんすよ。3機とも自らの意思で…」
「自らの意思で…」
「恐らく、何かがトリガーになっている筈なんだが…」
カゲトの説明の捕捉をするように話に加わったのはハルトだった。
篠ノ之束のせいで滅茶苦茶になった指揮系統の再整備を終えて息抜きに来たのだろう。
「カゲト、この項目だが…」
「ん…」
調査書をサッと目を通したハルトはバンシィの異常点にすぐに気がつく。
伊達に頭脳系のチートを貰っているわけでは無い。
「サイコフレームの稼働率が160%…」
その項目を見やりケイニはすぐさまバンシィを見上げる。たしか最大値は100%の筈だ。
装甲は閉じ内部のサイコフレームは確認できないが何かしらの威圧感を感じる。
「サイコフレームを通してどこかと話していたって事すね」
「何を通じて?」
「コアネットワーク…」
「コアネットワークって…」
カゲトの言葉にハルトは驚く。
サイコフレームは当然ながら未知の部分が多い、それはISのコアが持つコアネットワークも同義。
可能性の一つとしてISのコアネットワークを通じて誰かを観察していると言う仮説もあながち否定できないのだ。
「一応、厳重に拘束して保管するっすね」
「頼む…」
データを見ながら話す3人は気づかない、バンシィのツインアイが薄く光っていたことに…。
ーーーー
「たぁ!」
「っ!」
場は変わりIS学園、そのアリーナでは専用機持ちの訓練が行われていた。
対するは日本を守護する精鋭、富士教導隊の楠木アキ。
彼女はユイカの一撃を難なく受け流すと引き倒し刃を首筋に当てる。
「参りました…」
「まだまだだな…」
これ以上の戦闘は不可能と判断したユイカは持っていた刀を納める。それを見てアキも同様に刀を納めた。
周囲には疲労により屍と化した専用機持ちたち、その中で立っていたのは教官として立つアキと千冬の二人だけだった。
「強いですね、流石は国の誇りを背負ったお二人…」
「勝負にもなってないよねぇ」
それを観客席から見ていたのは橘少将と副官のアリエスだ。
「きみもMSに馴れてないんだから入れて貰ったら?」
「そうしましょうか…」
アリエスはその言葉と共に与えられた機体、ガンダムXディバイダーを展開し身に纏った。
ディバイダーは飛び立つとハモニカ砲を撃ち放ちアリーナのシールドバリアを破壊して侵入した。
「彼女も大胆だよねぇ…」
ビームとシールドバリアが干渉することで起きる風にあたりながら橘はのんびりと話すのだった。
「特殊技術開発協同隊、アリエス・ノースフィールドが参ります!」
「乱入は感心しないな…」
「お願いします」
「分かった…」
やけに真っ直ぐなアリエスに頼まれ刀を構えたのはアキ、千冬は空気を読んで暮桜を下がらせる。
「さぁ、来い!」
「行きます!」
アリエスはライフルを構えビームを撃ち放つ、アキは亜光速で飛来するビームを避けると素早く接近する。
アキの機体《崩月》は近接一辺倒の機体、攻撃手段は限られている。
本来なら敵の間合いの外からの攻撃が有効だがアリエスは引かず自ら前進することを選んだ。
「度胸は認める…が」
「行きます!」
アキの間合いに入る直前、ハモニカ砲が瞬時に展開し撃ち放たれた。
回避不能の距離、アキが取った行動は刀を投げつける事だった、刀はシールドに辺りビームの軌道を無理矢理変更させる。
「そんな!?」
「もらった!」
アキは小刀を取り出し振りかぶる、それに対応してアリエスはサーベルを抜刀。リーチならビームサーベルの方が有利だ。
だがアリエスに来たのは小刀による一撃ではない、素早い蹴りが彼女の顔面襲いかかったのだ。
顔面の防御は脊髄反射のように咄嗟に防いでしまう。それゆえにアリエスはサーベルの持っていた右手で顔を防いでしまった、なんとか防げたが体勢を崩してしまう。
「しまった!」
「反応速度は良いが…」
アキは機体を周り込ませ首筋に小刀を当てたのだった。
「反応に真っ直ぐすぎる」
「……はぁ」
実際、やろうと思えばまだやれる。しかし自身の完敗であることには変わりないだろう。
「日々精進ですか?」
「その通りだ」
アリエスは腕を下ろし戦闘の意思がないことを伝えたのだった。
ーーーー
「みんなぁ、大丈夫?」
生ける屍の中、皆を弄っていたのはフィーリア。彼女は元々の実力が高いため比較的軽傷で済んだのだろう。
「動かないの?じゃあ、箒のおっ…」
「やめんかぁ!」
「サイサリス!!」
両手をワキワキと動かし気持ち悪い挙動で近づいたフィーリアは箒の鉄拳によって吹き飛んだ。
「酷いよ箒ちゃん!親父にもぶたれたことないのに!」
「それを甘ったれというんだ!」
「一夏!タスケテェ!」
「お、おい!」
再び箒の鉄拳が繰り出される直前、フィーリアは近くに居た一夏の背中に逃げ込む。
フィーリアは肩越しに箒の様子を窺う、すると必然的に彼女の胸が背中に押し当てられる事になる。それを感じた一夏は顔を赤くして驚いた。
「一夏ぁ!そこに直れ!」
「何で俺だよ!?」
「ちょっとフィーリアも離れなさいよ!隠れるなら他にいるでしょ」
「鈴はちっちゃいもん」
「……」
ピシッと空気が割れる音がした。当然だろう、鈴のブロックワードを彼女は言い放ってしまったのだから。
「誰が貧乳じゃぁ!!」
「言ってな…!げふっ!」
鈴の見事な腹パンが炸裂するとフィーリアは倒れ、死んだように沈黙するのだった。
ーー
「酷いよ…みんな」
「フィーリアもフィーリアだと思うけどね」
少し愚痴りながら制服に着替えているのはフィーリアとシャルの二人、箒と鈴はとっとと着替えて食堂に行ってしまった。
「一夏も最近よそよそしいしさ…」
「へぇ…」
その言葉を聞いた瞬間、シャルはまるで面白い獲物を見つけた動物のようにニヤリと笑うのだった。
ーー
「一夏♪」
「おう、シャル。どうしたんだそんなに上機嫌で」
「フィーリアがさぁ。最近、一夏がよそよそしいから嫌われてるんじゃないかって心配してたよ」
着替え終わり、食堂に向かっていた一夏を捕まえて話し掛けた。
「そんな事ないさ」
「でも最近の一夏はフィーリアに対して冷たいと思うよ」
「そうか?」
一夏の問いにシャルは大きく頭を縦に振ると笑いながら爆弾を投下した。
「惚れたの?」
「そんな訳ないだろ!」
「ふーん…」
問いに若干おののきながら答える一夏を見たシャルは実に楽しそうだった。
(無自覚か…箒たちも気付いてないし。面白いなぁ)
「楽しそうだな」
「勿論だよ。僕も年相応の女子だからね」
「惚れただのていうは好きだよな。女子って」
「わくわくするんだ。特に友だちの色恋沙汰にはね」
そう言った経験が乏しかったシャルにとってこう言ったものに対して大きな興味を示すのは当然のことだろう。
「そう言われてもな。俺はそう言うのがなかったから」
「最初なんてそんなもんじゃないの?」
「そうか?」
「たぶんね。でも敵は強敵だなぁ、命の恩人なんでしょ?」
挑発するように放たれた言葉に対し一夏は明らかに嫌な顔をした。
それを見たシャルのテンションはマックスだ、2頭身の自分が跳ね上がっているのが見えるようだ。
「まぁ、今は大変なときだしね」
「あぁ、皆を護れるように強くなりたいんだ」
「なれると良いね」
「あぁ」
理想のために強くなる、それは結構だが彼の目標は高すぎる。
全てを守るなんて出来るわけがない、だがそれを否定などしない、友の夢を笑う者がいるものか。
だから出来るだけのことはしてあげたい、大切な友人の為に…。
「頑張ろうね」
「おう!」
二人は笑いあいながら食堂に向かうのだった。
ーーーー
「若いっていいね。元気がある」
「やめろ」
教練を終え一服していたアキと千冬は今後の事について話し合っていた。
「そっちの教練はどうなんだ?」
「まぁまぁだな」
自衛隊のアキと橘を中心とするMS賛成派の教練はラサ基地にて回収した機体の量産化に成功し現在は教導段階に入っている。
陸自、元空自、海自の全てから有志で集まり現在はかなりの規模を誇っている。
「問題はリゼルって言う可変機の運用だ」
可変機の操縦はかなり難しい、なぜなら人型としての運用と戦闘機としての運用の二つをこなさなければ充分に性能を発揮できないからだ。
「量産はどこでやってるんだ?自衛隊は女性主義が横行しているのだろう?」
「民間企業に委託している。IS登場よって衰退した元大手重工が手を組んで取り組んでる」
ISの登場によって“女性が主体の“IS関連会社が確実に伸びていった結果、従来の大手重工が衰退。
殆どの重工が甚大なダメージを負ってしまった。そんな彼らがISを凌駕する兵器の開発を手伝わない訳がなかったのだ。
「相手は元大手だ。口もかなり堅い、こちらとしては一石二鳥だったのさ」
「なるほどな」
複雑ではないが変形機構を有しているリゼルの量産は緩やかだがジェガン、ジェスタの量産は順調に進んでいる。
今までの戦闘で生き残った富士教導隊、有志の同士たち全員に機体が配備される予定だ。
「細かいパーツの生産は重工から町工場に依頼しているお陰で日本の男性たちが活性化し初めている。随分と良い傾向だ」
「問題は敵がいつ来るかだな」
「……」
最大の問題、篠ノ之束を匿っていることは敵にもバレていると考えた方が良い。
束と派手にやり合った奴らがそれを見逃してくれるはずはないと断言できる。
「迎え撃つのは良いが。生徒たちを逃がさなければな」
「正直そっちまで手が回るかどうか…千冬、いいのか?」
「なにがだ」
「IS学園はもう立て直せなくなるぞ」
「……」
前回の戦闘は革命軍が手加減をしてくれたからだ。だが今回は違う、こっちもMSがある限り相手も本気を出さざる得ないだろう。
「間違いなく泥沼になる」
「どこかで反撃の狼煙を上げなければならない。まだ被害をコントロール出来るという点ではIS学園は望ましい場所だ」
「お前たちの生徒を巻き添えにしてもか?」
「生徒は私が護る…」
「分かった…」
しばらくの沈黙の後、アキは静かに答える。もう後には引けない、腹をくくるしか今の自分たちには出来なかった。
ーーーー
「編集長、黛渚子。一介の記者がここまで来るとはユイト、どうするんだ?」
「……」
革命軍保有の輸送機にて捕まっていたのは周辺をかぎまわっていた渚子だった。