「束さん…」
「姉さん」
IS学園立ち入り禁止区画に臨時設置された医務室では片腕を失い憔悴している束の姿があった。
2人を呼び出した千冬も何とも言えない表情をしており呼ばれた一夏と箒は言葉を失うことしか出来なかった。
「アイツから連絡があったと思ったらこのザマだ。革命軍と一戦、交えたらしいが…」
「革命軍…」
千冬と一夏の発した革命軍という単語に箒はビクッと反応し恐怖におののく。ラサ基地でハルトから浴びせられた殺気を思い出したのだ。
「アイツら、世界を滅茶苦茶にするだけじゃなく。束さんまで」
幼馴染みの姉である束まで傷つけられ怒りを露わにする一夏だがその横で立っていた千冬は黙ったままだ。
(アイツがここまでやられるとは…)
束は自他共に認める天才だ。体内に仕込んだナノマシンの恩恵で千冬並みの戦闘能力を保有している。
なのにここまでやられるとなると、革命軍は自分が予想しているよりも遥かに危険な組織と言う事になる。
「あの赤い機体は私が相手をしなければならないかもな…」
「千冬姉…」
「織斑先生…」
一番最初、IS学園に侵入してきたあの赤い粒子を纏う機体。
更識楯無を圧倒し、その他の代表候補生たちも赤子の手をひねるように翻弄したあの機体。アイツは間違いなく強い。
千冬の纏った覚悟の念に一夏と箒はただ黙ることしか出来なかった。
ーーーー
「一夏たち、どこに行ったんだろうね」
「さぁ、織斑先生はかなり切迫してたけどねぇ」
「私もおいてぼりなんて…」
IS学園食堂ではアイスコーヒーを飲むシャルロット、ふてくされる鈴、フィーリアが寝そべりながらオレンジジュースをストローで飲んでいた。
「ラウラもセシリアもしばらく帰ってこないし…」
「箒はますます追い詰めてるしねぇ」
「あのバカはどうして1人でやろうとするのかしら」
本来なら医者に診て貰うのが最適なのだろうが彼女は他人に自身の弱点が露呈するのを避ける節がある。彼女に悟られたと思わせずにトラウマを乗り越えて貰わなければならないのだ。
「お父さんもどっか行っちゃったし…もう胃が痛いよぉ…」
「よしよし、シャルロットは頑張ってるよぉ。お父さんも大変なんだよ」
いつになっても苦労人なシャルロットの頭を撫でるフィーリア。
シャルロットは周りに気を遣いすぎるのが弱点だがそれが彼女の魅力なのだからどうしようもない。
こうやっていつも明るく支えてくれるフィーリアは彼女にとって心の支えだった。
「そう言えば
「鹵獲…」
「同時に変な動きをしてる連中も居るみたいよ」
各国が様々なルートでMSを手に入れ量産を始めようとしている。絶対王者であったISの失墜に女性主義団体の持つ強制力が失われている証拠だ。
「クーデターが起きなきゃいいんだけど…」
鈴は管理局員の呟きを思い出してため息をつく。革命軍の放った宣言、男女の平等化が進められようとしている。
「楽しくなってきたね」
「楽しい?」
フィーリアの言葉に鈴は反応する。言葉通りだ、面白いとはどう言う事だ。
「私たちは世界が変わるのを二度も見られるんだよ」
「世界が変わるのを…」
「それって凄いことじゃない?」
人が争い、命が奪われていると言うのに…。彼女は面白いと言った。死と隣り合わせの戦場に赴き、共に戦った者とは思えない言葉に鈴はとてつもない違和感を覚えるのだった。
ーーーー
イギリス、IS管理局直轄基地。
「どうだ、オルコット」
「良好ですわ、ブルーティアーズを降りるのは悲しいですけど」
「すまないな」
「いえ、一夏さんのお力になれるのなら…」
IS管理局の直轄基地は女性主義団体から監視されない唯一の楽園だった。
その演習場の空を駆けるのはブルーティアーズ二号機《サイレント・ゼフィルス》だがその姿はIS学園防衛戦より少し変化していた。
「ゼフィルスは順調か…」
「はい、セシリアとの同期も問題ありません」
「うむ…」
ゴルドウィンは窓の外で踊るように飛行するセシリアを見て満足げに笑う。
本来のサイレント・ゼフィルスも十分高性能だったが回収したMSの技術を取り入れ更に改良したゼフィルスはそれよりも強力になっていた。
「セシリア、新装備の確認をするぞ」
「はい!」
セシリアの指示を出しているイルフリーデは喜々として飛び回る彼女を微笑ましく見つめる。
サイレント・ゼフィルス主兵装である
更にクロスボーン・バンガード特有兵器であるショットランサーもつけられた。
左腕にビームシールド発生器を装備し自己防衛力の向上を図り、全身のスラスターをMSの高出力スラスターに換装され機動力も高くなっているがそのせいでいささか燃費が悪くなったのは仕方のないことだ。
「装備の調子は良好です。持ち帰ったF91のデータは役に立ちました」
「うむ、MSの開発も滞りなくな…」
「はい」
イルフリーデの上機嫌な声を聞き終えたゴルドウィンは一息つく。
「この国の掃除を始めなければな…」
彼は不敵に、だがこっそりと笑うのだった。
ーーーー
「どう、調子は?」
「
プリイェームニクとは和訳すると後継者という意味だ。ISの後継者、つまりMSの開発計画のことを指す。
女性主義団体にバレないように計画を秘密裏に行われていた基地には耐寒用のマントを被ったリーオーが警戒に当たっていた。
「ガトリング付きはどうなってるの?」
計画の立案者、IS管理局局長のシャネラは開発が難航しているサーペントを見やる。
「難航しています、全身に特殊な合金を使っているようで…。しかも高い位置で凡庸性が保たれている機体なので量産にはまだ」
「急がせなさい、粛正の日は近いわ。最低10機は量産するように」
「はっ!」
シャネラは手に持っている計画書を見て表情を固くする。この国と世界のために動き出す、その為に国がどれ程荒れるか…。彼女はそれが心配でならなかった。
ーーーー
オーストラリア近海。
そこではおそらくMS同士による初めての戦闘が行われていた。
戦うは篠ノ之束討伐部隊の一部、対するは革命軍からMSを強奪したアメリカ合衆国特殊部隊《人狼部隊》。
篠ノ之束の討伐部隊のほとんどは彼女の捜索に当たっていたがトウカ達の部隊は味方の救援信号を受け取り駆けつけると機体が強奪されていたと言う事だ。
「頂きますわ!」
「その程度で…」
シーレのフォビドゥンが肉迫し鎌を振るうがその一撃を難なく受け止めるベアトリーチェ、ザンスパインのカメラが怪しく光る。
その瞬間、一瞬にして振るわれたビームサーベルにフォビドゥンはゲシュマイディッヒ・パンツァーを2つとも両断される。
「そんな…反応できなかった。強化人間であるわたくしが…」
「シーレ!逃げて!」
「このぉ!」
損傷したフォビドゥンを庇うように前に出るトウカとナナはレイダーとカラミティを接近させ注意を逸らさせる。
カラミティに一斉砲撃を光の翼で防いだベアトリーチェはレイダーのハンマーを受け止め無理やり引き寄せる。
「くらいなさい」
「ぐうぅ!」
引き寄せられたレイダーはそのままザンスパインに蹴りを入れられトウカは苦悶の声を上げる。
「口ほどにも無いわね。革命軍…」
妙な色気と圧倒的で見えない圧が彼女たちに話しかける。
「クソッ!親衛隊と合流せねばならんのに!」
ギラ・ドーガはビームホークを出力させ斬り掛かるがゾリディアのビームシールドに防がれる。
他の量産機もも小さく機動力があるザンスカール機の挙動に振り回され攻撃が当たらない。
「こいつら中々やるぞ!」
機動力を生かし一撃離脱戦法を活用してくるかと思えばいつの間にか囲まれダメージをくらう。統制が取れている恐ろしい部隊だ。
ビー、ビー、ビー!
「この警告音は!?」
「現空域から即時離脱せよ…ナナ!離脱急いで!」
「りょぉーかいぃ!」
トウカはレイダーを変形させナナのカラミティを乗せると離脱する。それは他の革命軍機も動揺で人狼部隊はその行動に対し不審に思う。
「ベアトリーチェ様!」
「私たちを諦めたわけではなさそうだけど…」
「ベアトリーチェ様、小型の戦闘機がこちらに急接近しています!」
「戦闘機?」
「変わった形をしています」
報告をしてきたゾロアットのカメラに写っていたのは赤、青、白とトリコロールの機種に蒼と白の戦闘機。尋常では無いスピードを叩き出している2機は突如変形し人型にチェンジする。
「しまった、ミレナ引きなさい!」
「え…そr……」
ミレナと呼ばれた隊員の声は最後まで続か突如包まれたビームの本流に流されてゾロアットと共に消滅していく。
「なっ!」
遠望からもハッキリとビームの通過光が視認できた。あれは戦略兵器並みのビーム兵器だ。
「砲撃タイプなら接近戦で!」
「……」
「蒼い炎…」
ゾリディアはビームサーベルを取り出し介入してきたウイングゼロに肉迫するが全身から蒼い炎を噴き出す機体が視認できぬ早さで機体を両断した。
クリアのデルタカイがシステムを開放したのだろう。
「ふふっ…やるわね」
「なに!?」
光の翼を解放したザンスパインがユイトの駆るウイングゼロに急接近しサーベルを振るう、迎え撃つユイト。
2機の間にビーム同士がぶつかり合い激しいスパークが発生する。
「ザンスパインを使いこなす奴がいたとはな!」
「子供…面白いわ、かかってきなさい」
「狂人が…」
ザンスパイン、ウイングゼロのツインアイが煌めき2機は出力を上げるのだった。