IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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第四十一革 虚像

 

 

向けられる銃口、その先に居るのは革命軍の総帥であるユイト。銃口を向けるのは日本の暗部、更識楯無。

 

「どうして…」

 

「……」

 

楯無の顔は絶望に染め上げられ大きく動揺していた、拳銃を持つ手が震え威嚇の体を成していない。

 

「ユイト…」

 

顔に大きな火傷の跡を残しこちらを睨みつけるユイトに対し楯無は溢れる感情を押し込められず瞳に涙を溜める。

 

なぜこの様な状況が発生したのか、それは数十分前まで遡らなければならない。

 

ーーーー

 

「ようこそいらっしゃいました。お噂はかねがね」

 

「いえ、こちらこそ話の場を提供して頂き感謝しております」

 

デュノア社長との会談を設けたユイトはゼクス(ミリアルド)に扮しエルワンと硬い握手を交わす。

それを監視している影が二つ、ジャーナリストとして活動中の渚子と暗部の楯無だった。デュノア元社長の不自然な動きを察知した両名はこの会談に辿り着いたのだ。

 

「よくバレずに済みましたね」

 

「今回は非公式に入国ましたからね」

 

会談の行われているビルの向かいのビルに居た楯無はラサ基地攻防戦の後、帰投するロシア軍には同行せず。機密便でオーストラリアに入国したのだ。これなら革命軍に悟られること無く行動できる。

レオの補佐であったアンも同行させて良かった。彼女の持参した集音器のおかげで会話もある程度聞き取れる。

 

「単刀直入に言いましょう。居場所が無いのでは我々のアナハイムに属しませんか?貴方たちに対し自由な研究を行える場所を提供しましょう」

 

「そこまでの待遇、痛み入ります。なぜそこまでしてくれるのですか?」

 

「貴方たちはとても優秀だ、我々は図面を引くことは出来るがそれを実現する技術力が足りないのですよ」

 

「あの3機の件は申し訳ありません。私がしっかりしていれば暴走なんて事は…」

 

「いえ、システムは完成していた。パイロットが未熟だったと言う事です」

 

ユイトは真底残念そうにするが罪悪感などこれっぽっちも抱いていない。全て思い通りだ、それに主人公(織斑一夏)の仲間の1人であるシャルロットの父親を抑えれば奴らも本気にならざる得ないだろう。

 

「どうでしょう、貴方の技術力と我々の図面で娘さんの新たな機体を造り上げては?」

 

「シャルロットのを…ですか?」

 

「世界の情勢は安定していません、ならば娘さんには自己防衛のための力が必要だと思うのですが」

 

「なるほど…良いのですか?」

 

「我々は貴方とより良い関係を築きたいのです」

 

次々と条件を提示しこちら側に誘い込むユイト、その様子を後ろで待機していたクリアは黙って傍観していた。

 

「ん…」

 

だがその時、クリアは強化されていた感覚で何者かが近くでいるのを感じた。彼女は周囲にバレぬように動くとその場を後にする。

 

(なんでバレたの!?)

 

クリアが感じ取っていたのは渚子の気配だった。不用意に近づきすぎたとは思ったがまさか気付かれるなんて思わなかった。

 

「まさか…渚子さん!」

 

「どうしたのですか?」

 

「アンさん、ここは頼みます!」

 

「ちょっと!楯無さん!?」

 

急いで動き始める楯無に対しアンは集音器のせいで身動きがとれず背中を見送るしか出来なかった。

 

ーー

 

「なんだお前……がっ!」

 

楯無は見張りの兵の意識を刈り取ると逃げ回っていた渚子を見つける。

 

「渚子さん!」

 

「楯無ちゃん!?」

 

「速く!」

 

「待て!」

 

クリアはサイレンサー付きの拳銃を取り出すと渚子に向けるが突如、煙が発生し視界を塞ぐ。それと同時に建物内の非常ベルが鳴り響いた。

 

ジリリリリ!

 

「何事だ…」

 

「侵入者のようで、クリア隊長が追っております」

 

「デュノア社長の避難を」

 

「はい…」

 

突然の非常ベルに対し兵が現状を報告する。ユイトは懐に仕込んである得物を確認すると席を立つ。

 

「失礼、どうやら企業スパイが入り込んだようだ」

 

「そうですか、お話は前向きに考えさせていただきます」

 

「えぇ、ありがとうございます」

 

「エルワン様、こちらです」

 

「えぇ」

 

「お気を付けて」

 

あくまで冷静に言葉を発するユイトだが内心かなり苛立っていた。本来なら今日、墜とす筈だったターゲットを逃したのだから。

 

「護衛以外は何をやっていた」

 

「すいません!篠ノ之束の討伐でかなりの人員を割いてしまったので」

 

「ちっ!」

 

自身が下した命令だ、部下達には非は無い。たかが商人を籠絡するだけの交渉ごとにまさか加入者が現れるなど思いもしなかったのだ。

 

「未熟だな…」

 

「はい?」

 

「なんでもない、追撃しろ逃がすなよ」

 

「はっ!」

 

銃を持って駆ける兵を見送りながらユイトは懐のコンバットナイフを取り出すと地下の配水管室に向かうのだった。

 

ーーーー

 

カツン…。カツン…。

 

地下の配水管室、そこには排水のためのポンプが張り巡らされ水を循環を促すためのモーターが耳障りだ。

 

「っ!」

 

周囲を警戒するユイト、だが相手の方が上手だったようでパイプの隙間から放たれた弾丸が顔を覆っていた仮面を吹き飛ばす。

 

「くそっ!」

 

着弾の衝撃で体勢を大きく崩すユイトだが発射地点にコンバットナイフを投げ身を隠す。

 

ーー

 

頭を撃ち抜いた筈だというのにナイフを投げつけて反撃してきた。楯無は銃口を逸らされたと思えば身を隠された、相手の気配も知覚出来ない。

 

「やるわね」

 

銃が問題なく動くと確認すると素早く移動する。相手はまだ1人、援軍を呼ばれるまでに相手を無力化しここから脱出しなければならない。

 

「よくここが分かったわね、テロリストにしてはやるじゃない」

 

「更識楯無…」

 

相手の注意を引きつけるための声かけに対しユイトは驚く。楯無との接触は計画終了まで取っておくつもりだったが仕方がない。

 

「逃げる奴は外に逃げたがる。わざわざ中に入ろうとしないと考えるのが普通だ。クリアが撒かれたのも仕方がないだろうな…」

 

「その声…」

 

「初めましてだな、更識楯無」

 

物陰からゆっくりと出てきたのは素顔のユイト、拳銃を構えて近づきつつあった楯無の目の前に立った彼に対し彼女は唖然とするのだった。

 

「どうして…」

 

「……」

 

思わず思考が停止する楯無。その時、ユミエと話した事を思い出した。

 

(なぜこれを私に?)

 

(これを聞いて私はあることを感じました…ですが確信がありません)

 

(感じた事とは?)

 

(それは教えられません…教えればあなたは意識してしまう…)

 

楯無は理解した。ユミエは分かっていたのだあの宣言の声を聞いて自身の息子がテロリストなのだと、復讐鬼と化していたのだと…。

 

「ユイト…」

 

愛しかった男が今ここに居る。あの時、"殺されたはずなのに"目の前に居るのは紛れもなく花柳ユイトだった。

 

「ユイト…」

 

「……」

 

楯無の口から溢れる悲しみの感情が言葉となって現れた。その言葉にユイトはほんの少し目を細める。

 

「なんで貴方が、貴方は誰よりも優しかったじゃない…それがどうして?お父様の仇?」

 

「いや、それはきっかけにしか過ぎない…」

 

「……」

 

分かっていた、目の前に立つ彼は個人レベルのものでは決して動かない人だった。それは自身が一番知っているはずだ。

 

ただ傍にいてくれたら良かった。それ以上、何も望まなかった。愛してくれなくていい、見てくれなくてもいい、ただ一番傍にいて欲しかった。

それだけで心が躍り世界は光で充ち満ちていたのだから。

 

「なんでこんな事に…」

 

昔より鋭くなった目、顔の右側を覆う火傷の跡は実に痛ましい。

 

「更識楯無…」

 

「私は刀奈よ!更識刀奈!」

 

刀奈の叫びにユイトは思わず口を閉ざす。(この世界)(前の世界)は別人だ。過去を共有していると言ってもその考えや行動は違う物になるだろう。

だからこそ目の前で動揺している楯無はこの世界のユイトの虚像を見ているに過ぎない。

 

「悪いが"俺は"お前を知らない…。」

 

「嘘よ!」

 

常に飄々とし誰にも自分の本心を悟られなかった刀奈は今、駄々をこねる子供のように叫んでいた。

 

「だって一緒に…だから……」

 

思い出されるのは過去の記憶、世界の汚れを知らなかった純粋な自分が惚れていた彼の姿と今、殺気を向けられている"敵"の姿が混ざり混乱を生む。

 

「諦めろ、お前の知っている花柳ユイトはもう死んでいる」

 

「え…」

 

混乱する刀奈に対しユイトはウイングゼロのスラスターを部分展開し一気に近づくと腹に思い一撃をお見舞いする。

 

「うっ…ユイ……ト……」

 

「……」

 

混乱のせいでまったく対処できなかった刀奈は力無く倒れる。本来ならここで殺しておくべきだろうがユイトにはそれが出来なかった。

 

「ユイト…」

 

「クリアか…」

 

「すまない、見失ってしまった」

 

「気にするな、すぐに撤収するぞ」

 

気絶する楯無を横目で見ながらユイトはその場を立ち去るのだった。

 

ーーーー

 

「まったく、あの篠ノ之束を倒しちゃうなんてなぁ」

 

「革命軍って本当に凄いな」

 

太平洋、試験的にロールアウトされたザンスパインを初めとするザンスカール帝国のMSが偽装船で運ばれていた。

それを護衛するのはゲルググM1機とザク3機、護衛の4人は仲良く談笑していると機体のレーダーが何かを捉えた。

 

「なんだ?」

 

「ISの反応だ!」

 

すぐさま戦闘態勢に入った4機が見たのは1機のラファール・リヴァイブ。黒を基調とした赤迷彩カラーのラファールに騎乗していたベアトリーチェは静かに笑うのだった。

 

 


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