IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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第三十九革 兎狩り

 

「このままでは時間の問題です!」

 

「シャットダウンコマンドを受け付けません!」

 

「ケーブルを断て!電源遮断!」

 

「全て受け付けません!」

 

 次々と画面の中のエリアが赤く塗りつぶされていく、ハッキングによる汚染エリアが広がっている証拠だ。

 こうしてはいられないとケイも机に座り抵抗を開始する。

 

「ARプロテクトを作動させる!」

 

 ケイの言葉と共に赤く広がっていた汚染エリアが止まり警告も収まりを見せる。

 

「止まった?」

 

 《ARプロテクト》アンチラビットプロテクトの略称。

 つまり対束用に用意したプロテクトで彼が用意した応急処置だ。

 突然静まりかえった情報センターに情報員は固唾を呑んで画面を見つめる。

 

ビー!ビー!ビー!

 

 再び鳴り響く警告音、状況を確認しようと情報員は動き出す。

 

「進行スピードが速まっています!」

 

「最重要区間到達までおよそ10分!」

 

「やられた…。プロテクトを足場にして更に奥に…くそっ!」

 

 ケイしては珍しく険しい表情をすると赤いレバーを引っ張る。

 するとケイの座っていた椅子が地下に向けて急激に下がる、それと同時にケイの姿も消え情報員は思わず息を飲んだ。

 

「天災だかなんだか知らないけど、俺にもプライドはある」

 

《パスワードを認証しました。ヴェーダを起動します》

 

 ケイが降りてきたのは全周囲に画面と電子キーボードがある部屋、彼は天ミナのバックパックを展開するとその中に内蔵されていたコードを各所に繋げる。

 

「おもしれぇじゃねえか…」

 

 本気の目になったケイは目の前にいる筈の天災の影を見据えるのだった。

 

ーーーー

 

 革命軍本部へのサイバー攻撃のことはすぐにオーストラリアにいたユイトの元へと連絡が通る。

 

「なに!?」

 

「現在情報長が個室にお入りになりまして…」

 

「ただちに場所を特定しろ!各地に潜伏している部隊に緊急伝達!」

 

 怒気を孕んだユイトの声は電話の相手すら失神しかけるほどの殺気を出しながら口早に伝える。

 

「革命軍の保有する全ての戦力を投入して篠ノ之束を殺せ!」

 

 ユイトの下した命令はすぐさま革命軍の全ての者達に伝えられた。

 

ーー

 

「ガルダの発進準備を急げ!」

 

「弾薬以外の物資の積み込みはもういい!MSの搭乗を急げ!」

 

「隔壁は手動で開けさせろ!」

 

「給油を急げ!」

 

 地下格納庫に収められたガルダをザク4機が手動で操作し、リフトを動かせて出撃準備をさせる。

 

「ったく、予定外にも程があるぜ!」

 

「ついにこの時が…」

 

 当然、戦闘長であるリョウも出撃準備を急いでいた。

 その横で同じく戦闘準備を進めていたマドカか歓喜していた、憎き織斑共を苦しめるためにはその近しいものを苦しめれば良いからだ。

 

「行くぞ、クラウド」

 

「…はい」

 

 そんな彼女の後ろにはデスティニーのパイロットであるクラウドの姿もあるのだった。

 

「カゲトどこに行くの!?」

 

「ヴェーダの管理は俺の仕事っす!」

 

 カゲトを軸とする技術班は基地の中枢機構へ、そこへ一緒に行きたいケイニだが彼女は自身が預かった部隊があるため緊急発進準備中のガルダへ向かうのだった。

 

ーーーー

 

 篠ノ之束の秘密ラボ、そこでは束が電子機器を操っていた。

 

「束さま、ダミー施設の八割が沈黙しました。恐らく、革命軍かと…」

 

「へぇ、まだ五分も経ってないのにねぇ。クズなりにやれてるようで何よりだよ」

 

 クロエ・クロニクルの言葉に束は一切動じず作業を続ける。

 それを後ろから見守っていたクロエは違和感をおぼえる、束がハッキングを行った当初のペースから明らかにスピードが落ちていたのだ。

 だが問題ない、こちらの場所が割れなければ相手をじっくり責め立てることか可能なのだから。

 

ーーーー

 

「現地に潜伏していた部隊の強襲は全て空振りでした!」

 

「指定ポイント付近に居る部隊に通達。ガルダ到着まで待機。15分後に到着予定だ。」

 

 指令室に入ったのは帰還したばかりのハルキ。

 彼の指示は現場の部隊にすぐに送られる。

 ガルダは自身のエンジン出力のみで成層圏まで何百トンもの重い物資を運べる高性能エンジンを搭載している。

図体が大きいと言っても並の飛行機では追随できない速力を持っているのだ。

 

「まだバレていないと思っているならお前は無能だな。篠ノ之束…。」

 

 その言葉と共にハルキは笑う、革命軍が動き始める前々から彼女の所在は徹底的に調べ上げている。

 ダミー施設の攻撃は相手を油断させるための陽動に過ぎない、幸いにして奴のラボは近海を通っている。

 ガルダの足なら10分足らずで到達できる距離だ確実に仕留めてみせる。

 

ーー

 

「いきなりなんだろう?」

 

「まさかバレたのか!?」

 

 革命軍本部の正確な座標を知るために忍び込んでいたティルミナ達は警告音に驚く。

 

「いや、戦ってるんだ。あの天災と…。」

 

「篠ノ之束…」

 

 ヘンリーの言葉にティルミナは思わず息を飲む。

 実質、IS撲滅を掲げている革命軍の最大の敵の一人、篠ノ之束と本当に戦っているのだと思うと悪寒が走る。

一見、いつも通りに見えるヘンリーも神妙な面持ちでその警告音を聞いていた。

 

ーー

 

「こいつ…」

 

 秘密ラボの主、篠ノ之束の表情は少しずつ余裕の色が失われていった。

 神からチート能力を持つケイの本気と現世のチートである篠ノ之束の戦い。

 強襲されたケイは即時に立て直し迎撃態勢を整えたこの時点で二人の状況はほぼ一緒、才能も実力もほぼ同等である二人は長い膠着状態に陥ったのだ。

 

「やる…」

 

 二人の実力は同等…いや、束の方が僅かに上だろう。

 だが二人にこの差を埋めたのはひとえにシステムの違いだった。

 技術力もチートである束が作り出した装置を凌駕するもの、それは《ヴェーダ》だった。

 次第に口数が減ってきた束を心配するクロエ、まさかこの女性がここまでされるとは夢にも思わなかったのだから。

 

ドゥーン…。

 

 その瞬間、束のラボの"全域が揺れた"。

 

「この振動はまさか…」

 

 その瞬間、クロエの表情は僅かながら驚きに染まった。

 束のラボは常に移動している、巨大な施設がそのまま高いステルス性を持って移動しているのだ。

 外見はただの島だが中身は巨大な船と言っても差し支えない、だからこそ発見などあり得ないはずだった。

 

「このラボが…」

 

ーー

 

「各機!攻撃開始!」

 

 放たれる大量のミサイルは一見なんの変哲も無い島に着弾し炎を巻き上げる。

 海上を低空で飛行し束のラボを強襲したのは一番隊の駆るギラ・ドーガだ、中にはザクⅢ、ドライセン、バウの姿も見受けられる。

 明らかに革命軍の主力部隊だった。

 

「侵入経路を探せ!」

 

「金属反応のあるところは全て焼きつくせ!」

 

 ドライセンのビームランサーがハッチを切り裂き内部に侵入しようと試みるが中から放たれた高出力レーザーに貫かれ爆散した。

 

「馬鹿野郎!無闇に突っ込むな!」

 

「敵が出てきたぞ!」

 

 中から出現したのは束のゴーレムシリーズ、Ⅰ~ⅢまでいるがⅣやⅤらしき機体もいる。

 ゴーレムに顔面を殴られカメラをひしゃげさせるバウ、だがそのゴーレムはギラ・ドーガ隊から放たれたビーム弾に蜂の巣にされる。

 

「ぶち殺せ!」

 

「1対1でかかるな!複数で袋叩きにしろ!」

 

「来た!ガルダだ!」

 

 革命軍とゴーレムの戦端が開いて五分、空気を切り裂いてガルダがラボの上空を通り過ぎる。

 ガルダを撃墜せんとするゴーレム達が高出力レーザーをガルダに向けて放つがその攻撃はすぐに中断させられる。

 ゴーレムの機体達に些細な異変が起きたからだ、その原因はガルダから降りたったデスティニーの放ったミラージュコロイドの影響だった。

 

「てえやぁぁぁ!」

 

 デスティニーのアロンダイトはゴーレムの発展型を難なく両断すると隣に居たゴーレムⅢの頭部をパルマ・フィオキーナで吹き飛ばした。

 

「行け!インコム!」

 

「行けよ!ファングぅ!」

 

 革命軍本隊による攻撃はどうしても性能に劣ってしまうゴーレムには厳しいものだった。

 

「リョウ様の為に!」

 

 新しく編成された親衛隊もその実力を発揮しゴーレムを破壊していく。

 ガデッサのビームキャノンがゴーレムを2機も鉄片に変えるとガラッゾがその爪で微塵切りにするのだった。

 

ーーーー

 

「よお、てめぇが篠ノ之束か」

 

「……」

 

 用意していた備えを全て叩き潰され最重要区についにリョウのアルケーが足を踏み入れた。

 

「うるさいクズ共!」

 

 流石の束も堪忍袋が折れたようでアルケーに対し攻撃を始めるのだった。

 

 

 

 




後半の詳しいシーンとこの後どうなったかはしっかりと次回やります。


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