IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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書き方を変えてみました。



第三十八革 動く天災

 

「ベアトリーチェ、貴方をシャイアンから出した理由は分かりますか」

 

「新聞は恵んで貰えるので知っています。その様子では名も無き兵士たち(アンネイムド)にも被害が出ているのではないのですか?」

 

 ベアトリーチェは大統領が目の前にいるというのに落ち着きを放っていた。

 彼女のしっとりとした口調は一種の色気を醸し出すがその場に居た者、全てはその鉄仮面を崩さなかった。

 

「アンネイムドは全滅した」

 

「へぇ…」

 

 大統領の言葉にベアトリーチェは面白そうに笑う、アンネイムドはアメリカの奥の手だ、それが全滅となれば慌てるのも必然。

 

「だから私達を解放する気になったと?」

 

「そうよ」

 

 大統領は目の前に立つ女性、ベアトリーチェに対し恐怖を覚えていた。

 手と足に頑丈な枷と完全武装した兵が周りにいるというのにだ。

 

「戦力はどれ程お貸しになってくれるのでしょう?」

 

「各種携行装備とラファールを1機だけよ、貴方の部隊ならできるでしょう?」

 

「後は現地調達せよと?」

 

「……」

 

 黙り込む大統領に対しベアトリーチェは満足げに笑うと了承の意を示す。

 正直、外の空気を吸えるだけで自身にとっては凄いことなのだ。

 

「戦果を上げて見せましょう。ただし、現地調達した物品は私達が使います」

 

「良いでしょう、現地調達のものには我々は干渉しません」

 

「えぇ、ありがとうございます」

 

 事を終えたベアトリーチェはささっと兵たちに連れて行かれる。

 その背中を見送りつつ秘書は不安げに大統領に話し掛けた。

 

「良いのですか?あんな約束をして」

 

「アンネイムドを倒す連中よ、いくらベアトリーチェでも全滅は避けられないわ」

 

 ベアトリーチェを含む部隊を解放した理由は革命軍に殲滅させるためだ、それ以上でも以下でもない。

 

「これで我が国の汚点の一つが解消されるわ。世界の膿とて有効に活用できると言う事よ」

 

 満足そうに呟く大統領は次の策のために思案を続けるのだった。

 だが彼女は甘く見ていたベアトリーチェの率いる人狼部隊(ウェアウルフ)の実力を、彼女の危険性を…。

 

ーーーー

 

「はぁ、あちこちを行ったり来たり…」

 

 オーストラリア、革命軍開発基地の飛行場に着陸したヘリから降りたったのはユイトだった。

 その内容はデュノア社長との会談だが、最近色々と忙しくなってきて眠れていない彼は大きなあくびをする。

 

「しっかりしろ、ユイト」

 

「分かってるが、流石に疲れた」

 

 肩から大きな音を立ててつつ背伸びをする彼に開発基地の責任者が駆け寄ってくる。

 

「総帥!急にいらっしゃったので用意が…」

 

「構わん、エルド…。ザンスカール系のMSの開発状況の報告書を上げてくれ、それと密談に使えそうな場所を確保し場を整えろ」

 

「はっ!直ちに執り行います!」

 

 エルドと呼ばれた開発基地責任者は控えていた部下に指示を出し始める。

 ザンスカール系のMSはビームシールドを標準搭載しているせいでコストが高くなり量産には到っていない。

 ゾロアット1機でギラ・ドーガが3機作れる割合だ、ただでさえビルゴ系統の度重なる出費で資金がやばいと言うのに。

 

「ザンスカール系の量産は中止された筈じゃなかったのか?」

 

「少数生産は執り行うことにした、その性能の高さには目を見張る者があるからな」

 

 随伴してきたクリアの質問にユイトは事を思い出しながら答える。

 コストはかかるが重量がなく実弾もビームも防げるビームシールドは魅力的だ。

 少数生産と言ってもゾロアット、ゾリディア各10機と光の翼を持つザンスパインを試験的に生産するだけだ。

 

「新しく出来た親衛隊に使用させるかは検討中だが、おそらく一番隊の部隊が使うだろうな」

 

「そんなものか」

 

「お前が聞いたんだろうが…」

 

 クリアはあまり興味なさげに答えるとユイトは肩を落とす。

 

「それより」

 

「それよりって…」

 

「デュノア社長にはこのまま会うのか?」

 

「いや、会わない」

 

 一番クリアが聞きたかったのはそれだ。

 革命軍の総帥が一介の社長に会うのに素顔で合って良いものか?というものだ。

 

「カゲトのマスクを着けていくさ、クリアもな」

 

「私もか?」

 

「信頼できる護衛が必要だからな」

 

「あぁ、そうだな」

 

 ユイトの何気ない一言、それに対しクリアは歓喜しガラにもなくテンションが上がる。

 

「私は最も信頼できる人間だからな!」

 

「お、おぅ…」

 

 謎の上機嫌にユイトはたじろぐ。

 だが彼女自身が嬉しそうな様子だったので良しとする彼も満更ではないようだった。

 

ーーーー

 

 ユイトが待つデュノア社長より一足早くオーストラリアに着いたのは黛渚子だった。

 彼女は現地のジャーナリスト仲間と合流し情報の交換を運転されている車で行った。

 高速で移動する車は盗聴されにくいからだ。

 

「そっちはどうだったの?」

 

「ついこの前に不可解な事件が起きた、殺されたのは政府の議員だ。俺はそいつの情報屋として動いていたんだ」

 

「なにを調べていたの?」

 

「オーストラリア政府の不可解な金の流れさ」

 

 金関係の問題なら一時世間を騒がす程度のスキャンダルだ、世界規模で活躍する革命軍とは関係なさそうに思える。

 

「それがなんで…」

 

「その金の先が革命軍だとしたら?」

 

「国家ぐるみでテロリストを支援って…。まさか、革命軍はオーストラリア政府の傭兵?」

 

「可能性はあるな」

 

 ならIS学園に居るオーストラリアの代表候補生もかなり怪しくなるが彼女は革命軍との戦闘を何度も経験している。

 

「革命軍がオーストラリアに大規模な基地を建設したのは確かだ。政府が立ち入りを禁止するエリアに必ずあると踏んでるんだが、調べ始めれば俺は確実に殺されるからな」

 

 命あっての物種、そう言う考えは棄てた物ではない。

 命がなければ伝えられるものも伝えられない、ジャーナリストとしては許しがたいことだ。

 

「とにかく渚子も気をつけな、奴らは常に俺達を見てる」

 

「分かったわ…」

 

 常に見ている、その言葉は決して比喩ではない。

 そのジャーナリストの目を見て渚子はそう確信した、例えオーストラリア政府の傀儡だとしてもそれだけの技術力を奴らは保有しているのだから。

 

「そういや、フランスのIS会社の社長がもうすぐこの国に来るらしい。非公式だがな」

 

「非公式?デュノア社は新型の開発に着手しているはずでしょう?」

 

「それが分からねえ。何かしらの裏があるかもしれねぇ」

 

 最近、オーストラリアには多くの人物が訪れている。

 各国の増員のための諜報員、日本暗部と中々の面子だ、その中にフランスを代表する企業の社長が来るとなれば怪しまない訳には行かないだろう。

 

「デュノア社長の動向って分かる?」

 

「見張るように仲間に連絡しておく」

 

「ありがとう」

 

 必ずここで尻尾を掴んでみせる、そう決心しながら渚子は妹である薫子を思うのだった。

 

ーーーー

 

「~♪」

 

 IS学園の食堂、所用で本国に帰ってしまったセシリアとラウラを除く4人が昼食をとっていると上機嫌のフィーリアが登場した。

 

「どうしたんだ?フィーリア?」

 

 いつも以上に上機嫌なフィーリアに対し気味の悪さを感じ始めた一夏は彼女に説明を求める。

 

「じゃーん!」

 

「綺麗な髪飾りだね」

 

「なかなか良いセンスじゃない」

 

 フィーリアが見せたのは髪飾り。

 赤いガーベラの髪飾りは彼女の紅い髪に対し主張しすぎず目立たなすぎない、所謂ぴったりな髪飾りであった、これを送った人物は彼女のことをよく知ってるのだろう。

 

「あの人が送ってくれたんだ!」

 

 シャルロットと鈴の感想に機嫌をさらに良くするフィーリア。

 

「あの人ってフィーリアの恩人の事だよな」

 

「そうだよ!気に入らなかったら捨てても良いって言ってたけど、気に入らないわけないじゃん!」

 

 これほど嬉しそうにする彼女を見るのは初めてだ。

 その原因がその恩人と言う人物だという事実が一夏自身の気持ちを面白くさせなかった。

 

「なんだろうな…」

 

「どうした一夏?」

 

「いや、なんでもない」

 

「そうか…」

 

 一夏の些細な変化、鈴はガーベラの髪飾りを珍しそうに見ているのに対し彼の隣にいた箒はその変化に気づくべきだったのかもしれない。

 だが彼女自身も余裕がない、そうでないとしても気づかないかもしれない、一夏の中でゆっくりとフィーリアと言う存在が動いていることを…。

 

ーーーー

 

 革命軍本部、革命軍の全ての情報を統括する情報センターにある自身の机にケイはゆっくりとしていた。

 

「なんだ?」

 

 1人の情報員がシステムの何かしらの異変に気づいたのは今さっきだった。

 画面に一瞬だがノイズが入ったのだ、詳細を探ろうと動き出した情報員。

 

ビー!ビー!ビー!

 

 その瞬間、革命軍本部全域で警告音が鳴り響いた。

 

「何が起こっている!?」

 

 突然の警告音、ゆっくりとしていたケイは跳ね上がり部下に対し警告音に負けない声で叫ぶ。

 

 「サブコンピューターがハッキングを受けています!」

 

「情報長の初期防衛ラインを突破したのか!?」

 

「バカなアメリカのファイヤーウォールなんて比べものにならない代物なんだぞ!」

 

「今はそんなことどうでもいい!敵を探れ!」

 

「「「了解!」」」

 

 革命軍の情報は本部で全て統括されている、現在進行中の作戦の内容、MSのデータ、人員の名簿、だからこそ世界最高の防衛力を誇っている。

 情報関係のチートを神から貰ったケイが一から作ったこの防御壁は誰であろうと突破不可能だ、同じチート並の得力を持つ彼女以外は…。

 

「篠ノ之束か…」

 

「全データ領域をブロックしろ!計画を知られてはならない!」

 

「基地内の座標データ及び内部図を読み取っています!」

 

「このままでは突破も時間の問題です!」

 

「く…」

 

 突然のピンチにケイは冷や汗をかくのだった。

 

 


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