IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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第三十七革 帰還

 

 

 

日本、自衛隊の所有する演習場にはMSとISの演習が行われていた。

MSはたったの1機。

ラサ基地から獲得したガンダムXディバイダーそれに対するは富士教導隊。

 

「相変わらずのじゃじゃ馬ぁぁ」

 

ガンダムXの装備であるディバイダーは恐るべき速度を産み出し広大な演習場を駆け回る。

今の演習は単純な速度比べ、つまりはレースである。

ディバイダーのパイロットとして白羽の矢が立ったのは作戦を主導した一人。

橘少将の副官であるアリエスだった。

 

「追い着けない!」

 

「なんて機動性だ!」

 

「このまま引き下がってはいられないわ!」

 

「バカよせ!」

 

その遥か後ろを打鉄が追いかけるが追い着けるどころか引き離されている。

そのうちの一人が無理を承知でスラスターを更に吹かすと黒煙を出し脱落する。

 

「そんな…」

 

「無茶するから…」

 

「今でも限界ですけどね!」

 

「勝負にならん、基地に戻るぞ…。Xにも伝えろ」

 

「了解です!」

 

ーー

 

「推力が打鉄の2倍以上か。君のエアマスターと同等だねぇ」

 

「それ以上かもしれません」

 

光一と橘は帰投している部隊を映したモニターを見ながら話す。

ガンダムXディバイダーは当然のことながらエアマスターより火力も戦況に対する汎用性も高い。

他の機体たちも開発部の働きで量産されようと動き始めていた。

 

「明光計画のパイロットを集めたいんだけど。元空自の知り合いを引っ張ってきてくれる?」

 

「分かりました。人数はどれ程を…」

 

「ん?いるだけ全部」

 

ーーーー

 

「んな無茶な!」

 

「無茶でもなんでもやらなきゃならんだろう」

 

ドイツ及びイギリス艦隊はインド洋で本国からの通信を受けていた。

 

「こっちは半分以上の戦力を削り取られた上に兵たちも疲弊している!俺達に死ねって言ってんのか!」

 

フォルガーの怒鳴り声にブリッジに居た船員は耳を塞ぐ。

フォルガーたち派遣軍に通達されたのはスエズ運河の奪還。

このスエズ運河が敵の手にある以上、ヨーロッパ諸国や大西洋側の艦隊は太平洋側に進出しにくくなる。

 

「スエズ運河の奪還は急務であり…」

 

「ドイツとイギリスの精鋭部隊をここで壊滅させたら取れるもんも取れねえぞ!人材育成が一番金がかかるだろうがぁ!」

 

「それはそうだが…」

 

「俺達はアフリカ回って大西洋側に行く!次変な通信寄越したら容赦しねえからな!」

 

それでも渋る軍上層部に業を煮やしたフォルガーは通信を勝手に切る。

その様子を見ていた船員は安堵の表情をうかべる。

当然だろう、彼女がいなければ死にに行くことになっていたかもしれないのだ。

フォルガーは階級以上の権力を振るうときがごくたまにある。

それで何度も部下たちは救われてきたのだ。

 

「バカ共が…」

 

「情報によればパナマとキールも抑えられたらしいです」

 

「こっちの作戦が筒抜けじゃねえか…。どんな手品を使いやがったんだ?」

 

世界三大運河を制圧され各国はかなり慌てている。

このせいで各国の国際海路は滅茶苦茶だ、道があるのに遠回りを強いられる状況をなるべく速く改善したい気持ちも分かる。

だが現時点で革命軍と戦うのは無謀だ。

 

「MSの量産を急がねえと、革命軍が本国に来るのは時間の問題だ」

 

フォルガーの言葉に船員は息を飲むことしか出来なかった。

 

ーーーー

 

「いやいや、本当に勘弁してくださいよ」

 

日本、IS学園の屋上。

無事に帰還できたフィーリアは携帯を片手に楽しく話していた。

 

「本当に死ぬかと思いました。まだまだですね、私も強くなったつもりなんですけど」

 

「日々精進だな、それともIS学園じゃ不服か?」

 

「いえ、友達も出来ましたし居心地は良いです」

 

「ならいい…」

 

屋上には人影は無く恩人との久しぶりの話と言う事もあり、フィーリアも完全に無警戒モードになっていた。

 

「私だけこんなにゆっくりしてて良いんですか?」

 

「構わない、お前はそこで人生を満喫してくれればいい」

 

「そうですか…」

 

いつも元気だったフィーリアは珍しく落ち込む。

やはり恩人のために力を発揮したいと思うのは当然の感情だろう。

 

「やっぱり、私は私なりに頑張ってみます」

 

「そうか…。あぁ、そう言えば少し送っておいたがどうするかはお前に任せる。」

 

贈り物という単語にフィーリアは明らかに嬉しそうになる。

 

「本当ですか!」

 

「あぁ、受け取って貰えると助かる」

 

「はい!」

 

上機嫌で通話を切るフィーリアはスキップをしながら教室へと戻るのだった。

 

ーー

 

IS学園教室、篠ノ之箒はいつも通りの生活に戻っていた。

一夏たちと笑い、時には怒り、そんな生活が帰ってきた事を思いつつも2日ほど前に経験した戦闘が忘れられなかった。

 

《篠ノ之束の妹、禁忌の血は根絶やしにしなければならないか》

 

あの時受けた殺気はこれまでの人生で一度も味わったことのないものだった。

だからこそ痛感する、自身の未熟さを甘えを…。

厳しく自身を律しようとする箒だったが時々起こる腕の震えが止められなかった。

 

「くっ…」

 

篠ノ之箒は戦場に出たことでPTSD《心的外傷後ストレス障害》へと陥っていたのだ。

それを誰にも悟られずに解決しようとするのは箒らしいと言えるがこの状態で言えばそれは愚策だった。

 

「どうした、箒?」

 

「一夏か、なんでもない」

 

「そうなのか?」

 

恋愛ごとに激しく疎い一夏だがこう言う人の機微に関してはとことん察知する。

だが箒も好いている人物に弱さを見せることは嫌がる傾向だ、大丈夫と言い張る。

 

「ならいいんだけどさ、無理するなよ」

 

「あぁ、分かっている」

 

そんな様子を教室に帰ってきたばかりのフィーリアとシャルロットが訝しげに見ていたのだった。

 

ーーーー

 

「はい、そうですか…」

 

黛渚子は各国の知り合いから電話とかけ写真を送ると何かを頼み込んでいた。

 

「えぇ。木更津家は全員死亡扱いになってるんだけど息子だけ革命軍に関与してる可能性があるのよ」

 

普通なら突拍子のない話だと割り切るだろうが誰もが渚子の言葉を真剣に聞く。

それだけ彼女に対する信頼が大きい印だろう。

 

「それにこの革命軍の機体の動力は木更津博士の新動力機関の可能性もあるわ」

 

渚子は今までの革命軍に関する情報をありとあらゆる方向から調べ上げ映像データも手に入れていた。

今まで実現不可能だったビーム兵器を常時携行し戦闘に繰り出しても機体はエネルギー切れの前兆すら起こさない。

間違いなく今までにない動力機関が使われている。

 

「彼を追っていけば必ず革命軍までたどり着ける」

 

IS学園襲撃後にジャーナリスト仲間に調べて貰ったら千葉辺りで彼が目撃されているのだ、必ず彼は生きている。

 

「渚子、数年前のオーストラリアに奴を見つけたぞ」

 

「本当!」

 

オーストラリアと革命軍は何かしらの関連があるらしいと自衛隊の協力者が漏らしていたのを思い出した彼女はその情報に食いつく。

 

「渚子、これは当たりかもしれんぞ」

 

「私達は軍の各国の情報部より革命軍に近づいてるかも」

 

確実に真実へと近づいている、そう実感した渚子は歓喜の声を上げる。

 

「よし!オーストラリアに行くわよ!」

 

それと同じ頃、フランスにいたデュノア元社長も送られた信頼できる部下と共にチケットを手にして空港を訪れていた。

 

「よし、行こう。」

 

彼もまた、新たな希望を持ってオーストラリア繰り出すのだった。

 

ーーー

 

アメリカ、シャイアン・マウンテン空軍基地。

その最奥には"とある部隊"を隔離するために設けられた専用の収監施設があった。

 

カツン…。カツン…。

 

食事の時すら人が入らないこの場所に足跡が響き渡った。

前を歩く看守の周りには10名を超える特主部隊員が完全装備で固めており警戒しているのがよく分かる。

 

「釈放だ、ベアトリーチェ・アレン少佐」

 

「……」

 

漆黒の長髪に怜悧な風貌を兼ね備えた女傑はその紅い瞳をゆっくりと開く。

劣悪な環境に長らく放置されながらも彼女は獰猛な狼のようにその看守を見るのだった。

 

「アリス・トリュグリー団長と大統領がお呼びだ…」

 

「……」

 

カシャーン…。

 

重々しい手錠が動かされる音が静かな空間に鳴り響く。

その音で特主部隊員がアサルトライフルを構えるがベアトリーチェと呼ばれた女性はただ笑うだけだった。

 

 

 

 





千冬に並ぶチート女、現る。

ガンダム、ジャーナリスト…うっ頭が。


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