あのユイトの演説から6日後…。
「やっぱリっすかぁ…」
最近世を騒がせているテロリスト、革命軍の技術主任木更津カゲトは自身の机に突っ伏した。
突っ伏した彼の前にはモニターがありそこに写っていたのはブロッサムと白式の戦闘映像だった。IS学園を監視していたジン強行偵察型から撮影されたもので画像は若干粗いが十分な画質だ。
「エネルギー無効化攻撃…ビームサーベルにも影響が出るのは当たり前っすよねぇ」
「どうしたの?あ・な・た……」
「ビックリした!」
突っ伏したカゲトに抱きつき甘い声を上げる人物、黒い肌に青い瞳の東洋系美人、ケイニだ。
突然のことで驚いたカゲトだったが気を取り直し問題の映像まで巻き戻す。
「ここっすよ…」
「ビームサーベルが…消えた…」
「そう…俺達の目的に達成にはコイツと戦わなければならないっす…でもうちの機体はビームサーベルが標準搭載っすからね…」
カゲトの悩みどころはそれだ…革命軍の機体ことMSは彼がガンダム界のものを完璧に模倣し実現した物。
つまり…ほとんどビーム兵器である。
「私のGエグゼスももろに影響を受けちゃうわね…ねぇカゲト…私のGバウンサーはまだ出来ないの?」
「う……今は新しい施設の開発で手一杯なんすよ…」
「えぇ!ラサ基地なんてどうでもいいじゃん」
同年代の女性、しかも美人が顔を寄せてきて思わず赤面するカゲトだが怯まずに真実を告げる。
「ハルトの作戦に沿って行わなきゃ計画その物が破綻しちゃうっすよ…それにラサ基地はビルゴの装甲素材が取れる場所から近い…ビルゴはうちの主戦力っすよ」
「そうなんだ…」
「それに……ケイニの国も取り戻せなくなる…」
カゲトの突然の言葉にケイニは顔を真っ赤にする。全くどうして彼はこんなに格好いいんだろう…。
「不意打ちはずるいと思いまーす」
「そうすか?」
気怠げそうな顔、悪く言えば根暗で昼行灯だ。そんな彼に私自身はどうしても離れられなくなる。
「全く…そう言えば総帥は?」
「ユイトならケイと一緒にアメリカに行ったっすよ…」
照れ隠しで話題を逸らしたケイニは驚いた顔をしたがすぐに事情を悟る。
「そう…じゃクリアも一緒なんだ…大丈夫かな…」
「たぶん…ユイトがいるし、アイツは研究所を誰よりも憎んでるっすからね」
そう言うとカゲトはため息をつく。
「本当にアニメみたいな世界っすよね…ここは……」
ーーーー
アメリカの大西洋側、そこに面する小さな州の森にひっそりと建物が建っていた。管理が行き届いているのか施設は新品のように綺麗であった。遅い時間だというのに武装した集団が往来し物々しい雰囲気で溢れている。
「目標を発見、サーチを開始します」
「あぁ…」
その周りを包囲するように展開しているMSたちがいた。緑色に塗装された頭部が開きギョロ目の様なカメラが周囲を見渡す。
索敵を終えたグレイズはギョロ目を仕舞い光信号を送る。それに呼応して同じく緑色の機体ザクⅡが進撃を始める。
その部隊の最後方、そこにはウイングガンダムゼロとガンダムデルタカイの姿があった。
「クリア…何度も言うがお前が来ることはないんだ…」
「ユイト…何度も言った筈だ…これは私の使命なんだ、私がやらなければ…」
革命軍の総帥、花柳ユイトは自身の機体…ウイングガンダムゼロの秘匿回線を使って話すが彼女の意思は硬く曲げれそうにない。
透き通るような青みのかかった銀髪を肩まで伸ばし蒼い宝石のような瞳を持つ彼女は心配そうに見やるユイトに内心感謝しながら歩を進める。
「包囲完了しました…」
「こっちも完了だよ、セキュリティ、レーダー、通信は全て無効化した施設の見取り図もバッチリさ」
「ありがとうケイ…暇なら大量のお菓子を買ってきてくれ…」
「了解!」
ケイの明るい声が消え僅かに聞こえる虫のさざめきと枯れ葉が舞う音だけがその場の空間を満たした。
「よし、目標はあくまでも施設の制圧だ!無理に行こうとするなよ、トリモチ弾で制圧を行い出来るだけ施設に傷をつけるなよ」
「「「「了解!!」」」」
闇夜の中、彼らは動き出した。
ーーーー
闇夜に瞬くマズルフラッシュ、武装していた究竟な男達は粘着質の液体に拘束され無力化される。
クレイバズーカーを持った数機のグレイズは施設周辺を綺麗に掃除すると施設内の隔壁を破壊して中に侵入していく。
「敵襲だぁぁ!」
突然の出来事に施設にいた者達は恐れおののき、逃げ惑うが彼らは数歩も歩かぬうちにトリモチ弾で拘束される。
その中、ユイトはウイングゼロで床をぶち抜く、下には誰も居ないことは確認済みだ。
「なんだ!?」
「実験中止!逃げろ!」
逃げ惑う白衣の人々をユイトは手に持っていたトリモチマシンガンで拘束するのだった。
ーー
「施設の制圧を完了しました」
「ご苦労…」
ザクⅡとグレイズが拘束された者達を外に運び出す中、ユイトとその横に居たクリアは機体を解除し生身の姿になった。
「クリア…」
「大丈夫だ」
冷や汗をかくクリアを見てユイトは心配するが彼女はそんな心配をよそに目の前にあったドアを開ける。無駄に頑丈そうな扉は横の液晶に触れるだけで開いた。
「………」
そこには無気力な眼をした子供たちが居た。全て女性であり年は小学生高学年から高校卒業位までの女性がまるで物のように部屋に仕舞われていた。
「酷い…」
たまたま様子を見ていたザクⅡのパイロットが呟く。そんな光景にユイトは眉一つ動かその光景を見ていた。見慣れてしまった光景、クリアとの出会いを思い出す。
「慣れないもんだ…」
「ハァ、ハァ、ハァ…」
「クリア?大丈夫か?」
その光景を見たクリアは冷静沈着だった態度は一変し、呼吸を荒くする。思い出す、屈辱にまみれ尊厳も希望もなかったあの頃を…。
真っ暗な部屋にゲスな笑い声…トラウマを抉り出され吐き気が込み上げてくる。
「クリア…」
「ッ!!」
優しく語り掛けるユイトの声にビクッと体を揺らし彼の顔を見る。頭に乗せられた温かい手が頭を撫でる。
「大丈夫だ…俺がいる……」
「そうだな…」
温かい手を握りしめながらクリアは呟く。
「待機させた救護班を呼べ!今回もかなり酷い!」
「ハッ!!」
急いで連絡するザクⅡのパイロットを見ると狙われた子動物の様に縮こまってしまったクリアを見やる。
自身の不甲斐なさを呪いつつ彼はコッソリとため息をつくのだった。
ーー
「質問に答えろ!!」
「ヒイィ!」
歩けなくなったクリアを抱えながら施設から出ると外では怒り心頭の革命軍の兵士達が施設の研究者に殺さんとばかりの怒声を発し問い詰めていた。
「総帥!」
「クリアを頼む…」
「はい!」
その兵士の中でも若い人物中学生ぐらいの男子がユイトに気づきクリアを医療班に運び込む。そんな様子に気づいた40、30代の兵士達が話し掛けてきた。
「どうします?」
「あぁ…話を聞こう……」
研究者たちは温和そうな少年の登場に安堵の表情を浮かべる。上手くいけば見逃してくれるかもしれない…幸いな事に彼の権力は高そうだ。
「政府の命令か?」
「軍の上層部だ!政府の人間がここに来たことはあるが地上施設だけだ!知っているのは軍の上層部だけだ!」
「なるほど」
ペラペラと正直に話す研究者、そんな事は事前に調べ尽くしている。肝心なのはこれからだ。
「"彼女達"はどうやって連れてきた?」
「"アレ"は私たちが"作った物だ"オリジナルだよ」
自慢げに叫ぶ研究者の言葉にユイトの眉はピクリと動くが話を続ける。
「施設が出来たのは7年前だ…ここには17程の"女性"も居たが…」
「成長ホルモンを利用した急性成長薬だ…1年で2年から3年分大きくなる…投薬に耐えられない"個体"もあるが"許容範囲内だ"」
「そうか…」
話が進む度にユイトや周りの連中の顔が厳しくなるが助かることしか考えていない研究者たちはそんな事気づかない。
「お前達はテロリストなんだろう?なら"何体か"譲ってもいい!"性能"は織り込み済みだ!対G、反射能力、"性能のいい消耗品"だ!」
「……なるほど」
「そうすればアンタらもアメリカ軍にケンカを売らなくて済む!」
「それはいい考えだ…」
一歩、二歩三歩とユイトはその場からゆっくりと離れる。助かる…そんな感触を持っていた研究者たちには彼の行動は不思議に見えただろう。
「だが俺たちははなっから世界にケンカを売るつもりなんでね!」
パチンッ!
鳴り響いた指の音と同時に周囲の兵士達は自身の機体を展開しカートリッジを実弾の物に交換する。
「殺れ」
無慈悲な宣告、研究者たちは対IS用に大型化されたマシンガンが火を噴きその者達をミンチに変える。拘束され立つことすら出来ない彼らは10秒も経たないうちにグチャグチャな肉片に変わった。
頬に飛んだ血を無造作に拭いながらユイトは肉片どもを背にして歩き始める。その先には先ほど保護された子供たちがいた。
「どうだ?」
そのそばに居た救護班の隊員は静かに首を横に振る。
「幼い子供達はなんとか…しかし成熟している子達は多くの細胞に欠損や異常異変が出ています」
「急性成長薬の弊害か…」
「本部の細胞活性化装置を使えば何とかなるかもしれませんがそこまで持たない可能性が…」
「俺の乗ってきたヘリで先に運ばせろ、他は海路だ」
「了解!」
慌ただしく動き始める救護班、衰弱している少女たちを慎重に手早く運ぶ…彼らの腕は確かだ。だが間に合うかどうか…。
「これで5回目ですが、慣れないもんです」
指揮官仕様であるグレイズに乗った中年、元軍人であった彼には耐えきれない物がある。
それに目の前で衰弱している少女たちは彼の娘、息子位の年だ…浮かばれない気持ちはユイトより強いであろう。
「あぁ…こうやって死んでいくのを見ているとな…浮かばれないよ…」
「ユイト…」
「クリア…大丈夫?」
頭に氷嚢を乗せながら帰ってきたクリアの表情は冴えないが先程のように酷くはない。
「あぁ、それより彼女たちは…」
「分からない…彼女たちの運次第だ…」
「そうか…すまない、役に立てなくて」
「気にするな…ゆっくり休めばいい」
ユイトの優しい言葉にクリアは思う、なぜこんなにも優しいのだろう。これ程まで想ってくれるのだろう。
胸を占める思いを抱きながら彼女は撤収を始めた部隊と合流するのだった。
ーーーー
この襲撃事件が起きたのはクラス代表決定戦の前日の夜だった。翌日、通信が突如途絶えた施設に軍隊が派遣されたが既に施設は跡形も消し去られていた。
人間の開発を行っていた施設の襲撃など表沙汰にはとうてい出来ないこの事件は完全に隠蔽された。
軍は血眼になって襲撃者を発見しようとしたが徒労に終わったという。
どうも砂岩でございます。
今回も人物紹介を主にしていきました。
今回はヒロイン的な立ち位置の二人でしたね。
ではでは。