革命軍旗艦、レウルーラとの合流ポイントに差し掛かっていたハルトたちラサ基地勢はレーダーの端に影がよぎったのが見えた。
「敵か…」
「追撃でしょうか?」
「いや、恐らく別の部隊…」
ワンオフ機の百万式1機、精鋭部隊の操るゼク・アインが12機、急編成とはいえその他量産機が50機近くいるというのに仕掛けてくる奴らは少ないだろう。
「こんなバカをやるのは奴らしかいないだろう…」
「女性主義団体の特務部隊…」
「バカだが侮るなよ、奴らの腕は本物だ」
ハルトの言葉に通信を聞いていた者全てが固唾を呑む。だがここで出てきてくれるのは有り難かった。なにせ、"自分たちを陥れた糞共が自分から来てくれたのだから"…士気は旺盛。
「参謀長、1機だけ気になる反応が…」
「なに?」
ゼク・アインのパイロットがその機体だけを拡大し映し出す。その識別番号は明らかに見覚えのあるものだった。
「RX-79BD-1だと…流石はデュノア社、優秀だな。もう完成させていたのか」
「マズいですね…」
「なに…案外面白いことになるかもしれないぞ」
出し惜しみなどしていないようだが今回ばかりは失策だった。ハルトはニヤリと笑うのだった。
ーーーー
その頃、フランス。デュノア社ではシャルロットの父、エルワンが珍しく怒鳴っていた。
「なぜブルーデスティニーを女性主義団体に送ったんだ!」
「分からないの?1機でも有能な戦力が必要だからよ…それ以外の何物でもないわ」
怒りの矛先は彼の妻であるミレイア・デュノアだった。だが彼女は全く動じずに答える、それが当たり前であるかのように。
「君はこの会社を潰したいのか!?」
「会社が瀕死なのは貴方が無能だからでしょう?雌狐の娘も結果を出せずに学園に引き籠もって…。つくづく使えない」
「彼女は良くやっている!学生の本分を果たしているさ、いずれこの会社も継げる心優しい子になる!!」
「あんな娘にこの会社を?ハッ!ふざけないでよね」
ただでさえ愛娘を日本に飛ばしたのには腸が煮えくりかえる思いだというのにこの女はそれすら貶すのか…。
「この会社にはブルーデスティニーが必要なのに…」
怒る気すら失せてしまったエルワンは椅子に座り込んでしまう。まだ本格的な稼働試験を数回しか行っていないのに実践に投入するなど…目を覆いたくなる。
「EXAMシステムはまだ稼働試験をしていないんだぞ…」
「どこから手に入れたか知らないけど、後2機もあるし、これで私の立場も安泰だわ」
「ふざけないでくれ…」
「いいえ、ふざけてないわ」
ミレイアは指を鳴らすと完全武装した女性兵士たちがエルワンを取り囲み銃口を向ける。
「君は何をしているか分かっているのか!?」
「あんな娘に会社を渡さないし貴方ももう目障りなのよ。でもブルーデスティニーは良くやったわ、ありがとう」
「おまえ…」
兵士たちに囲まれ為す術もないエルワンは汗を掻きながらミレイアを睨みつける。
「貴方は私を会社から排除したかったんでしょうけど。無駄よ、この会社は私が貰う」
「く…。」
「デュノア社は女性主義団体の為のIS開発施設になるのよ。溜め込んだお仲間とこの会社から出て行くのね」
「分かった、そうしよう…」
ここは大人しく下がるエルワン。まだ殺されるわけにはいかないのだ、娘が立派に巣立つ日を見るまでは…。彼は悔しながらも彼女に従うのだった。
ーーーー
「敵は海路で逃げるはずだ…奴らの足ごと我々が砕いてやる」
「「仰せのままに!」」
女性主義団体特務部隊、今まで団体に害をなすものを秘密裏に裁いてきた聖なる軍隊。そのほとんどがIS学園OGの上位成績者だ。
「デザインは最悪だけど、性能が良いから仕方ないわね。まぁ、男共が作ったにしてはマシな方かもしれないけど!」
その隊長は最近納入されたブルーデスティニーを纏っていた。外見はそのまま、相違点はブルーデスティニーで頭部と腹部の装甲が取り払われているという事ぐらいだろう。
「隊長、間もなく敵も気づく頃合いかと」
「そうね」
特務部隊が纏っているのはデュノア社が最初に開発したIS、イリュジオン・ゼフィールだ。外見はラファールとあまり変わらないが周囲に二枚のシールドが浮かんでいる。
「さて、聖伐を開始しましょう…。愚かな男共に聖なる我々が地獄へと墜として差し上げましょう」
「「「全ては我々の世界のために」」」
総勢15機のIS隊が牙を向こうとしたとき隊長のブルーデスティニーに異変が起きた。
《EXAM SYSTEM STAND BY》
「えぐざむ?…んぐぅ!」
突然、隊長は苦しげな言葉と共に痙攣を起こした。頭が取れんばかりに上下に震わせる。それは次第に広がっていく。胴体が震え、両手が震え、足が震えだす。
「あ"あ"あ"あ"ぁぃぁぁぉぁ!?!」
意味不明な言語を話し始め口からは涎を垂らし泡を吹き出す。そんな意味不明な状況に隊員たちは唖然として見ることしか出来ない。
ーーーー
それをレーダー範囲ギリギリのラインで見ていたのはハルトたちだった。
「EXAMシステムの発動を確認しました」
「だろうな…」
EXAMシステムはニュータイプの脳波を感知することで発動し暴走する。それがあるべき姿である。それは同類のEXAMシステムが近くにあっても同様だ。お互いがお互いをニュータイプを誤認し殲滅しようとする。
なら意図的にEXAMシステム発動時の波を感知させればどうなるか?それは簡単だ、勝手に発動しありもしない敵を殺し始めるのだ。
「身内どうして勝手に殺し合っていろ、貴様らは我々が手を下すまでもないんだ」
ーーーー
「頭に響くぅ!なんだぁこれわぁぁ!!」
ニュータイプを感知したEXAMシステムがISのイメージ・インターフェイスを通じて操縦者の脳内を汚染しているのだ。
隊長のIS適性はA+、ISとの同調率が高いため汚染は脳のより深く次々とEXAMシステムに浸食されていった。
全身が痙攣を起こしているのはEXAMシステムが体の主導権を奪おうと働いている証拠だった。
「隊長!どうされたのですか!?」
「うおぅ!おぅ!!」
全身をビクンッ!ビクンッ!と大きく震わせると隊長は上半身をダランと下げたまま動かなくなった。
「………、……」
「隊長?」
「どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだ?どこだぁぁぁぁ!」
「ひぃ!!」
ブルーデスティニーのスラスターが赤く発光し蒸気をおもいっきり吐き出す。怯える部下を気にすることなく周囲にいる“仲間”を見渡す。
「……」
「隊長?ッ!!」
すぐ横にいた隊員は隊長に話しかけると突然、腹部にビームサーベルを突き立てられた。0距離でビームに焼かれ続けたISは絶対防御を発動させ機体内のエネルギーを使い切ると守りを失う。
「ぐぼぉぉ!!」
シールドが尽き腹部をビームサーベルで焼かれた隊員は顔中の穴から血を撒き散らして死んでしまう。
「隊長!一体何を!?」
「……」
EXAMシステム開放と共にブルーデスティニーに隠されたリミッターが全て外される。たとえ最新型のISでも手も足も出なかった。
「あぃぁ!」
「きゃぁぁ!」
「助け、助けて……」
特務部隊の断末魔を集音器が広いもしもの為に囲っていたMS隊の耳に届く。
「このぉ!」
勇敢に立ち向かう者もいるが味方識別信号が邪魔してロックオンが出来ずビームサーベルの餌食になっていった。
ーーーー
「さて、そろそろかな…」
断末魔が収まりしばらくするとハルトはブルーデスティニーがいるであろう場所に近づいていく。部下たちはそれを止めようとするがどのようになっているか興味もあったので一緒に近づくことにした。
「ッ!これは…」
熱帯雨林の中、緑豊かな筈のその場所は赤く染まっていた。内臓があちこちに飛び散り木にへばりついている。その中心に返り血を浴びたブルーデスティニーの姿があった。
「構えろ!」
「大丈夫だ、もう死んでる…」
「え?」
再びの暴走を危惧した部下だがハルトの言葉によって少し落ち着きを取り戻しよく見ると息を飲んだ。赤く染まった森の中心点には血溜まりが出来ておりその血の正体は…。
「EXAMシステムの負荷に耐えれず脳は崩壊。指示を受けられなくなった体の内臓が暴走、結果的に体内のものをはき出せるだけ出したんだろうな」
「ハッ!屑にはお似合いの最後でしたね!」
誰かしらの発した言葉に全員が笑う。それだけのことを彼女たちはしてきた。当然と言えば当然だろう。
「思わぬ所で次の作戦の実験が出来て何よりだよ、特務部隊諸君。ゆっくり休め」
ハルトはそう発すると母艦へと飛翔する。証拠隠滅のためにブルーデスティニーのコアを貫き爆散させるとその場を後にするのだった。