IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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第三十四革 失ったもの得たもの

 

 

「コイツは酷い…」

 

誰かが呟いた言葉はそれを見ていた者全ての思いを語っていた。総合戦力の四割を損失、その中MS含む機動部隊総数、69機の内35機がやられ。貴重なコアは10個も失われた。

 

「大佐良く無事で…」

 

「何とかな、お前は休め」

 

「すいません」

 

大量に投入された戦力下では損耗率四4割は全滅を意味している。要するにボロ負けだ。

MSパイロットのクロイ准尉は怪我が酷く仮設テントで寝かせられていた。その隣にはラウラの姿も首に残った手形のアザが痛ましい。

 

ウーンド・ウォードEXは大破、失ったISを考え見れば大損害だがフォルガーの奪ってきたフルアーマーガンダムは大収穫とも言える。

 

臨時編成隊でラサ基地内を捜索しているがフォルガーの見つけた格納庫までまだ到達していないらしい。どうやらかなり下にあるようだ。

 

「大佐、ビームの発射地点が割れました」

 

「どうだ?」

 

「手掛かり無しです」

 

「そうか…」

 

端末に映った画像を見て見ると焼けた木々と隕石が墜ちたように草が倒れているのが見てとれる。この草を見る限りホバータイプの機体であることが分かる。

 

「革命軍に賛同していないMS乗りがまだいるのか…」

 

ーー

 

「大丈夫?」

 

「うん、なんとか…首が痛くて……」

 

IS学園の為に用意されたテントでは全員の治療が行われていた。全員なんとか無事だったが殺されても不思議ではない状況だった。そんなことを考えればゾッとする。

 

「くそっ!俺は!」

 

「なに一人で背負ってんのよ!バカじゃない!」

 

一人自身に憤ってる一夏を見た鈴はいつも通りの悪口を吹っかけた。彼女は各所に包帯とガーゼが張っており一番痛ましい。ミサイルが多数直撃したせいで軽い火傷を多くしたのだ。

 

「アンタに助けられるのは…まぁ満更でもないけどね、アンタは弱いんだから非力を呪うもんじゃないわよ」

 

「でも鈴、俺はそれでも」

 

「分かってるわよ、アンタの性格は…」

 

幼馴染みだよく分かってる。だからこそ鈴は言わねばならない。

 

「アイツらは強いわ、千冬さんと互角に斬り合うなんて異常よ。それで諦めないのはあんたらしい……そこが良い所だし…」

 

「ん、なんだ?」

 

「まぁとにかく、アンタは自分を責めなくて良い。大丈夫よアンタは私のヒーローなんだから、ヒロインが死ぬわけにはいかないでしょ」

 

小声が聞かれそうになった鈴は急いで話を続ける。一夏の懸念も分かる。奴が言う通り、殺されるかもしれない。それでも自分はコイツの傍に居て支えてやる…せめて今は友達として。

 

「鈴…」

 

「私はアンタが強くなるまで待っててやるわ、それぐらいアタシでも出来るしね」

 

「その通りだよ!僕たちは殺されない、一人で戦わなくていいんだ。皆で倒せば良いんだよ」

 

「しんみりは苦手なんだ、この話はこれで終わりぃ!」

 

鈴の言葉にシャルロットとフィーリアも明るく同意して場を和ませる。

 

「お前は良い仲間に囲まれたな…」

 

「ユイカもその一人だよぉ」

 

「む…そうなのか……」

 

皆に感心するユイカはフィーリアの言葉にキョトンとして驚くがすぐに笑顔になる。

こんな和やかな空気に身を置いたのは兄が死んで以来久しぶりな気がする。

 

「こう言うのも悪くはないか…」

 

ユイカは静かにそう呟くのだった。

 

ーーーー

 

「こいつらが…」

 

「はい、今回捕縛できた捕虜です。全員テロリストとして指名手配を受けている者でした!」

 

「ここで捕まるとは、運がなかったようだな」

 

「……」

 

捕虜となった者達を一瞥したイルフリーデは不気味に笑いながら話を続ける。

 

「まぁ時間はたっぷりある、それまでゆっくり話をしよう…」

 

そんな彼女を見て捕縛たちは冷や汗を流すのだった。

 

ーーーー

 

「本当に助かった、何と言えばいいのか…」

 

「いえいえ、たまたまですので」

 

自衛隊指揮所、臨時に設置された野戦病院から一番遠いこの場所は比較的静かだが事後処理に追われる人が多く騒がしい。

そんな中、楠木とMSパイロット、小原はティーパックから作ったお茶を啜りながら話していた。

 

「おまえのお陰で本隊が崩されなかったのは事実だ、何かしら勲章でもやりたいのだが…」

 

「そこまでしなくても、そこまでのお気遣いは大丈夫ですので」

 

軍の上層部が女性主義団体に毒されている以上、どれほどの功績を残そうと男にはなんの礼もない。そう言う状況だからこそ楠木自身、礼はしっかりとしていたかったのだ。

 

「やぁ、お疲れぇ」

 

「少将」

 

橘の登場に二人は立ち敬礼をするとまた座る。

 

「状況は?」

 

「鉱山内はもぬけの殻、静かなもんだよ…」

 

注がれた御茶を飲みつつのんびりと話す橘はいつも通りの緩んだ表情に戻っていた。この人がついさっきまで連合軍本隊を守っていた指揮官だとは思えない。能ある鷹は爪を隠すと言うが正にその通りだろう。

 

「光一さん、あっ…少将に中佐までいらしてましたか」

 

「アリエスくんお疲れ、何かあった?」

 

「はい、地下の格納庫に部隊が到達し画像が届きました」

 

アリエスが持ち込んだ画像に全員が注目する。画像は何枚かありそれぞれが1枚ずつ手に持ちマジマジと見つめているとアリエスが解説を始める。

 

「今回、数種類にわたる機体が確保されましたがこれまでのモノア式ではなくバイザー式の機体でだいぶデザインも違いますね」

 

「言われてみれば…少尉は機体を持つ身としてどう思う?」

 

「はい…これは連邦の機体ですね」

 

「連邦?」

 

光一の言葉に疑問を上げたのはアリエス、その言葉は他の二人の浮かべた疑問と同じだった。

 

「えっと、長くなるんですけどいいですか?」

 

「構わない」

 

「えっと、ちょうど良いんで俺の出自からなんですけど……」

 

ーーーー

ーーー

ーー

 

「なので、バイザーは連邦系統、モノアイはジオン系統って呼んでいるんです…どうしました?」

 

「なんかサラッと」

 

「凄いことを」

 

「聞いた気がするんだけどぉ…」

 

あまりの衝撃で3人の頭が着いてこれないのは当然として彼らは大きな手掛かりを手にした瞬間であった。

 

「アニメの機体たちが、ISと同サイズになって具現化した…」

 

「細かく創られたアニメなら細かい機体の系譜を創り出すことも可能だろう」

 

「それを知っているのは、光一くんと同じ存在だけ…」

 

転生者がこの世界を変えようと動き始めた。二度目の命を賭けてまで行おうとしてきたことが戦争ごっこだとは信じられない。

 

「なら、少尉にはこの機体が全て分かるのか?」

 

「えぇ、殆ど揃ってますね」

 

ジム、ジムⅡ、ジムⅢ、ヌーベルジムⅢ、ネモ、ネロ、ジェガンやフォビドゥン・ブルーなどの量産機たちに加え、ジーライン、ジェスタなどの準量産機ガンダムXディバイダー、F91などのワンオフ機。

 

「まるで博物館ですね」

 

明らかに与えるために置いてあったとしか考えられない代物たちに全員が黙り込んでしまう。

 

「もしかしたら我々は試されているのかもねぇ」

 

「試す?」

 

橘の言葉に反応したのは楠木、対する彼も気にせず言葉を続ける。

 

「さぁ、彼らが本気で勝ちに来てるのかなぁってね」

 

ーーーー

 

「く……」

 

「参謀長、大丈夫ですか?」

 

撤退していたハルトは痛む左肩を抑える。千冬の剣速に対応し防戦していただけだというのに体を痛めた。つくづく千冬は化け物だと確信したハルト。

 

「お前はあの戦闘、戦いと呼べるとおもうか?」

 

「はい、参謀長は武にあまり長けていないと聞きましたが見事でした」

 

「俺はただ防いでいただけだ、負けるのは時間の問題だったな」

 

「え?」

 

ゼク・アインのパイロットは驚く百万式と暮桜、この機体の間には大きな性能差があったはずだ。それすらものともしない千冬の技量は計り知れない。

 

「やはり、リョウしか対処できないか」

 

ハルトは少々粗暴な馴染みを思い出し歯嚙みする。このままでは戦闘に置いて自分はお荷物になる。それは彼にとって避けたい事だったのだ。

 

ーーーー

 

革命軍本部、そこでは一つの問題が起きていた。

 

「精神状態値が異常です!」

 

「機体親和率200を超えました」

 

「うあぁぁぁ!」

 

革命軍開発エリア地下実験場。そこで暴れていたのはデスティニーガンダム。デスティニーは乱雑な軌道を描きながら飛び回っていた。

 

「総帥、危険です!お下がりください」

 

「ユイト!危険だ!!」

 

「死ねぇぇぇぇ!」

 

デスティニーはアロンダルトを掲げ実験管理室の対MS用強化ガラスに突き立てた。アロンダイトは貫通しそれを見ていたユイトの真横に刺さった。

 

「ふぅ…ふぅ……」

 

「機体に乗せるとこれか…。考え物だな」

 

真横に鋼鉄の大剣が突き刺さっているというのに冷静に話すユイトに研究員とクリアが驚きを隠せずにいた。そんな中、デスティニーはアロンダイトを引き抜き再び暴れようとしている。

 

「総帥!」

 

「くっ!」

 

「待てクリア、俺がやる…」

 

見ていられなくなったクリアはデルタカイを展開し取り押さえようとするがその前にユイトが展開したウイングゼロがデスティニーを試験場の壁に埋めた。

 

「全く…デスティニーは猪突猛進な奴を好むのか?」

 

「うがぁぁぁ!!」

 

デスティニーはアロンダイトを一閃、初騎乗とは思えぬほどの身のこなしは流石だが冷静さを欠いているため降りが大きすぎる。

 

「甘い…」

 

ユイトはシールドで受け流すとビームサーベルで胴体を切り裂く。怯んだところを首筋と腹部に強力な一撃を加え意識を墜とさせる。

 

「ふぅ…」

 

静かになったデスティニーを見てユイトは一息つく。デスティニーと言っても適性者に合わせるために少々改良を加えた機体だ油断できない。

 

ーーーー

 

「被験体111《クラウド・フェルネル》、元孤児で孤児院にいたらしいっす。研究所に入ったのは4ヶ月前…」

 

「4ヶ月前、随分最近だな」

 

デスティニーの搭乗者、クラウドを取り押さえた後。ユイトはカゲトとケイの元へ行っていた。

 

「その入所理由が最悪なんだよ。どうやってしたら男がISを使えるのかってね」

 

「それは…」

 

「織斑一夏をもう一人作ろうとしたってわけすね」

 

胸くそ悪い話だ、3人は心の底からそう思った。

 

「トラウマに馴れていない分、暴走が激しいって事か…」

 

「マドカちゃんと同じで織斑一夏を殺したくてたまらないらしいね」

 

「カゲトの親衛隊員には向かなそうだな…」

 

「要検討っすね」

 

最近の問題は五人各員の親衛隊編成だった。総帥であるユイトと隠密部隊として編成したケイの親衛隊以外まだ残る3人の親衛隊は設立されていないのだ。

 

「しばらくマドカとリョウに預けるか」

 

「いいのかい?」

 

「暴れたときに取り押さえられるってのもあるが、同じ目的を持つ同志で何かしら友好的なものが作れるかもしれない」

 

「なるほど、俺の手元から離すには少々嫌っすけど。仕方ないっすね」

 

「ユイト、エドワルド・クランクから通信だ…」

 

親衛隊編成のための話を進めていると外で待機していたクリアが入ってくる。

 

「そうか、分かった…ケイ、制圧した運河の状況は詳しくな」

 

「分かってるよ」

 

そう言ってユイトはその場を離れるのだった。

 

ーーーー

 

アメリカ、女性主義団体本部。

 

「アリス様、革命軍を発見いたしました」

 

「そウ…万事ぬかりなく執り行うようにね」

 

「はい…」

 

無駄に豪華にあしらっている大画面モニターに映る百万式たちを見ながらアリスはゆっくりと微笑む。自身に逆らった者達の被害など知ったことか、手負いの軍隊などどうでもいい。

 

「我々ISが最強と言うことを教えて差し上げましょう…下劣な男共」

 

扇子を広げ口元を隠しながら笑う彼女の目には華々しき勝利を挙げISこそが最強だとひれ伏す男共の姿しか見えていなかった。

 

 


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