スエズ運河、世界の海運海路の重要な運河の一つで世界三大運河とも言われている。
「たく、暇だよなぁ…アジアじゃ派手にドンパチやってんのによ」
「ぼやくな、ぼやくな…ここが重要なのは分かってんだろ?」
「分かってるけどよ…ん?影」
運河の全てをコントロールしている施設の当直が話しているとその片方が違和感に気づく。突然、自分たちが影に覆われたのだ。
「上になにか…あ……」
「なんだよ?」
その影の正体を見るために見上げた兵は想像を超える事実に口を開けることしか出来なかった。頭部と胸部にある大きな偏向ノズル、桃色と青色に彩られた機体。ガザD、ガザCと少数のガ・ゾウムが飛来していたのだから。
「敵襲だ!」
「なんだ!なんだ!…がぁ!!」
詰め所はその施設ごとミサイルで吹き飛ばされコントロールセンターは為す術もなく陥落する。
それはキール運河、パナマ運河も同様だった。三大運河をたった10分足らずで占拠した革命軍は勝利の咆哮を上げるのだった。
ーーーー
その頃、鉱山都市。高速に移動するケンプファーを捉えきれない後衛の戦車隊は2門のジャイアントバズーカーⅡを撃ち込まれ爆散、被害は甚大なものになっていた。
「させないわよ!」
「なに!?」
戦車隊を蹂躙していたモルドウィッチに立ち塞がる水色の機体。
「これ以上行かれたら困るんですよねぇ」
「小娘が…」
更識楯無はケンプファーを見つめながらその赤い瞳を鋭くさせるのだった。
ーー
「どれだけ居るんだ!」
援護している光一も地上から飛来するビームを躱すのに精一杯だった。ガナーザクウォーリアが列を成し陣を形成しているのが空からはよく見える。
「統率が取れてる…時間稼ぎか……」
相手を逃がさぬように展開されているMSたちに疑問を覚える光一の疑問はすぐに晴れた。
「光一さん!鉱山から!」
「なに?」
鉱山基地の固く閉ざされたメインゲート、鉱山の中で一際目を引く大きさのメインゲートがゆっくりと融解し黄土色のビームが大気を焼いた。
「サイコガンダムだと!」
そこから出てきたのは巨大な黒い機体。サイコガンダムは連合軍を絶句させるのに十分だった。大きさは26メートルと半分ほどだが4、5メートルのISから見れば巨大なのは変わりなかった。
「敵機から高エネルギー反応!高出力ビームだと思われます!」
「なに!?」
サイコガンダムは両指に内蔵された10門の高出力ビーム砲を本隊に向けて撃ち放つ。高出力ビームが一つの本流となって本隊に襲いかかった。
「しまった!…グワッ!」
「よそ見している場合か!」
Iフィールドで防ぎに向かおうとクロイが動くがハルトに邪魔されそれどころではなかった。
「総員退避!総員退避!」
「はぁぁぁ!!」
逃げ惑う本隊だが敵に囲まれ逃げ道などない。全滅する、誰もがそう思った瞬間巨大なビームが真っ二つに切り裂かれた。
「え?」
「なんだと!」
切り裂かれたビームは囲んでいたMS隊の一部を焼き尽くし大損害を喰らわせる。そのあまりの光景にクロイどころかハルトでさえも絶句してしまう。
切り裂かれたビームの割れ目にいた紅の機体、美しい黒髪をたなびかせ鋭い眼光を持つ女。誰もがその名を知る
「「「「「織斑千冬!!」」」」」
愛機《暮桜》を駆るその姿はまさに鬼神、織斑千冬はそのたった一振りで戦場の空気を支配したと言っても過言ではないだろう。
「舐めるなぁ!」
「……」
そんな彼女を襲ったのはグフフライトタイプ、グフはヒートサーベルを振るい千冬を墜とさんと肉迫するがそれは愚かな選択だった。
「なんだ…っ!」
グフフライトタイプのパイロットは真っ二つにへし折れたヒートサーベルを見て疑問の声を上げるがそれも一瞬、すぐさま胴体が裂け爆散する。
「すげぇ、千冬姉……」
「あれが、千冬さんの実力」
その実力差を見せ付けられたIS学園勢は言葉を失う。だがそれは他の者達も同じであった。
「あの女は化け物か!」
「見えなかった…」
「千冬!」
「アキか」
そんな千冬の元に向かったのは彼女の良きともである楠木アキ中佐。
「あのデカブツをなんとかしなければ…頼めるか?」
「当然だ…」
「すまない、こっちは手持ちの8機で限界でな」
サイコガンダムは千冬を敵と視認したのかまっすぐ彼女を見つめ頭部の小型メガビーム砲を撃ち放つ。
「行くぞ!千冬!!」
「分かっている!」
「各機!隊長とブリュンヒルデに続けぇ!!」
「「「「了解!!」」」」
高速でサイコガンダムに向かった2人を追い掛けるように教導隊も続く。流石は日本の精鋭だけあってその動きは引けを取らない。
「はぁ!」
千冬は雪片を全力で振るいサイコガンダムの右腕の関節部を断たんとするが分厚い装甲に阻まれそれを阻止される。
「なんて装甲だ!」
このサイコガンダムの装甲はルナチタニュウムとガンダリウムの二重装甲になっており物理攻撃の殆どを防げるようになっている。流石の千冬の斬撃も阻まれてしまうのだ。
「ぐっ」
「死ねぇ!」
追いつめられたクロイはスラスターを吹かし離脱を試みるがスラスターを切り裂かれ墜落する。そのまま背中を切られなかったのはウーンド・ウォードの機動力のおかげだろう。
「くっそお!」
黒煙を吐きながら墜落するウォード・ウォードは運悪く本隊後方にいる一夏たちの所へと墜ちていくのだった。
ーーーー
「なんだ!?」
「待って一夏、IFF味方だよ」
突然、降ってきたウーンド・ウォードに一夏は警戒するがシャルロットはそれを諌める。
「君たちは…IS学園か逃げろ!」
「ここに居たのかIS学園の面子は…隊列が滅茶苦茶で分からなかったな……」
「なんだ?」
「ひぃ!」
墜落してきたクロイが叫ぶ中、百万式がゆっくりと降りたち一夏たちを一瞥する。その際、バイザーの中で煌めいたツインアイが以前いたウイングゼロを沸騰させ鈴は小さな悲鳴を上げる。
「私に任せろ!たぁ!!」
「駄目だよ箒!」
「赤椿…もう手に渡っていたか…」
箒は赤椿を駆り百万式に猛スピードで向かう。ハルトは少々予想外の機体にうっすら笑うと箒の振るった雨月をサーベルで空裂は素手で受け止めた。
「なんだと!」
篠ノ之箒は確かに浮かれていただが太刀筋はいつもと変わらない。だがそれをいとも簡単に受け止められるとは。
「篠ノ之束の妹、禁忌の血は根絶やしにしなければならないか……」
「通信を…」
心の底から出ているのではないかと錯覚を覚えるようなおぞましい声を聞き箒は悟った。ここは戦場なのだと死が隣に、いや目の前にいるのに気づかなかった自身の愚かさを。
「殺され…」
「箒を離せぇ!」
恐怖におののく箒を助けようと一夏は零落白夜を開放させ突っ込んでくる。ハルトは慌てずに左手のビームサーベルで雨月を弾き飛ばすと収納、量子変換で太刀を出し受け止める。
「そうか、なら離してやろう…」
ハルトは箒を一夏にぶつけるとそのまま蹴り飛ばす。まるで相手にされないのが分かり顔をしかめる。
「突貫する!」
「援護は任せて!」
「高機動パッケージ換装!」
ユイカ、シャルロットが百万式に向かう中、フィーリアはフルバーニアンパッケージに換装。爆発的な機動力で百万式に向かう。
「鈴、行くよ!」
「わ、分かってるわよ!」
ーー
「貫け!蜻蛉切!」
「行くよ!」
ユイカの強力な瞬時加速から繰り出される槍はまさに神速、だがハルトは太刀で受け流すと同時に脇下を蹴り飛ばす。
しかしそのすぐ後ろにいたシャルロットはすぐさまショットガンのレインオブサタディを撃ち放った。
近すぎず遠すぎずの距離、散弾は避けにくい点ではなく面で展開してくるからだ。それを一瞬のうちでやってのけるシャルロットの技量も大したものだ。
「……」
だからこそハルト避けにくい一撃をあえて受ける。百万式の装甲には全くダメージが通らないの位分かっているからだ。
それと同時に右手にビームサーベルを持たせ振るう。ラファールの強固なシールドで護るがそれはいとも簡単に溶断されてしまった。
「そんな、シールドが……あぐっ!?」
ラファールのシールドはIS界一、強固な装甲を誇っている。それを一瞬で溶断されたことに驚きを隠せないシャルロットは首に強力な一撃を加えられ意識を刈り取られる。
「このぉ!」
「シャル、ユイカさん!…エネルギー反応?鈴!左!!」
「え?きゃぁ!!」
突然横合いからの狙撃、真っ先に気づいたフィーリアはなんとかシールドで防いだが鈴には直撃し多大なダメージを負う。
カメラを拡大するとそこに写ったのは青色の機体。ゼク・アイン第二種兵装装備型だった。ビームスマートガンを構えたゼク・アインの攻撃に驚いていると今度は上空から更にゼク・アイン第三種兵装装備型、数機が現れた。
「精鋭部隊がいたなんて!」
「行きなさい!龍砲!!」
鈴の叫びと共に不可視の砲弾がゼク・アインを襲うが的確に両肩のシールドに防がれるどころか瞬く間に撃ち落とされてしまった。
「龍砲が…きゃぁぁ!!」
不可視の砲弾が見破られたことに驚いた鈴は飛来するミサイル群を避けられず多数直撃した。
「鈴!」
襲いかかる革命軍の精鋭部隊に一人で対処せざる得なかったフィーリアは一夏たちどころではなかった。
「鈴!シャル!フィーリア!…このお!」
「ふん…」
次々にやられていく仲間を見て一夏は憤慨し雪片弐型を一度振るうとハルトに突っ込む。
「仲間は俺が守る!」
「やめ……おり…ら」
人体急所である脇下に強力な衝撃を喰らったユイカは口から泡を吹きながら倒れている。絶対防御すら突破した衝撃は肋骨を突き抜け肺へと到る。意識こそあるが呼吸もままならず指1本すら動かせない状態だ。
「お前がボスだな!」
「……」
「答えろ!」
「答える義理はないな…」
ハルトは織斑一夏が嫌いだった。この世界に来る前から嫌いだった。現実を見ずに安全な場所にいて終わったら全てを知ってるような顔できれい事を述べ立てる。
「人を好き勝手に殺しまくって!世界が滅茶苦茶になるのを楽しんでるお前らは絶対に許さない!」
「許さない?…なら止めてみろ!
「んぐぅ!」
膝蹴りを腹に打ち込むと怯んだところにアッパー、浮いた体を太刀でたたき落とす。
「へばるなヒーロー、お前なら大丈夫だろ?」
「ぐぅ…」
右手で頭を掴むと無理やり起き上がらせる。膝蹴りで腹の中を出さなかっただけで褒めたいところだが現在ハルトは頭に血が上っている。絶対、楽には殺さない。
「その手を離せぇ!外道!!」
「っ!」
神速の一閃、ハルトの右腕を狙った一閃は紙一重で避けられる。
「織斑千冬…」
「私の生徒によくも手を出してくれたな…」
そう言い放ち雪片を構える千冬、常人ならここで逃げ惑うがハルトは太刀と取り出したビームライフルを構える。
「また石に戻してやろうか?」
「ほう?やれるものならやってみろ!」
なぜ千冬が駆けつけられたかったそれは数分前までに遡る。
ーーーー
「くっ…もう5機もやられた」
「この戦力では無理か…」
「織斑さん!IS学園の所に敵の指揮官機が!!」
「なんだと!?」
サイコガンダムと対峙していた千冬に届いたのは一夏たちの危機、だがここで自身が退いてしまえば奴は抑えきれない。私情と現状にはさまれた千冬を戒めるように無線で大声が響いた。
「行け千冬!教師として姉として行けぇ!!」
「この声!?」
聞き覚えのある大胆不敵な声に千冬は思わず鉱山を見やる。するとその岩肌から伸びるビームがサイコガンダムの眼前をすり抜ける。
「ここは俺が引き受ける!」
現れたのは紺色のガンダム、ツインアイを煌めかせ4枚の赤いシールドを掲げる姿は圧巻だった。
「フォルガーさん!」
「あぁ、フルアーマーガンダム!押して参るぜぇ!!」
二連装ビームライフルを撃ち放ったフォルガーはサイコガンダムの気を引くために全身に内蔵されたミサイルを撃ち放つ。ミサイルは全弾直撃しサイコガンダムの巨大が少し傾く。
「大佐の言う通りだ!行け千冬!」
楠木もそれに便乗するように剣を振るいサイコガンダムの片方のカメラを切り裂いた。
「すまない!」
千冬は暮桜を反転させ一夏たちの元へと向かうのだった。
「さぁて、どう料理してやろうかぁ?」
「部下の仇は取らせて貰う!」
フォルガーの復帰により湧き上がる前線、ついに連合軍の反抗が始まろうとしていた。
フォルガーがなぜフルアーマーガンダムを手にしたかは次回にやります。