ラサ基地より東北5キロ地点、英国艦隊の駐留する湖より10キロ進軍した地点に各国軍は集結。現在、ロシア軍の航空部隊の到着を待っているところだ。
「すごいな…」
立ち並ぶ戦車や指揮所として機能する装甲車、50を超えるISの数に一夏は思わず感嘆を漏らす。一夏たちIS学園勢の配置場所は後方支援隊の中央部、前、後方左右全てに対して最も安全な場所に配置となっている。
これは一夏や箒が民間人であるからと言うのが最大の理由だろう。二人の周りにはシャルロット、フィーリア、鈴と参加国以外の代表候補生が護衛するという形を取っている。
「安心しなさい、あんたたちは私達が護ってあげるから」
「まぁ、そのために参加したようなものだし」
「一夏たちってそう言うの逃さないからねぇ…」
いつも通りの調子で話す3人の言葉に一夏は少し安堵する。しかし3人の表情が若干硬いことは緊張している彼には気づけなかった。そんな時、その5人の前に降り立ったのは花柳ユイカだった。
「あ、ユイカ」
「私がお前たちの伝達係になった、よろしく頼む」
「うむ、よろしく頼む」
「……」
どことなく端っこが跳ね上がっているような箒の声にユイカは疑問を覚えるものの与えられた命令を遂行することだけに気を向けるのだった。
ーーーー
「大佐、ロシア軍です」
「来たか…配置に付き次第作戦を開始する!各隊に通達する通信繋げ!」
「ハッ!」
輸送機から降下するロシア軍を見上げたフォルガーは副官に伝える。通信が行き届き各国軍は進軍の準備を終わらせる。戦車隊はエンジンを鳴らし艦隊の砲塔がゆっくりと回頭する駆動音とIS隊からはセーフティを外す金属音が鳴り響く。
「時間合わせどうぞ…3…2…1…作戦スタート!」
各隊に響いたオペレーターの声から一拍おいて鉱山からけたましい爆発音が鳴り響き火柱が視界を彩る。
「全隊進軍せよ!進めぇ!!」
戦車が密林を突き進み、前衛のIS隊が鉱山都市まで一気に進撃、鉱山都市外縁部に展開し敵の進行を監視、迎撃する。
「敵機体の出現を認む」
鉱山から出現したのは4足歩行の機体、バクゥ十数機及びジン二十数機あまりの大部隊だった。
前衛のISは10機のみ、この数を相手にするには少々どころかかなりキツイ。まだ本隊の一部しか鉱山都市まで進軍できていない。
「こちら前衛隊、敵の大部隊を確認…面制圧の効果大と認む」
だからこその海上戦力だ。
「前衛隊より通信、目標山岳部一帯、主砲及びロケット弾用意!八式弾てぇー!!」
ラサ基地より東北15キロ地点の艦隊から放たれた砲弾とロケット弾は大気を切り山岳部に差し掛かると砲弾が割れ鉄片が飛び散りMS隊に降り注いだ。
「……っ!」
MS隊は空を見上げ言葉を発することもないまま火の玉に変わっていく。
「すごいなぁ…」
鉱山都市にて陣を急速に作製中の兵が漏らした言葉はその場に居た者全ての思いそのものだった。
ーーーー
「基地内の八割のMSがやられました…」
「こんな短時間で…」
「慌てるな、全て予定通りだ…」
慌てふためく部下を一括で大人しくさせたハルトはラサ基地一帯を表示するモニターを静かに見つめるだけだった。
ーーーー
「よし!予定通り陸戦隊を出せ!自衛隊はその援護を!」
「よし!各機進軍せよ!陸戦隊を死守せよ!」
「「「ハッ!」」」
楠木中佐の号令と共に25機からなる大規模IS隊は列を成し歩兵と合わせるようにゆっくりと進軍を開始する。
「簡単だねぇ…」
用意周到に寝られた作戦に拍子抜けを感じたのは指揮車にいた橘少将だけでは無かった。各国の指揮を執っている者全てが感じていることだ。
「簡単すぎる…」
「おかしいなぁ…」
ゴルドウィン、フォルガーは黒煙が立ち上る鉱山を睨みつけながら黙り込むのだった。
ーーーー
2時間後、内部に残存していたジンたちが一掃され基地内には多くの連合軍兵がなだれ込んでいた。既に殆どのエリアを占拠され残すは司令部と巨大格納庫のみとなっている。
「クリア!」
「クリア!」
「司令部への隔壁を爆破します!3、2、1…点火!!」
一拍おいて爆破された隔壁がひしゃげ、その出入り口から兵が突入していく。
「なに?」
勢いよく突入した兵たちは誰一人居ない指令室に思わず疑念の声を上げた。まさにもぬけの殻、綺麗に逃げられているのもを見てあらかじめ逃げられていたのだと分かる。
「こちら突入部隊、司令部にも敵の姿発見できず。敵はあらかじめ脱出していたものと思われます」
「逃げてただと?迎撃部隊は囮って事か?」
他のエリアをクリアリングしていたフォルガーは突入部隊の通信を聴き拍子抜けした声で答える。まさかの空振り、被害はないのは嬉しいがこれでは世間的にもヤバい。
「こちら格納庫エリア、巨大な機体を発見しました…黒い二つ目です」
「収穫ありか!」
「巨体な機体…ツインアイに黒色…」
空き手で帰らずにすんだことを喜ぶフォルガーの後ろで共に突入していたクロイは何か引っかかる者を感じていた。
ーー
「よし…作戦を開始しろ……」
「了解!《サイコガンダム》及び基地内防衛システム起動!」
部隊の司令部到達を確認したハルトはついに作戦開始命令を下した。
ーー
サイコガンダムのツインアイが仄かに光を宿した瞬間、たまたま近くに居た打鉄がビームに焼かれた。
「なんだ!?」
巨体を軋ませゆっくりと動き出したサイコガンダムに兵士たちは驚きを隠せなかった。
「くそっ!撃墜しろ!!」
打鉄のアサルトライフルが火を噴き兵たちも自身の携行装備で攻撃を始めるがまるで効いていない。弾が直に装甲に直撃してるのにだ。分厚い特殊装甲に覆われたサイコガンダムにはISのアサルトライフルなど目覚ましにもならない。
「あぁ…ああ!!」
「逃げろ!駄目だぁぁぁぁぁ!!」
「おい待て!…逃げろ!!」
腹部から放たれる拡散ビームで骨すら残らぬ姿を目撃した兵士は勝てないと確信し各自武器を投げ出して逃げ出す。
「なんだ!何が起きている!?」
逃げまどう兵たちがまっすぐ出口に向かい走ってくる。その中間地点にいたフォルガーはその状況を飲み込めず立ち尽くしていた。
「なにがあった!?」
現場にいた兵たちは我先にと逃げだし報告もあったもんじゃない。楠木中佐も同様でその場に立つことしか出来なかった。
すると突然、壁の岩から鋼鉄の手が生えてきた。それに驚きライフルを構えた楠木中佐たち部隊、岩が崩れそこから出てきたのは黒に四角いカメラアイを持ったビルゴだった。
「機体が!」
「隊長!奥にも出口にも!」
壁から出現するビルゴは1機だけではない、ラピュタのロボット様に次々と出現するビルゴに戦慄する楠木。
「各機、迎撃しろ!!」
楠木の怒号と共にビルゴはその強力なビーム砲を放つのだった。
今回は短め、次から本番でございます。