IS学園屋上、そこには会議の経過を聞いていたラウラの姿があった。彼女もドイツ軍の主力を担う特殊部隊《シュバルツ・ハーゼ》の隊長だ。
「なるほど…大佐はお変わりないようだな」
「はい、そろそろ生卵が飛び交う頃でしょう」
「そうか」
シュバルツ・ハーゼ副隊長、クラリッサは無線の先で軽く笑うラウラの声を静かに聞き、次に放つ声を待っていた。
「それで、どうなるだろうな…参加国は」
「大佐の言葉に誰も反論を寄越しませんでした、それに革命軍の基地襲撃です。相当数の国が参加を希望するでしょう…」
「奴らと我々の戦力差は歴然だ…全滅も覚悟しなければならない戦いになるだろう…」
「そうですね、我々もどこまで粘れるか…」
クラリッサの言葉にラウラは思わず鳥肌を立ててしまう。IS学園防衛線のおりあの蒼い炎を出して睨んできた機体を思い出してしまったのだ。
「あの時ですら、奴らは本気を出していなかった…」
「え?IS学園襲撃ですか?」
「ああ、出なければこんなに早く学園が運用できるものか…」
ラウラは生まれて初めての恐怖を体感しているような気分だった。目の前に立ち塞がる恐怖には馴れてきた。だが今目の前にあるのは得体の知れない何か、それが何より怖かった。
ーーーー
会議場、そこは先程の騒がしい空気から一変し静寂がその場を支配していた。
対峙するのはドイツ軍の最高戦力、フェング・フォルガーと女性主義団体のトップ、アリス・トリュグリードだった。
「ISを"含む"保有戦力と申しましたか?」
「あぁ…それがどうした」
「そんな旧世代の遺物で何が出来るのです?下劣な男共が操る低脳な兵器ごときに崇高なるISが後れを取ると?」
「その結果がこの会議じゃねえのか?」
その言葉にアリスは物凄い形相で睨みつける。議会を管理しているはずのマリアネスが脅えるほどのものだったがフォルガーは何処の吹く風、全く気にしない。
「いえ、それは奴らが奇襲で襲ってきたからです。そんなものに頼らずとも我々は勝つことが出来ます!」
「俺はロマンチストが大っ嫌いでね!」
「もういいわ!我々はこの件に関しては貴方たちと共に歩けない、私達は私達のやり方でやる」
「ハッ!なにを今更、今まで
今まで女性主義団体は内部に仕込ませておいた人脈を使って各国の軍隊を好きなように操っていた。そんな事を快く思ってない奴らは多くいる。特にフォルガーの様な現場派の人間たちだ。
「そろそろ解除していいですか?」
「やめとけ、頭ぶち抜かれるぞ」
「っ!」
現在、クロイの立場はけっこう危ない。口にこそ出していないがクロイの事をIS社会崩壊の引き金と思っている奴らも必ずいる。そんな奴に殺されては元も子もない。
カンッ!カンッ!
IS派と現場派の一触即発の空気になってきた為、マリアネスは手に持っていた木槌を叩き落ち着かせる。
「静粛にお願いします!」
マリアネスの悲鳴に近い声に騒ぎ出していた者達が彼女を見る。
「時間になってしまいました、遺憾ながらこの会議を終了します!」
俗に言う強制終了だ。まぁ、乱闘になるよりマシだろうしIS派の代表が好きにやると宣言したのだ。その他の奴らも好きに動ければいい。
共通の敵を前にしても団結できない、何処の世界でも同じであることがこの会議で証明されたのだった。
ーーーー
「で、残ったのはこれだけか…」
「仕方ないですよ、ほとんどが女性主義団体なんですから」
女性主義団体の代表、アリスは不機嫌そうに帰るとそれにつられるように各国の代表は会議場から去っていく。対するフォルガーは椅子に深く座り居座っていた。
そして残ったのはほんの数国、だが戦力的には満足な連中だった。残ったのはドイツ、イギリス、日本、IS学園、ロシアと他数国。
「お前が残ってくれるとは思ってたけどな、千冬」
「えぇ、話だけは聞こうと思いまして」
千冬はドイツ教官時代、フォルガーにえらく世話になったので頭が上がらない。対するフォルガーもラウラの教育を千冬に頼んでいたのでどっちもどっちなのだが。
「貴様なりに面白い演説だったぞ…」
「貴方は嫌味しか言えないのか、ゴルドウィン准将」
嫌味たっぷりの言葉に思わず言葉を帰したのはフランツ少将。というかこの二人は本当に仲が悪く顔をつきあわせれば嫌味ばかりだ。
「同類を持ってる身として無視できないからねぇ」
「話し方を変えた方が良いと私は忠告します」
「無駄ですよ橘中佐、この人はこんな人です」
「ひどいなぁ~」
楠木の言葉にフォルガーは細く微笑むがあえて話には参加しない。
「私はロシアの代表としても責任がありますから」
「珍しく本気じゃないの、私は嬉しいわ」
「シャネラさん//止めてください…」
人目をはばからず頭を撫でるシャネラに楯無は若干照れながら拒む。
「じゃあ、作戦会議を始めようか…」
フォルガーの宣言にその場に居た全員か視線を集めるのだった。
ーーーー
東南アジアのラサ基地。鉱山とその麓に建設された鉱山都市一帯を基地化したのがこの基地だ。といっても殆どは掘られた坑道の落盤を防ぐための処置と中央部の施設導入の他には手は加えられていない。
「い、いやぁ…助けて…助けて……」
鉱山の周囲を囲む広大な熱帯雨林、自然豊かな森の中では黒煙と悲鳴が上がり肉が焼ける匂いが動物たちを苦しめていた。
「よくも俺達の同胞を!」
「あぁ…ああ……」
突撃銃を乱射し返り血を浴びたジンは目の前にいる女を容赦なく肉片に変える。国家権力にテロリストという汚名を着せられ結局テロリストとして生きていくしかなかった者達の怒りはフォルガー大隊の偵察隊に降り注いだ。
「クソッ!クソッ!クソクソクソクソぉぉぉ!!」
バクゥに崖まで追いつめられ拳銃を乱射する少女、クイル・チェスターは涙を流しながら敵を見つめる。
せっかく栄えあるフォルガー大隊に就けたのに、こんなことで終わるのか、父や母を弟にまだなにもしていないのに…。
「……」
鋼鉄の装甲に包まれた犬が一歩、また一歩と無限軌道を備えた足を踏みしめて来る。恐怖のあまり退き崖に片足を落としてしまった。
「え……」
叫びすら間々ならぬまま彼女は谷底の見えない崖に落ちていくのだった。
ーー
「敵偵察隊の殲滅を確認しました…」
「死体の確認はどうした…」
「ミンチよりも酷い状態で…判別できません」
「そうか…」
ハルトは静かに呟くとモニターを見つめる。
その画面には《ブラックドール》というコードネームが与えられた機体は着実に調整されている様子を見て満足げにする。
「敵の動きを常に監視しろ、この作戦必ず遂行せねばならない」
「ハッ!」
この作戦は計画の要となるものだ。この作戦の成否で計画を大きく変更せざる得なくなるだろう。"プレゼント"も用意してある。
「さて、そろそろ向こうも動き始めるか…」
世界最高の頭脳を与えられたハルトは好敵手になり得る人物を思い細く微笑むのだった。
ーーーー
IS学園食堂ではフィーリアたちいつものメンバーがそろそろ終わったであろう会議の話をしていた。
「基地があるの?」
「あぁ、先程開示許可が降りたから言うが…東南アジアに敵の拠点があるのは間違いないらしい」
「ふーん」
「フィーリア、大丈夫か?ほら」
「あむ…」
フィーリアは目を閉じたままカツ丼を食べようとするが食べれてない。それを見ていた一夏が母性本能をくすぐられたようで食べさせてあげている。
「フィーリアさん!狡いですわ!」
「私にもやりなさいよ!」
「お前らは自分で食えるだろう?」
「「そう言う問題じゃない!(ありませんわ)」」
まぁ、いつも通りの光景にラウラとシャルロットは普段ならスルーするのだがある一点だけ異常な光景を二人は目にしていた。
「ってか出来たてほやほやのカツ丼を平然に食べてるって…」
湯気が盛大に出ているカツ丼をもぐもぐと咀嚼し呑み込む。それを何故気づかないのかと叫びたくなる。
ついでに現在、シャルロットの服装は以前と変わらず男装だ。本来なら皆に正体を明かさねばならぬのだが千冬が出払っている現在、それを控えるようにと言われた結果であった。
「なるほど、極度の睡眠欲求に五感がやられているのか…」
「相変わらず冷静だよねぇ…ラウラって」
相変わらずの皆にシャルロットは安堵を覚えた。これがいつもの光景、なんて幸せなのだろうと。
「そういえば、箒は?」
ーー
IS学園中庭
「ハローハロー!お久し振りだねぇ!箒ちゃん!」
「まさか貴方から連絡が来るとは思わなかったです」
「あれぇ?その言い方じゃあ箒ちゃんから連絡してくれる予定だったのぉ?」
なんでこんなにもこの人は人を苛だたせるのだろう。そんな思いを飲み込み箒は言葉を発する。
「あの…」
「フフン、分かってるよぉ…欲しいんだよね箒ちゃんの機体が」
「……」
「分かるよぉ、自分が皆の足枷になってるって思っちゃってるんだよねぇ」
自分の思いを言い当てられ黙り込む箒、だが箒は束の放つ言葉の矛盾を捉えられていなかった。
"皆の奴に立ちたい"それは人間として当然の思いだが束とって最もどうでもいい言葉だ。箒は気づいていない、知らぬうちに束の手のひらで踊らされていることに。
「あとちーちゃんにも伝えて欲しい事があるんだけど」
「織斑先生に?」
「それはね…ーーー」
一夏たち周囲のメンバーの軽い紹介
織斑一夏
原作と基本変わらず、フィーリアの登場により原作より強くなっているが毛が生えた程度。
他のメンバーたちと違い常に優しいフィーリアをとても気に入っている。
篠ノ之箒
相変わらず一夏に惚れている。フィーリアのおかげでだいぶ性格は軟化しているが強さに関するコンプレックスは取れず。
セシリア・オルコット
両親を殺され復讐を誓っている。箒と同じく性格は軟化。なぜがサイレント・ゼフィルスの適性が高い。ゴルドウィン准将は苦手。
凰鈴音
原作と変わらず。フィーリアの事を《好敵手》だと思っている。
ラウラ・ボーデヴィッヒ
IS学園入学前から一夏と知り合い。落ちこぼれ時代に千冬に教官として教鞭を執って貰った。一夏に惚れていない。
フィーリアの事はIS学園防衛線の時に庇って貰ってから信頼している。
シャルロット・デュノア
デュノア社の社長とのわだかまりは無し。父親のことは尊敬している節がある。その代わり社長夫人のことは殺したいほど恨んでいる。
一夏の事を"なんでも話せる親友"だと思っている。フィーリアに心理的に救ってくれたこともあり彼女に絶大な信頼を寄せている。