IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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第二十二革 対の転生者

 

 

 

ドイツ軍演習場、ドイツ軍の精鋭《フォルガー大隊》の軍用ラファールが空を駆けていた。漆黒に彩られた2機は油断なく周囲を見渡す。

 

「奴はどこだ?」

 

「ッ!上だ!」

 

上空から急接近する機影、ウーンドウォートEXはラファール2機を抜け地表スレスレまで降下するとスラスターを上手く使い姿勢制御するとロング・ビーム・ライフルを構え発射する。

 

「くっ!なんて機動力だ!?」

 

「シールドが!?なんて出力だ!」

 

強襲してきたウーンドウォートEXの攻撃を防ぎきったラファール2機だったがロング・ビーム・ライフルの攻撃で実体シールドの一部を変形させた。

 

「やっぱり上手くいかないか…」

 

ウーンドウォートEXの機動力は凄まじく追撃に出るラファール2機をあっという間に引き離すとロング・ビーム・ライフルで迎撃する。

 

ーー

 

演習場外縁の戦闘指揮車ではフォルガーが面白そうに戦闘の様子を見ていた。

 

「ウーンドウォートって言う機体の性能値は?」

 

「この計器では測れません…」

 

「そんな…最新機器だよ」

 

「ふん…」

 

本当に面白い…フォルガーはクロイ・フォン・ドュートリッヒの操るウーンドウォートを見つめる。機体の性能を良く理解している動きだ。戦術的には正しいし自身の戦闘に対する経験不足をしっかり分かっているからこそ一撃離脱を繰り返しているのだろう。

 

「それに姿勢制御のとり方が素晴らしいな…ヘタすれば地面に激突だろうに……」

 

「基地に不法侵入を許す代わりに我が部隊と演習させろとは…流石です」

 

「あの機体を徹底的に解析して量産型の開発を着手させよう…開発部に話を通しておけ」

 

「ハッ!!」

 

フォルガーの言葉はMSの有用性を現す言葉だが不快な顔をする者はいない。ISが使えなければMSを使うだけ軍人は常に現実主義(リアリスト)でなければならない…それはこの大隊に所属する者の最低条件だ。

 

「クロイって奴も大隊に入隊させる…四日後の会議でMSの有用性をたっぷり話して貰おうか……演習を終え次第私の部屋に向かわせろ」

 

「ハッ!」

 

クロイという人物は何者か知らないが使えるものは使う…幸い彼は何かしらの意図を持ってこちらに接触して来たわけではなさそうだ。

 

(まっすぐでいい目をしてやがった…)

 

本当に面白そうにニヤリと笑いながらタバコをくわえ懐のオイルライターを探す。

 

「隊長…ここでタバコは……」

 

「あぁ…すまん…」

 

お目当てのオイルライターを見つけると指揮車を降り咥えたタバコに火をつけた。へこんだオイルライターを感慨深げに見つめると空を見ながら大きく息を吐いた。

 

「このジッポも随分使ってるなぁ…」

 

そう呟くとフォルガーは演習を行っている方へと顔を向ける。見えはしないが独特の雰囲気は感じ取れる。込み上げてきた感情を抑えるために大きくタバコを吸うとゆっくり吐き出すのだった。

 

ーーーー

 

「やあ、小原光一三尉…」

 

「はい…」

 

小原光一は目の前にいる男、橘少将に呼ばれ対面していた。彼の脇にはアリエスが控えており部屋の中は緊張に包まれていた。そんな雰囲気に対して彼は何の反応もせずに気軽に話し掛けてきた。

 

「率直に聞いちゃうけど、あの機体…君のだよね?」

 

「はい…」

 

昼行灯、脳天気等々あまり良い風に言われない彼に対して光一はまっすぐに答えた。

それは女性たちに蔑まれながらもこの地位を維持し続ける彼に対して光一は何かしらのものを感じた結果だった。

 

「そう…またまた早速だけど革命軍の機体についてどう思う?」

 

「機体ですか?」

 

「ISは勝てるかな?」

 

笑みを絶やさない彼の質問の意図を光一は測れずにいた。そう言うときこそ光一は本能に従う…今までそれで上手くやって来たつもりだし間違ったら間違ったらだ。

 

「正面切っての戦いでは性能差で押し負けてしまいますですがやりようによってはできると俺は踏んでいます」

 

「なるほどね…」

 

橘少将は満足したように頷くとデスクから一つの資料を取り出す。その資料の表紙には《明光計画》とゴシック体の文字で簡素にプリントされていた。

 

「四日後の会議に僕たちも出席する、それと同時にこの計画を進めるつもりだ」

 

「これは?」

 

「ISに変わる主戦力の確保…つまり君と革命軍が使っている機体を開発・生産させると言うことさ」

 

橘少将の言葉に光一含め脇に控えていたアリエスも驚愕した。

日本政府は"かろうじて"支配されていないが自衛隊の上層部の連中は女性主義団体の息がかかった奴らばかりだ。当然ながら彼女らはIS至上主義者だ…ISに変わる主力兵器の開発など認めてくれる訳がない。

 

「この明光計画の表向きの建前はテロリストの機体に対して有効な兵器を開発すると言うものなんだけどね」

 

「はぁ…」

 

物は言いよう…嘘は全くついていない。だがこの内容を見た上層部は(対テロリストのためのISの新型兵器開発)なんて勘違いしているだろうが。

 

「内容が内容だから正直言うけどこの計画ね完全にケンカ売ってるんだよ…だから身内に殺される可能性があるわけなんだよねぇ」

 

正に命がけ…一見、飄々としている彼だがそこまでのことを考えていたなんて…。

確かに国を護るためにはMSが必ず必要になってくる…コアを必要としないMSは機体数の制限などない…兵器としてはMSの方が優れているのは目に見えていた。

 

「機体はこちらで解析しているけどやっぱり君の機体のようなサンプルが欲しいのが今のところ…でも強制はしない」

 

「やります、やらせてください!この力が平和のためにあれると言うなら俺はそれに賭けてみたい」

 

この明光計画は恐らく光一の機体が軸になるだろう、なら彼への危険性は一番高くなる。それを承知の上で彼はすぐに返事をくれた。ある意味予想外だったがこれ以上ありがたい事はなかった。

 

「よろしく、小原光一三尉…よければむかしの仲間も連れてくるといい」

 

「ありがとうございます、橘少将…お世話になります」

 

橘と光一は固く握手を交わす、転生者と言う大きな鍵を手に入れた国はその力を手に入れるために動き始める。

だがそんな彼らより先に動いていた者達がいた。

 

ーーーー

 

「バスターランサーの基部はビギナ・ゼナじゃない!ロナの方だ!!」

 

「機体がいつ出来ても言いように武装だけでも整えるんだろ!?」

 

イギリス軍、秘密工場…そこにはかつて地球連邦軍を圧倒したクロスボーンバンガードの機体達が並んでいた。

 

ビギナ系統を始めにダギ・イルス等が立ち並んでいるが今のところこれらは全て鉄屑である。外見だけが取り繕っているだけで主力機関が未搭載なのだ。

 

「見た目なら立派なのですが…」

 

「ISと同じ設計ではコアが必要になるからな…今はこれが精一杯だ」

 

本来ならこの中にベルガ系統も入れたかったのだがガスマスクのような風貌が旧ドイツ軍を沸騰させるからと言って棄却されてしまった。こればかりは仕方がないと割り切るしかない。

 

「やはり設計図だけではままなりませんね…」

 

イルフリーデ・シュルツ、彼女が受け取ったのはエルフリーデ・シュルツの容姿と機体の設計図だけ。その設計図通りに計画は進んでいた物の主力機関の図が複雑かつオーバーテクノロジーだったので開発が出来なかったのだ。

だからこそ革命軍の機体を回収し主力機関を解析しなければならなかったのだ。

 

「確保できればめどは立つ…この施設も彼女らに見つかるのは時間の問題だろう…それまでに完成させなければ」

 

ゴルドウィンはそう呟くと紅茶を飲む。狡猾で冷徹な鉄仮面をまとう彼だがイルフリーデが心から信頼している人物でもある。

 

「世界は絶対に彼らの好きにさせませんよ」

 

立ち並ぶMSを見ながらイルフリーデはそう呟くのだった。

 

ーーーー

 

日差しが照りつけるサハラ砂漠を失踪する機体が1機いた。ガンダムAGE-3フォートレス…両肩・両腕に合計四門のシグマシスキャノンを装備している重火力MSだ。

 

「~♪」

 

そのパイロットを務めるのはヘンリー・マルトニティー生粋のアメリカ人だが彼は転生してから一度もアメリカの大地に足を踏み入れていない。

彼は流浪人、つまり旅人である。彼が転生したのは3年前、それから彼はこのユーラシア大陸を旅していた。

 

「ん?なんだここ?」

 

サハラ砂漠のオアシスの近くにあった洞窟を越えるとそこには岩山の盆地のような地形が広がっており残骸が山のように積まれていた。

 

だいぶ前の残骸のようでほとんどが土に埋もれていたが中にはISが装備してるようなショットガンが土に刺さっていたりしていた。

 

「戦ってたのかぁ…」

 

当然ながら視界は瓦礫しか映さず殺風景極まりない。

 

「宮殿?」

 

遠望カメラで見ると岩壁と一体化している白を見つけるが人影のように物が横切る。

 

「こんな所に人かぁ…黙って立ち去るに限るね…」

 

ヘンリーはフォートレスを反転させ来た道を戻る。こう言うのに頭を突っ込むと碌な事が無い…彼なりの経験則だ。せっかく第二の人生を送れているのだ殺されてはたまらない。

 

「でも革命軍の事もあるし身の振り方を考えないとなぁ…」

 

ヘンリーは燦々と輝く太陽を見つめながらのんびりと呟くのだった。

 

ーーーー

 

アメリカ、ハーバード大学の研究室の一角で新聞を読み漁る人物がいた。

 

「ティー、読むのも良いがいい加減…出てこないと…ここ数日出てないじゃないか」

 

「問題ない…それにもうすぐ終わる」

 

紫色の髪を持つ少女は伸ばしきった髪の毛を鬱陶しそうに払いのけながら同僚が運んでくれた昼食を頬張る。

 

「これからしばらくここを離れる…」

 

「離れるって研究かい?」

 

「あぁ…実証試験をしに行く…期間は分からん」

 

「分かった、教授たちには俺が言っておくよ」

 

「ありがとう…」

 

ティルミナ・ハンデルン…彼女は金色の目を新聞に戻すとゴミ箱に放り込む。伸ばしきった髪を後ろで一つに纏めると立ち上がり大きく背伸びをした。

 

「戦争に行ってきますかぁ…」

 

「ハハッ…まだ面白いことを」

 

「まぁ、テレビで見たら連絡してくることだ」

 

「期待してるよ」

 

学生同士の軽い会話、だが彼女の目には覚悟と恐怖が混じっていた。廊下を歩きながら首から下げたソレスタルビーイングのマークが彫られたペンダントを触る。

 

「前世でやり残したことを取りに行こうか…セラヴィー…」

 

ーーーー

 

世界の抑止力として呼ばれたこの五人がどう動くのかだがこれだけは言える。彼らの行動は歴史に記される物だと言うことが…。

 

 

 

 





軽く転生者の説明

クロイ・フォン・ドュートリッヒ

機体…ウーンドウォードEX

所属…ドイツ軍フォルガー大隊

小原光一

機体…ガンダムエアマスター

所属…自衛隊特殊技術開発協同隊

イルフリーデ・シュルツ

機体…キャメロット(IS)→ビギナ・ロナ

所属…イギリス軍、IS管理局、国家代表

ヘンリー・マルトニティー

機体…ガンダムAGE-3

所属…なし

ティルミナ・ハンデルン

機体…セラヴィー

所属…ハーバード大学


ってな感じですね。言うなればこの五人が反革命軍の切り札となり得る人物達です。では今回はここで…。



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