IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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第二十一革 死人の声

 

シャルロットの告白とユイトとクリアの休日から翌日、IS学園生徒会長、更識楯無はある人物に呼び出されていた。

 

「忙しいのにごめんなさいね…」

 

「いえ、明日から少しオーストラリアに飛ぶので良かったです」

 

楯無を呼び出したのは花柳家当主代行、花柳ユミエであった。

 

「あの演説を聞きました…」

 

「革命軍の世界に対する宣戦布告ですね…私も聞きましたがミステリアス・レイディの調子が悪くてほとんどはノイズでした」

 

「録らせたものがものがあります…」

 

日本の和に統一され厳粛な雰囲気の中、楯無は特に緊張することなく当主代行であるユミエと話していた。昔からよく来ていたので慣れっこだ。

加工した木を漆喰でコーティングされた机の上に置かれたUSBを見て楯無は疑問に思う。

 

「なぜこれを私に?」

 

「これを聞いて私はあることを感じました…ですが確信がありません」

 

「感じた事とは?」

 

「それは教えられません…教えればあなたは意識してしまう…」

 

当主代行として二年しか経っていないと言うのにこの雰囲気、流石は楯無が尊敬する人物だ。しかし冷静沈着に話す彼女の声に今日はどこか悲壮感が混じっているように彼女は感じた。

 

「分かりました…」

 

楯無はこれ以上の質問はせずにUSBを受け取った。これ以上の質問は自分自身に対しても大きく関わるものだと悟ったからだ。

 

「では失礼します…」

 

「お気を付けて…」

 

「ありがとうございます」

 

静かに部屋を去った楯無を見送りしばらくするとユミエは息をつくためにお茶を飲む。

 

「ユイト…」

 

ユミエの言葉は整然とする部屋に虚しく響き渡るのだった。

 

ーーーー

 

「お疲れ様です総帥、おやすみは如何でしたが?」

 

「久しぶりにゆっくりできたよ」

 

「それは良かったですな……これは情報長からです」

 

神奈川の隠し港に戻ってきたユイトは兵に迎えられ軽く談笑をしていると資料を手渡された。

 

「ケイから?」

 

渡された資料をめくるとそこには調査資料と書かれていた。それを見たユイトは思い出す、少し前にケイに頼んでおいた"この世界での"俺の過去だ。

 

「それは?」

 

「俺のことだ……」

 

「この世界の?」

 

「あぁ……」

 

クリアはユイトに関する資料に興味津々のようで覗き込んでくる。先ほどの会話で分かるだろうがクリアはユイト達が転生者であることを知っている。この様に同一人物がいてもの混乱しないようにだ。

 

「やっぱり…」

 

一枚一枚、丁寧に素早く読み進めるユイトは自身とは違う点をいくつか見つけた。

 

「俺の知っている花柳家は旧家だが力は持っていなかった…それはあくまで先祖の話だ…暗部の更識と繋がっていたとは…」

 

更識家との密接な交流あり…この一文で分かることは更識姉妹と"この世界のユイト"は少なくとも知り合いであったと言うことだ。

 

ユイトはこれで悟った、この事実はこちらに不利に働くと早急に対処しなければならない事だと…。

 

「スイル…オーストラリアのバカ共と連絡を取れるようにしておけ…」

 

「了解!」

 

「ついでに賛同したマフィアを使って更識楯無を見張れと伝えろ」

 

「分かりました!」

 

諜報活動や監視は地元のものがやった方が目立たないし効率も良い。各国のマフィアなど裏の者達を勧誘したのはそのためだ。

 

「ユイト?」

 

「どうやら俺は運が良いらしい」

 

ユイトはこの前の演説で声を聞いた楯無が俺を頼りにこちら側を探すのだとすぐに感づいた。彼女がオーストラリアで調査をすることも既に把握している。なら保身しか頭にないバカ共をこちらから先に口止めさせておけば当面の間は大丈夫だろう。

 

「各員に告げろ!予定を一日繰り上げる!五日後に出港だ!」

 

「「「了解!」」」

 

ーーーー

 

「妙だな…」

 

「確かに妙ですね……」

 

ドイツ軍、フォルガー大隊本拠地《フレーダーマオス》和訳でコウモリを示すこの基地は非公式基地であり広大な森の中に存在する。

そこのフォルガー専用の部屋で彼女とその副官が紅茶を飲みながら眉にしわを寄せていた。

 

「なぜテロが起きない…」

 

フォルガーの言葉は恐らく世界各国が疑問に思っていることだろう。IS及び世界に対する宣戦布告から三日が経つ現在においてIS撲滅を掲げたテロリスト共が同調しテロ活動を行うと思われていた。

だからこそ各国政府は非常事態宣言を出したというのに街は平和その者である。

 

「我が部隊が2、3施設ほどテロリストのアジトに突入したのですが施設はもぬけの殻、痕跡から見て三日ほど前に移動したようです」

 

「特定していたテロリスト共の一斉失踪…解せねぇ」

 

あまりにも行動が統制されている。"何者かに命令されたように"…そう思った瞬間、フォルガーはとある可能性を見つけると驚きのあまり立ち上がる。

 

「大隊長?」

 

「そう言えば敵の幹部らしき奴らがいた基地は東南アジアだったな…」

 

「はい…それが?」

 

「基地の監視は最低限に絞れ、その基地に繋がる道を全て監視させろ」

 

「ハッ!」

 

一つの可能性、それはあの宣言が我々だけに向けて放ったものではないという可能性だ。ISの事を良く思っていない連中に対して我々は本気だと、従えと言っていたのだとしたら?

 

「技術力で負けている我々は数で押すしかない…」

 

それは敵の機体を手に入れ我々の技術としても変わらない技術の差は決して埋められないからだ。だからこその数だ…だがISの事を良く思っていない連中全員が革命軍につけば全てが終わる。

 

「なんとしてでも合流させるな…我々の勝利のために……」

 

「問題ありませんよ…僕がいる限りは少なくとも好きにさせませんから」

 

「何者だ!」

 

突然部屋に侵入してきた銀髪の少年はフォルガーに向けて笑いかけながら歩を進めてきた…拳銃を向ける副官を気にすることなく…。

 

「ほう…面白いことを言う」

 

「とまれぇ!」

 

副官の拳銃が火を噴くのと同時に少年は姿を変え鋼鉄の鎧を纏った。

 

「ッ!」

 

「ほう…」

 

「このクロイ・フォン・ドュートリッヒとウーンドウォートのいる限りね…」

 

そこに姿を現したのはTR-6《ウーンドウォートEX》…それを見たフォルガーは動じずにただ愉快そうに笑うのだった。

 

ーーーー

 

「フォルガー大隊、諜報班に告げる…基地監視を最低限に絞り基地に繋がる全ての道を監視せよ!繰り返す!」

 

密林の中で泥にまみれ監視をしていた女性達は命令を聞くとすぐに移動を始めた。最低限度まで人員を減らし監視網の網を広げる。

 

ドイツ軍の精鋭中の精鋭であるフォルガー大隊の諜報班は草木が生い茂っている密林でも音を一切立てずに移動するのは容易いことだ。

 

「ッ!」

 

その中の一人が移動している最中、無人機であるジンが警戒しているラインとばったり重なってしまった。

急いで身を隠し息を潜める…一歩、一歩とゆっくり移動するジンが去るのを静かに待つ。見つかれば瞬時に肉塊に変わってしまう…。

 

「…ふぅ……」

 

ジンは気づかなかったのかそのままその場を去って行た。ホッと一息ついた隊員は周囲を確認すると再び動き出す。

 

「こちらB2、第3監視ルートに所属不明車両を確認…随伴に四足歩行機が3機ついている」

 

小型のジープとトラックが数台、それを先導する様にダークグリーンに塗装されたバクゥが二連装レールガンを装備しキャタピラを動かしながら移動していた。

しんがりを務める様に2機の13連ミサイルポッドを背負ったバクゥが辺りを警戒している。

 

「間違いない…あれは手配犯のクラウス・モルドウィッチだ……」

 

「テロリストか…大佐に連絡だ!」

 

先頭のジープの助手席に乗っていた人物を確認した諜報班は密かに確実に情報を収集していた。全てが囮でなければ素晴らしい働きだが諜報班は知らない彼女たちは逆に監視されているのだと。

 

ーーーー

 

「順調だな…」

 

ハルトはラサ基地の司令室で満足そうに呟いた。そう、全ては囮…それに気づかない奴らはおめでたい奴らだ。

 

「モルドウィッチが帰ってきたら同志を集めろ…」

 

「ハッ!」

 

ハルトはそう指示を出すと静かに司令室を立ち去るとラサ基地の巨大格納庫に向かうのだった。

 

ーー

 

ラサ基地の巨大格納庫には多くの人々が集まり話し合っていた。各国政府から重要人物に指定されている人物ばかりでテロリストの見本市と呼ぶに相応しい場所となっていた。

 

「モルドウィッチ…陽動を感謝する……」

 

「なに、護衛付きで少し散歩しただけだ……」

 

ハルトとモルドウィッチは握手を交わすとマイクで集まってきた全員に向けて話す。

 

「革命軍に賛同してくれたこと、参謀長である五十鈴ハルトが総帥の代わりに述べさせて貰う……さて同志諸君に我々革命軍からささやかなプレゼントを贈らせて貰おう」

 

ハルトが指を鳴らすと格納庫の奥が電灯に照らされ置かれていたMSが姿を現す。ジンにシグー、ティエレンにドラッツェ、ザメルなどの機体達を見たテロリスト達は歓喜の声を上げる。

 

「我々に賛同してくれた同志諸君、改めて…革命軍にようこそ……我々は来るものは拒まない、だが裏切り者はそれ相応の覚悟をして貰う」

 

ハルトの威圧にその場に居たもの全てが息を飲んだ。ハルトとてくぐってきた修羅場は数知れず18と言う年でありながらもこれほどのものを持っているのは彼らだけだろう。

 

「さぁ…早速仕事だ……」

 

不敵な笑みを浮かべるハルトの顔は心底楽しそうだった。

 

 

 


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