IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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第二十革 シャルロット

 

「くうっ!」

 

「たぁ!!」

 

IS学園のアリーナ、戦場にならず比較的無事だったアリーナでシャルルとラウラが戦闘を行っていた。

ラウラのシュバルツェア・レーゲンのプラズマ手刀とシャルルのラファール・リヴァイブ・カスタムⅡのシールドピアスが交差し2人に直撃する。

 

「くあっ…」

 

吹き飛んだのはラウラ、彼女は少しの間…空中を飛んだ後に地面に仰向けに倒れこんだ。

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫だ…すまないな急に訓練を持ちかけて……」

 

「いいよ、別に暇だったし……」

 

シャルルは手をさしのべるとそれを持ち立ち上がるラウラ。2人はISを解除すると体をほぐすように体を動かす。

 

「シャルル」

 

「どうしたの?」

 

「何時になったら男装を止めるのだ?」

 

「ブボォ!」

 

ラウラの爆弾発言に飲んでいたスポーツドリンクを思わず吐き出してしまったシャルルは口を拭いながら聞き返す。

 

「どうしてそれを!?」

 

「隠す機ゼロだっただろ?」

 

「うっ……」

 

見抜かれていた事に対し降参を示すように両手を振る。

 

「理由は聞いていいのか?」

 

「それならもう少しゆっくり出来る場所がいいかな」

 

「分かった」

 

誰も居ないとはいえアリーナは少し大っぴら過ぎる。他の場所は無いかと思案を巡らすラウラたちはとりあえず着替えることにしたのだった。

 

ーーーー

 

二日前の襲撃によりIS学園は甚大な被害を受けた…と言うのが世間に知られている内容だが実際違う。

楯無とケイの直属親衛隊との交戦場である中央広場とブレインが暴走したアリーナ予備管理室以外はほとんど無傷である。その2カ所の修理のために1週間の休講とされたのだが実際問題、休講する必要は無かった。

 

代表候補生も昨日中に本国への報告を終えてしまい暇だった。

ほとんどの学生が自宅に戻ってしまった今の学園は閑散としていたため落ち着ける場所はすぐに見つかった。学園から寮へと向かう道から少しはずれた林の中にあるベンチ…。

 

「どういう事情か本当は来たるべき時まで待つのが本来望ましいとクラリッサに聞いたのだが状況が状況だ…革命軍の関係者ならここでお前を拘束せねばならない」

 

「大丈夫だよ、革命軍とは関係ないから…」

 

シャルルの言葉と行動におかしな点が見られないのを見てラウラは懐に飲んでいたナイフからソッと手を離す。

 

「僕の父親はデュノア社の社長なんだ…でも営業不振でね…業績が伸びなかったんだよ」

 

「デュノア社のラファールのシェア率はトップクラスの筈だが?」

 

ラファール・リヴァイブは誰にも扱いやすいという点から世界から公表を受け最も売れている大企業として有名なはずだそれが営業不振と言うのは余りにもおかしい。

 

「そうなんだ、ラファールの売り上げと国の補助金のおかげで会社は黒字である筈なんだよ…でも売上金のほとんどはアイツが女性主義団体に横流ししていたんだ」

 

「アイツ?」

 

「ミレイア・デュノア…僕の義理の母親だよ…アイツが僕を男としてIS学園に入学させて一夏の白式のデータを盗むように命令した…」

 

憎々しげに語るシャルルの顔はいつもの明るい顔とは打って変わり暗く苛立ちを含んだ表現だった。

 

「シャルル…」

 

「シャルロット…それが僕の名前……」

 

「シャルロット…それが本当の…」

 

「そう、シャルロット・アントネッティ…これが数年前の僕の名前だよ!」

 

感情が高ぶってきたのかシャルロットは立ち上がりラウラに訴えかけるように叫んだ時、たまたま近くを歩いていた千冬が2人に気づいた。そんなシャルロットにビックリするラウラを見て彼女はばつの悪そうな顔をした。

 

「でも父さんには感謝してる…お母さんが生きてる時も良く顔を出してくれてたし僕にも良くしてくれた」

 

「ではなぜヤツはそんな命令を?」

 

シャルロットの心情を鑑みてミレイアの事をあえてそう呼ぶラウラ…。彼女も彼女なりにコミュニケーションは理解しているつもりだ、織斑姉弟に会わなければここまで人の話を聞けなかっただろう。

 

「デュノア社の第3世代開発が進まなかったからだよ…多くの海外企業から技術提供してもらってるんだけど上手くいかなくて…やっぱり無理なんだよ"二機目"なんて」

 

「二機目だと?」

 

シャルロットの言葉をラウラは見逃さなかった。彼女は確かに二機目だと言った。それは第3世代のISを二機製造すると言うことなのだろうか。

 

「そうだよ!元々ラファールは第3世代ISの開発中に生まれた副産物なんだ!」

 

頭を抱えて大きく俯きしゃがむシャルロットをラウラはどうすれば良いか分からずにウロウロする。

ラウラがウロウロしているのを見かねてたまたま場に居合わせてしまった千冬が姿を現した。

 

「教官…」

 

「盗み聞きするつもりはなかったのだがな…」

 

ヤレヤレと言った風に呟く千冬はその言葉とは裏腹に優しくシャルロットの頭を撫でるのだった。

 

「すまない…性別を隠していることが分かっていながら事情が分からずに放置していた私の責任だ…辛かっただろう」

 

「うっ……」

 

背負っていたものが一気に降りたのに安堵したのかシャルロットは目の前にいた千冬に抱きついて鳴き始めてしまった。

 

(私は教師失格だな……)

 

ここまでになるまでシャルロットを放置し続けた自身に対し千冬は悔しさのあまり唇を思いっきり噛んでしまうのだった。

 

ーーーー

 

「私たちもどうしたらいいのよ?」

 

「私に聞かれましても」

 

「盗み聞きも悪いしな」

 

「うむ、そうだな…」

 

「なんかごめんね」

 

そんな様子を見ていた一夏含む専用機メンバー…眠っていたフィーリアが目を覚ましたので彼女の歩くリハビリも兼ねて学園いるラウラたちに会いに行こうとしたらこの様な事になってしまい動けずにいた。

 

ーーーー

 

「す、すいません!せっかくのスーツを」

 

「構わん、気にするな」

 

ある程度落ち着いたシャルロットは我に返ると汚れてしまった千冬のスーツを見て慌てて謝るがそんな事、気にとめない。

 

「キサマ、教官に撫でられるなど羨ましぃ」

 

「え、えぇ……」

 

「やめんかバカ者」

 

やけにまじめな顔でシャルロットに言い募るラウラは千冬の鉄拳の餌食になった。

 

「まったく…いつまでも手のかかる奴だ……」

 

「あの…これから僕はどうすれば……」

 

「このまま学園にいればいいだろう」

 

一撃で沈んだラウラを横目にシャルロットは不安を持ちながら質問したのに対し千冬はまるで当然の様に答える。

 

「でも僕は皆を騙して…」

 

「まだ青二才にもなっていない奴が気にするな…それにアイツらは今まで通り接してくれるさ……なぁ?出歯亀ども?」

 

ギクッ!!

 

千冬が愉快そうに近くの茂みに言葉を投げかけるとその茂みか大きく揺れた。

 

「やっぱり千冬さんには敵わないなぁ」

 

「私たちがいることも想定のうちですか…」

 

「ぐうの音も出んな…」

 

「アハハ…ばれてたか」

 

「みんな!」

 

茂みから観念するように出てきた鈴、セシリア、箒、フィーリアに一夏を見てシャルロットは驚く。

 

「でも千冬姉も盗み聞き…」

 

ゴンッ!

 

「日本のことわざで、口は災いのもとってね」

 

千冬の鉄拳で沈んだ一夏を木の枝でツンツンしながら話すフィーリアは横で沈んでいたラウラのほっぺもツンツンしていた。

 

「うっ…ッ!フィーリア!お前目が覚めていたのか!!」

 

「まぁね!迷惑掛けたね」

 

「それは私のセリフだ……すまなかった」

 

友情の証として抱き合う2人、端から見れば再会を喜ぶ姉妹のようだった。

 

「起きろ、一夏」

 

「うっ…いってぇ……」

 

頭をさすりながら立ち上がる一夏を見て全員余計なことは言わないでおこうと心に留めるのだった。

 

「みんな…僕……」

 

「聞いたからいいわよ、全く…両親の離婚で不幸ぶってた私が恥ずかしくなってきたわ」

 

シャルロットの言葉を遮ったのは鈴だった。鈴自身はあまり機嫌が良くなかったがそれは自分に対してなので彼女はシャルロットの事は良いようだ。

 

「人間いつかはやらざる得ない時がございます、それが今だっただけですわ」

 

「そうだな…それにシャル…ではなくシャルロットにはよくして貰ったしな、なんの不満もない」

 

セシリアと箒のその言葉に大きく頷くラウラを含む全員が頷く。

 

「みんなぁ…」

 

「シャルルにシャルロットかぁ、なんか急に変わって呼びにくいからシャルで良い?」

 

「お、それいいんじゃね!」

 

みんなの言葉に感動するシャルロットの肩に腕を引っ掛けてあだ名の提案をする。一夏も名案とばかりに同意する。

 

「シャルロットがいいなら良いんじゃない?」

 

「そうですわね」

 

「その方が私は助かる」

 

「うん!ありがとうみんな!」

 

「泣かないの!そこは笑うとこ」

 

嬉しさのあまり涙がぶり返してきたシャルロットを見て明るく話しかけるフィーリア、底抜けに明るく笑う彼女につられて皆が声を上げて笑うのだった。

 

ーーーー

 

フランス、デュノア社の社長室にはとある人物が訪れていた。

 

「わざわざご足労頂きありがとうございます」

 

「いえいえ、こちらで商談がありましたのでそのついでですよ」

 

デュノア社、社長エルワン・デュノアと対峙しているのはオーストラリアの新進企業アナハイム・エレクトロニクスの社長である。

彼はアタッシュケースから資料を取り出しエルワンに渡す。

 

「第3世代の開発が難航しているとお聞きしまして」

 

「これは!?」

 

その資料に記載されていたのは三機の設計図…。本来の姿であるMSではなくISにリメイクされたものがその資料に記載されている。

 

「この様なものを頂いてよろしいのですか?」

 

「えぇ…その代わり、相応のお値段と我々への協力を確約して頂くことになります」

 

「えぇ…この様な技術を保有するあなた方との契約は願ったり叶ったリです!」

 

エルワンはアナハイムの社長、エドワルド・クランクと固く握手を交わす。だがエルワンは知らなかった…商談の相手であるエドワルドは裏世界で有名な武器商人だと言うことを…そして彼の組織は革命に資金や銃火器、物資などを用立てていることを…。

 

「よろしく頼みます!これで我々は安泰です」

 

「えぇ…こちらこそ……」

 

固く握手をする2人の傍らに置かれた資料には三機の機体名と識別番号が記載されていた。

 

《RX-79BD-1 ブルーデスティニー1号機》

 

《RX-79BD-2 ブルーデスティニー2号機》

 

《RX-79BD-3 ブルーデスティニー3号機》

 

無知は何よりの罪である…だがそれを知り得ない者達はどうすべきか、何も出来ない……ただ深い後悔が残るだけである。

 

 

 

 




補足説明

デュノア社の初の第3世代機《イリュジオン・ゼフィール》
和訳するとそよ風の幻影と呼ばれる機体でイギリスより先にシールドビットを採用した機体である。
デュノア社のシールドは強度が高く信頼性が高い、それをビット化することで防御力の向上とともに戦略の幅の拡大を狙ったものである。
ユニコーンのシールドビットのように裏に武装はつけれない。

EXAMシステム

IS基準なら第3世代兵器

イメージ・インターフェイスを通じて操縦者の戦闘能力を極限まで高めるシステムだがその代わりに戦闘に必要のない理性を全て棄てさせる危険な代物で勝つためなら自身の命すら差し出させる。

ーーーー

と言うわけです。シャルロットの話をいつやろうと思ったら今しかないと思いやりました。原作とだいぶ違うバラし方ですが良い方に進めばいいですね。

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