神奈川県と静岡県の県境近くの港にいたユイト達、IS学園襲撃犯は了解の警戒が緩むのを待たねば本部への帰還が厳しいと判断し1週間の間、この日本で身を潜めることになった。
「本部に戻り次第ささやかな宴をと思っていたのだが予想外の襲撃により我々は1週間の足止めを食ってしまった」
サダラーンのブリッジにてマイクを握るユイトはこれからの予定を話す。
「船の修理と補給も完了させた我々は正直に言えば暇である…それでだ…今日を含む5日間諸君らに休日を与えよう」
「おぉ!!」
ユイトの提案に革命軍のメンバーは喜びの声を上げ今か今かと聞き耳を立てる。
「全員良くやった!この5日間遊びまくれ!」
「「「「おおぉ!!」」」」
上着やら帽子を高々と放り上げ喜ぶ兵士たち、中にはパンツ一丁で海に飛び込む奴らもいた。
「いきなり休みって言われてもなぁ…やることな…」
喜びまくる兵士たちを横目に困っていたケイはちょいちょいと自分の上着の袖を引っ張るカリナの姿に気づく。
「どうした、カリナ?」
「……」(一緒にどこか行きたい……)
無言で分からないがキラキラしている目からしてどこかに行きたそうなのはよく分かった。あまり自分に対して言ってこないカリナの無言のおねだりにケイは心打たれた。
「行こう!行こうか!どこが良い?連れてってあげるから!!」
「/////////」
抱きしめられた上に盛大に甘やかされ一気に脳のキャパシティをオーバーしたカリナは顔を真っ赤にしながら頭から煙を出すのだった。
ーーーー
「どうする姉さん?」
「どうする兄さん?」
城崎双子は足を海につけながら放送を聞くとシュリが立ち上がり言い放つ。
「くれーぷって言う物が食べたい!」
「他の親衛隊メンバーも呼ぼうか…姉さん」
「そうね、兄さん…クライネルさんも呼ぼう!」
親衛隊メンバーはとりあえずクレープを食いに行く事を決めた。親衛隊自体が強化人間の集まりなので世間にとっても疎い…その知識の無さを自覚していたシュリは昨日仲良くなったクライネルを呼ぶことにしたのだっだ。
ーーーー
「カゲト♪」
「なんすか?俺はやることあるんでダメっすよ……」
「えぇ……」
ケイニは期待のまなざしでカゲトを見つめるが完全に取り付く島がない彼に彼女は悲しげに見つめる。
「……」
「……」
「………」
「………っ…あぁ!!」
悲しみの眼差しに対してカゲトは自身の罪悪感に耐えきれず叫ぶ。
「千葉の舞浜まで旅行っす!」
「いやった!!カゲト大好き♪」
「デ〇ズニー行くっすよ!」
「いぇーい!ディズ〇ー!!」
やけっぱち気味のカゲトに対してケイニはぴょんぴょん体を跳ねさせながら喜ぶのだった。
そんな様子を遠巻きに見ていたユイトは隣で静かに座っていたクリアを見る。クリアはチラッチラッとこちらを見てきており何かを期待しているようだ。ユイト本人は気づいているのだがその仕草が可愛くてつい意地悪をしてしまっていた。
「車はもう借りてあるから…行くか…」
「え…あ……うん」
ユイトの誘いにクリアは少々どもりながらも勢いよく立ち上がり返事をするのだった。
ーーーー
「で…なんでここに戻ってきたんだ?」
車を飛ばすこと数時間、ユイトとクリアはIS学園近くの大型ショッピングモール《レゾナンス》に来ていた。調べてみればここは日本の中でも五指に入るほど巨大な施設らしくなんでも揃っているらしい。
「様子見もかねてな…」
少々いぶかしげにこちらを見るクリアの視線から逃げようと目を横にそらしながら答えるユイト。
首や肩周りが痛くてかなわない…久しぶりに運転したからなのは分かっているがどうにかしたいものだ。
前の世界では16歳で頭をぶち抜かれたので運転などしていなかったがこっちに来てからすぐアジアの方でゲリラ活動をしていた時に運転した。アクセルに足が届かなくてしんちゃんの映画の如くやったわけだがもう二度とやりたくない。
「ここはなんでも揃っているらしいからな、クリアには良い体験になる」
「確かに…でも人が多いな……」
「こういう所は初めてだったな…ほら、行くぞ」
「/////」
週末と言うこともあり人がやけに多い、二日前に近くでドンパチやっていたのに平和なものだ。慣れない人混みにソワソワしているクリアの手をつかみ適当に歩を進めていく。
するとクリアは顔を赤くして黙り込んでしまう。そんな反応をされるとユイト自身も恥ずかしくなってくるがそこで停まってしまえば状況は動かないと思いとりあえず進む。
「全く…俺らしくない……」
そんな事を呟きながらユイトは歩を進めるのだった。
ーー
それから2人はレゾナンス内を歩き回った。元々研究所と革命軍の本部と基地内しか自由に動かなかった彼女にとって好奇心をかなりくすぐられたようで終始笑みが絶えなかった。
「かなり歩き回ったな…」
「ショッピングモールはこんなに楽しいものだとは思わなかった!」
@クルーズという店で一息ついたユイトは喜々と話すクリアの話を聞きながら昔のことを思い出していた。
母と父、妹で行った買い物は本当に楽しかった…1回の買い物で1個だけお菓子を買えると言う家族ルールがあり妹は何にしようか両親が買い物のを終えるまでずっと悩んでいた。それをお菓子売り場の端っこで俺が見ていたっけ…。
「ユイト?」
「ん?」
少々ボーッとしていたユイトの顔をのぞき込むようにクリアは立ち上がると彼はビックリして顔を退かせた。
「すまない…私ばかり……ユイトはつまらなかったか?」
「いや…少しだけ感傷に浸っていただけだ……」
「そうか…」
感傷に浸るユイトが珍しいのかまじまじと見つめるクリア…。彼女にとって彼は光だ…自分を救ってくれた光、あの暗闇から炎の中から救ってくれたあの時のことは一生忘れない。
コーヒーを飲み終えたユイトはクリアの飲み物もなくなっのを確認すると立ち上がる。
「次はちょっと歩くぞ」
「次はどこだ?」
今まで見たことのないクリアのはしゃぎっぷりに笑みをこぼしつつユイトは会計を済ませるのだった。
ーー
「公園?」
「
「日本の城…」
データベースで見たことはあるが実際見るのは初めてだ。跡とは言え興味深いのは変わりない。
残っていたのは石垣のほんの一部、だが形が揃わない岩を組み合わせ頑丈に作る技術は感心するものがある、むかしの人々はここまでの知恵と技術を持っていたのかとクリアは感心するのだった。
「楽しかった…実に有意義な時間だった……」
満足そうに呟くクリアは夕暮れに染まる公園を歩きながら大きく背伸びをした。これほどゆっくりしたのは久しぶりだ。
「最後にクレープでも食べるか?」
「くれーぷ?」
「カフェの店員が言っているのを聞いてな…あそこでミックスベリーのクレープを食べると幸せになれるらしい」
「幸せに?」
「あぁ…」
クリアは興味を持ったのか足を速めクレープ屋に向かうと店員に注文する。
「すいません、くれーぷのミックスベリーを二つください」
「ごめんね、ミックスベリーもう売り切れちゃったんだよ」
すると二十代前半で無精ひげを生やした男性が申し訳なさそうに答える。
「残念だな、ユイト…」
「ん?無かったのか?」
「彼氏さん?ごめんね」
無かったことに少しばかり落ち込むクリアに対しユイトは軽くメニューと店内を見渡す。
「ならイチゴとブルーベリーをくれ…」
「まいど!」
その言葉に店主が含みのある笑いを少しばかり見せると店内に入っていく、それをみたユイトは軽く安心するとクリアの頭を撫でた。
「そこまで落ち込むことはないだろう、食べさせてやるから」
「ん?」
ユイトの含みのある言葉にクリアは気になるが出来たてのクレープが来てしまったので考えを止めた。
「どっちがいい?」
「その紫の方で…」
「ブルーベリーだな」
ユイトはブルーベリーを渡すと近くにあったベンチに腰を下ろすとイチゴのクレープを頬張る。それを見たクリアもベンチに腰を下ろしブルーベリーのクレープを頬張った。
「ッ!おいしい……」
甘くてフワフワしているクレープに感動を覚え先ほどの落ち込んでいた気持ちはどこへやら子動物のごとく食べ進める。
「クリア…慌てるな……」
「ん?」
そう言ってユイトはクリアの唇の端についたクリームを指ですくうと舐めとる。
「ッ/////な、なにを!?」
「慌てて食うから…口の周りがクリームだらけだ」
「じ、自分で拭ける///」
彼女自身、思っていたよりユイトとの距離が近くいるのに気づいて心臓が早鐘を打つ。
「怒るなよ、俺のもやるから…」
「あぁ////」
照れ隠しの意味合いも含めてユイトのイチゴのクレープも頬張る…するとイチゴとブルーベリーが口の中で合わさりまた違う美味しさを産み出していた。
「これは?」
先ほどの早鐘を忘れ先ほど口内で起きた出来事にただただ驚くクリアはユイトを見ると彼はしてやったりと言った表情を浮かべ微笑みかけていた。
「ミックスベリーの完成だ…」
「まさか、これも計算のうちだったのか?」
「ミックスベリーが売り切れの辺りからだがな」
「何というか…敵わないなぁ……」
ユイトの察しの良さに改めて舌を巻いたクリアは自然と笑いが溢れてきた。夕暮れを背景に微笑みかけてくるクリアの姿はおそらくどの景色よりも美しかったであろう。
「ッ////」
ユイトは思わず顔を紅くしてしまい空いている手で顔を押さえる。
「ユイト?」
「夕暮れのせいだ…」
「フフッ……」
なぜがユイトに一矢報えた気がしたクリアは口を押さえて静かに笑うのだった。
@クルーズは原作でシャルとラウラが銀行強盗の対して銃をぶっ放したカフェです。クレープの話もそこのお話から取ってきました。
見直してみるとクリアとユイトの絡みがあんまり無かったのでここぞとばかりにやりました。満足です。