IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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第十八革 第三段階

 

 

革命軍副旗艦ことサダラーンは所属不明機こと束の刺客ゴーレムⅢとの戦いの後、日本に戻り寄港していた。

 

「助かります…」

 

「ここはうちが直々に管理しとるもんや…自由に使いな…」

 

日本の領海ギリギリのラインで派手にやらかしたユイト達は見つからないために本部に行かずあえて日本に戻ってきた。

その際に頼ったのは演説の際に支援を確約してくれた組の方々だった。彼らの保有する港の中で比較的隠密なものを用意してくれたお陰でこうして見つからずにいたのだ。

 

「もうちょっと左だ!」

 

組の頭とユイトは話を進める一方、他の奴らはサラダーンの隠密作業を進めていた。光学的に消えられるステルスシートを甲板やブリッジに敷き見えないようにしている。

人工衛星の映像はこちらがハッキングして抑えているもののヘリやISなどの人の目で見つけられたら元も子もないからだ。

 

「いやぁ…しかし肝を舐めおったな、その野心と自信に溢れた目は変わらんが…火傷が増えたか……」

 

「お見苦しいものを見せてしまいすいません」

 

「構わん!むしろ傷は勲章や…頑張り……」

 

「はい!」

 

礼を述べながら立ち去るユイトの背中を見て頭は上機嫌で顎髭を触る。

 

「たった二年、されど二年かい……」

 

顎髭をに触れながら呟いた言葉は誰にも聞かれずにかき消えるのだった。

 

ーーーー

 

「ケイ…」

 

「ユイト…話はついた?」

 

「あぁ…可能な限り融通してくれるとも言ってくれた」

 

海自のパトロール航路をハッキングして調べていたケイはユイトにコーヒーを渡しながら和やかに話す。

二人の顔に笑顔が点り良い雰囲気だったが急にユイトの表情が固まった。それを不思議に思ったケイは視線の先を見ると納得する。

 

「あの人かぁ……」

 

「ちょっと行ってくる…」

 

「うん」

 

ユイトはコーヒーを置いて視線の先いた美しい女性の元へ向かうのだった。

 

ーー

 

「久しいな女神……」

 

「一段落ついたから見に来てあげたわよ…」

 

「どうだか……」

 

上機嫌な女神に対してユイトは不機嫌な雰囲気を隠さず答える。彼の態度は大体予想がついていたのか彼女は気にする様子は無かった。

 

「聞きたいことは分かるわ…転生者の事ね」

 

「あぁ…お陰でこちらの戦力が削ぎ落とされた…予定外のな!イルフリーデ・シュルツにガンダムエアマスター…予想外も良い所だ!」

 

珍しく声を荒げるユイトを面白そうに見る女神は話を始める。

 

「私は貴方たち5人をこの世界に召集した…でもねそれだけじゃダメなのよ…」

 

「ダメ?」

 

「世界は微妙なバランスで構築されているの…それは私が意図的に操作できる物ではないの…」

 

大体の事はなんとなく分かってきたユイトだがまだ不機嫌な表情をやめない…まだ話は終わってないからだ。

 

「貴方たち5人を送ったときに世界はそのバランスを保つために抑止力を送った……」

 

「つまり転生者は後3人、5対5と言う訳か…」

 

「そう…そして願いを一つだけ叶えてあげた…イルフリーデは容姿を、彼にはエアマスターを……」

 

「"彼"か…」

 

有力な情報を手に入れられたユイトは静かに笑うと踵を返す。

 

「あら?もういいの?」

 

「あぁ…向こうがMSを持ち出してくれるなら好都合だ…計画になんの影響もない…」

 

話すことはない…そう態度に表したユイトは女神に背を向け歩き始める。

 

「そう……楽しみね………」

 

そんな女神の呟きと共に穏やかな海風がユイトの髪を軽く揺らした。それと同時に女神の姿は消え失せていたがユイトは振り返らずに歩き続けるのだった。

 

ーーーー

 

東南アジア、ラサ基地…革命軍の倉庫として使用されている基地で鉱山を利用したのが特徴である。そしてこの山はビルゴのガンダニュウムに匹敵する硬度を誇る鉱物が産出する貴重な山である。

 

そのため基地内には守護用のビルゴや無人型バクゥ、シグーにジンなど多種多様な無人機が配備されている。

 

そこに訪れたのは参謀長のハルトだった。基地内には旗艦レウルーラから乗ってきたホバー移動のブラッドハウンド(戦闘支援浮上車両)が数台停まっていた。

 

「手筈は整ったか?」

 

「ハッ!各砲座もオートメーション化いたしました…これで無人でも迎撃行動が可能です!」

 

「ネズミは?」

 

「引っ掛かりました…こちらを伺っているはずです…」

 

「そうか……」

 

その言葉を聞いてハルトはニヤリと笑みを浮かべる。頭脳が強化されているとはいえこれまでの世界が自信の手のひらで踊っていると笑いたくなる。

 

「計画の第三段階に入ると総帥に伝えろ!」

 

「はっ!!」

 

ーーーー

 

ラサ基地の周りに広がる広大な森林の中、木の上を陣取っていた女軍人は通信機を取り出し秘匿回線を繋げる。

 

「こちら猟犬、アリは巣に入った…繰り返すアリは巣に入った」

 

「良くやった曹長…引き続き監視を続行せよ…」

 

「了解…」

 

その報告を聞いたのはドイツ軍、最恐の部隊フォルガー大隊の指揮官であるフェング・フォルガー大佐であった。

 

彼女はIS学園の襲撃に対して結果は聞いたか気にとめていなかった。祖国の脅威となるものは武力を持って取り除く…雑草は根っこから取り除かなければならない。

 

「そこが根城じゃなくとも…尻尾は掴めるんだ…上等じゃねぇか…」

 

高そうなソファーに座っていたフォルガーは立ち上がると周りにいた者達が直立不動のまま敬礼を行う。その中にはシュバルツ・ハーゼ隊の副隊長、クラリッサ・ハルフォーフの姿があった。

 

「場所が特定できたはいいが手持ちの戦力じゃ返り討ちだろうな……」

 

「しかし隊長!我々は最強の大隊です!あんなISの劣化コピーなど」

 

「あぁ!」

 

「ッ!」

 

理想主義者(ロマンチスト)も大概にしろよ、中佐……」

 

突然、降りかかかる声の圧に肩を小さくする中佐に影響されてから言われていない者達まで肩を小さくする。

ユイトとは違う声の圧、これは恐怖によって湧き上がる圧だ。

 

「女性主義団体を除けば、間違いなく世界の最高戦力を保有するIS学園がたった1時間少しであの様だ…」

 

フェング・フォルガー大佐はISが生まれる前から圧倒的な実力とカリスマ性を発揮して男社会の軍隊で生き残ってきた。そんな彼女にとってISなど保有する戦力の一つという程度の認識でしかない。

 

「少佐、1週間後に国連とIS委員会の主催する会議がある…それまでに資料を整えておけ」

 

「ハッ!」

 

「監視の人員を増やせ、戦力の把握に務めろ!これ以上奴らの好きにさせるな!」

 

「「「「ハッ!」」」」

 

ーーーー

 

日本近畿地方、琵琶湖で有名な滋賀県の施設に日本中からかき集められた技術者達が一同に会していた。

 

「これが噂の…」

 

「見たことのないデザインだなぁ…」

 

 

倉持技研を始めハズキ社、富岳重工、トヨタマ研究所等々、一般企業を主体でありつつ自衛隊の技術科を総動員した計画の主導者は橘少将だ。

 

「昨今世間を騒がせている革命軍の機体を我々は確保した…各国政府の要望もあり我々が解析と研究にあたる」

 

副官であるアリエルは声を張り上げ集まった者達に告げると技術者達が騒ぐ。

 

要するに各国の代表を危険に晒した責任とってしっかり解析しろよ、人もお金もそっちが出してね。それとちゃんと報告しろよって事である。

 

「これは政府直々の命令である…1週間後に開催される会議までにある程度纏めなければならない!時間がない…かかれ!」

 

あまりにも無茶苦茶な物言いだが技術者達は文句を言うことなく行動を開始する。政府の物言いよりも技術者達としての興味が優先された結果だろう。

 

「これってコア無しで動いてるんだっけ?」

 

「装甲を1回バラすかぁ」

 

「うへぇ、もう大破してんじゃん」

 

ズゴックとゾック1にカプルが5機と人型と呼ぶに若干違和感を感じる奴らだが貴重なサンプルであるのは間違いない内部構造さえ把握すればこちらでも作れるかもしれない。

その時は全員そう思っていた…だがこれが世界と革命軍の差を知らしめる事になるとは今は誰も知らない。

 

ーーーー

 

「良く集まってくれました…同志よ……」

 

アメリカ、そこには世界において多大なる発言力を持つ団体、女性主義団体の本部があった。

女性主義団体過激派と呼ばれる彼女達は忌まわしき存在である革命軍をどうするか議論を行っていた。

 

「同志ミレイアから受け取った新型もあります」

 

「我々が現在手配できるのは12機です…数的不利には代わりありません…」

 

「所詮奴らは奇襲でしか勝てない劣化コピー…恐るるに足りませんわね」

 

「こちらも精鋭を用意しています…問題ないでしょう」

 

「これで我々の発言力も更に上がるというもの」

 

捕らぬ狸の皮算用とはよく言った物である。彼女達は当然のことながら自信の勝利に何の不安もないようである。ISの登場でこの地位に辿り着いた者達はISの敗北など頭にないのだから。

 

 

 





18話はこれの1話だけで次回は19話です。
次回は休日話的なものにします。


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