「IS学園に所属している機体のうち半数以上が修理のために工場送りにされた上に各国代表候補生達の機体もボロボロ…ここまでとはねぇ…」
自衛隊の橘少将は被害報告を示した書類を眺めながら革命軍の戦力を再認識した。
「まさか世界に対して宣戦布告するとは…予想外でした」
その副官として側に立っていたアリエス・ノースフィールドは美しいハニーゴールドの髪を揺らし毅然とした表情ではあるものの、革命軍の大胆な言動に理解が追いついていないようだった。
「それで…戦闘中に味方してくれた機体の持ち主は分からないの?」
「はい、ですがある程度こちらで絞っておきました…」
アリエスは顔写真と所属、経歴が記載された書類を橘に渡すと説明を始める。
「機体が出現したと同時にIS学園に設置された仮設指揮所に敵が侵入していました…ですがその機体は即座に撃破され指揮所にいた者達はほぼ無傷でした」
「それで?その指揮所に居たのがこのメンバーってこと?」
「はい、恐らくその持ち主はその場に居た者達全てを救うためか自身を救うためか分かりませんが仕方なく機体を使用したのではないかと私は考えました」
相変わらず完璧な答えに橘少将は満足したのか常に笑顔の顔をさらに笑顔にする。
「では、君はこの中で誰がその持ち主だと思う?」
「え…それは全く…」
橘の問いに答えられずシュンと萎れてしまう彼女を見て彼は手の掛かる孫を見るような目で見る。
「これは個人的な見解なんだけどね…この写ってる機体ってなんとなく戦闘機に似てない?」
「戦闘機ですか?確かに翼はありますし背中にはコックピットの様な形状の物がありますが」
「うんうん、なんか戦闘機に変形しそうな形してるよね」
園児になぞなぞを解かせている先生のような優しい声を発する橘はアリエスの答えをゆっくり待っていた。
「元戦闘機乗り!?」
「個人的にはね…その中に居るんだよねぇ…元空自のエースパイロットが…」
アリエスに渡された書類を静かに置く橘は一番前のページに記載されていた人物を見る。
《小原光一》元空自のエースパイロットで現在は情報科に所属…IS出現による空自の大幅縮小の際に自ら転向を志願したという。
「これって偶然かなぁ?」
「早速詳しく調べてみます!」
喜々として走るアリエスの後ろ姿を橘は軽く手を振りながら見送るのだった。
ーーーー
イギリスの外交用に使用される飛行機の機内ではゴルドウィン准将がパソコンを操作して情報を整理していた。
「准将、お疲れ様です…」
「うむ、すまないな…」
イルフリーデは紅茶を座席の近くに配置された机に置くと隣の席に静かに座る。
「何をしておられるのですか?」
「サイレント・ゼフィルスの起動データを纏めていたのだが…非常に興味深くてな…」
目頭を押さえながら眼をほぐすゴルドウィンはパソコンをイルフリーデに渡すと置かれた紅茶の香りを楽しむ。
「これは君のブレンドか…」
「はい、お口に合うと良いのですが…」
ふくよかな甘い香りが鼻腔をくすぐり疲れていた頭を、ゆっくりとほぐしてくれる。飛行機の突然の揺れに注意しながら口に含むとコクのある豊かな味わいが口の中に広がる。
「実に良いものだ…この再現には苦労しそうだな」
「フフッ…楽しみにしております…」
父と娘の和やかな休日さながらの空気が場を満たす。そんな中、イルフリーデは渡されたパソコンを少しばかり操作するとその顔に驚きの表情に染まった。
「これは…」
「驚きだろう…いくらオルコットの戦闘データを参考に開発されたとはいえこの数値は異常だ…それも仮登録でだ…」
そこに映っていたデータはサイレント・ゼフィルスとそのパイロット、セシリア・オルコットのデータだ。
元々のセシリアのIS適性は《A》でBT適性も《A》と高い数値を誇っているがサイレント・ゼフィルス登場時の適正値はその上を行く数値だった。
IS適性は《S》、BT適性も《S》と馬鹿げた数値になっているのだから驚かない訳がない。
「IS適性値Sって…私と同じではありませんか!」
IS適性値《S》など最強のヴァルキリーことイルフリーデやブリュンヒルデこと織斑千冬と同じ数値だ。ISのコアとパイロットのシンクロ率を最低限に抑えた状態でこれだ…機体と彼女の相性は最高に良いのだろう。
「我々は最高のジョーカーを図らずも手に入れられたのかもしれんな…」
ゴルドウィンはイルフリーデの紅茶を飲みながらそう独りごちたのだった。
ーーーー
「面白くない!面白くない面白くない面白くない!」
世界の誰も知らないラボの中で天災はだだをこねる子供のように苛立ちをぶつけていた。
「ふざけるなよ!いきなり出てきて邪魔するなんて良い度胸してるよね!」
本来なら今頃、一夏はヒーローになっているはずだった。クラス代表戦で無人機を向かわせたのも一夏が苦戦の末に謎の敵を撃破という肩書きを与え彼の株を上げるという目的があった。
「ぶっ潰してやるからな!」
だが蓋を開ければなんだ…訳の分からないポンコツが乱入しただけではとどまらず一夏を瞬殺するなんて…クズのくせにこちらの予定を滅茶苦茶にした。
完膚なきまでに叩き潰して生きていることを後悔させてやる。
「どこまで耐えれる♪」
先程とは打って変わって残酷な笑みを浮かべた束はモニターに映る点を見つめるのだった。
ーーーー
「対空砲火を絶やすなぁ!MS隊を援護するんだ!」
「ランチャー
革命軍の合流ポイント、日本の領海ギリギリのラインに停泊していた革命軍副旗艦サダラーンは突然来襲した所属不明機に対し迎撃に移っていた。
甲板の下からからせり上げられた対空ミサイルランチャーや75mm対空自動バルカン砲塔システムはブリッジにのコントロールで不明機に対して弾幕を張る。
「戦闘ブリッジを開け!本隊との連絡は?」
「早急に向かうとのことです!」
「よし!」
艦の護衛についていたのは一個小隊、4機のMSだが不明機は5機いる。護衛機が若干劣勢に立たされていた。
「うおぉ!?」
不明機から放たれたビームはハイザックに向かう。ハイザックはなんとか肩のシールドでビームを受けるが度重なるダメージに耐えられずシールドが吹き飛んでしまった。
「02!くそが!」
被弾するハイザックのお返しとばかりにギャプランは両腕のムーバブル・シールド・バインダー内蔵ビームライフを撃ち放つと不明機の物理シールドを破壊する。
ギャプラン1機にハイザック2機、ハイザックカスタム1機と必要最低限の戦力ではジリ貧なのは明らかだった。
「隊長!敵機に抜けられました!」
「なにぃ!」
03と肩のシールドにマーキングされたハイザックが不明機とビームサーベルでつばぜり合いをしながら報告する。
抜けられたのはハイザックカスタムのようだが奴ももう一機と交戦しており手が離せない状況だ。
「隊長!後ろっ!」
「ッ!」
鋼の乙女といった容姿をした不明機はブレードを振るうがギャプランは腕のムーバブル・シールドで受け止めるとビームサーベルを抜刀、コアがあるであろう腹部に深く突き刺した。
「元軍人を舐めるんじゃねぇ!」
動きが鈍くなった不明機に対しギャプランは至近距離でビームライフルを撃ち放ち蜂の巣にすると変形し爆発する不明機を後ろ目に母艦に向かった不明機を追う。
「良くやったクライネル…下がれ」
「ッ!総帥!?」
突如聞こえた声にギャプランのパイロット、クライネルは動きを止める。その瞬間大気を焼き尽くさんばかりのビームが不明機を包み消滅させた。
「ツインバスターライフル…」
「出力を少し上げたらこれか…」
「そのツインバスターライフルは自信作っすからねぇ…オリジナルと同じ威力をだせるっす…」
ユイトの呟きに本隊の後方にいたカゲトか答える。
オリジナルのツインバスターライフルは何百万人という人が住むことを許されるコロニーを一撃で沈められる威力を誇る代物でガンダムシリーズ三大火力の一つに数えられる。
それを聞いてユイトは改めて手持ちのツインバスターを見つめる。何十というリミッターを掛けているはずなのにこの威力…。
「面白い…」
「え?」
「全員下がれ…こんな物に時間を使う必要はない」
ユイトは不明機を相手取っていたハイザック達を下がらせると同時にツインバスターを分割させそれぞれの機体に向けて撃ち放ち跡形もなく消し飛ばした。
圧倒的すぎる性能に革命軍の全員が息を飲んだ…そして歓喜する彼について行けば叶うと、彼ならば迷いなく命を差し出せると…その歓喜の中ユイトは黙って立ち続けたのだった。
所属不明機の正体はゴーレムⅢです。
原作では圧倒的な力を発揮しつつ一夏たちに撃破されましたが今回は噛ませ犬にもなってません。
まぁ、どんな機体であれツインバスターのビームをまともに受けては耐えられませんしね(たぶん)。
天災をどうやって扱うのかはちょっと考えてます。(碌な目に遭わないのは間違いありません)
追加で捕捉しておきますとツインバスターをフル出力で撃ったら一発でおシャカになります。ライフルを小型化しすぎて排熱処理しきれないのが原因ですね。そう言う意味も含めてリミッターを設置しています。