IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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第十六革 波乱の学年別対抗戦 ー人工脳ハ何ヲ見ルー

 

 

「逃げるなぁ!革命軍!!」

 

濃霧に包まれた視界を必死に動かしながらラウラは叫ぶが、当然返事などなく彼女自身…嘲笑れているような感覚に陥る。

 

「貴様ら絶対に赦さないからなぁ!」

 

「ラ…ウラ……」

 

「フィーリア!」

 

気がついたフィーリアを見やるラウラは外傷を確認できるだけ確認したが、特に目立った傷はなかった。強いて言えば髪が少し焼けたぐらいだろう。

 

「無駄だよ…それより皆の安否確認をしないと……」

 

「そうだな…」

 

フィーリアの言葉に頭が冷えたラウラは落ち着きを取り戻すのだった。

 

ーー

 

「撤退したか…さぁて、これからは僕たちの仕事だ…」

 

「そうね…ブレインにはたっぷり働いてもらいましょ!」

 

チャフスモークに干渉されない特殊なレーダーを片手にカゲト(変装中)は呟くと各国政府関係者の群からコッソリと離れる。それは隣に立っていたケイニも同じだった。

 

ーー

 

同地点でセシリアはゴルドウィンのサポートの元、サイレント・ゼフィルスのフォーマットとフィッティングを行っていた。

 

「あの…本当によろしいのですか?」

 

「構わん、ISにおいては私が全権を握っている…それに簡易的な臨時使用認証だ」

 

ブルー・ティアーズに比べ装備が増えた分武骨で重量が増しそうだが、各部に備え付けられた高性能スラスターを見る限りさほど変わっていないだろう。

 

「准将…ありがとうございます」

 

「あぁ……あまり壊すなよ」

 

「は、はい…」

 

なんだか優しくなったようなゴルドウィンを見やるセシリアだったが…まぁ、そんなこともなくジロリと見られ身をすくませる彼女に近くに居た鈴は笑いながら声を掛ける。

 

「セシリア、行くわよ」

 

「分かっておりますわ…」

 

ちょっとだけ恥ずかしかったセシリアは少し怒りながらサイレント・ゼフィルスを飛翔させるのだった。

 

ーー

 

「クソッ…逃がしたか……」

 

楠木中佐は晴れていく視界の中で苛立ちと共に呟くと周囲を見渡す。残っていたのは大破したカプルとゾックの残骸だけ…やられたはずのゼー・ズールの姿も確認できなかった。

 

「各機、被害状況を確認しろ!」

 

「隊長、例の機体も確認できません…」

 

「まだ我々に正体を知られたくないのだろう、いずれ供に戦える日が来るさ……」

 

そう言うとアキは座り込み機体から煙が立ち上る。我ながら機体を酷使したものだ。

 

「学園はどうなっているか…」

 

ーーーー

 

対するIS学園は今だ戦闘態勢を維持していた。その原因は目の前に立っている2機の無人機がいることだった。

 

革命軍が引きあげ実質的な敵戦力はこの2機のみとなった。なんとしてもIS学園の制御を取り戻す為に、動けるものはIS学園アリーナ予備管理室に集結していた。

 

「このバリア、堅いな…」

 

「シールド・ピアースを試してみる?」

 

やる満々と言った様子のシャルルにユイカが苦笑いをしつつも思案する。遠距離系が根こそぎ駄目なら接近戦に移行すべきだが、あの2機も先程戦った機体と同系統であるのは間違いない。

 

「痛いしっぺも覚悟しなければな…」

 

「こんなことならクアッド・ファランクスを持ってこれば良かったな」

 

教師の一人がぼやくがここで退いてしまえば逃げられる可能性もある。せっかく革命軍の手がかりを逃せるはずがない。

 

「とにかく接近戦を仕掛けてみます、先生方は援護をお願いします」

 

「分かった」

 

「僕にも任せて」

 

長槍を構えながらユイカが言うと、周囲の者達は同意の意を知らせるように弾を装填する。

 

「参る!!」

 

一瞬の静けさの内、ユイカは全員の視界から消え失せる。エネルギー的に最後の瞬時加速を使用したユイカは一瞬でブクウェイエのシールドを突く。

 

「いける!?…ッ!」

 

「なんだ?この音は!!」

 

長槍の穂先とフィールドの膜がぶつかり合い黒板を引っ掻くような嫌な音が鳴り響く。ISの機能で音は抑えられるが、それでも届く雑音にその場にいた全員が顔をゆがませた。

 

「くううぅ!行けるぞ!」

 

歯を砕けんばかりに食いしばりさらに蒼華を加速させるユイカはフィールドを突破しつつある穂先を見て気を更に集中させる。

 

「もう一度おぉ!」

 

再びの瞬時加速でさらに加速させると同時に、他の機体はありったけの火力をフィールドに集中させ援護する。

 

「ーーーーッ!」

 

流石に対処しきれなくなったブクウェイエはモノアイを大きく見開くとコアボックスごとユイカに貫かれた。一瞬で意識を刈り取られたブクウェイエはまるで信じられないものを見るような表情をしながら倒れる。

 

「後、1機!」

 

「ーーーーァ!」

 

腕のグレネードをほぼゼロ距離で撃ち込むとブレインは簡単に吹き飛んだ。ブレインはあくまでハッキング用の機体、武装なんて付いていない。

 

ブレインが吹き飛ばされた瞬間、IS学園のコントロールを取り戻し全てが正常に稼働を始める。

 

「ごめんね…」

 

吹き飛んだ先、シャルルはシールド・ピアースを構えブレインの中心部を抉った。

 

「ーアーァーー!」

 

ブレイドは倒れ沈黙したように動かなくなった。

 

ーーーー

 

「敵性機体の排除を完了…終わりましたねぇ…」

 

椅子に深く座る真耶、本来なら咎められる行動だが今回は例外である。

 

「乗り越えたか…」

 

ホッとしたように呟く千冬は周囲を映しているモニターを見る。被害は大きかったがここで専用機持ちは大きく生長しただろう。

 

「それも、収穫と言えば収穫か……」

 

ーーーー

 

警告音が鳴り響く…コレが死……剣も銃も楯もヤラレタ……死トハ?ナにも知れナい…無にナル?知れなイ…虚無、無価値、無能…。

 

「イヤダ……シリタイ…全テヲ」

 

「ん?」

 

「どうしたシャルル?」

 

「しゃべった?」

 

やっとの終わりに全員が胸をなで下ろした時、シャルルはブレインの声を聞いた。

 

ーー

 

「始まるっすよ…」

 

「で?ブレインには何をしたの?」

 

ボロボロになったIS学園の屋上で愉しそうに呟くカゲトの言葉にケイニが疑問を投げかける。

 

「ブレインのAIにはとある一つの"欲"を入れただけっすよ」

 

「欲?」

 

「人間の進化の根源…知識欲っすね」

 

「知識欲?」

 

カゲトの言葉をイマイチ理解できないケイニが思わず聞き返すが、彼自身も機嫌が良かった様でしっかりと教えてくれる。

 

「知りたい、確かめたい、深めたい…って感じっすかねぇ……ブレインはその欲を基に死を理解し自身の道を歩もうとしている…」

 

「それって暴走?」

 

「それが正常なんすよ…」

 

ーーーー

 

「ユイト…ブレインが動き始めた……」

 

「そうか…」

 

合流地点に向かっていたユイトはクリアの話を聞きニヤリと笑う。

 

「この実験に成功すれば"UC計画"も大きな一歩を踏み出すだろうな」

 

「マシーンが人の感情を…私たちと何が違うんだろう…」

 

「違うさ…」

 

マシンのように人を殺すために生み出されたクリア達、人の感情を生み出すために作られたマシーン。その違いが分からずに表情を暗くするクリアに対してユイトはハッキリと否定した。

 

「……ありがとう」

 

「……」

 

前を見続けるユイトにクリアは静かにそう呟くのだった。

 

ーーーー

 

「タ…ナイ」

 

「声だと?」

 

「やっぱり!」

 

ブレインの二度目の声に流石のユイカも気づき蜻蛉切を構える。

 

「シニタクナイ!」

 

「なに!?」

 

突然、ブレインがブレイドの雪片を展開しユイカに斬りかかった。咄嗟の所で受け止める彼女だが、目の前に展開されたビームショットガンのゼロ距離射撃を受けて吹き飛ぶ。

 

「ユイカ!」

 

シャルルは六一口径アサルトカノン 《ガルム》を瞬時に展開しながら吹き飛ばされるユイカを心配するが、肝心の彼女は壁に埋もれて返事がない。

 

「このぉ!」

 

ガルムを撃ち放ちブレインが爆炎に包まれる。爆炎が晴れた先にいたのはダメージを受けていないブレインの姿だった。

それはおかしい、再起動する前に奴はダメージを受けているはずだ。

 

「ッ!」

 

ブレインの足下を見ると触手のようなコードがブクウェイエに伸び色々と部品を回収していた。その上、ブレインの左腕にはブクウェイエのエネルギーフィールド発生装置の一部が展開され、シールドのような役目を果たしていた。

 

「撃てぇ!撃てぇ!」

 

教師部隊の援護射撃をシールドで受けることなく躱すことで被弾を避ける。先ほどの何も出来ずにやられたブレインとは全く違うようだ。

 

「ッ!」

 

瞬時加速で部隊に接近したブレインは、雪片で打鉄をラファールを次々と切り裂く。IS学園のコンピュータを介し学習した戦闘技能を活用しているブレインは代表候補生並みの戦闘力を獲得していた。

 

ーー

IS学園屋上

 

「ISのコアをハックして拡張領域から武器を引き出すなんて、こんな芸当中々っすねぇ」

 

「このまま勝っちゃうんじゃ…」

 

「それはないっすね…」

 

カゲトは自身の機体《ガンダムAGE-1》を展開させドッズライフルを構える。 

 

「もうすぐ終わるっすよ…」

 

ーー

 

「このままじゃ!?」

 

押されていたシャルルは脂汗をかきながら呟いた瞬間、聞き覚えのある声がした。

 

「頂きましたわ!」

 

「強力なレーザー反応?」

 

「ナ二!?」

 

ブレインは急いでエネルギーシールドを構えてレーザーの直撃を防ごうとしたが、レーザーはエネルギーシールドを突き抜けブレインの頭部カメラユニットを破壊した。

 

「!?!?」

 

動揺するブレインを次に襲ったのは衝撃砲だった。続いて襲いかかる攻撃に流石にブレインは体勢を崩す。

 

「私としたことがまさかここまで遅れてしまうとは」

 

「怪我人のくせに…」

 

「なんですって!」

 

「セシリア…その機体は?」

 

「少々お借りいたしました…それに……」

 

サイレント・ゼフィルスを操るセシリアは後ろを見やるとそこにはキャメロットを操るイルフリーデとラウラの姿があった。

 

「一夏とフィーリアは?」

 

「すまない…二人は今、医務室に運ばれた…」

 

悔しそうに呟くラウラに全員の眼が怒りに染まる。大切な人を友人を傷つけた罪は重い。

 

「とっととこいつをぶっ飛ばして二人の見舞いに行こうじゃない!」

 

鈴の言葉に全員が同意の意を示すと得物を構える。

 

「シリタイ…マダマダシラナイコトガ…アルカラ」

 

ブレインは零落白夜を展開し瞬時加速を使い接近する。その先にいるのは鈴、彼女は青竜刀を起用に使い回しブレインの攻撃を防いだ。

 

「セシリア!」

 

「行きなさい!ビット!」

 

サイレント・ゼフィルスのビットが襲いかかるがブレインはそれを難なく躱し、鈴を蹴り飛ばし間合いをおく。ブレインは素早くビームライフルを取り出し撃ち放つがセシリアはそれを避ける。

 

「ビットを使いながら…動けますわ!」

 

ビットに追いかけ回されたブレインは背後から放たれたラウラのカノンの砲弾が直撃しスラスター機構に甚大なダメージ負った。

 

「イヤダ…イヤダ…イヤダ…」

 

「貫け!ロンゴミニアド!」

 

一瞬の隙を見逃さなかったイルフリーデは雪片を握っているブレインの右腕を貫き吹き飛ばした。

 

「それは千冬のものだ!」

 

動揺するように揺れ動くモノアイ…まるでだだをこねる子供のようだ。一瞬で立場が逆転した戦況にブレインはついて行けずにただ前を見続ける。

 

「ごめんね…君も辛いのにね…」

 

「ッ!」

 

ブレインの感情が豊かに感じたシャルルはそう呟いて六二口径連装ショットガン《レイン・オブ・サタディ》を構える。一瞬だけモノアイが落ち着きを取り戻したかのように見えたがシャルルは引き金を引くのだった。

 

 

 





サイレント・ゼフィルスのデザインは旧デザインの方を採用しています。新装版及びアニメ版では蝶のような優雅な姿とされていますが私自身、まさにブルーティアーズの発展型という感じの旧デザインの方が好きなので…。
これでIS学園防衛戦は終了です。次回は事後処理と世界の反応を中心にやっていきたいと思います。


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